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特別講演[1-C]

若手社員を育てる『本物の』研修 ~2010年新人研修の現場から

若鍋 孝司氏
株式会社ファーストキャリア 代表取締役社長
若鍋 孝司氏(わかなべ こうじ)
プロフィール:東京農業大学農学部醸造学科卒業後、ニチレイ入社。主に人事部門にて、採用及び全社研修の企画、人事制度改革などを担当。
2001年 セルム入社。2002年 セルム関西支社を立上げ。関西大手優良企業10数社の人材育成体系の企画支援、次世代経営幹部研修、海外現地法人マネージャー研修、全社キャリア研修体系構築、企業DNA浸透プロジェクト等をプロデュース。
2006年 ファーストキャリアを設立し、代表取締役社長に就任。現在の若手が育つ、若手を育てるための各種ノウハウ・ナレッジを開発・集約し、企業や組織における本質的な人材育成の実現を推進している。また、若手の成長・育成に関わるコンサルタント・講師の育成、大手企業や団体への講演活動なども手がける。
著書「20代でファーストキャリアを築ける人、築けない人」(ファーストプレス 2008年)、「草食系男子×肉食系女子、どちらが育つか?」(ファーストプレス 2010年)

2010年度、研修の主流は「アウトプット型」・「ボトムアップ型」

若鍋 孝司氏 photo近頃、「若者が変わった」「従来の教育方法では通用しない」といった人事担当者の声をよく耳にします。実際、新人研修を通して2010年度の新人の傾向を分析してみると、「扱いやすいが、言葉にしていないことを期待するのは酷」という姿が浮かび上がってきました。では、なぜ今の新人がこのような傾向を持つようになったのでしょうか。

この世代には「親に甘えて過ごしてきた」という心理があるため、「社会人になったら自立すること」を目標に掲げている人が多いからです。この世代にとって自立することは即ち、会社の一員として認められることです。そこで新人は、言われたことに一生懸命取り組み、認められようとするのです。それが、今の新人が「扱いやすい」理由になっていると言えます。

また、「言葉にしていないことを期待するのは酷」という点は、この世代のもう一つの特徴である、「組織の一員になりたい」という意識の強さに起因すると考えられます。というのも、「組織の一員」であるためには、集団のなかではみ出ることなく、周囲と合意形成していくことが重要だからです。そのため、今の新人の振る舞いは“場の雰囲気に従って”“落第しないこと”を重視したものになりがちです。その結果、合格点がとれれば、“求められたこと以上のことはしない”=“言葉にしていないことは期待できない”ということにつながるのです。

さて、ここで今回の講演テーマである“研修”に話を移します。今年の新人研修では、例年と比較して、テーマ設定に大きな変化はありませんでした。しかし、「受け身」「ゆとり世代」という特徴を持つ新入社員への対策として、“考えてアウトプットさせる”研修、受講生のレベルに合わせ、全員が理解できることを重視した“ボトムアップ型”の研修が増えていることがわかりました。

さらに分析を進めると、効果的だったのは次の3つのスタイルの研修です。

(1)新入社員にとって「難しい」と感じるレベルを設定した研修
(2)学習テーマが明確であり、現場での実践を目的として組み込んだ研修
(3)あらゆる面で「考える」を意識し、自発的な学びを深めさせる仕掛けを組み込んだ研修

と同時に、こうした研修をより効果的なものにするためには、研修を行う側に次の3つの姿勢が必要であることもわかりました。

(1)失敗を否定したり、大声であいさつを強要したりするのではなく、“丁寧に”“静かに”“熱く”指導する姿勢
(2)物事に対する捉え方を「見てもらいたい」「合っているか確かめたい」という傾向のあるこの世代からの質問に対し、「後で」「個別に」「そのうちわかる」ではなく、その都度、的確に答える姿勢。また、講師だけでなく、事務局スタッフの、学生と関わりを強く持とうとする姿勢
(3)自分が未熟であると感じた点について、自主的に補おうとする意識が働くこの世代に対し、こちらが求める「考えること」「主体的行動」を発揮させるために、“求められるレベルやゴール”をしっかりと共有しようとする姿勢

いずれにしても、新入社員の特性・傾向を踏まえたものであることがわかることでしょう。

今後求められるのは考え、振り返り、見方・捉え方を共有する研修

若鍋 孝司氏 photoこうした結果を受け、若手社員育成の鍵は何かを考えてみます。それにはまず、新人を「ゆとり世代だから」という一面的な見方ではなく、多面的――社会学的・心理学的・教育学的・経済学的――に捉え、理解することが重要です。

核家族化が進むなか、家族の一員として認められるために、周りから求められていることを察し、それに応えることが重要な環境で育ったこと。いじめ問題が増加するなか、周囲が求める行動を読み取り、自分がいじめられないように振る舞わざるを得ない環境で育ったこと…。この世代には様々な背景が存在します。

では、こうした背景を持つ若手社員をどう育成していくのか。まず、“指示された仕事・求められた仕事をこなすことがゴール”ではなく、“周囲との建設的な議論や協働からWhatを作り出す”ことこそが“自立”であると提示すること。また、一つひとつの行動を確認し、認めながら、確実に役割のステップを引き上げることです。

ただし、こうした新人育成のなかで、上司や先輩が知っておかなければいけないことがあります。仕事の現場では、「上司や先輩が求めているレベル」と「若手社員がそもそも考えているレベル」が違うということです。このギャップを埋めることが新人育成には欠かせません。そのためには小刻みに“次のあるべき姿”をイメージさせながら、Why&What(何のために何をやるか)と、How(どうやってやるか)をバランスよく教えていくことが重要です。そして、こうした指導を行う際には、「行動(Do-ing)」面ではティーチング、指示・命令、コーチングという手法を明確に使い分けることが重要です。また、「意識・姿勢・あり方(Be-ing)」面ではストーリーテリングを中心とした対話(ダイアローグ)の機会を持つことが効果的でしょう。

若鍋 孝司氏/講演 photoここで改めて今後の新人に必要とされる研修を考えてみます。仕事とは、「与えられた条件、期間の中で考え抜いて、最善・最適な答えを出すこと」だと教えること。いかなる業務においても[具体的経験→振り返り→概念化→実践→具体的経験…]というサイクルを習慣化させることで、気づきを得させること。成果(=Having)を生み出す行動(=Do-ing)を自分から取れるようになるためにも、物事の見方・捉え方(=Be-ing)を共有すること。この3つの視点が必要不可欠だといえます。

つまり、自ら考えること、業務を振り返ること、見方・捉え方を共有すること――これらを兼ね備えた研修こそが、新入社員を育てる『本物の』研修だといえるのです。

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