ビジネス環境が激変する今、「カルチャー変革」のために人事はどう動くべきか
島貫 智行氏(中央大学大学院 戦略経営研究科(ビジネススクール)教授)
冨樫 智昭氏(株式会社リンクアンドモチベーション 組織開発本部 企画室 エグゼクティブディレクター)
「こういう行動が望ましい」といった、組織で共有されている価値観や信念、前提のことを「組織文化」という。カルチャー変革とは、組織文化をありたい姿に変える取り組みのことだ。
組織文化は過去の歴史の積み重ねでつくられるものであるため、その特徴は”百社百様”。周知や行動変容、定着などさまざまな段階で壁がある中で、それぞれの企業がカルチャー変革を実現するにはどうしたらいいのだろうか。
8月2日に開催された「HRカンファレンス2024-夏-」では、中央大学大学院 戦略経営研究科教授の島貫智行氏と、株式会社リンクアンドモチベーションの冨樫智昭氏がそれぞれの視点から問題を提起。日本企業を代表する人事リーダーたちが議論した。
- 島貫 智行氏
- 中央大学大学院 戦略経営研究科(ビジネススクール)教授
- 冨樫 智昭氏
- 株式会社リンクアンドモチベーション 組織開発本部 企画室 エグゼクティブディレクター
- 島貫氏による問題提起1:組織文化をどう捉えるべきか
- 島貫氏による問題提起2:組織文化は常に良い方向に機能するとは限らない
- 島貫氏による問題提起3:組織文化変革=カルチャー変革をどう考えるか
- 冨樫氏からの問題提起1:カルチャー変革の目的とは
- 冨樫氏からの問題提起2:カルチャー変革は具体的行動レイヤーでゴールを設定することが重要
- 冨樫氏からの問題提起3:カルチャー変革のプロセスにおける阻害要因とは
- グループディスカッション1:カルチャー変革の「目的」は何か?
- グループディスカッション2:カルチャー変革の「目標(目指す姿)」は何か?
- グループディスカッション3:どのようにカルチャー変革を「実践」するか
- 島貫氏による全体総括
- 本セッションのまとめ
- 当日知見をご共有くださった皆さま
島貫氏による問題提起1:組織文化をどう捉えるべきか
「組織文化とは、組織の環境を特徴付ける価値観や信念、前提が従業員間で共有されているもの」と島貫氏は定義する。『従業員はこう行動するのが望ましい』という組織内で共有された価値観のことだ。
組織文化には10個の特徴があるという。
- 組織文化は共有されている
- 組織文化は安定している
- 組織文化には深さがある
- 組織文化は、シンボリックで表現的なものである
- 組織文化には拡がりがある
- 組織文化は、組織のメンバーに秩序とルールを付与する
- 組織文化は、新しいメンバーに伝承される
- 組織文化は、集団のアイデンティティーやコミットメントの源泉となる
- 組織文化は、歴史と伝統に根差している
- 組織文化には独自性がある
これらの特徴があるからこそ、組織文化は経営上、非常に意義がある。
「『3. 組織文化には深さがある』とは、組織文化は従業員一人ひとりの価値観の深層に根付いているということです。組織文化を通じて秩序とルールを付与することで、マネジメントの効率が高まります。
また、会社の歴史と伝統に根差しているため、同じような組織文化を持っている企業は他にありません。ゆえに組織文化は『独自=ユニーク』であることが前提です。組織文化を他社が模倣するのは難しいため、競争優位の源泉になります。従業員の行動を企業の戦略達成に方向付けたり、従業員の団結や一体感を高めたりする特長もあります」
島貫氏による問題提起2:組織文化は常に良い方向に機能するとは限らない
島貫氏は組織文化が機能不全を起こす兆候として、次の六つを例に挙げた。
- 組織内のリーダーがミッションやビジョン、行動原則を把握していない
- 新規採用者の態度や動機が、組織文化と整合していない
- 組織文化にそぐわないインセンティブや統制、手続きを導入する傾向にある
- 計画とその練り直しが恒常的に続いている
- ミーティングや形式的な業務が多過ぎて、迅速な意思決定ができていない
- 従業員のエンゲージメントや定着率など、定量的指標が悪化している
「例えば、現場のマネジャーが会社のミッションやビジョンを理解していない行動を取っているときは、組織文化不全の兆候と考えられます。また、プランニングはするけれど練り直しが繰り返されるのもまずい状況です。さらに、従業員のエンゲージメントスコアや定着率といった指標の悪化も、悪い兆候を示す証拠と言えます」
島貫氏による問題提起3:組織文化変革=カルチャー変革をどう考えるか
「ハーバードビジネススクールのマイケル・ビアー教授は、『企業文化を変えるために、文化を変えようとすることから始めてはいけない』と述べています。経営者が経営戦略を実現するためのパーパスや経営理念、ビジョンを示し、組織・人材マネジメントを実践し、従業員が新しい方向に行動を移していった結果として、組織文化が変わるのです」
また、組織文化変革に必要な視点として、「変革のドライバー」「変革のプロセス」「変革のエージェント」の三つを紹介。「人事部門は、経営者のエージェント(従業員の代理人)として、従業員の行動変容に刺激を与えるカタリスト(触媒)やマネジャーの現場変革を支援するファシリテーターの役割を果たすべきだ」と話した。
冨樫氏からの問題提起1:カルチャー変革の目的とは
さまざまな企業とカルチャー変革に取り組む、株式会社リンクアンドモチベーションの冨樫氏は、「カルチャー変革の上位目的をシンプルに言うと、ビジネスに勝つこと」と断言する。
「いろいろな企業に『どんなカルチャーにしたいですか』と聞くと、『挑戦』『自律・自立』『風通し』『両利きの経営』といったキーワードが出てきますが、共通する上位目的は、事業を成長させ、理念・ビジョン・戦略を実現するために組織を変えるということであり、『ビジネスに勝つこと』です」
ただし、カルチャー変革の目的はもっと高い解像度で設定する必要があると述べ、二つの視点を挙げた。
- 戦略レイヤー:どこの階層・範囲で、誰に何を実現したいか
- 行動レイヤー:具体的にどのような行動を増やしたいのか
「戦略レイヤーでは、階層や範囲によって課題が変わってくるため、『どこの』階層・範囲を変えたいかを明確にします。例えばホールディングス全体の場合、M&Aで会社が増えてきたら、複数事業を統合しながらどう“らしさ”を残すのかを考えます。部やチームの場合は、それぞれの機能をもう一段レベルアップする、もしくは他部署の連携や職場内の協働を活発にするにはどうすべきか。それぞれの階層を意識すれば、議論が進みやすくなります」
階層・範囲を明確にしたら次は、「誰に×何を」という視点を持つこと。
「対象とする組織や事業(誰に)と、カルチャー種別(何を)によって、実現したいことは異なります。『誰に』という視点では、既存の従業員向けか新しくジョインした人たち向けか。『何を』では過去の伝統や“らしさ”などの既存カルチャーか、新たに生み出したい新規カルチャーか。これらを4パターンに置き換えてみると、実現したいことが見えやすくなります」
「具体例を挙げると、既存カルチャーを既存対象に向けて取り組む『A』は、創業の精神や“らしさ”をどう復活させるかに目を向けます。既存カルチャーを新規対象に向けて取り組む『B』の場合、M&Aや海外展開で拡大すると、本社創業時の文化をそのまま取り入れるのが難しいため、インクルーシブを意識して統合を強化することが必要です。近年では「統合」「浸透」という言葉よりも、より違いを尊重しつつ生かす考え方として「カルチャーブリッジング」(=異なる文化の間に架け橋を作ること)という考え方も提唱されています。
新規カルチャーを既存対象に取り組む『C』は、事業変革がカギとなります。コーポレートトランスフォーメーションやマネジメントトランスフォーメーションといったキーワードとともに取り組まれるケースがあります。新規カルチャーを新規対象に取り組む『D』は、本体と分けた新会社で「知の探索」をする大企業にあり得るケースです。
企業においてカルチャーが重要テーマとなる際、そのねらいがA~Dのうち明確に一つに絞られるケースもあれば、複数領域にまたがるケースもあります。例えば、「らしさを再浸透させながら(A)、時代に適応できるよう体質変革を狙う(B)」、「歴史の長い本社組織には挑戦的カルチャーを呼び起こしながら(C)、M&Aした企業との意思疎通を強化していく(B)」などです。自社において「カルチャー」というビッグワードが議論になる際には、その目的がこの4パターンのどこの領域にあたるかを整理していくとよいでしょう」
冨樫氏からの問題提起2:カルチャー変革は具体的行動レイヤーでゴールを設定することが重要
冨樫氏は「カルチャー変革は『掲げる言葉』だけでなく、『具体的な行動』まで変えることが重要。だからこそ、戦略レイヤーでの目的を明確化するだけではなく、「具体的にどのような行動が増えたら成功なのか」という、行動レイヤーでのゴール設定が出来ているか否かがポイント」だと強調する。
「E.H.シャインの3段階のモデルで説明すると、いきなり一番下の『無意識の価値観』を変えるのはなかなか難しい。重要なのは、標語やコンセプトなど『掲げられている価値観』をもとに、一番上の『目に見える行動』に移していくステップで、具体的な行動に落としてイメージさせることが欠かせません。それを促進していくことで、『無意識の価値観』を変えていくことができるのです」
「例えば成功してテレビの取材が入ったときに、撮られる日常のワンシーンはどんなものか、社員はどんな言動をしているのか。そういった理想的な言動イメージをありありと描けると良いですね。変革エージェントたる人事部門は、動画再生できるイメージを一つでも二つでも多く持ってほしいです」
冨樫氏からの問題提起3:カルチャー変革のプロセスにおける阻害要因とは
実際にカルチャー変革を実践しようとすると、多くの場合、壁(=阻害要因)に突き当たる。この壁を乗り越えるために必要な視点が3点ある、と冨樫氏は話す。
視点(1)変革ステップで現れる壁
カルチャー変革にはさまざまなアプローチ・プロセスがあり正解があるものではないが、簡略化すると「策定→共有→行動化→習慣化」というプロセスを経る。そして、それぞれのタイミングで壁が現れる。
「最初の『策定』の段階では、以前から在籍していた人たちを中心に『現状維持』のバイアスや『対立感情』が起こります。そうならないよう、策定段階からキーパーソンを巻き込んでおくことが重要です。次の『共有』の段階では、右脳と左脳の両方にしっかりと落とし込まれないと『理解』も『共感』もされません。このハードルを越えるためには、一方的な発信・通知ではなく双方向型の対話会や社内イベントを通じて、経営層や旗振り役の問題意識や想い、温度感を伝えることが重要です。
『行動化』の段階では、どの階層に対してどう行動してほしいのかを『具体化』し、かつその『基準』まで理解されることが重要です。そうでなければ、望ましい行動は生まれません。ここでは全社一律とはいかないので、各現場の違いを踏まえて部門長や管理職が自分の言葉で落とし込んでいくことが重要です。最後の『習慣化』では、変化が生まれた後にも取り組みを『継続』し、『効力感』を得てもらえるような仕掛けが重要です。」
視点(2)人事システムの一貫性
「経営層が示した経営理念やビジョンをもとに行うカルチャー変革の方針や取り組みと、他のさまざまな施策の方針・内容との間に一貫性がないと、従業員は混乱するでしょう。人事領域でいえば、評価や配置登用、採用や育成体系など、すべての施策に一貫性がなければ、従業員目線からすると『チグハグ』に映ってしまい、カルチャー変革の推進は難しくなります」
視点(3)従業員エンゲージメントという土台
「従業員エンゲージメントが低いとカルチャー変革がうまくいかないことは、当社のデータベースからも分かります。エンゲージメントスコア(≒偏差値)50以下の状態にある組織は、新しい方向を目指す前に、目の前の顕在課題を解決することが先決です。つまり『組織の負』を解消した上で、目指す姿(新たなカルチャー)に向かっていくという順番が大事です」
グループディスカッション1:カルチャー変革の「目的」は何か?
Aグループ
- シミックホールディングス株式会社 口村 圭氏
- 住友金属鉱山株式会社 吉岡 直緒紀氏
- 東京海上アセットマネジメント株式会社 吉本 力弘氏
- 三井情報株式会社 蒲原 務氏
Bグループ
- キユーピー株式会社 吉用 智彦氏
- 株式会社J-オイルミルズ 江渕 泰久氏
- 株式会社ジャパネットホールディングス 田中 久美氏
- 日揮ホールディングス株式会社 花田 琢也氏
- ユニゾホテル株式会社 小髙根 路晴氏
Cグループ
- SMBCコンシューマーファイナンス株式会社 植松 篤氏
- ケルヒャージャパン株式会社 羽鳥 信一氏
- 株式会社JTOWER 池本 典広氏
- 住商ビルマネージメント株式会社 飯田 仁氏
- 株式会社ベイシア 割石 正紀氏
Dグループ
- 旭化成ホームズ株式会社 岡前 浩二氏
- 株式会社ADKホールディングス 北本 裕史氏
- キヤノンマーケティングジャパン株式会社 齊藤 信氏
- 三井化学株式会社 小野 真吾氏
- 株式会社ヤプリ 二宮 渉氏
島貫氏と冨樫氏から視点を提示した後、参加者によるグループディスカッションが行われた。最初のディスカッションでは、カルチャー変革の目的について意見を交換した。
Aグループ
Aグループでは、「社員がいきいきと働くことが、ビジネスに直結する」「継続的に会社が成長するために、トップからボトムまで一人ひとりが価値観を変える必要がある」など、どの企業も変革の目的を「社員」と「会社」の両輪で考えていることが明らかになった。
住友金属鉱山株式会社 吉岡氏:カルチャー変革に対して、四社四様の問題意識がありました。「歴史が浅いので会社として求心力のあるカルチャーを作りたい」という意見のほか、「歴史があるため現状のカルチャーを大事にしたいが、時代背景に応じてカルチャーは変化させている部分もある」といった意見も出ました。
Bグループ
Bグループでは、「従業員が増えて規模が大きくなっても“らしさ”を保ち続けたい」という声が出た。また、冨樫氏が問題提起で述べたカルチャー変革の4象限に合わせて、「既存の対象に新しいことに挑戦するマインドを植え付けたい」といった意見を整理した。
キユーピー株式会社 吉用氏:既存カルチャー・新規カルチャー4パターンの表を基に意見を出しました。サーベイのスコアが低くて待ったなし、ここでヒントをもらいたいという「C」、M&Aや海外進出する中、拡大に伴う統合強化で課題感を持っている「B」。あるいは「A」と「D」の掛け合わせで、歴史は古く、事業としては大きな柱が継続しているものの現状に課題感を持っているなどの意見がありました。それぞれカルチャー変革の目的は違いますが、その違いがとても参考になりました。
Cグループ
Cグループでは「経営が無関心なのが問題」という発言から議論は始まった。それに対して「創業者の声が大きい分、社員の主体性が乏しい。そこを変えたい」といった意見も出た。そこから各社の離職率にまで議論が及んだ。
株式会社ベイシア 割石氏:業態も業界も違う5社が、4対1に分かれました。4社は同じ傾向で、従業員は「待ち姿勢」「指示待ち」「主体性に乏しい」。これらの解消がカルチャー変革の目的です。ただし4社の中でも、居心地が良くて辞めない会社もあれば、やりがいが乏しく離職率が高い会社もありました。残り1社は、創業10年で従業員は「積極的」「これから文化を作っていきたい」というスタンスでした。会社が長く続いても文化があるわけではないし、あっても最終的に出てくるものが違うということが学びになりました。
Dグループ
Dグループでは、主に組織の成長戦略がカルチャー変革の目的という意見が多かった。「企業は成功の方程式が見えていない」という意見に、納得の声が上がった。
株式会社ADKホールディングス 北本氏:事業フェーズでまったく課題が違うということを再認識しました。具体例を挙げると、ある企業では、事業拡大を検討していく中で、経営陣にチャレンジ精神あふれる「イケイケなグループ」と安定経営を求める「堅実思考なグループ」の両者がいて、どういう方向で集約すべきかといった問題を抱えていました。
グループディスカッション2:カルチャー変革の「目標(目指す姿)」は何か?
Aグループ
Aグループでは、社員が自律的、自発的に動くシーンを理想とする会社がある一方、自律的な文化だとオフィスが静まり返ることがあるので活発なコミュニケーションが必要という意見も出た。
シミックホールディングス株式会社 口村氏:「なかなか主体的、自律的に動かないので改革は強制的にやったほうがいい」という話から始まりました。伊勢神宮が強制的に場所を移す式年遷宮のように、変革を仕組み化しないと、自らの課題に対して動くことはなかなかないのではないかと。「会社に言われなくても自分から動く」「会議で上司に反論する」「互いに気兼ねなく意見が言える」、そういったシーンが見られたらいいなと語り合いました。
Bグループ
Bグループでは、カルチャー変革に向けてどんなアクションが社内で起こるか、それぞれ思い描いた理想的なシーンを発表し合った。特に「笑顔でハードディスカッション」「アットホームにストイック」といったフレーズには、賛同の声が上がった。
株式会社ジャパネットホールディングス 田中氏:目指す姿を議論する中で、「サークルのような自発的なコミュニティーが至るところで立ち上がっている」「社内ベンチャーが立ち上がって、それをみんなで応援している」という具体的なシーンの話が出ました。特に「笑顔でハードディスカッション」は、いいイメージが浮かぶと盛り上がりました。
Cグループ
Cグループでは、「上司に対して使う『おっしゃる通りです』を『お言葉ですが』に変えたい」という具体的な例が上がった。反対に「好き勝手やりすぎるのはよくない。信賞必罰の文化も必要」という声もあった。
ケルヒャージャパン株式会社 羽鳥氏:このグループは、野球でいう三遊間のゴロを拾いたくないカルチャーの企業が多く、具体的な行動としては「火中の栗を拾う」「自分から手を挙げる」といった行動が望ましいという意見が出ました。中には上司がチャットツールでつぶやいても「いいね!」をしてはいけないという文化のある企業もあり、いろいろな事例が出て、非常に楽しいディスカッションとなりました。
Dグループ
Dグループでは、「月曜日の朝、早く起きられる」とのイメージに共感の声が集まるところから議論がスタート。「ハイタッチで喜び合う」「セルフ社内合宿があちこちで起こっている」「経営のメッセージに対して”ワイガヤ”している」など、社員があちこちで自発的に集まるシーンを望む発言が多数出た。
旭化成ホームズ株式会社 岡前氏:目指したい具体的なシーンとして、「月曜日の朝、会社に行きたいと思い早く起きられること」には共感の声が多く上がりました。そのほか、仲間同士で合宿するシーン、みんなで喜びながらハイタッチをするシーン、経営会議で言い合っているシーンなどが出ました。また、あちこちで火種が増えてそれが大きくなればいいといったイメージも挙げられました。
グループディスカッション3:どのようにカルチャー変革を「実践」するか
Aグループ
Aグループで共通したのは、「社員の現状維持バイアスが強く、変革を求めていない」「社員に関心があるのは目の前の利益で、先の未来が見えていない」といった壁。また「上に行くほど成功体験にとらわれている」など、経営層が壁になっているという意見も出た。
東京海上アセットマネジメント株式会社 吉本氏:ディスカッションの中で、「過去の成功体験があるから変革しづらい」という声が出ました。「目先の利益が出ているのに、なぜ変わらないといけないのか」という社員の受け止め方がある一方、経営目線では、この先の事業の成功がイメージできない。そういった社員と経営層のギャップがあることで、変革がなかなか進まないという話もありました。さらに、やることだけが目的になり、最終的に何がしたいのか出てこないとやはり進まないという課題も挙がりました。
Bグループ
Bグループでは、「新しいことをする必要がないと思っている」「経営層の成功体験や固定観念が壁」といった意見が出てきた。それらを取り除くには、トッププレーヤーと若手を組み合わせる、経営層にコーチングを行う、などさまざまなアイデアが出てきた。
ユニゾホテル株式会社 小髙根氏:それぞれのレイヤーごとにどういう視点があるかを話し合いました。従業員層は、「自分は大丈夫」というバイアスが強く、マネジメント層は過去の成功体験や固定観念が足かせになっているといった話が出ました。
Cグループ
Cグループでは、各自が書いた付せんをカルチャー変革の四つのステップごとにプロットし、それらを見ながら話し合った。最も集中したのが変革のファーストステップである「策定」。「若手と社長は変えたがっているが、その間の層が壁。自分たちのやってきたことが否定された気になってしまう」「ミドルシニア層が部下の提案に対して指摘する」など、上司が阻害要因になっていると話し合われた。阻害要因を取り除くには、上司の行動変容を促す評価制度が必要ではないかといった案が出た。
SMBCコンシューマーファイナンス株式会社 植松氏:策定、共有、行動化、習慣化の四つに分け、それぞれの意見をプロットしたところ、「策定」のところで壁があることが分かりました。大企業や歴史のある企業など、コアビジネスがしっかりしているところほどこの壁が厚い。また、ミドルシニア層が過去の成功体験に引きずられて壁を作ると、若手が意見しにくくなり、残念な風土になるという意見もありました。解決策としては、多面評価をうまく取り入れながら変えていってはどうかという話が出ました。
Dグループ
Dグループでは、「何かしようとすると抵抗勢力が出てくるため、変革案をまとめて実行する人が出てこない」「『できないのではないか』や『このままでいい』、という二つのバイアスがある」「変革の必要性を認識していない経営層が壁」など、さまざまな意見が出た。変革するときは解像度を高めて言葉にしていくことが大事だという声が出た。また人事ではなく経営の立場からの発言もあり、議論が深まった。
キヤノンマーケティングジャパン株式会社 齊藤氏:壁には、見える壁と見えない壁の二つがあると捉えました。「見える壁」は、やりたいけれどパワーがないといった組織のリソースの問題で、「見えない壁」は経営層、管理職、一般層それぞれに暗黙のルールが存在することで起こるのではという結論になりました。変革の旗を振るべきシニア層の推進者が古い考えに縛られていて、若手が意見を言いづらい状況がまさに壁と言えます。「このままでいい」という現状維持志向も壁になる、という意見も多く出ました。それらを解決するには、何から何に変えるかを経営陣が言語化する必要があるだろうという話になりました。
島貫氏による全体総括
島貫氏:本日は、カルチャー変革は何のためにやるのかという目的に立ち返って議論していただきました。「戦略の実現」や「イノベーション」を中心とした意見が多くありました。
カルチャー変革にはこの二つ以外の目的もあります。それは「組織理解」「組織のサステナビリティ」「変化の常態化」です。
「組織理解」とは、変革のアクション自体が自らの組織を理解することに直結するという意味です。社会心理学者のクルト・レヴィン氏は「組織を最も理解する方法は、それを変えてみることである」という言葉を残しています。変革を試みたときに、従業員はどういう反応を示すか。組織の特徴が顕在化してくるのです。自分の組織をよりよく理解するためにも、変革に取り組む必要があります。
次の「組織のサステナビリティ」は、組織の健全性を高めることです。本日のディスカッションの中で、「組織が持続的に成長していくには、どういう組織文化が望ましいのか」という意見がありました。「強い組織」だけでなく「良い組織」を作るためのカルチャー変革が必要です。
そして最後の「変化の常態化」。変化することを習慣化していくことです。私たちは、変化を特別な出来事にするのではなく、むしろ変わることが普通であるという組織の状態を創るフェーズに来ているのです。
冨樫氏:当社も経営ポリシーの一つとして「運動神経の良い経営」を掲げています。基本的に外部環境、内部環境ともに変化していくもの。常に敏捷性高く、変化していこうと考えています。参考になれば幸いです。
「カルチャー変革」についてさらに学ぶ
カルチャー変革は企業の経営戦略を推進する要であり、日本企業の喫緊の課題
本セッションのまとめ
島貫氏による問題提起1 |
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島貫氏による問題提起2 |
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島貫氏による問題提起3 |
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冨樫氏からの問題提起1 |
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冨樫氏からの問題提起2 |
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冨樫氏からの問題提起3 |
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ディスカッション |
カルチャー変革の「目的」は何か
カルチャー変革の「目標(目指す姿)」は何か
どのようにカルチャー変革を「実践」するか
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当日知見をご共有くださった皆さま
※所属や役職は「HRカンファレンス2024-夏-」開催時のものです。
有識者・プロフェッショナル
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島貫 智行氏
中央大学大学院 戦略経営研究科(中央大学ビジネススクール)教授 -
冨樫 智昭氏
株式会社リンクアンドモチベーション 組織開発本部 企画室 エグゼクティブディレクター
大手・優良企業の人事リーダー (社名50音順)
- 岡前 浩二氏
旭化成ホームズ株式会社 常務執行役員 広報・渉外担当 人事部長 - 北本 裕史氏
株式会社ADKホールディングス ピープルマネジメント本部 ラーニング&ディベロップメント局長 - 植松 篤氏
SMBCコンシューマーファイナンス株式会社 執行役員 人事総務部担当 - 齊藤 信氏
キヤノンマーケティングジャパン株式会社 総務・人事本部 人事企画部 部長 - 吉用 智彦氏
キユーピー株式会社 人事本部 キャリア開発センター 企画担当 担当部長 - 羽鳥 信一氏
ケルヒャージャパン株式会社 人事総務部長 - 江渕 泰久氏
株式会社J-オイルミルズ 執行役員 CHRO 人事・総務担当 - 池本 典広氏
株式会社JTOWER 執行役員 コーポレート本部 人事統括部長 - 口村 圭氏
シミックホールディングス株式会社 CHRO グループ戦略人事担当 - 田中 久美氏
株式会社ジャパネットホールディングス 採用教育戦略部 ゼネラルマネジャー - 飯田 仁氏
住商ビルマネージメント株式会社 常務取締役 コーポレート本部長 兼 大手町事業所長 総務人事部長 - 吉岡 直緒紀氏
住友金属鉱山株式会社 人事部 人材開発室長 - 吉本 力弘氏
東京海上アセットマネジメント株式会社 人事総務部 部長 - 花田 琢也氏
日揮ホールディングス株式会社 専務執行役員 CHRO(最高人事責任者) - 割石 正紀氏
株式会社ベイシア 人事・管理事業部 事業部長 株式会社ベイシアオープス 取締役 ベイシアグループ健康保険組合 理事長 - 小野 真吾氏
三井化学株式会社 グローバル人材部 部長 - 蒲原 務氏
三井情報株式会社 取締役副社長 執行役員CSO CHRO CDIO - 小髙根 路晴氏
ユニゾホテル株式会社 人事部長 - 二宮 渉氏
株式会社ヤプリ ピープル&カルチャー本部 本部長
経営学・社会システム論・行動経済学・心理学などの学術的背景を基盤にした、基幹技術「モチベーションエンジニアリング」を用いた、組織や人事の経営コンサルティング。コンサルティング・クラウドサービスを通じて「診断」と「変革」のサイクルを提供することで、企業の「従業員エンゲージメント」向上をワンストップで支援。