好況時に優秀な人材を採用する難しさ
転職希望者の状況の変化を受けて 紹介会社、企業に求められる柔軟な対応とは
アベノミクスで円安株高が進み、日本経済はようやく回復に向けて動き出したように見える。景気が上向きに転じると徐々に求人も増え、転職を希望する人材も動き出す。こう聞くと良いことばかりのようだが、成功報酬制の人材紹介ビジネスの場合、実際に採用に至らないと紹介料は支払われない。同じような求人が乱立して競争が厳しくなったり、転職希望者が忙しくなって転職活動をできなくなったりと、難しい問題が出てくるため、好況になったからといって喜んでいられないのが人材紹介なのだ。
賞与アップは日本経済には朗報だが……
「最近の転職希望者の動きはどうですか?」
今までそれほど積極的に中途採用を行っていなかった企業から、人材の動きを気にする質問をされることが多くなってきた。今後景気が本格的に上向いてくると、社内の各部署が増員へと動き出すかもしれないので、前もって転職市場の動向を把握しておきたいのだろう。
「景気が上向いて求人が増えると、転職希望者にとって魅力的な案件が多くなります。この機会にキャリアアップしよう考える優秀な人材も動き出しますし、実際にその兆候が見られます。いい人材を採用できるチャンスは確実に広がりますよ」
人材紹介会社としてはできるだけ多くの求人案件をもらいたい。そこで顧客企業には、まず「景気のいい話」をする。しかし、自分を高く売りたいと考えている優秀な転職希望者は、条件の良い企業、業界トップ企業、知名度の高い企業などに集中するので、全ての企業の採用がうまくいくということはない。
また、上記以外にも紹介が難しくなる好況時ならではの事情がある。たとえばこんなケースだ。
「お久しぶりです。Dさんのご希望にぴったりの求人を見つけましたよ」
在職中なので自分の希望にあう仕事を、時間をかけてじっくり探したいと言っていたDさんに連絡を取ってみると、なんとなく歯切れがわるい。
「ありがとうございます。ただ、今ちょっと仕事が忙しくなってしまいまして……。転職活動を一時中断しようと思っていたところなんですよ」
企業活動が好調になると、転職を考えるようになった原因が改善されている場合があるのだ。
「相談していた時は自分もそのうちリストラの対象になるのではと思って、転職の準備を始めたのですが、当面はその心配がなさそうです。夏の賞与もかなり期待できるみたいですし……」
今年は大企業を中心に賞与増額のニュースをよく聞く。そうなると、賞与をもらってから転職したいという人が増えるが、なかにはタイミングを心配する人もいる。最近、転職活動を始めたEさんだ。
「この時期に面接を受けて仮に内定が出れば、賞与支給前に退職手続きをすることになりますよね。その場合、賞与は全額支給されるのでしょうか」