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基調講演

「個人の動機とキャリア形成」

高橋 俊介氏
慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科教授
高橋 俊介氏(たかはししゅんすけ)
プロフィール:1954年東京都生まれ。人事・組織に関する日本の権威の一人。マッキンゼー・ジャパン等を経て、89年ワトソンワイアットに入社。93年に同社代表取締役社長に就任。97年7月に社長を退任し、個人事務所ピープル・ファクター・コンサルティングを通してコンサルティング活動を行う。2000年5月から現職も務める。著書は『新版 人材マネジメント論』(東洋経済新報社)、『キャリアをつくる9つの習慣』(プレジデント社)ほか多数。

若者の育成に影響する「キャリア論」

高橋 俊介氏今回のカンファレンスのテーマは「モチベーション」ですが、本日の私の講演ではそれを「やる気」と呼ぶことにします。仕事に対して、人のやる気が「出るか」「出ないか」は、個人の内面の問題だけではありません。実は、外的な環境による影響が大きいのです。例えば、「上司のマネジメント」「経営環境」「朝起きたときの体調」など、さまざまなものに影響されます。

現在、若者の育成が問題になっています。最近の若者は無駄を嫌がる傾向が強く、すぐに「そんなことをしても意味がない」などと考えます。つまり、「目的合理性」の強い発想の仕方をするのです。しかし、それはたいへん危険なことです。「効率化していくことが良い人生」と考えるようになるからです。そういう人たちは「数学を学んで何の役に立つの?」という言い方をします。その場合には、「将来の目標を実現するために必要であること」を説明しなければなりません。しかし、本当は数学に「興味」があって、「のめりこむ」ことが重要です。手段としてではなく、「そのもの」に興味を持つことが大切なのです。

現在の若者には、危険が迫りつつあります。その大きな原因は、「キャリア論」です。将来の自分の「夢」を描き、それを実現するために向かっていこうとしても、全員が夢を叶えられる訳ではない。キャリア教育が、逆に若者を「やりたい仕事が見つからない」という考えに至らせている。その結果、無業者が増えてきているのです。

自分らしさの基本となる「動機」

高橋 俊介氏やる気の原点にあるのが、「自分らしさ」です。そして、その基本となるのが「動機」です。心理学的にいうと、「自分の内なる自然なドライブ」。それを知り、うまく活かしていくことが、自分らしい仕事の基本となるのです。自分が自然に使っているドライブは、一体どの分野に強いのか。逆に、どの分野に弱いのかを知ることが大切です。動機のかなりの部分は生来のもので、大人になると変えられません。ずっと付き合っていくしかない。もちろん、動機には善し悪しなどがありません。

動機とは、大きく三種類に分かれます。まず一つ目は、「コミットメント系の動機」です。「達成動機」「影響欲」「賞賛欲」「闘争心」などがあります。リーダーになる人には、非常に多い動機です。問題となるのは、自分が持つ強い動機を過度に正当化して、他人にまで当てはめてしまうことです。例えば、部下を「目標」という動機で厳しく管理しても、目標に対する動機が低い人であれば、モチベーションは上がりません。

リーダーが部下をマネジメントする際、知らないうちに自分の動機のスタイルが影響しています。コミットメント系の動機が強すぎる場合、その強い力を間違って使ってしまうこともあります。映画「スター・ウォーズ」に登場する「ダース・ベイダー」がその例です。自分自身をチェックし、自分の強い動機を客観的にコントロールする力が求められます。

二つ目は、「リレーションシップ系の動機」です。人間関係に関する感情的な部分での動機で、「社交欲」「理解欲」「伝達欲」「感謝欲」などがあります。「相手の気持ちを理解したい」「自分の知っていることを伝えたい」など、コミュニケーションを重視します。逆に、この動機が低い人の場合、「人と関わりたくない」という特徴があります。しかし、「孤独」には強い。「我が道をいく」という姿勢を貫き、それが意外と良い結果に繋がることもあります。

三つ目は「エンゲージメント系の動機」です。「抽象概念志向」「徹底性」「切迫性」「自己管理欲」などがあります。「なぜそうなるのか」という気持ちが強く、知的好奇心が旺盛です。他人から見れば「だから何なのか」と言われてしまうこともあります。物事にのめりこむ、エンジニアや職人に多いタイプです。

動機の違いは、他者を理解する上での基本です。自分の極端な動機をよく知り、それをコントロールして使う。自分の動機の特徴が、他人にも同じ様に当てはまるとは思わない。動機というのは、単純に本人のやる気だけではなく、人との関係性の構築においても、非常に重要なものなのです。

「やる気」と「動機」の関係性

例えば、「営業」という仕事を考えた場合、向いているかどうかよりも、その仕事をどんな動機によって自分らしくできるかどうかで、「職種適性」や「やる気」は変わってきます。例えば同じ営業の仕事でも、「影響欲」の強い人はクロージングが、「伝達動機」の強い人はプレゼンテーションが得意です。つまり、職種適性ややる気というのは、自分の動機をヒントにするのが大きなポイントということです。自分がやる気になる「コツ」を知っている人が強いのです。

仕事に向いているかどうかよりも、やる気があるかどうかが重要です。しかし、決して上司は自分のやり方を部下に押し付けてはいけません。人の動機には違いがあるからです。例えば喧嘩になった場合も、その原因は、それぞれの動機の押し付け合いによるものなのです。

同じ営業という仕事でも、客、商品、会社の知名度によってそのやり方は大きく異なります。そのため、体制が変わるだけで、営業の成績が良くなることもあります。「職種」に関する適性以上に、仕事の「やり方」が大事なのです。

行動を習慣化する4つのステップ

高橋 俊介氏動機にドライブされて能力を発揮している時は、ストレスを感じにくく、はまりやすくなり、それがその人の「勝負能力」となります。しかし、仕事で新しい課題を与えられた場合には、本来自分の動機にはないことでも、やらなければなりません。一日中動機にないことをしていると、人はストレスを感じます。それでも、仕事は自分の動機と100%合うものばかりではありません。動機にないことは強い意思と努力によって習得し、カバーしていけばいいのです。

動機にない、新しい能力を習得していく際は、「無意識無能」「意識無能」「意識有能」「無意識有能」の4段階で、行動を習慣化していきます。伝達力が強く理解能力の弱い人に、「人の話を聞いていない」と指摘しても、「そんなことはない」と言い張ります。しかし、実際に周りのみんなはそう思っている。自分自身が、その能力について劣っていることをわかってない「無意識無能」段階にあるからです。しかし、本人が「努力しなくてはだめだ」という「気づき」を得たら、「意識無能」段階に進んだことになります。

ここからさらに、「コーチングを受けよう」などと考えて実践し、そのスキルを習得できたら、「意識有能」段階になります。しかし、本来はその人の動機にはないスキルですから、意識して毎日行っていかなければ、習慣化されません。動機にないことほど、継続していくには努力が必要です。人からの手助けも必要になるでしょう。そうやって地道にこつこつと継続していくことで、ついに「無意識有能」段階になり、行動は習慣化されるのです。

社会に出てから数年のうちは、自分の強い動機をうまく仕事の成果に結びつけ、「有能感」「効力感」を養うようにします。その後は、自分の動機の弱い面も意識することで、バランスが取れるようになり、成長し続けることができます。これを社会人3~5年目までにできるようになれば、その後はどんどん良いパフォーマンスできるようになる。自分のやる気を自己調整する能力が身に付くのです。

キャリア形成の特徴

高橋 俊介氏キャリア形成については、多くの人が誤解しています。仕事が、自分を幸せにしてくれるのではありません。幸せに仕事をする方法を、自分で見つけることが大事なのです。そのためには、「やり方」が重要です。また、その際、自分の動機の特徴をわかっているかどうかがポイントです。キャリアに関する満足度は、仕事との相性以上に、やり方次第で大きく変化します。最初から「どんな仕事をやるか」を具体的にしていると、視野が狭くなります。新人のうちはまず、最初に出会った仕事の中で自分らしさが出せる方法を、試行錯誤しながら身に付けていくことです。そうすれば、どんな仕事でも担当できるようになります。

キャリア形成には、「キャリアコンピタンシー」という能力を作ることが大切です。私の造語ですが、「自分なりの自立性の高いキャリアを形成できる人が持っている特性」のことです。長期間に渡って、自分のキャリアを自分なりに継続的に切り拓いていけるかどうか。ただし、ここでも「目的合理的」に作ることは問題です。

個人のキャリア形成は、偶然の出来事によって左右されるので、予測可能性、管理可能性が低いものです。自分の思ったようにはなりません。では、受身なのかというとそうではなく、「あの時にあの人と出会った」など、きっかけの多さの違いに影響されます。普段の行いによって形成されるのです。つまり、キャリアとは「目標が作るのではなく、習慣が作る」のです。

無駄や回り道に見えることでも、結果的には重要なものになっているケースは多くあります。例えば、ワーキングマザーとして、育児と仕事を掛け持ちすることは大変です。独身女性は、仕事上のデメリットばかりしか目に入らない。しかし、実際に経験することで、人は大きく成長することができます。

キャリア形成では、現在何を知っているかも大事なことですが、何よりも「学び続ける」という習慣を持っているかどうかにかかっています。特に変化の激しい現在のような状況では、「良い習慣を社会人として早めに身に付けること」が重要ではないでしょうか。

ワークライフ統合の時代へ

私はここ数年、「ワークライフ問題」についても調査しています。現在、仕事は極端に分業化されていますが、特定の仕事ばかりしていると、本当に仕事に必要な幅広い能力が身に付きません。例えば、ある日突然、今までと違った環境で仕事をすることになった場合、人は必要とされる能力を発揮できるでしょうか。人の能力は非常に弱いものです。与えられた仕事しかできなくなっている人は多いと思われます。

人は、計画したことと実行したことが違った場合にも、その事実にとらわれず、そこからいろいろなものを学んでいこうとする姿勢を養う必要があります。私の趣味は料理ですが、魚はいつも対面販売で買うようにしています。買い物に行く前にレシピを決めていると、いつもある魚しか買わなくなる。しかし、「今日はどんな魚があるかわからない」という前提で買い物に行き、お店の人のお勧めを聞きながら臨機応変に料理を決めるようにすれば、直感的に何をやるべきかを学ぶことができるのです。

高橋 俊介氏大切なことが二つ以上あった時、どれかに専念すればうまくいくというわけではありません。例えば、ワークとライフは、優先順位の問題ではありません。「子育て」と「仕事」を並行して行う場合、ストレスを感じることもあるでしょう。しかし、両立することで、それぞれのストレスを補うだけの大きなメリットもあります。

「遊ぶ」能力が低いと、仕事も楽しめません。最近はゲームや映画など、「受身」でいれば楽しめる遊びが増えました。しかし、昔は空き缶がひとつあれば缶蹴りをして遊ぶなど、自ら遊びをクリエイティブに考えていた。自分で考えて遊ぶ能力が高い人は、仕事のように本来は楽しくないものでも、そこに楽しむ方法を見つけることができます。逆に、受身の遊びだけを続けてきた人は、積極的・主体的に行動することができないので、仕事を楽しくやろうという発想も出てきません。「主体的に遊ぶ」という能力を開発することは、仕事にも役立つのです。ワークとライフは「バランス」ではなく、「一体」なのです。皆さんには、良い習慣を身に着けて、良いキャリア、良い人生を作っていって欲しいと思います。

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