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理念浸透のために人事が取り組むべき施策とは。
人事機能の変化によってビジョンを語るリーダーの存在が重要

大滝 令嗣氏(株式会社シフトビジョン会長・早稲田大学名誉教授)
山本 崇博氏(株式会社ヤプリ 取締役執行役員)

掲載日:2024/09/30
理念浸透のために人事が取り組むべき施策とは。人事機能の変化によってビジョンを語るリーダーの存在が重要

経営陣だけでなく従業員も含めて全体が同じ方向に進むためには、社内外における企業の理念浸透が欠かせない。しかし現在は人事機能や発信ツールの多様化によって、理念を浸透させることの難しさが増している。理念を浸透させるためには、人事においてどのような施策を打つべきなのか。

8月2日に開催された「HRカンファレンス2024-夏-」では、株式会社シフトビジョン会長であり早稲田大学名誉教授を務める大滝令嗣氏と、「理念浸透」のリーディングカンパニーである株式会社ヤプリ取締役執行役員の山本崇博氏が、企業における理念浸透の必要性について問題を提起。日本企業を代表する企業の人事リーダーたちが、「日本企業の理念浸透の方法」について語り合った。

プロフィール
大滝 令嗣氏
大滝 令嗣氏
株式会社シフトビジョン会長
早稲田大学名誉教授
山本 崇博氏
山本 崇博氏
株式会社ヤプリ 取締役執行役員

大滝氏による前談:企業拡大に貢献した要素とは

まず大滝氏が、28年勤めたマーサー・ヒューマン・リソース・コンサルティングでの経験を紹介した。大滝氏が入社した当時、マーサーの従業員数は2,500人だった。そこから人事コンサルティングが世界的に頭打ちとなる中で同社は合併を繰り返し、10年後に大滝氏が日本法人の社長に就任した際は10倍の2万5,000人に増加。

大滝氏は、マーサーの企業規模がこのように拡大し続けている理由として「理念浸透」と「フェアな人事」があると述べた。

「数多くの企業を買収していく中で、理念を共有することは重要です。約30年前、私が在籍していた頃のCEOは、タウンホールミーティング(※)を積極的に行っていました。具体的には、ニュースレターを配るのではなく自ら世界中のオフィスを訪問し、買収された企業の経営者や社員に自分の想いを語っていましたね。結果として従業員が2,500人から2万5,000人に増えても社内における理念の認識に相違はなく、社員一人ひとりが組織と同じ方向を向いていると感じていました」

※経営陣と従業員が直接対話する形式のミーティング。役員が現場の声を直接聞き、経営に素早く反映させることを目的としている

また、「フェアな人事」については次のように語った。

「今振り返ると、マーサーの従業員数が10倍に増えた時期のCEOの何名かは、買収された企業のCEOでした。優秀な人は買収後も変わらずにCEOを任されることになり、これを見ていた従業員は、『本当に優秀な人を登用している』と感じていました」

「理念浸透」によって組織全体のベクトルがそろい、「フェアな人事」で従業員エンゲージメントが高まったことで、マーサーは拡大を続けてきたと考えられる。

大滝氏による問題提起1:日本にはビジョナリーリーダーがいない

現代は「VUCA(変動性、不確実性、複雑性、曖昧性)の時代」と言われるが、VUCA時代に企業が生き残るには、強くビジョンを語る「ビジョナリーリーダー」が必要だと大滝氏は言う。会社をバスでたとえると、「目先だけ見て運転する運転手」よりも「真っ直ぐ先を見てハンドルを握る運転手」のほうが乗客は安心できるからだ。

また、ビジョンは会社の看板であるとも考えているため、リーダーが自分の言葉でビジョンを伝えることもビジネスにおいては重要だという。しかし、日本にはビジョナリーリーダーがなかなかいないのが現状だ。

「アメリカには、イーロン・マスクやジミー・ウェールズのようなビジョナリーリーダーが数多くいます。彼らは創業者なので、強いビジョンを持っています。一方でアメリカの雇われ社長の中にも、強いビジョンを持つリーダーが数多く存在します」

日本では、創業者であれば多少はビジョナリーリーダーがいるが、アメリカと比較すると大幅に少ないと大滝氏は感じている。

写真:大滝 令嗣氏(株式会社シフトビジョン会長・早稲田大学名誉教授)

大滝氏による問題提起2:日本にはビジョンを語るリーダーも少ない

アメリカに本社があるQualtricsが2020年に調査した「国別従業員のエンゲージメント」によると、日本の従業員エンゲージメントは最下位に近いことが判明した。

図説:Employee Engagement by Country(2020)

これは日本の会社特有の傾向であり、たとえ海外に拠点があったとしても、現地で日本の会社に勤める従業員のエンゲージメントは低いという。

また、大滝氏が以前代表を務めた「Hay Group」が2018年に調査した「国別の組織風土」では、日本の会社は圧倒的に「活気の無い」の割合が他国よりも大きいことが分かる。

図説:組織風土

同様にHay Groupが調査した各国のリーダーシップスタイルにおいて、日本は「ビジョン型」が少なく「民主型」が多いという傾向も見えた。

図説:リーダーシップスタイル

これらの調査結果から、大滝氏は次のように見解を述べた。

「日本の組織の活性度は低く、ビジョンを語るリーダーが相対的に少ないことが分かります。どちらが原因でどちらが結果かはわかりませんが、明らかな相関があると考えています」

続いて大滝氏は、2017年に発表された「社長の1週間の行動分析」に関する論文を紹介。この論文では、6ヵ国計1,114社の社長の行動を以下のように分けて分析した。

リーダーシップ行動
  • ビジョンのコミュニケーション
  • 取締役、執行役員などとの協議
  • タウンホールミーティングでの対話
  • 大株主とのコミュニケーション
マネジメント行動
  • 現場
  • 顧客、取引先訪問
  • 部下への直接指示
  • 日々の問題解決

出典:Bandiera, Oriana, Stephen Hansen, Andrea Pratt, and Raffaella Sadun. "CEO Behavior and Firm Performance." Harvard Business School Working Paper, No. 17-083, March 2017

リーダーシップ行動をとる社長には、以下の傾向が見られた。

  • リーダーシップ行動が標準偏差より1ポイント上がるごとに売上は7%高くなり、社員一人あたりの利益は3,100米ドル多くなる
  • リーダーシップ行動をとる社長に交代すると、数年で業績が改善する
  • リーダーシップ行動をとる社長は、マネジメント行動をとる社長よりも少ない

この論文から分かるのは、「リーダーシップ行動をとる社長の価値が高い」ということだ。さらに大滝氏は、リーダーシップ行動の中でも「自らビジョンを語ること」がとくに重要だと考える。

日常的に理念を発信している企業の事例1:田中貴金属グループ

日本の会社で理念を日常的に発信している事例として、大滝氏は「田中貴金属グループ」を挙げた。田中貴金属グループでは、以下の企業理念を掲げている。

TANAKAグループは、
貴金属のリーディングカンパニーとして、
創造性あふれる技術力をもって、
お客様の信頼と期待に、スピーディーに応え、
貴金属がもたらすゆとりある豊かな社会の実現と、
美しい地球の未来に貢献します。

社長の田中浩一朗氏は、理念を掲げるだけでは足りないと考え、自分の想いを小冊子にして頻繁に社内で説いて回っているという。

大滝氏は「田中氏は理念を自分の言葉で全社員に語っており、私が関わった中でも従業員エンゲージメントがものすごく高い会社です」と紹介した。

日常的に理念を発信している企業の事例2:ブラザー工業株式会社

続いて大滝氏は、グローバルに事業を展開しているブラザー工業株式会社を例に挙げた。ブラザー工業の取締役会長である小池利和氏は、長きにわたってアメリカ法人のトップを務めた経験があり、自分の想いを伝えることの重要性を理解していたという。

そこで小池氏は、日本に戻ってきてトップを務めることになった2005年から、社内ブログを欠かさずに更新している。

大滝氏は「小池氏は偉ぶるような人ではなく、一般人の目線で世の中のマーケットや社員のこと、会社の状況などを分かりやすく発信しています。そのため、多くの社員が小池氏の想いを理解できているのです」と紹介した。

大滝氏による問題提起3:人事機能が変化している

明治時代の産業革命以降、日本では経営と労働者の距離は縮まっている。人手不足もあり、近年はさらにその傾向が顕著になってきていると大滝氏は述べた。そのため、人事の機能も急速に変化しているという。

かつては人事を「勤労部・労務部」と呼んでいたが、近年は「ヒューマンリソースマネジメント」と呼ぶようになり、人事の仕事に「企画」が加わったことで経営企画と人事の距離が縮まった。その結果、社内制度の再設計や組織開発に人事が関わるようになったのだ。

そして2000年頃からは、アメリカで人材を資本の一部と捉える「ヒューマンキャピタル」という言葉が流行した。そこから約20年遅れて日本でも経済産業省より「伊藤レポート」という日本企業の収益性改善や持続可能な成長のための施策がまとめられた報告書が発表され、人的資本経営が注目されるようになった。

「人的資本が注目される中、CHRO(最高人事責任者)という言葉が出てきました。これにより、ローテーションで人事部長を選出するのではなく、『人事のプロとして経営のパートナーになる』といった役割が求められるようになりました」

また、人事の役割が変遷し続けると同時に、社員にメッセージを伝える際の発信ツールも変わってきたと大滝氏は語った。

写真:会場の様子

勤労部・労務部と呼ばれていた当初は、社内報のような紙ベースの媒体であったが、「ヒューマンリソースマネジメント」と呼ばれるようになってからはビデオで録画したものを全世界の社員に見てもらうようになった。しかし、会社のトップが直接伝えたほうが効果は高いという考えが広まり、タウンホールミーティングで語られる機会が増えていった。タウンホールミーティングでは単に演説をするのではなく、ストーリーを語ることが大切だという。

大滝氏は、今後の発信ツールの変遷と人事の役割について次のように見解を述べた。

「近年では、リアルタイムでのオンラインツールが主流となっています。今後、本格的に人的資本経営が一般化する中で、発信ツールもまた変わっていくでしょう。例えば、デジタルオンデマンドのように、社員がいつでも自分のスマホで見られるようなコンテンツが増えていくことも考えられます。

CHROの大きな役割は、経営のパートナーとして効果的なツールを使いつつ、重要なメッセージをトップから社員に伝えさせ、ブランディングとマーケティングを推進していくことだと考えています」

参加者との質疑応答・意見交換

大滝氏の「理念浸透」の提言を受け、参加者と質疑応答・意見交換が行われた。

三井住友銀行 北山氏:私たちも統合報告書などでステークホルダーに向けて人的資本を含めた成果を発信する機会があり、このチャンスを重要視しています。しかし、グループとしてのストーリーテリングの内容に統一感を持たせることに難しさを感じているので、今後の課題として持ち帰りたいと思いました。

イーオンホールディングス 中尾氏:近年は、私たちもトップ自らが、直接社員に語りかける場を作ることに力を入れ、愚直に理念浸透を進めるようにしてきました。今回のカンファレンスにおいて、あらためて発信ツールの変遷を伺い、私たちの選択は間違っていなかったのだなと感じました。

ポーラ 佐藤氏:2016年に大きく理念浸透を意識した発信をしたのですが、あらためて当時から社員が4割ほど入れ替わったことに気づきました。理念浸透を誠実に続けていかないと、時間の経過とともに社員もビジネスパートナーも入れ替わり、理念に込められた想いが薄れてしまいます。表面上ではなく、聞いた人の心を動かすようなビジョンを伝え続けていくことの大切さと難しさを感じました。

大滝氏:先ほどの田中貴金属やブラザー工業の例を挙げると、トップは自らのスケジュールの10%近い時間を理念浸透にあてています。スケジュールに明確にリーダーシップ行動を落とし込むことは効果的だと思います。

山本氏:グローバル企業になると、言語によるニュアンスの違いが生じてしまう可能性もあるかと思います。大滝先生はどのようにお考えでしょうか。

大滝氏:言語によるニュアンスの違いは大きな問題で、AIによる自動翻訳に頼るのではなく、しっかり理念を理解している人が手を加え、異文化の壁を乗り越えつつ伝えていくべきことでしょう。

グループディスカッション1:組織のパフォーマンスや持続可能性の要素とは

続いて、グループディスカッションが行われた。

Aグループ

  • 株式会社三井住友銀行 北山 剛氏
  • 株式会社FOOD&LIFE COMPANIES 松尾 孝治氏
  • カワサキモータース株式会社 安武 敬二氏
  • キユーピー株式会社 吉用 智彦氏

Bグループ

  • シミックホールディングス株式会社 口村 圭氏
  • 株式会社イーオンホールディングス 中尾 正博氏
  • 三桜工業株式会社 産屋敷 繁樹氏
  • 株式会社ポーラ 佐藤 幸子氏

Cグループ

  • 神鋼鋼線工業株式会社 吉田 裕彦氏
  • 株式会社東京スター銀行 遠藤 順子氏
  • 株式会社JTC 高田 直人氏
  • 株式会社エーピーコミュニケーションズ 鈴木 晃洋氏

Dグループ

  • 株式会社セゾンファンデックス 佐野 英樹氏
  • 株式会社デリバリーコンサルティング 三橋 文子氏
  • 株式会社サガシキ 黒木 昌亮氏

最初のディスカッションでは、各企業のパフォーマンスや持続可能性に関する施策や要素について議論された。ディスカッション後の全体発表では、各グループの代表者が議論の内容を共有した。

Aグループ

Aグループで話されたのは、各企業のパフォーマンスや持続可能性のためには企業理念の浸透が重要であるということ。しかし、理念浸透がなかなか進まないという課題や、従業員の心に響くような理念を作り上げることが難しいという意見が挙げられた。また、冒頭の話題にあった「言語によるニュアンスの違い」に課題を感じている企業もあった。

キユーピー 吉用氏:経営を取り巻く環境の変化は大きいと感じています。これまでの会社は従業員に頑張りを求め、従業員は会社に終身雇用を求める「相互依存」の関係でした。しかし現在は、会社は従業員の自律を支援し、従業員は自分でキャリアを描いていく「選び選ばれる関係」へと変わってきています。

その中で、会社は従業員から選ばれるために共感できる理念を発信し、浸透させなくてはなりません。従業員から共感してもらうための理念の発信方法を構築していくことが、人事に求められていると考えています。

山本氏:理念の大事さを踏まえた上で、もう一歩踏み込んで浸透の形が変わってきていると感じているのですね。

吉用氏:社内には幅広い世代の従業員がいるので、同じ言葉でも人によって解釈が異なります。これまで発信してきた言葉を定期的に再解釈させる取り組みが大切です。

写真:会場の様子

Bグループ

Bグループでは、健康面や心理的安全性の大切さを中心に議論した。また、正しくメッセージを伝えるため、実施している1on1に効果が出ているかどうかを振り返るべきという意見もあった。

シミックホールディングス 口村氏:チームの観点では、健全性や心理的安全性、ダイバーシティの担保が必要です。一方で企業の観点では、イノベーションや変化対応力がないと持続的な成長は難しいと考えています。

具体的な取り組みとして、「フェアな人事」を行うために定期的に1on1を実施している企業がありました。ですが、「そもそも1on1が浸透していない」「ただ実施しているだけで意味のないものになっている」といったケースもあるようです。対策として、1on1を録画してベストプラクティスを共有するといった施策を行っている会社がありました。

また、人事担当者が多い組織の場合、個々にメッセージを発信すると一貫性に欠けてしまいます。会社の理念に立ち返り、抽象度を高めた発信をすることで一貫性のあるメッセージを発信できるようになると考えています。

山本氏:理念浸透はどの部署が先導しているのでしょうか。

口村氏:当社の場合、創業者であるCEOが理念の発信を続けています。しかし、グループ会社ごとにカルチャーが異なるため、グループとして目指すべき姿の共通認識を持ってもらうことに課題を感じています。

山本氏:創業者がCEOである場合と、そうでない場合の理念浸透の方法に違いはあるのでしょうか。

写真:山本 崇博氏(株式会社ヤプリ 取締役執行役員)

大滝氏:アメリカでは、CEOが変わるケースが頻繁に見られます。そのたびに会社の方向性が修正されることはよくあるのですが、基本的に創業者以外の人がCEOになっても、理念の根幹は変わりません。創業時のコアな部分は残しつつ、新たな仕組みなどを構築していくイメージです。

Cグループ

Cグループでは、企業理念や戦略の発信の重要性について話された。しかし、発信することにとどまってしまい、いかに従業員が「自分ごと化」し、自社の存在意義を認識できるかまで落とし込むことが課題だ。課題を解決するために効果的な施策として挙げられるのは、人事が現場とコミュニケーションをとって共感や理解を生むことである。

エーピーコミュニケーションズ 鈴木氏:私たちのチームでは、「理念や戦略を発信していくことの重要性は高い」という共通認識がありました。さらに、人事の視点では人材開発やダイバーシティ、タレントマネジメント、採用なども組織のパフォーマンスと持続可能性に関わる大切な要素となりました。

ユニークだった意見としては、社内ではチームの規律をうたいながらも、従業員には自律的な行動を求めるというものがありました。これに対しはマニュアルではなく、ガイドラインのように超えてはいけないラインを設け、その中で選択ができるイメージだというお話がでました。

また、経営層から発信されている内容が正しく従業員に伝わっているのかを検証していく取り組みもありました。この取り組みはゴールがなく、常に経営層と従業員のギャップを見つけて丁寧にすり合わせを続けていく必要があります。この際、発信した内容を受け取った従業員が「自分ごと化」できているかどうかが課題です。

写真:会場の様子

Dグループ

Dグループでは「ミッション・ビジョン・バリュー」の浸透の大切さについて議論。「ミッション・ビジョン・バリュー」を正しく浸透させる方法や、目標に向かって何をすべきなのかを浸透させることに課題を感じていた。

セゾンファンデックス 佐野氏:まずは「ミッション・ビジョン・バリュー」の浸透が共通認識でありました。従業員が一つの共通項を持って行動できることは、組織にとって大切なポイントです。

また、現場の従業員をまとめるミドルマネジメント層が「ミッション・ビジョン・バリュー」を理解して、自分の言葉で部下に伝えられているかも確認すべきです。現場が仕事を理念に沿って判断できるかどうかはミドルマネジメントにかかっているので、その層を対象に研修など理解を深める機会を提供することも有効だと考えました。

最後に、働きやすい環境を整備することも重要だと捉えています。女性の活躍が注目されるように、さまざまなライフイベントがあっても働き続けられる環境があることは、女性に限らず全従業員の実力発揮につながります。

山本氏:なぜ、「働きやすさ」の優先順位が高いと考えたのでしょうか。

佐野氏:「働きやすさ」が従業員の「やりがい」のベースになるものだと考えているからです。「やりがい」を生み出せないと仕事が単なる“作業”になってしまい、理念など想いがこもっていない仕事となってしまいます。

グループディスカッション2:理念浸透のために取り組むべき施策とは

次に、理念浸透を実行する場合、どのような施策に取り組むべきかについて議論が行われた。

Aグループ

Aグループでは、理念を浸透させるために「仕組み」「環境」「制度」の観点で各企業の取り組みや考えられる施策を話した。

カワサキモータース 安武氏:「仕組み」の面では複雑な理念にせず、シンプルで伝わりやすいものにすることが効果的です。「環境」では、いかに従業員が共感してくれるタイミングで伝えられるかがポイント。また、その時点の会社の立ち位置(グループ・会社としての求心力を目的とするのか、逆にグループ各社の独自性を追求するのか、など)も影響してくると思います。「制度」としては、評価制度に理念の理解を含める方法もあるといった意見もありましたが、それに伴って「評価のための理解」となる懸念もあるので議論の余地があると考えています。

Bグループ

Bグループでは、企業理念を浸透させるために「認知・理解→共感→自分ごと化→成果測定」のサイクルを回すことが重要だと話された。

三桜工業 産屋敷氏:企業理念を深く理解してもらうためには、トップからの明確な発信が重要です。また、社内報や動画などのツールを活用し、社員に改めて周知することも効果的です。

共感を生むためには、社員が企業理念について自ら考える機会を提供するイベントやワークショップの開催が有効であるとの意見が多く挙がりました。中には、社員の家族が参加するファミリーデイで会社の理念を紹介し、家族を含めて理念を浸透させるというユニークな取り組みをしている会社もあるようです。また、会社の歴史を振り返り、創業時から大切にしてきた価値観を理解することが、共感を生むきっかけになると考えます。

企業理念を社員が自分ごととして捉えるためには、理念に基づいた行動を自ら考え、実行に移すことが重要です。ただし、「完璧主義をやめること」も大切なのではという意見もありました。最初から完璧を目指すのではなく、小さい行動変容を積み重ねていくことで、最終的に理念が定着すると考えます。また、表彰をする際には、成果を上げた人だけでなく、地道に理念に基づいた行動を続けている人も対象にすることで、社員全員が参加する活動につながるでしょう。

最後に、自社の取り組みを広報部門と連携して発信し、定期的に成果を振り替える場を設けることが、企業理念の定着において重要な要素となると考えています。

写真:会場の様子

Cグループ

Cグループでは評価への落とし込みや、研修・サーベイの実施などが議論された。

JTC 高田氏:私たちのグループでユニークだった意見として、入社時に理念のすり合わせを行うという取り組みがありました。入社後に理念を伝えると、個人的な価値観と合わない場合に「採用のミスマッチ」となってしまいます。

また、一方的に浸透を意識するとトップダウンの要素が強すぎる可能性があります。理念のエッセンスを従業員に伝えて、自然と従業員が理念に沿った行動をとれるようなボトムアップとの融和も大切です。

山本氏:理念の言語化や共感を生む力が大切ということですね。

高田氏:しっかり言葉として伝えられるビジョナリーリーダーの役割を担える人が必要だと考えています。

Dグループ

Dグループでは、そもそも浸透させるものが「経営理念」なのか「企業理念」なのかで手段が変わるという意見があり、主に「経営理念」の浸透について議論した。

サガシキ 黒木氏:オーナーが変わると経営理念も変わって軸がぶれてしまうケースがあります。そのため、オーナーが変わった際はあらためて価値観を整理した上で社内に発信していくことが大切です。

社内に浸透させるためにはミドルマネジメント層の理解を促進し、現場へ定着させることが必要だと考えられます。全社員が共通認識を持ち、その認識に向けた目標設定を徹底することが重要です。

大滝氏:「企業理念」と「経営理念」をしっかりと区別できるということは、それぞれにしっかりと定義付けができているんですね。近年はパーパスやビジョンも含めていろいろな言葉が溢れているので、とても重要な観点だと感じました。

写真:会場の様子

まとめ

最後に、大滝氏からの総括があった。

大滝氏:本日は短時間で素晴らしい議論ができました。冒頭に人事機能の変遷を伝えましたが、本当に人事機能は高度化しており、それに伴って業務量も増えています。その中で理念浸透における人事の一番大切な役割は、「理念浸透はトップの仕事である」と経営層にリマインドすることです。

その上で適切なツールを使い、浸透の仕組みを構築することで、経営の戦略パートナーとしての重要な役割を果たしていくべきだと考えています。

大滝氏による問題提起(1)
  • 日本にはビジョナリーリーダーがいない
  • VUCAの時代に企業が生き残るには強いビジョンが必要
大滝氏による問題提起(2)
  • 日本の従業員エンゲージメントは低い
  • リーダーシップ行動をとるリーダーがいると業績が向上する傾向にある
大滝氏による問題提起(3)
  • 人的資本の考えが強まり、人事機能は変遷してきた
  • ツールの発達によってビジョンの発信方法も変遷している
ディスカッション

組織のパフォーマンスや持続可能性を形作っている要素とは何か

  • 「ミッション・ビジョン・バリュー」の浸透が必要

理念浸透が必要な場合、どのような施策に取り組むべきか

  • トップが理念を発信し、現場が共感して「自分ごと化」できる環境を作る
総括
  • 会社が生き残るためにビジョナリーリーダーの存在は重要
  • 人事の一番の役割は、トップに理念の発信をさせること

当日知見をご共有くださった皆さま

※所属や役職は「HRカンファレンス2024-夏-」開催時のものです。

有識者・プロフェッショナル

  • 大滝 令嗣氏
    株式会社シフトビジョン会長
    早稲田大学名誉教授
  • 山本 崇博氏
    株式会社ヤプリ 取締役執行役員

大手・優良企業の人事リーダー (社名50音順)

  • 中尾 正博氏
    株式会社イーオンホールディングス 人事部 部長
  • 鈴木 晃洋氏
    株式会社エーピーコミュニケーションズ 戦略人事本部 本部長
  • 安武 敬二氏
    カワサキモータース株式会社 企画本部 人事総務部 部長
  • 吉用 智彦氏
    キユーピー株式会社 人事本部 キャリア開発センター 企画担当 担当部長
  • 黒木 昌亮氏
    株式会社サガシキ 人事部 部長
  • 産屋敷 繁樹氏
    三桜工業株式会社 Human Asset Management & Solution 本部 本部長
  • 高田 直人氏
    株式会社JTC 人事部 部長
  • 口村 圭氏
    シミックホールディングス株式会社 CHRO グループ戦略人事担当
  • 吉田 裕彦氏
    神鋼鋼線工業株式会社 取締役 常務執行役員 総務本部長(兼)企画部長
  • 佐野 英樹氏
    株式会社セゾンファンデックス 管理本部 人事部 部長
  • 三橋 文子氏
    株式会社デリバリーコンサルティング 人事部 部長
  • 遠藤 順子氏
    株式会社東京スター銀行 組織・人財開発部長
  • 松尾 孝治氏
    株式会社FOOD&LIFE COMPANIES 執行役員 人事・総務 担当 兼 人事部長
  • 佐藤 幸子氏
    株式会社ポーラ コーポレート室 室長
  • 北山 剛氏
    株式会社三井住友銀行 人事部 副部長/人事部 DE&I推進室 上席推進役
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