安否確認訓練は強制できるのか。業務時間外や休業中の従業員への依頼
災害や緊急事態が発生した際に、従業員の安全を迅速に確認し、事業を継続するためのBCP(事業継続計画)の一環として、安否確認システムを導入する企業が増えています。しかし、「未回答者が多い」「業務時間外での対応を拒否された」など、課題を抱えるケースが少なくありません。夜間や休日、休業期間中の従業員に対して、安否確認訓練への参加をどこまで義務づけられるのでしょうか。本記事では、安否確認訓練の適切な実施方法や、安否確認訓練を拒否する従業員への対応について解説します。

安否確認訓練は強制できるのか
企業には、従業員が安全に働けるよう配慮する「安全配慮義務」(労働契約法第5条)が課されています。大規模災害が発生したときに従業員の生命を守り、速やかに事業を継続するためには、日頃からの安否確認訓練が不可欠です。
訓練を従業員に強制できるかどうかは、実施する時間帯や従業員の状態(就労中か休業中か)によって異なります。一律に参加を強制すると労務トラブルに発展する恐れがあるため、注意が必要です。
業務時間内における訓練の取り扱い
従業員が所定労働時間内(業務時間内)にいる場合、企業は労働契約に基づく指揮命令権を有しています。そのため、業務時間内に実施する安否確認訓練への参加は、正当な業務として強制できます。
給与計算や労務管理の面から見ても、業務時間内の訓練であれば特別な手当は発生しません。従業員が正当な理由なく安否確認への回答を拒否したり、訓練に応じなかったりする場合は、業務命令違反として指導の対象にすることが可能です。
業務時間外における安否確認訓練の取り扱い
本当の災害を想定し、夜間や休日に安否確認訓練を実施する場合、労働基準法上の「労働時間性」に留意する必要があります。
労働時間とは、「労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間」です。企業が夜間や休日の訓練で「通知を受信したら必ず30分以内に回答すること」と義務づけたり、未回答者にペナルティを課したりすると、「従業員は使用者の指揮命令下にある」とみなされます。指揮命令下にある場合、わずかな時間であっても時間外手当や割増賃金の支払い義務が生じます。夜間や休日の訓練実施自体は否定されませんが、以下のいずれかの対応が必要です。
- 「任意の協力」にとどめる
- 回答に必要な時間を「労働時間」として適正に処理する
休業期間(育休・休職中)における訓練の取り扱い
産前産後休業や育児休業、傷病による休職期間中の従業員に対して、安否確認訓練を強制することはできません。休業期間中とは、労働契約は存続しているものの「労働義務が免除されている状態」を指します。免除されている以上、企業が指揮命令権を行使して訓練への参加を義務づけることは法的に認められません。
ただし、実際に災害が発生したときの対応を考えると、休業中の従業員を安否確認の対象から外してしまうのは危険です。休業に入る前の面談などで以下の内容を説明し、理解・同意を得ておくことが望ましいでしょう。
- 万が一の大規模災害に備えて、安否確認システムへの登録は継続し、有事の際は回答してほしい旨
- 定期的な訓練メールも配信されるが、訓練への回答は任意であり、回答しなくても不利益は一切生じない旨
就業規則の整備とプライベートへの配慮
安否確認訓練をスムーズに実施し、法的トラブルを回避するためには、事前の制度設計と社内ルールの整備が重要です。
まず着手すべきなのは、就業規則や安全衛生規程への明文化です。安否確認訓練への参加義務や、災害時における報告義務を定めておくことで、会社としての指示の根拠が明確になります。
安否確認システムを利用する際、従業員の私物のスマートフォンや私用のメールアドレスを連絡先にするケースが多く見られます。これらは個人情報にあたるため、会社が取得・利用する場合には、利用目的を明示し、適切に管理するとともに、従業員のプライバシーに十分配慮することが重要です。
適切な頻度と時間帯の設定
「訓練の頻度はどのくらいが適切か」「時間帯はどう設定すべきか」という悩みがよく聞かれます。訓練の頻度が高すぎると従業員は回答を負担に感じ、結果として回答率が低下してしまうでしょう。適切な頻度は年に2〜4回程度です。防災の日(9月1日)や各地域で防災意識が高まる時期、あるいは組織変更や人事異動で連絡網が更新されるタイミング(4月や10月)などに合わせて実施するのが効果的です。
また、訓練の時間帯は平日の業務時間内にすることが望ましいでしょう。どうしても夜間や休日にシミュレーションしたい場合は、プライベートの時間を拘束しない設計にすることで、労働時間とみなされるリスクを回避します。
安否確認訓練を拒否する従業員への対応
どれだけ丁寧に制度を整えても、訓練を拒否したり、回答しないまま放置したりする従業員は一定数存在します。人事としてどのようにアプローチし、組織全体の回答率を高めればよいのでしょうか。
拒否する背景の理解とアプローチ
従業員が訓練を拒否・無視する理由はさまざまです。単に「操作方法がわからない」「迷惑メールフォルダに振り分けられていて気づかない」など、技術的な問題であるケースも少なくありません。なぜ回答していないのか、事実確認を行うことが重要です。
技術的な問題ではない場合、多くは「プライベートの連絡先を教えたくない」「業務時間外に、会社からの連絡に対応したくない」などの不信感や負担感が原因となっています。必要なのは、「安否確認は会社が従業員を管理するためではない。大規模災害時に従業員の安全を確かめ、必要な支援(救助や物資の配給など)を行うためのものである」と丁寧に訓練の趣旨を説明することです。
業務命令違反としてのペナルティの妥当性
業務時間内の安否確認訓練について事前に説明したり、個人情報に配慮したりしているにもかかわらず、合理的な理由なく回答を拒否する従業員に対しては、法的な対応が可能です。具体的には「業務命令違反」として、人事評価への反映や懲戒処分の対象にすることができます。
まずは口頭での注意・指導から始め、書面での厳重注意を行います。それでも改善されない場合は軽い譴責(けんせき)処分を検討するという、段階的なプロセスを踏みます。「部署ごとの回答率」を社内で共有し、管理職による働きかけを行うことも、回答率向上のための一つの方法です。
この記事の監修
井上 久
井上久社会保険労務士・行政書士事務所 代表
井上 久 昭和30年11月25日の70歳です。2021年4月1日に開業しました。得意な業務は、交通事故相談とクレーマ一・ヘビークレーマ一対応です。「本気・本音・本物」のアドバイスをさせていただきます。お気軽にご相談ください。
井上 久 昭和30年11月25日の70歳です。2021年4月1日に開業しました。得意な業務は、交通事故相談とクレーマ一・ヘビークレーマ一対応です。「本気・本音・本物」のアドバイスをさせていただきます。お気軽にご相談ください。
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