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パネルセッション

「2011年度の総括と2012年度の展望」

【パネリスト】
太田 芳徳氏 photo
株式会社リクルート
HRカンパニー 新卒領域企画室 ゼネラルマネジャー
太田 芳徳氏(おおた よしのり)
プロフィール:1993年リクルート入社、戦略人事コンサルティングを経て現職。 商品サービス開発、調査を担当。神戸大学社会人MBA、明治大学グローバルMBAで講師も勤めた。名古屋大学工学部航空学科卒。愛知県出身。著書に「決めるマネジメント」。

栗田 卓也氏 photo
株式会社 毎日コミュニケーションズ
就職情報事業本部 HRリサーチセンター長
栗田 卓也氏(くりた たくや)
プロフィール:1992年入社。以来一貫して採用コンサルタントとして、新卒採用の各種業務に携わっており、マイナビ編集長として、大学での就活講座やクライアント向け採用セミナー等の講演も精力的に行ってきた。 現在は、新設部署である「HRリサーチセンター」で新卒採用マーケットやランキング等、幅広い人材領域の調査を行っている。

前岡 巧氏  photo
株式会社ディスコ
調査広報室 室長
前岡 巧氏(まえおか たくみ)
プロフィール:出版社、広告代理店を経て、1998年株式会社ディスコに入社。同社のクリエイティブ部門、日経就職ナビの企画・編集部門を経て、2008年から調査部門責任者に。2010年より現職。採用担当者・就職指導担当者向けのWebサイト『HC-Lab.』、情報誌『HC-Lab. JOURNAL』の編集長も務める。

【司会】
楢木 望氏 photo
ライフマネジメント研究所所長
楢木 望氏(ならき のぞむ)
プロフィール:ライフマネジメント研究所所長。株式会社リクルートで「月刊就職ジャーナル」「海外旅行情報」などの編集長を経て1985年より現職。企業や専門学校の経営デザイン、ヒューマンリソースデザインを手がけてきた。近著に「内定したら読む本」。1948年東京生まれ。

「買い手市場」と「厳選採用」の現実

楢木:まずは、「2011年度の中間総括」から始めていきます。2011年度を振り返ると、「買い手市場」というキーワードが、第一に思い浮かびますね。

太田 芳徳氏 photo 太田:弊社のデータによると、求人数は前年度比マイナス19.8%です。求人倍率は、1.28倍。2000年度は0.99倍、バブルが弾けた1996度年は1.08倍だったので、過去と比較しても、厳しいとはいえ、それほど減ってはいません。では、実際の2011年度の採用状況はどうかというと、大手企業の採用数は、意外と伸び悩みました。最初は企業も楽観的でしたが、内定辞退などの影響が大きかったようです。リクナビでも、後半から、掲載を止めていた企業の再掲載が増えました。

前岡:私は当初、採用規模は2010年度より改善すると思っていました。しかし、5月1日時点の内定率は、前年度比1.7ポイント減の47.8%。企業へのアンケートでも、中堅・中小企業からは、採用を「縮小している」「止めている」との回答が多かった。大手では、計画より採用数を拡大する動きもあるようですが…。いずれにせよ、買い手市場は続いている印象があります。

栗田:調査データを見る限り、復調の兆しはあると思います。実際、マイナビでも、年明けから掲載企業数が増えています。特徴的なのは、採用する際に、学生の「質」を重視する傾向が強くなっていること。2011年度は「厳選採用」で、選考の早い段階から、応募者を大学のレベルなどを基準に落としていた企業もありました。しかし、内定者が他社でも内定していたため、結局、良い人材が残らなかったというケースも多いようです。

楢木:「厳選採用」をめぐって、何か新たな動きはありましたか。

前岡 巧氏 photo前岡:2010年度と違うのは、企業も学生も買い手市場が続くとわかっていて、準備が可能だったこと。特に、企業の「厳選採用」は計画的でした。2011年度の一番のテーマは、「採用重点層にどうアプローチするか」。新たに、エントリーシートやグループディスカッションを、導入する企業が増えました。志望者が増えた中堅企業は、特にその傾向が強い。重点層だけを対象に行うセミナーを実施した企業の多くは、内定者の質に「満足している」とのことです。

太田:「厳選採用」が、うまくいっている企業もあります。しかし、「厳選採用」がいつの間にか「複数回面接」に変化してしまい、結果、誰からも文句が出ないような無難な人を採用してしまっているケースも見うけられます。変革の時期には、イノベーションを起こせる人材が求められますが、結果的にとがったところもない人材を採用してしまっていてはもったいないとも言えます。

楢木:「質の重視」という言葉もありましたね。

栗田:企業からは、ベーシックな部分で「コミュニケーション能力」「主体性」を持つ人材が欲しいとの声が多いようです。社会人基礎力でいうと、「前に踏み出す力が欲しい」ということ。時代の変化が激しい中でも、自分で考えて行動し、周りを巻き込むことができる人材が求められます。しかし、そういう人は少なく、結果的に企業からの内定が同じ人に集中することになります。

太田:経営者の要請と、人事部・現場の要望とが、擦り合っていないこともよくあります。例えば、「元気な人が欲しい」といっても、経営者と人事部とで、その具体的な内容までは、一緒ではないということです。また、昔は業種や職種が一緒だと、人材に求められる要件は共通している傾向がありましたが、最近は同業同職でも共通していることはほとんどありません。

「ゆとり教育世代」の就職活動とは?

楢木:学生の動きはどうだったのでしょう。「ゆとり教育世代」ともいわれていますが。

栗田 卓也氏 photo栗田:ゆとり教育には、つめこみ式の勉強ではなく、自主性を伸ばしていこうという目的があります。しかし、弊社のデータによると、実際は自主性を表す項目では力を発揮できていない。自分で物事を決められず、現実をそのまま受けとめるようなタイプが、多くなっています。ゆとり教育の目的とは全く逆の人間が育ち、いま、社会に出始めています。

前岡:「ゆとり教育世代」という決め付けは好きではありませんが、確かに大学への進学率は上がり、学生のレベルは下がっています。そのため、大学のキャリアセンターは就活指導に力を入れていて、適性検査の回答の仕方やエントリーシートの書き方など、就活マニュアルの内容は、相当向上しています。しかし、マナーなど、個人で取得しなければならないものは、不十分だと思います。

太田:企業の担当者は、学生の企業研究が不十分なことを問題視しています。面接に、「業界や企業を知らないまま来ている」とのこと。一方、内定を得ている学生には、特徴があります。調査によると、学生が内定後に「その会社に行きたい」と思うようになるには、「自己分析」ができているほうが良いそうです。またその「自己分析」はその企業の社員に多く会って、直接仕事のおもしろさについて聞くことによって促進されます。やはり、社員が学生と話すことは重要です。

2012年度採用の「ポイント」とは何か

楢木 望氏 photo楢木:それでは、2011年度の総括を踏まえた上で、2012年度の採用を展望する際のポイントとは、何だと思いますか。

太田:いま一度、自社の事業にとって、「どういう能力のある人が必要なのか」を、明確にすること。それに向けて活動を設定して、PDCAを回していくというのが、とても重要だと思います。採用に関わる全員が、同じ物差しを持つこと。経営からの合意も取り、人材という資源の調達に集中することです。

前岡:企業へのアンケートによると、来期の採用市場はほぼ現状維持のようです。一方の学生はどうかというと、2011年度については、活動量が増えました。内定者に聞くと、OBや面接担当者と会うことで、「確実に成長した」といいます。その分、1社ごとの研究時間は短くなりますが、それでも多くの人と会う成長のほうが、大きかったそうです。これで、私の認識が大きく変えられました。一方で、彼らは「企業研究が雑だ」という批判があることも、理解しています。この体験は、後輩に引き継がれていくので、2012年度の学生は活動量を増やしつつ、企業研究もしっかりと行うでしょう。活動量がどんどんエスカレートしている印象があります。

栗田:企業が「人を選択する」ことを、具体的に数値化するのは、非常に難しいと思います。ただ、最低限の努力として、人事の中で共通した「言語」や「キーワード」を持ち、「面接でこれだけは聞く」というものを定めておく。改めて、自社はどんな人材が欲しいのかを、明確にしたほうがいいと思います。

楢木:学生には、「数をこなして成長する」という傾向があるようですね。一方の企業側は、「共通言語をしっかり持つ必要がある」と。そのために必要なものは何ですか?

太田:どんな時に、どういう力を発揮するのか。それを抽象的ではなく、具体的な言葉で表現するべきです。選考で使うテストの項目を使うのが良いと思います。

栗田:面接の際の質問は、共通で作れます。例えば、シチュエーション面接のように、「スーパーの店頭に食材が余っています。あなたならどう販売しますか。次の項目から選んでください」など、目的の違う要素を提示し、どう答えるかを見る。さらに、そこへ質問をプラスしていくと、要素の違う人でも、ある程度近しいところで比較できます。ただし、そのためには自社に必要な人材像を、しっかりと議論しておく必要があります。

太田:社内でやるとすれば、いろんな事業部の人に「どういう人が欲しいのか」を聞き、「違いがこれだけある」と提示すれば、すり合わせが進むと思います。経営者と各事業部と人事部とでは、考え方が大きく違うことも多いので、一旦明らかにした上で、問題意識を持って共有する。その上で、「絶対ここだけは」というものを決めていくべきでしょう。

志望動機だけで判断はできない

パネルセッション photo楢木:学生の活動量が増えてくると、それを迎える企業も大変です。何か打つべき手立てや対策はありますか。

前岡:重点層に対象を絞ったセミナーが、ポイントになります。これまでのセミナーは、母集団を増やすためのものでした。実際、2011年度はすぐに満員になった。しかし、企業側が本当に来て欲しい学生を呼べなかったのも事実です。従来、エントリーシートは下の2割を落とすためのものでしたが、2011年度では、上の2割を残すためのものになってしまっていた。失敗した企業は、母集団形成から絞り込む方法を見直すことになります。

楢木:大学、学部や個人の属性のほかに、もっと学生を絞り込む方法はありますか。

前岡:就職情報サイトができたことで、それまで指定校制度だったものがオープンにされましたが、もっと堂々と絞り込むような動きが出てくるのではないでしょうか。直接学校へ働きかける企業が、増えると思います。

太田:学生の活動量が増えてくると、選考の「精度」を上げることが重要になります。企業が本当に欲しい人材というのは、母集団の中に平均6%くらいはいます。選考の中で、その割合を高めていくのですが、最後の選考になって、意外と落としてしまうことがあります。これからは、人材を見抜く力を、磨いていかなければなりません。

楢木:学生と企業との「出会い」というものの力は、大きいのでしょうか。

栗田:人事担当者は、学生にとって、最も印象に残ります。人事の方々がどういう話をするのか、また、どういう印象を与えるのか。それによって、企業自体の印象もずいぶん変わります。リクルーターも、選考のお手伝いをする人も、少なくとも事前に「こういう要件の人が欲しい」と、共有しておかなければなりません。難しいことですが、ある程度理解しておけば、学生に伝わることも変わってきます。また、人からどう見られているのかを、意識しておくことも重要です。

前岡:2010年度くらいまでは、エントリーシートの「志望動機」は、志望度が低い学生を落とす上で重要でした。しかし、学生の活動量が増えている現在、志望動機の低さだけで落とすと、相当取りこぼしてしまいます。むしろ、「学生の志望度をどう高めるか」が重要です。そのため、学生が最初に接触するリクルーターは、重要なポジションであり、もっと活発に動くべきです。

太田:面接では、最初から志望動機が高い学生ばかりがくることはありません。面接官には、志望動機の低い人の志望度を、高めていくようなアプローチも求められます。「選びながら、選ばれる」ということです。

栗田:人事担当者は、学生を志望動機以外で判断することが可能です。しかし、人事以外の人は、志望動機で判断しがち。本来、面接で見抜くべきなのは「能力」など、要件定義をきちんとしていなければわからないものです。また、「価値観」も重要です。入社後に活躍するかどうかは、それにかかっています。面接シートを新たに作るのであれば、志望動機の点数は低くするほうがいいかもしれません。

楢木:企業は学生に、「志望動機」を無理に出させているのかもしれませんね。

今後の新卒採用はどこへ向かうのか

パネルセッション photo楢木:最後に、今後の新卒採用で注目すべきことについて、教えてください。

栗田:来年4月から大学の設置基準が変わり、全大学がキャリアガイダンスを必ず実施しなければなりません。中長期的に、低学年からキャリアに関するガイダンスを行うほか、企業にインターンシップの協力を要請するなど、若い人の育成に協力していくための法改正だと思います。皆さんにもぜひ、ご協力をお願いしたいと思います。

前岡:新卒採用が伸びない一方、外国人留学生の市場は伸び始めています。そのためには、ルールの明文化が必要。以前から採用の早期化という問題はありますが、留学生の採用が増えることで、改めてクローズアップされるでしょう。このように違う方向からの流れから、これまでの新卒採用に関する習慣やルールが、崩れてくるのではないかと思います。

太田:「人材の調達」そのものが、もっと科学的に進歩していくと思います。採用活動でいうと、今の母集団にどれくらい欲しい人材がいるのか。また、最終的にはどれだけの人材が、調達する要件に合致しているのかなどについて、経営に対して、具体的に示すことができる。科学的に説明することによって、人事部として、経営や戦略に大きく関わることが可能になると思っています。

楢木:本日はありがとうございました。


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