働き方の多様化が進む今、人事に求められる役割・必要な視点とは
坂爪 洋美氏(法政大学 キャリアデザイン学部 教授)
成瀬 岳人氏(パーソルワークスイッチコンサルティング株式会社 コンサルティング事業部 ビジネスR&D部 部長)
日本人の「働き方」が変化している。労働人口の減少や長時間労働の社会問題化などによってワークライフバランスの実現に向けた法整備がなされ、コロナ禍ではリモートワークが促進された。急速に働き方が多様化する今、人事は従業員の働き方についてどのように考えるべきなのか。そして、環境整備をしながら成果を出す会社になるためには、何に取り組むべきなのだろうか。
8月2日に開催された「HRカンファレンス2024-夏-」では、法政大学キャリアデザイン学部教授の坂爪洋美氏と、パーソルワークスイッチコンサルティング株式会社の成瀬岳人氏が「働き方」の問題提起や取り組み事例を発表。日本企業を代表する人事リーダーたちが「未来の働き方」についてディスカッションし、大いに盛り上がった。
- 坂爪 洋美氏
- 法政大学 キャリアデザイン学部 教授
- 成瀬 岳人氏
- パーソルワークスイッチコンサルティング株式会社 コンサルティング事業部 ビジネスR&D部 部長
坂爪氏による問題提起1:働き方の多様化で、どんな変化が起こったか
「日本における『働き方』のテーマを語るうえで、『働き方改革』の存在は外せません」と前置きした上で、坂爪氏は働き方の多様化によって起こった変化について語った。
「近年の『働き方改革』により、リモートワークや短時間勤務など、働く場所や時間が一気に多様化しました。今につながる『働く時間の多様化』は、1988年の法改正がきっかけです。フレックスタイム制度を導入する企業が少しずつ増え、2010年代には育児介護休業法の改正に伴い、短時間勤務制度の導入が義務化されました。2020年代は、特に育児や介護といった理由でなくとも、正社員で短時間勤務制度の利用が可能な企業が増えつつあります。特に最近目にするのは『週休3日制』です。所定労働時間を減らして週休3日にする。あるいは所定労働時間を減らさずに、1日あたりの労働時間を増やして週休3日にするなど、先進企業ではさまざまな取り組みが広がっています」
坂爪氏は『働く場所の多様化』についても、その変遷を解説した。
コロナ禍を転機に『リモートワーク』は広く浸透しました。また、働く場所に関して議論するときに必ず出てくるのが『転勤』ですが、転居が伴う転勤だと働き続けられない人が出てくることから、2010年代から『エリア限定正社員』という職種が見られるようになりました。『ワーケーション』という働き方が認知され始めたのもこの頃です」
働く時間や場所の多様化によって、フルタイムの勤務や転勤が難しい社員が活躍できるようになった一方で、なかなか解消できない問題もあると坂爪氏は語る。
「例えば職場の誰かが短い労働時間で働く場合、その削減した分の仕事を誰がどうカバーするのか、という問題です。働き方の多様化に伴い、企業は社員の“公平性”を確保しなければなりません。また、働き方の可能性が広がった一方で、多くの企業が出社ベースの働き方に戻しているのも事実です。リモートなのか出社なのか、そのバランスはどうあるべきか、議論の余地はまだまだあると感じています」
いろいろな働き方ができるようになったものの、それをどのように効果的に運用していくかは、これからも模索が続くのではないだろうか。
坂爪氏による問題提起2:雇用の多様化で、起こった変化と課題とは
「2018年に『副業・兼業の促進に関するガイドライン』の『モデル就業規則』から副業禁止の規定が削除されたことが転機になりました。副業の可能性は、正社員の働き方の議論にもつながります。正社員と言えば、いつでもどこでもどこまでも働く『無限定性』が特徴でしたが、時間や地域、職種などを限定する限定正社員という雇用形態も増えてきました」
しかしながら、副業や限定正社員といった雇用形態の普及には、まだまだ課題があると言う。
「副業による越境学習や人材確保が期待されていますが、まだ課題が多いのが現状です。限定正社員についても、いわゆる正社員と比較した際に、人材育成の程度には大きな差があると言われています。無期転換の受け皿として限定正社員の人たちがいる一方で、正社員として活躍している人たちがいる。限定正社員を活用するのであれば、組織の人材育成と個人のキャリア意識、双方の変革が必要になるでしょう」
坂爪氏による問題提起3:労働時間を減らした上でどうすべきか
「2019年に施行された『働き方改革関連法』で罰則が導入されて以降、労働時間には一定の改善が見られていますが、管理職の労働時間は長いままです。役職なしの一般社員の労働時間が短くなった分、終わらない仕事を引き受けているのは管理職なのではないか、という指摘もあります。また、働き方改革によって有給休暇の取得率は上昇し、それによりさらに労働時間は減少していますが、同時に、限られた時間の中で社員をどのように育成すべきなのか、といった育成の問題も浮上しています。残業抑制等に関わる取り組みを通じて、生産性の向上と人材育成の両立が課題になっているのです」
働き方の多様化に対応するためには、職場マネジメントの変革が不可欠である。例えば「リモートワークで生産性が低下した」「短時間勤務の正社員がいることで、不公平感が高まる」などの問題を一つひとつクリアしていくことが、企業には求められている。
「働く」土台の変化から未来の働き方を考える
上記三つの問題提起と連動するのが、「働く人々の多様化と構成の変化」と「職場の変化」という「働く」土台の変化だ。この点についても、坂爪氏は問題を投げかける。
「働く人々の属性で言うと、女性活躍では一定の進歩が見られますが、就業継続や管理職登用にはまだまだ課題が残っています。シニアの活用は、これまでボリュームがそれほど多くない想定で考えられてきたため、今後は増大に合わせた対応が必要です。一方で若年層は減少しており、キャリア教育を受けた若手人材をどう活用していくか。これも今後の課題として大きいです」
「職場の変化」については、四つの変化に焦点を当てると解決方法が見えてくると指摘する。
「一つ目は、『職場の多様性の上昇』です。働く人や働き方が多様化すれば、それだけメンバー間のコンフリクト(もめごと)が増えるでしょう。『あの人は楽をしている』『自分は損をしている』といった不公平感をなくして、それぞれが力を発揮するために職場を整えることは人事部門の重要な役割です。
二つ目は『個へのフォーカス』です。成果主義が導入されて以降、社員一人一人をみることが重視されるようになり、今では一人ひとりのキャリア形成までを視野に入れて社員を捉えることが求められるようになってきました。しかしキャリアというのは未来を含む時間軸の長い話なので、『どこまで見るか』は考えるべきです。これをしっかりやるほど、管理コストは大きくなります。『キャリア自律』という言葉が浸透してきた今だからこそ、どこまで会社がキャリア形成について関与するかは議論のポイントになるでしょう。
三つ目は『上司のマネジメントの変化』です。職場の多様性が増すと、働くメンバー同士で誰が何をしているのか見えにくくなり、今までとは異なるマネジメントが求められるようになってきています。同時に、ハラスメントに対する意識の高まりや心理的安全性の重視など求められるマネジメント自体も変化しています。ハラスメントを恐れるあまり、言うべきことも言えない関係性ができあがり、結果として部署の成果につながらなくなる――という事態も起こりかねない中で、現状にあったマネジメントの模索が続いています。
そして最後は『育成の変化』です。企業・職場主導で個人にキャリア自律を促すことが一般的になりつつあります。労働の短時間化やキャリアの多様化などで、今までのような職場での育成だけに軸足を置く育成が難しくなる中、オンライン学習や越境学習など、それを補う方法が増えています。しかし、育成は働く場が中核であるべきだと私は感じています。
職場で育成について、あらためて検討すべきタイミングがきていると思います。個人に自律を求めることは、管理を手放すことと同等ではなく、どこかで管理を強める必要性も生じるため、組織は自律と管理のバランスを決めなければなりません。本人の希望も大切ですが、会社としては『これはやってもらわなくてはならない』ということもあるはずです。双方の希望をどう調整していくかが企業にとっては重要なポイントになるでしょう」
パーソルワークスイッチコンサルティングの取り組み事例
「はたらいて、笑おう。」をビジョンに掲げてさまざまな事業・サービスを展開しているパーソルグループでは、DEI(Diversity, Equity & Inclusion)をテーマに、社員自らが多様な働き方を実践している。成瀬氏は自らの取り組みも含めて、その概要を発表した。
「パーソルグループのDEIの基本的な考え方は、以下の六つの円が表すとおりです。DEIというと属性の多様性ばかりに目がいきがちですが、能力の多様性も生かすことが重要で、当グループでは取り組みの成果が出始めています。『はたらいて、笑おう。』というシンプルなビジョンに共感する指標は79%。女性管理職比率や男性育休取得率も右肩上がりで、複業(副業)の承認件数も増えています」
※これまでパーソルでは、女性活躍という特定の領域に関わらず、さまざまな方が“はたらくWell-being”を感じながらはたらけることを目指してDI&Eに取り組んできましたが、2024年4月よりDiversity, Equity & Inclusion(DEI)へ変更しております。
パーソルグループのコンサルティングカンパニーであるパーソルワークスイッチコンサルティング株式会社は、業務とテクノロジーのコンサルティングをとおして、企業の“はたらき方を転換”する支援を行っている。社員は20代、30代が全体の82%と若手が多く、在宅勤務をメインにしている社員が86%、在宅勤務の頻度は56%と、働き方の自由度もかなり高い。
パーソルワークスイッチコンサルティングの次なるテーマは“はたらくWell-being(ウェルビーイング)”だ。個人のはたらく実感値を測定する独自指標「Work Switch Score(ワークスイッチスコア)」を開発し、新たなスコアリングサービスの提供を開始した。
ワークスイッチスコアは「ワークエンゲージメント」「ワクワク実感」「成長実感」「ワークライフバランス」という四つの因子をスコア化することで、“はたらくWell-being”を測定する。これらのスコアが高くなると、“はたらくWell-being”も高まる。
「当社でデータを取ったところ、50を標準にした偏差値で57.5とやや高い数値が出ました。また、自分の仕事の意義について『体験』『評価』『自己決定』の3点で測ると、『自己決定』の値が最も高いことが分かりました」
成瀬氏自身も複業を持ち、週3日勤務を実践している。いわば働き方の先進企業と言えるパーソルワークスイッチコンサルティングだが、これまでの取り組みによって「得たもの」と「新たな課題」が顕在化してきたと言う。
「働き方の取り組みによって、『採用力』『女性・若手活躍』『変化適応力』が得られました。スコアにもポジティブな変化が表れていると感じます。その一方で、人材育成がまだ追いついていません。ミドル・シニア層の活躍も課題です。私は一人ひとりが専門性を持つことが理想と考えていますが、その数はまだ限られています。そして社員の権利をどこまで尊重するかも深刻な問題です。『転勤はしたくない』といった大きなレベルから『オフィスに出社する予定だったけれど、雨が降っているので在宅します』といった細かいレベルまで、権利の主張はさまざまです。はたらく人の多様性が増すことは魅力的な職場になるには欠かせませんが、同時に新たな課題も生じており、いまだ試行錯誤を続けているのが現状です」
グループディスカッション1:2030年の職場/働き方はどうなる?
Aグループ
- キリンホールディングス株式会社 濱 利仁氏
- 豊田通商株式会社 待永 礼氏
- ぴあ株式会社 渡部 選人氏
- リコージャパン株式会社 馬越 英樹氏
Bグループ
- OMデジタルソリューションズ株式会社 本田 浩一氏
- 兼松株式会社 村上 英貴氏
- テクマトリックス株式会社 沢口 昌裕氏
- 株式会社ベルシステム24ホールディングス 成田 あい氏
Cグループ
- 株式会社IHI 岡田 浩治氏
- 株式会社オカムラ 佐藤 喜一氏
- 住友生命保険相互会社 渡邊 一田氏
- 日立Astemo株式会社 駒井 隆義氏
Dグループ
- カルチュア・コンビニエンス・クラブ株式会社 熊田 有利子氏
- 株式会社Jストリーム 田中 潤氏
- 東レインターナショナル株式会社 川勝 淳二氏
- 楽天銀行株式会社 水野 拓也氏
坂爪氏・成瀬氏の発表を受け、「2030年の働き方」をテーマに最初のグループディスカッションが行われた。「今起きている問題解決のためでなく、未来をどう作るかという視点で議論しましょう」という成瀬氏の声かけから、ディスカッションがスタートした。
Aグループ
Aグループでは、「多様性が高まると、企業が求心力で支える必要がある」といった意見から、人材の確保について議論が展開される。「個々の企業で最適な方法を見つけなければいけない」「特性を活かして生き抜くことを考える」など、自社の強みと照らし合わせることを重視する意見が多数出た。
Bグループ
Bグループでは、リモートか出社かといった議論からスタートした。「アメリカではオフィス回帰が大半」「キャリア採用人材はリモート志向が強い」など各社の実情を語り合いながら、人事は生産性を高めるためにどういった役割を担うべきか意見が交わされた。
兼松株式会社 村上氏:出社へのゆり戻しがある中、どちらが正しい働き方かではなく、自社のビジネスの目標に対してどちらが適切かという視点で考えるべきという話がありました。また、これからそれぞれの会社が変革していくにあたり、私たち人事がどのようなスタンスを取るかがより重要になるという話をしました。
Cグループ
Cグループでは、シニア層の問題が主な論点となった。「シニア層のキャリア教育まで手が回らない」「定年後のイメージを持ってもらえない」など各社が抱える問題について語られる一方、「シニア層のキャリア研修はキャンセル待ち」という企業も。研修やワークショップに積極的に取り組む企業の事例も紹介された。
株式会社オカムラ 佐藤氏:シニア層の話題で、「公平性の担保が難しい」と問題提起しました。例えば、若い人は強く勤務地を希望する。一方でミドル・シニア層は会社の指示に従う。何が公平なのかという問題がある中、重要なのは考え方や働き方の違いを認め合うことで、それによって働き方が変わっていくのではないかという議論をしました。
Dグループ
Dグループの議論では労働時間についての議論が交わされた。共通している課題意識は「生産性の低さ」であり、「時間をかけずに成果を上げるにはどうしたらいいか」「成果物がオーバークオリティになっていることも多い」といった課題も出てきた。
グループディスカッション2:はたらく×「雇用・職場の多様性」とは
2回目のディスカッションでは、「雇用・職場の多様性」について議論した。シニア層、再雇用、自律、テレワークなどがキーワードに挙がり、人事としてどう向き合うかが語られた。
Aグループ
Aグループは定年制度や再雇用制度、定年後の処遇など、自社のシニア層の雇用について議論を深めた。単に制度だけでなく「社外ネットワークを持つ社員が辞めると困る」ことから、「少し残って引き継ぎしてもらう」「伝道師という形で残ってもらう」など、辞めていく人と組織とのあり方についても話し合われた。
Bグループ
Bグループもシニア層に関するもので、「フルタイムではたらきたい人も少しだけはたらきたい人もいる。そこに対応できるよう制度を変えている」「経験とスキルを活かせるように、正社員、限定正社員、専門家など3コースを運用している」「個人によって健康状態が違う。年齢で給料を目減りさせる必要はない」など、多種多様なシニア層にどう合わせるかという論点で議論は深まった。
Cグループ
Cグループでは、役職定年制度や定年後の給与などが話題の中心となった。「定年の年齢を上げる」「定年後に給料が下がる人には暫定処置を取っている」「65歳以降はパート、契約社員として雇用している」といった各社の取り組みが発表された。
Dグループ
Dグループでも、シニア層の現状について話し合った。「副業で他社と交流すると活躍できるチャンスが生まれる」「副業やバイトなど、再雇用とは違う選択肢も考えなければならない」といった意見が出た。シニアのキャリア支援については、「個別で面談している」「業務委託として他社に紹介する取り組みを始めた」といった話も出たが、「現場のニーズを見極めることがシニア層の活用につながる」という意見に賛同が集まった。
グループディスカッション3:はたらく×「個人と組織の関係性」とは
三つ目のディスカッションでは、「個人と組織の関係性」が論点になった。「はたらきがい」や「はたらきやすさ」に目を向けたマネジメントのあり方が課題になってくる。
Aグループ
Aグループでは、「外国籍の人の能力を発揮できる環境を整えなければならない」といった発言を皮切りに議論が始まった。また、「リモートワークの頻度は個人の成長曲線によって決める」など、自社ならでは取り組みを共有した企業もあり、幅広い話題に及んだ。
豊田通商株式会社 待永氏:グローバル企業の場合、海外の人と一緒にはたらく際に、文化的な背景を含めてどうインフラを整えるのか、その必要性や難しさが話題になりました。そこから派生して、デジタル化によるリモートワークのマネジメントの仕方、またリモートワークを認める、認めないといった基準は、社員個人の成長過程に応じて検討する選択肢があるのではないかという意見が出ました。
Bグループ
Bグループでは坂爪氏の話を引用し、「個人の自由度を高め過ぎるのも問題」という意見から議論がスタートした。「個人が自由にはたらいてマネジメントコストがかからないことが最高の状態だが、理想が高過ぎる」という意見も。また、そこからマネジャーの業績評価について各社の状況を共有しながら、評価にメリハリをつけていかに個人を育成するかという議論が交わされた。
Cグループ
Cグループでは、冒頭に飛び出した「はたらきがい改革」というキーワードから、エンゲージメントや1on1など個人のはたらきがいにおける各社の取り組みについての話が盛り上がった。「大事なことはサーベイの結果が出た後に、何をどうすべきか示すこと」「プライベートな話も出てくる」といった意見に同意する声が多かったが、「プライベートな話をする必要があるのか、細かく報告する必要があるのか、と主張する若手もいる」という意見もあった。
Dグループ
Dグループではリモートと出社について語られ、「リモートはマネジャーの手腕が問われる。出社してもらったほうがマネジメントは楽」「出社して、ひざを突き合わせてやるほうが進む」といったコミュニケーションやマネジメントから、「最終面接は対面にこだわっている」など採用にまで話は及んだ。マネジャーがリモートをうまく管理する工夫についても、「定期的な出社日を決める」「月に1回1on1を実施する」などの意見が出た。
株式会社Jストリーム 田中氏:私自身、この7月から週4勤務の人事部長になっています。当社はフルリモートも可能で、日々8割以上の社員がリモート勤務をしていますが、あらためて感じるのは、「個人と組織の結節点はマネジャーである」ということ。リモートから出社ベースに回帰する動きがありますが、リモートワークはマネジメントの難易度が高いというのが理由の一つです。だからこそ人事はその支援を考えるべきで、特に新入社員に対してはリモートワークの初期教育が重要です。それでマネジャーがへとへとにならないように、マネジメントの管理スパンを短くするなど”合わせ技”でやっていかないと、個人と組織は離れていってしまうのではないでしょうか。
グループディスカッション4:はたらく×「経営・人事の役割」とは
最後のディスカッションの論点は、「経営・人事の役割」。働き方に変化がある時代において、未来に向けた人事の役割をあらためて語り合った。
Aグループ
Aグループでは、キャリア研修やWeb版のキャリアセッション、キャリアコミュニケーションシートの採用など、従業員のキャリア形成の取り組みについて語られた。「ただし、優秀な人材のwillを優先させると、会社の成果は上がるが部門の成果が下がる。そこをうまく調整するのが人事の役割」といった声もあった。人事のあり方は企業の歴史によっても異なるが、今後は一定のデータベースも必要であるとの意見で一致した。
Bグループ
Bグループでは人事のあり方について、それぞれが考え方を述べた。「人事は従業員の人生を一緒に考えてあげる存在」「当社に来てもらっている間は、その人にプラスを感じてもらうのが人事の役割」「いかにその人の目指すキャリアに対して、コーチできる人をマッチングしていくか」など、人事の役割を再定義するとともに、そこに生じるマネジャーの負担軽減策について話し合われた。
Cグループ
Cグループでは各企業の人事の役割をあらためて発表し、「これからどういう人材が必要なのか、なかなか具体的に見えてこない」との声に賛同が寄せられた。その上で「求めている人材と今後の経営戦略をすり合わせている」「部長層レベルで人を育てるスクールを始めている」「将来の役職候補を集めて越境経験や修羅場経験をさせている」といった各社の仕組み作りも紹介された。
Dグループ
Dグループでも、人事として求められている役割について議論が交わされた。「人事TV」という動画コンテンツを通して人事が情報発信することで、従業員との距離を縮めているという一社のアイデアに興味津々となる場面も。配信内容は、リモートワークを快適にするコツなどカジュアルな内容のものから、社長が自らの人生を語る硬派なものまであるという。
坂爪氏による全体総括
坂爪氏:皆さんのお話を聞きながら、考えたことを三点ほどお伝えします。
一点目はミドル層について。今日ミドル層の話はあまり出てきませんでしたが、会社で中核を担うミドル層の方々が、「共働きなので転勤できません」「共働きだから管理職にならなくても生活はできます」といった発言をされていて、どうしたものかと悩んでいる、というのは最近よく聞く話です。彼らの背後にあるのは「今のままでも何とかなる」という思い。でも会社としては、「今のままではまずいのでは」という感覚がある。会社の中核であるミドル層が活躍し続けるために、どう働きかけるか、どのような仕組みを作るのか、というのは大きな課題です。
二点目は管理職について。管理職の働き方に対して人事としてもう少しできることがあるのではないでしょうか。管理職が一対一で部下に向き合う時間を、どう捻出するかも課題ですが、管理職の裁量権についても議論が必要です。例えば、部下が面談で異動を含めたキャリアの希望を口にすることがあります。でも、希望を聞いている管理職にはそれを実現する裁量を持っていないことが往々にしてあります。結果、部下側が「面談には意味がない」と言い出すといったことが生じているのではないでしょうか。管理職に求められる役割やマネジメントが変わる中、管理職にどんな裁量を持たせるべきかといった議論があると良いと思います。
三点目。働き方の多様化は可能性を広げるものです。同時に、どう働いたらよいのかよくわからなくなるというリスクもあります。そのリスクを小さくするためには、評価制度や給与制度を通じて、会社が社員に対してどのように働いて欲しいと考えているのか、メッセージを出し続けることが大事です。メッセージが不足してしまうと、社員は「働き方」に関するイメージはもてるものの「仕事への取り組み方」という点について、イメージがもちにくくなってしまいます。そして結果的に「ワークライフバランスを保てればいい」「雇用が守られればいい」というところにイメージが集約されがちになってしまうのではないでしょうか。パーソルグループの「はたらいて、笑おう。」のように、「働いて切り開こう」「働くことを楽しもう」など、「働く」とか「仕事」についてのメッセージをより強く示していくことが求められます。「個人と組織の結節点はマネジャー」という発言がありましたが、管理職が自分の部下に自分の言葉で伝えられることは非常に重要です。皆様のご発言をお聞きしながら、これから働き方を変えていくためには、これら3点が非常に大事なのではないかと感じました。
「働き方」についてさらに学ぶ
「働き方改革」から「働き方革新」へ――。
多様な働き方を機能させる、企業と個人の新しい関係性とは
本セッションのまとめ
坂爪氏による問題提起1 |
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坂爪氏による問題提起2 |
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坂爪氏による問題提起3 |
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ディスカッション |
2030年の職場/働き方はどうなる?
はたらく×雇用・職場の多様性とは
はたらく×個人と組織の関係性とは
はたらく×経営・人事の役割とは
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当日知見をご共有くださった皆さま
※所属や役職は「HRカンファレンス2024-夏-」開催時のものです。
有識者・プロフェッショナル
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坂爪 洋美氏
法政大学 キャリアデザイン学部 教授 -
成瀬 岳人氏
パーソルワークスイッチコンサルティング株式会社 コンサルティング事業部 ビジネスR&D部 部長(シニア・コンサルタント)
大手・優良企業の人事リーダー (社名50音順)
-
岡田 浩治氏
株式会社IHI 人事部 人財開発グループ 部長 -
本田 浩一氏
OMデジタルソリューションズ株式会社 最高デジタル責任者 兼 最高人事責任者 -
佐藤 喜一氏
株式会社オカムラ 常務執行役員 コーポレート担当 CHRO -
村上 英貴氏
兼松株式会社 人事部長 兼 人事企画課長 -
熊田 有利子氏
カルチュア・コンビニエンス・クラブ株式会社 人事・総務本部 人事部 部長 -
濱 利仁氏
キリンホールディングス株式会社 人事戦略部 執行役員 部長 -
田中 潤氏
株式会社Jストリーム 執行役員 管理本部 副本部長 兼 人事責任者(CHRO) -
渡邊 一田氏
住友生命保険相互会社 人事部 次長兼人財開発室長 -
沢口 昌裕氏
テクマトリックス株式会社 コーポレート本部 人事部 部長 -
川勝 淳二氏
東レインターナショナル株式会社 人事・勤労部 部長 人事課 課長 -
待永 礼氏
豊田通商株式会社 人事部・部長 -
渡部 選人氏
ぴあ株式会社 執行役員 人事法務局 局長 -
駒井 隆義氏
日立Astemo株式会社 経営戦略統括本部 秘書室 室長 ジェネラルマネージャー -
成田 あい氏
株式会社ベルシステム24ホールディングス 執行役員 人事管掌 人材開発部 部長 -
水野 拓也氏
楽天銀行株式会社 執行役員 コーポレート・サービス本部長 -
馬越 英樹氏
リコージャパン株式会社人事・コーポレート本部 人事センター 人財サポート部 部長
当社は、主に企業のBPRを支援する「業務コンサルティング」、AIやAutomation技術を活用した「テクノロジーコンサルティング」の2つの領域で事業を展開しています。あらゆる人々と組織に向けて、パーソルグループが保有する人と組織に対するソリューションを活かし、「はたらき方の転換」をするための支援をします。