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『日本の人事部』トップ > 調査分析 > “新型うつ病社員”への対処法:ビジネスガイド調査記事 Last Update : 2010/09/02 22:12

ビジネスガイド調査記事

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人事労務専門誌『ビジネスガイド』提携  
職場のメンタルヘルス最前線
増加する“新型うつ病社員”への対処法

涌井美和子/オフィスプリズム http://office-prism.com/  臨床心理士・社会保険労務士

ビジネスガイド 日本法令発行の『ビジネスガイド』は、1965年5月創刊の人事・労務を中心とした実務雑誌です。労働・社会保険、労働法などの法改正情報をいち早く提供、また人事・ 賃金制度、最新労働裁判例やADR、公的年金・企業年金、税務などの潮流や実務上の問題点についても最新かつ正確な情報をもとに解説しています。ここでは、同誌のご協力により、2008年4月号の記事「増加する“新型うつ病社員”への対処法」を掲載します。『ビジネスガイド』の詳細は日本法令ホームページ http://www.horei.co.jp/ へ。

1 「新型うつ」とは?

「新型うつ」とは、巷で話題になっている、今までのうつ病のイメージには当てはまらないタイプのうつ病のことです。明確な定義や学術上の根拠があるわけではありませんが、「うつ病で休職中であるにもかかわらず、海外旅行に出かけたり、自分の趣味の活動には積極的な人」や「うつ病なのに自責感に乏しく、他罰的で、何かと会社とトラブルを起こす社員」など、いわゆるこれまでの「うつ病」のイメージとは、若干印象が異なるタイプのうつ病のことです。

「うつ病」のイメージといえば、「抑うつ症状」「自責感・罪悪感が強くなる」「何に対しても気力がわかない」「興味や関心が低下する」などのような症状が見られ、そのようなイメージで理解されるのが一般的だと思います。ところが最近は、「仕事の時だけうつになる」「休職中なのに趣味の活動は活発」「休職中も同僚や上司に迷惑をかけているという認識に乏しく、権利ばかり主張する」「他罰的で、すぐ会社や上司のせいにする」「自分はうつ病だと公言することに抵抗を感じない」などのケースが人事労務管理の現場で増えてきているようなのです。

そこで、一般的なうつ病のイメージに当てはまらないケースを総称して、便宜上「新型うつ」と呼ぶ場合が増えてきたと思われます。このような「新型うつ」社員の中には、対応が一筋縄ではいかずに苦慮するタイプも少なくありません。

2 「うつ病」は1つのタイプだけではない

そもそもうつ病とは、どのような病気なのでしょうか。米国精神医学会のDSM−IV−TR(精神疾患の分類と診断の手引)によると、うつ病は「感情障害」の中に分類され、資料のようなカテゴリーに分けられています。

前述のように典型的なうつ病のケースは、主に「大うつ病性障害」などにあるような、大うつ病エピソード――ほとんど毎日の抑うつ気分、ほとんどすべての活動における興味、喜びの著しい減退、疲労感または気力の減退、無価値観や罪悪感など――が見られるケースと思われます。

ところが、うつ病の中には、「気分変調性障害」や「気分循環性障害」など、大うつ病エピソードの基準を満たさない症状が少なくとも2年以上続くなど、典型的なうつ症状があまり多く見られないケースもあります。

また最近、臨床の場で注目を集めつつあるのは、「非定型うつ病」と呼ばれるケースです。これは、資料のようなカテゴリーにすっきり当てはまらないケースです。そもそも心の病気は、「ここまでが健康」「ここからが病気」と線引きすることができません。便宜上、線を引いた枠の中に当てはまらないケースが存在するのも、当然といえば当然でしょう。「非定型うつ病」も、そのような状態の1つといえるかもしれません。もちろん、今後の研究によって1つの病気として診断基準が明確になる可能性はあるでしょう。

「非定型うつ病」の特徴は、主に次の通りとされています。

「非定型型うつ病」の特徴

  1. 自分にとって好ましいことがあると気分が良くなる。
  2. 人間関係において過敏な傾向があり、特にプライドを傷つけられるような言葉には激しく反応する。
  3. 過食や過眠が見られる。
  4. 身体的重圧感や疲労感がある。

「非定型うつ病」と呼ばれるくらいですから、症状改善のためには投薬治療が必要ですが、もともと家族関係や生い立ちに恵まれなかった人も少なくないと言われていますので、カウンセリングと並行することもあります。

うつ病に限らず、発症前の本人の性格も症状に影響を与えます。最近は、自己中心的でわがまま、依存心が強い、自己顕示欲・自尊心が強く傷つきやすい、思ったことをハッキリ口にする、などの特徴が目立つ人が増えてきたこともあり、そのような従前の性格傾向を反映して、一筋縄でいかないケースが増えた面もあるでしょう。

もちろん、ここで紹介した分類や定義は、時代とともに書き換えられ、絶対的なものではありませんが、一口に「うつ病」と言ってもさまざまなタイプがあることが理解できるでしょう。

資料
資料

3 2つのケースから

次に、典型的なうつ症状が見られる従来型のケースと、「新型うつ」と呼ばれるような対応に苦慮するケースについて、より具体的なイメージをつかむために、それぞれ典型的な例をみていきましょう(もちろん、匿名性に充分配慮するため、様々な事例を合成しています)。

A いわゆる「従来型」のケース

40代男性。既婚。食品メーカーの営業所で既存顧客営業を担当。真面目で仕事熱心、部下や後輩からの信頼も厚かった。ところが、年度末の繁忙期を越えたあたりから、顔色が悪くなり元気がなくなってきた。それでも仕事を頼まれると断れず、深夜残業が続くことも多かった。だんだん笑顔もなくなり、顔色も悪くなって痩せてきた。物忘れが多くなり、仕事のミスも続くようになったため、見かねた上司が定時で帰宅するよう勧めても、「自分のせいで仕事が遅くなってしまったので、きちんと終えてからでないと帰れません」と青い顔をしながら断るばかりだった。

「自分は会社の荷物かもしれない」と深く落ち込んだり、会議でもボーっとしたりすることが多くなった。些細なミスでもひどく責任を感じ、「自分の能力不足が原因です」と自罰的な発言が目立つようになっていった。

B 「新型うつ」と呼ばれるケース

20代男性。独身。出版社で営業事務を担当していた。真面目で負けず嫌いな性格のため、仕事はできるが気分にムラがあり、日頃から会社に対する不満も多かった。

あるとき上司がBさんの業務態度を注意したことをきっかけに、会社を休むようになってしまった。数日後、Bさんから「うつ状態のため休養を要す」という診断書とともに休職願いが郵送されてきた。びっくりした上司が本人に電話したところ、「出勤前になるとうつ症状がひどくなるので、出社が不可能。主治医からは仕事のストレスが原因と言われたが自分もそう思う。ついては、傷病手当金の手続きをお願いしたい」ということだった。

結局Bさんは数ヵ月の休職に入ったが、心配した上司がたまに電話を入れても、悪びれる様子もなく「気晴らしが必要だと言われているので趣味のゴルフは続けている」と語るのだった。さらに、しばらく電話が通じず心配していたところ、「せっかくの機会だし、療養をかねてハワイでパラセーリングとゴルフをしてきました」などと、あっけらかんと話すのだった。

4 「新型うつ」の特徴

典型的なうつ症状がはっきり見られない「うつ病」については、これまでも笠原嘉氏などをはじめ、様々な専門家が指摘してきました。「新型うつ病」については、前述の通り便宜上つけられた名称で学問上の定義も曖昧ですから、ここではあくまで人事労務管理上の実務的な視点から、その特徴を列挙してみたいと思います。

「新型うつ」の特徴

  1. 自分の好きな仕事や活動の時だけ元気になる(うつ症状が軽くなる)
  2. 「うつ」で休職することにあまり抵抗がなく、休職中の手当など社内制度をよくチェックしていて、上手に利用する傾向がある
  3. 身体的疲労感や不調感を伴うことが多い
  4. 自責感に乏しく、他罰的で会社や上司のせいにしがち
  5. どちらかというと真面目で負けず嫌いな性格

典型的なケースとしては、不本意な人事異動や仕事のストレスをきっかけに「うつ病」になり、自分から進んで診断書を提出・休職し、休職中も趣味の活動を続けたり海外旅行に出かけ、復職の段階になるとすっきり回復せず、ズルズルと休みを繰り返す、などのようなイメージだと思われます。

5 対応のポイントと留意点

(1) 安全配慮義務の観点からも、主治医の指示を尊重する
休職中なのに自分の好きな活動を続けている姿を見ると、ただのわがままのように思えてくるかもしれませんが、主治医の指示に反して出社させ、万一症状が悪化することにでもなれば、安全配慮義務の観点からも問題が生じる可能性があるでしょう。主治医の診断に納得がいかない場合は、産業医や臨床の専門家などにも協力を仰いで対処法を検討するとよいでしょう。

(2) 本人をよく理解しようと努める
感情的に不安定になりやすかったり、些細な言葉に過敏に反応することも少なくありませんので、充分な配慮が必要です。特に、「うつ病の対応法」などのマニュアルに沿った対応は本人を深く傷つけ、かえって問題をこじらせる原因にもなりかねません。たとえ未熟で自己中心的でも、彼ら彼女らなりの思いや傷つきに気付くことで、次の対応法が見えてくることも多いでしょう。

(3) 時には背中を押してあげたり、育てる関わりも必要
うつ病の人に「頑張れ」という言葉は極力控える必要はありますが、主治医が「そろそろ復職しては?」と助言しているにもかかわらず、ズルズルと休むような場合など、時には「頑張れ」と背中を押してあげることが必要なときもあります。特に、精神的な幼さから余計なストレスを抱え込み不適応に陥ったようなケースの場合は、育てる関わりが功を奏することも多いでしょう。そのためにも、ベースとなる信頼関係は必須です。日頃から(2)で挙げたような対応を心がけるとよいでしょう。

(4) 本人が1人で仕事を抱え込みすぎないよう目を配る
自分の好きな仕事に対しては、能力の限界を考えず仕事を抱え込み、結局パンクしてしまうケースもあるでしょう。本人のプライドを刺激しないよう、能力の問題にせず会社の都合を理由にするなど、上手に調整するとよいでしょう。

(5) 本人への伝え方を工夫する
「いまの状態だと、みんなに迷惑をかけるから休んでみては?」「お世話になっている○○さんのためにも、そろそろ復職しては?」などの言葉は本人を傷つけ、怒りの反応を引き起こしかねません。むしろ、「2ヵ月の休職なら全額手当が支給されるから早めに休んで早く回復したほうがいい」「いま復職しておけば、ボーナスの査定にも影響がない」などのように、客観的な意見として話したほうがスムーズにいくことも多いようです。

(6) 人事労務管理の枠組みで対応する
遅刻や欠勤、業務遂行能力の低下など問題行動や不適応状態については、あくまでも人事労務管理の枠組みで対応しましょう。メンタルヘルスの問題だからと腫れ物にさわるような対応をしたり、特例を認めるのではなく、下記のような点に留意して対応するとよいでしょう。

対応時の留意点

  1. 遅刻や欠勤が繰り返されるようであれば、社内規定に則して休職を命じる(そのための根拠をあらかじめ就業規則にきちんと定めておく)。
  2. 同一の疾病により休職と復職を繰り返す場合は、前後の休職期間を通算するなど、会社側の限界を明確にする(そのための根拠として、就業規則にきちんと定めておく必要があるのは、上記の通り)。
  3. 人事異動や担当職務の変更については、本人の希望だけを鵜呑みにせず、主治医の意見や現場の状況などを総合的に判断して決定する。

なお、うつ病で休職中であるにもかかわらず海外旅行等をした場合でも、通院中であり症状に波があるのも事実なのですから、そのことを理由に解雇することはできません。詐病である場合はこの限りではないかもしれませんが、このあたりの判断は非常に難しいこともありますから、主治医の判断を尊重するようにしましょう。

(7) その他の配慮・留意点について
主治医の判断や職場の状況にもよりますが、覚醒リズムが崩れるケースも少なくありませんので、復職時に短時間勤務からスタートさせる場合は、定時に出社させ早めに帰宅させるようなプログラムのほうが、再発防止にも有効でしょう。不安症状を伴うケースの場合は特に、不安症状やうつ症状を引き起こしやすいので、コーヒーなどカフェインの多量摂取は控えさせるとよいでしょう。人間関係や周囲の言葉に過敏に反応して、攻撃的になる場合があっても、病気の症状がそのようにさせていることも少なくありませんので、怒ったりせず落ち着いて対応しましょう。

6 コミュニケーションのヒント

対応に苦慮するケースの場合、担当者が彼らに振り回されているうちに疲弊し、うんざりした気分になっていることも少なくないでしょう。しかし、このようなネガティブな感情に敏感に反応するのも彼ら彼女らの特徴の1つですので、問題がさらにこじれないよう充分に配慮する必要があります。

人のコミュニケーションにおいては、言葉そのものが相手に伝える内容はわずか約7%、残りはボディ・ランゲージと声のトーンで、それぞれ55%、38%と言われています。つまり、うんざりしたネガティブな感情を抱えていると、知らず知らずのうちに相手に伝わってしまうのです。

より良いコミュニケーションのためには、担当者がまず自分の気持ちの整理をしてから臨むこと、感情と行動の不一致に気をつけること、などがポイントになるでしょう。

7 社会や企業の問題でもある

「新型うつ病」と呼ばれるケースが増えてきた背景には、性格形成や精神的な発達の過程でつまずいていたり、不幸な家庭環境で育っていたり(物質面では恵まれていても精神的な暴力を受けてきた人も少なくありません)、葛藤経験が少なく精神的に未熟な人が増えてきたことと無関係ではないでしょう。

しかし一方で、商品を偽装して消費者をだます企業や、二重派遣に象徴されるような、労働力の搾取に対して何も感じない自己中心的な企業が増えたことも、無関係ではないと筆者は考えます。社会規範や倫理観が弱くなり、ずるく上手に立ち回った者ばかり利を得る社会であれば、自分を見失ったり、自分の殻に閉じこもったり、はみ出ようとする者がいても不思議ではないでしょう。

人と人との関係は「鏡」だと言う人もいます。つまり、相手に問題があるのは必ずしも相手の問題ばかりではなく、自分の反応を映し出している部分があるというのです。「新型うつ病」の出現は、社会や企業の問題を映し出す「鏡」なのかもしれません。

【 参考文献 】

  • 笠原嘉「軽症うつ病」講談社現代新書
  • 貝谷久宣「気まぐれ『うつ』病」ちくま新書
  • 「職場のうつ」アエラムック
  • 香山リカ「仕事中だけ《うつ病》になる人たち」講談社
  • 石井妙子「『問題社員』対応の法律実務」日本経団連出版
  • 「DSM−IV−TR 精神疾患の分類と診断の手引」医学書院
  • Marilyn Pincus:Managing Difficult People,adamsmedia,2002.

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