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HRカンファレンストップ >  日本の人事部「HRカンファレンス2020-春-」講演レポート・動画 >  特別講演 [F-5] 若手のリーダーシップをどう開発するか

若手のリーダーシップをどう開発するか

  • 舘野 泰一氏(立教大学 経営学部 准教授)
  • 真田 茂人氏(株式会社レアリゼ 代表取締役社長/NPO法人日本サーバント・リーダーシップ協会 理事長)
東京特別講演 [F-5]2020.07.10 掲載
株式会社レアリゼ講演写真

変化の時代に対応していくには、若手従業員の主体性を高めるリーダーシップ開発が欠かせない。立教大学経営学部は早くからこの点に注目し、学生の段階でリーダーシップを身につけるためのカリキュラム「ビジネス・リーダーシップ・プログラム」(BLP)を開設。新型コロナウイルスの影響で、学生がキャンパスへ集まれない状況の中、現在はオンライン環境でリーダーシップ開発を進めている。本セッションではBLPをリードする同大学准教授の舘野泰一氏が若手を対象としたリーダーシップ教育について解説。株式会社レアリゼの真田茂人氏とのディスカッションも交えて、若手のリーダーシップを開発していくための方法を考えた。

プロフィール
舘野 泰一氏( 立教大学 経営学部 准教授)
舘野 泰一 プロフィール写真

(たての よしかず)青山学院大学文学部教育学科卒業。東京大学大学院学際情報学府博士課程単位取得退学後、東京大学大学総合教育研究センター特任研究員、大学と企業を架橋した人材の育成に関する研究をしている。具体的な研究として、リーダーシップ開発、越境学習、ワークショップ、トランジション調査などを行っている。


真田 茂人氏( 株式会社レアリゼ 代表取締役社長/NPO法人日本サーバント・リーダーシップ協会 理事長)
真田 茂人 プロフィール写真

(さなだ しげと)リクルート、外資系金融会社、人材会社設立を経て、レアリゼ設立。個人の意識変革を起点とした組織開発を強みとし、日本を代表する企業・官公庁など幅広い分野で多数の研修導入、講演実績がある。また、サーバントリーダーシップの普及を通じ、グローバルや地方創生など様々な分野でのリーダーの育成などに力を入れている。


リーダーシップは特別なものではなく、「誰もが発揮すべき」もの

まず舘野氏が「若手を対象にしたリーダーシップ教育とは?」と題したプレゼンテーションを行った。

立教大学経営学部では、2006年に「ビジネス・リーダーシップ・プログラム」(BLP)をスタート。現在は、約400人の学生がアクティブ・ラーニング型授業を通してリーダーシップを学んでいる。舘野氏はこのカリキュラムを実施する背景として、「リーダーシップ以前に、大学生から社会人へ移行する際にはさまざまなハードルがある」という。

「学生時代は授業や課題ごとにゴールの基準が明確です。しかし社会人になると、正解が不明確なことにも取り組まなければなりません。BLPではビジネスプランを考える授業なども行っていますが、『正解はどこにあるのか』と聞くのではなく、自分で考えながら進めていく学びを重視しています」

一方、企業側は「次世代のリーダー育成が重要」だと考え、即戦力の学生を求めるようになってきている。では、職場で主体的に動ける学生を輩出するためにどのような教育が必要なのか。舘野氏は「参加型と言われるアクティブ・ラーニング型の授業を受けて成長した学生は、プロアクティブ行動ができるようになる傾向にある」と話す。

「しかし、単に参加型授業や授業外コミュニティに参加しているだけでは、主体的な行動につながりません。成長に資するようなスタンスの形成が必要です。こうした問題意識のもとで、我々はBLPを進めています」

BLPは「権限がなくても全員がリーダーシップを発揮できる」というコンセプトを掲げている。学生は大学1年生のときから参加。昨年までは、4月の最初の土日に「ウェルカムキャンプ」を開催し、その後は課題解決グループプロジェクトを行って実際にクライアントがいる状態で学ぶカリキュラムを実施していた。授業の中では、教員は見守る役に徹する。学生はグループワークなどを通じて議論を重ね、チームに貢献するためにはどのようなリーダーシップを発揮すべきか、それぞれが考える。

「一般的にリーダーシップと言うと、役職や権限を持つ人が周りを引っ張るというイメージが強いのではないかと思います。しかし、BLPでは『全員発揮・自分らしさ・学習可能』をキーワードにして、学生が自分らしいリーダーシップを身につけられるようにしています」

BLPが定義するリーダーシップとは、「職場やチームの目標を達成するために他のメンバーにおよぼす影響力」。この定義に基づき、リーダーシップを発揮するための三つの行動ができるように学んでいく。

<リーダーシップを発揮するための三つの行動>

  • 率先垂範……まずは自分が動く
  • 同僚支援と環境整備……周囲のメンバーの強みが生きるようにする
  • 目標設定と共有……ゴールを設定して共有する

具体的な学びのステップは、「基礎理解」「自己理解」「市民性・倫理性」「専門知識・スキル」の四つだ。

「まずはリーダーシップとは何なのかを学びます。そして自分自身を知り、同時に他者理解を進めていくのですが、自分の強みについては小中高を通じて考える機会が少ないのが現状です。部活などを通じてリーダーシップを発揮する経験をしてきた学生はいますが、『自分の強みは何なのか』『何を改善するべきか』がわかっている学生はほとんどいません」

授業には受講生だけでなく、プログラムを卒業した先輩たちもロールモデルとして参加し、ファシリテーション役などを担う。その姿を見た1年生は「リーダーシップを発揮するのはかっこいいことなんだ」と思うようになり、入学時には「特別なもの」だととらえていたリーダーシップを、半年後には「誰もが発揮すべき」と考えるようになっていくという。

講演写真

本当に若手のリーダーシップを活用する気があるのか?

BLPでは、授業を運営する教員側もリーダーシップを磨くことが求められる。舘野氏は「若手がリーダーシップを発揮できるかどうかは、大人や教員がどんな行動をしているかにかかっている」と話す。

「BLPは、学生スタッフやクライアントも含めれば総勢200名近い体制で運営しています。そのため、チームレベルでの運営側のリーダーシップが発揮されなければ、プログラムを円滑に進めることはできません。そのため、個人に対してリーダーシップを身につけさせるだけでなく、組織レベルでリーダーシップの重要性が理解されていきます」

こうした実体験をもとに、「若手がリーダーシップを発揮するための組織開発も重要」と舘野氏は説く。

「本当に若手のリーダーシップを活用する気があるのか。組織には今、それが問われていると思います。私自身も調査に関わった『日本の人事部 人事白書』 では、どのような人を育てたいのか、そのためにどんな手法が必要なのかが定義されていない企業も多いという現状が見られました。例えばグローバル人材を育てたいと思うなら、自社において具体的にどんな行動をしている人を指すのか。若手にリーダーシップを発揮してほしいと思うならば、具体的にどんな行動を求めるのか、といった問いが重要でしょう」

こうした観点から、BLPでは組織作りに向けた三つのアプローチも進められている。

一つ目は「ビジョンアプローチ」だ。身につけるべきリーダーシップとは何か、BLPが目指す未来は何かを学生と教員全体で考える。

次に「カイゼンアプローチ」。授業後の30分に学生と教職員でその日の振り返りを行い、フィードバックを受けて改善する仕組みを作り出していく。

そして「プレイフルアプローチ」も重視する。「リーダーシップはかっこいい」という共通意識を持てるよう、学生と教員が総勢600名でダンスをするなど、組織の一体感を醸成して一人ひとりが当事者として関われる場面を設けている。

「組織開発が重要だとお伝えしましたが、『組織開発すべき』という論理や正しさだけでは人は動きません。目標を立てておしまいでは意味がない。カイゼンだけでは進まない。、その時々が楽しいだけでもダメ。ビジョン、カイゼン、プレイフルの三つのアプローチをバランス良く進めていくことが重要です」

新型コロナウイルスの混乱の中で発揮された「全員リーダーシップ」

15年にわたり続けられてきたBLPのカリキュラムは、「学生が集まるキャンパス」というリアルな場所があってこそのものだった。しかし今年は新型コロナウイルスの影響で、新入生はスタート段階から大学に来ることができない状況が続いていた。

この非常事態の中、BLPは4月9日以降すべてのプログラムをオンライン化し、当初の予定通りに進行しているという。最初の一大イベントである「ウェルカムキャンプ」も、今年はオンラインで実施された。

「ウェルカムキャンプは、東日本大震災で社会全体が混乱しているときも形を変えて実施していました。他にも大規模かつ演習型のプログラムが多数あり、オンラインで運営していくことには当然、不安もありました。それでも乗り越えられたのは、『全員発揮のリーダーシップ』という信念を大切にして、関わっているメンバーが頑張れたからです。プログラムを回そうとするだけではなく、私たちは何を大切にすべきなのかという価値観に則って全員で進められたことが成功体験となりました。自分たちのアイデンティティを確認して組織作りをしてきた成果だと考えています」

運用面では、ZoomやLINE、Google driveなどの身近なツールを使って、なるべく無理なく簡単な方法で参加できるようにした。ツールのセキュリティ上の問題に対処したり、受講生の通信環境や状況を確認したりしながら、誰もが当事者となれる仕組みを新たに作り上げたという。

準備そのものは、新型コロナウイルス以前の2019年12月から始まっている。この段階で約120人の学生スタッフが決定し、明けて1月からは学生スタッフ対象のコーチング研修を開始。しかし2月以降は対面ミーティングが難しくなり、3月には大学構内に集まって会うこと自体が一切できなくなってしまった。そして、4月の頭に予定していたリアルイベントとしてのウェルカムキャンプは中止の判断を下した。

舘野氏は3月末の段階で「春学期中の対面授業実施は難しいかもしれない」と考えていたと話す。どこかのタイミングで決断しなければならない。とは言え、頭では状況を理解していても、気持ちがついていかない。

「取り巻く環境が変わるたびにプログラムを作り直していったのですが、状況は日々悪化していきました。そのたびに見直しが必要となり、私もチーム全体も、明らかに士気が落ちていました。どうなればワクワクできるのか、またみんなと一緒に頑張れるようになるのか。いろいろと悩む中で、私にとって勝負のミーティングとなったのが3月27日でした」

それは舘野氏が学生たちに示したリーダーシップの一つの姿となった。悩んでいる正直な気持ちと、立ち向かっていく思いを学生スタッフと共有したのだ。

講演写真

「今は世界中の教育機関でインタラクティブな授業を行うことが困難になっている。こんなときだからこそ、せっかくやるなら最高のものを作ろうと話しました。『世界一のオンライン・リーダーシップ・プログラムを作る』という意志を全員で共有したのです」

ダンスや謎解きイベント、大学生活の悩み相談、ビジネスコンテストなど、これまでに実施してきたプログラムをオンライン化する準備が進められた。まだ一度もキャンパスに来られず、履修登録などもすべて1人でやらなければならない1年生のために、2年生がメンターとなって相談を受けられる仕組みも生まれた。

そして一大イベントである「オンライン・ウェルカムキャンプ」へとつながっていく。Zoomの中で21のルームを立てて運用し、「YouTube Live」とも連携。運営上の当日のやり取りはすべてLINEで行う。誰一人大学へは行かず、全員自宅にいながらにしてイベントを進めたという。

システムのトラブルもなく、ほぼミスもなく実施できたウェルカムキャンプの満足度は、昨年を上回る結果となった。1年生からは「来年は自分たちがこれを上回るイベントを作り上げたい」という感想も寄せられた。先輩たちの姿を見て、若手のリーダーシップに火がついた瞬間だった。

「原動力になったのは、『自分たちにとって大切なもの』を共有していたことだと思います。私たちの場合はそれがBLPそのものであり、ウェルカムキャンプでした。自分たちの組織が絶対に大切にしなければならないものは何か。それがビジョンや価値観として共有されていることで、それぞれが自分らしさを生かしたリーダーシップを発揮できるようになります」

舘野氏は「不確実性の高い新規の課題に向かうときこそ、シェアード・リーダーシップが重要」だという。

「リーダーシップをシェアする、つまり年齢に関係なく全員がリーダーシップを発揮できることが重要です。若い人は、新しいシステムやツールをどんどん活用して斬新な方法を生み出します。上の世代はそれを適切に支援していくことが求められます。上の世代のリーダーが、全員が力を発揮できる環境を作っていくことで、若いメンバーもリーダーシップを発揮してくれるという好循環につながっていきます」

「自分のリーダーシップは努力次第で伸ばせる」というマインドセットを

舘野氏のプレゼンテーションを受けて、真田茂人氏は「企業でも立教大学のBLPと同じようなことが言えるのではないか」と語った。

「学生が舘野先生たちの行動からもリーダーシップを学ぶように、人事の方々の行動も問われているのではないでしょうか」

真田氏はNPO法人日本サーバントリーダー協会の活動で、中学2年生向けにサーバント・リーダーシップの授業を行っている。優秀な生徒が多い学校でも、リーダーシップに興味を持つ生徒や、実際にリーダーシップを取れる生徒はなかなかいないという。

「背景には、リーダーシップに対するさまざまな勘違いがあります。リーダーと聞くと『チームを強引に引っ張る人』『目立つ人』、あるいは『自己中心的な人』といったイメージを持つ人も少なくありません。そこで授業では、これまでに『人に助けてもらった経験』とその時の自分の気持ちを思い出して共有します。自律的に人を助けることはサーバントリーダーシップの発揮です。助けられた人は、その人に対してリーダーシップを感じます。そこで今度は『自分が人を助けるときにはどんなことができるのか』を考えてもらうようにしています」

このプログラムを経ると、今まで「リーダーシップ」には距離を置いていた生徒たちも「人の役に立つことがしたい」と考えるようになるという。

「すべての人はリーダーシップを発揮できるし、発揮する必要があります。」

講演写真

真田氏はリーダーシップを三つの観点で説明する。「やり方」(手法・方法)、「考え方」(論理・ロジック・メカニズム)、そして「あり方」(哲学・マインド)だ。

「リーダーシップを考えるときに『やり方』ばかりに注目して『あり方』が重視されていないケースが多いように思います。『自分はリーダーには向いていない、自分の力量はたかが知れている』というマインドセットではなく、『自分のリーダーシップは努力次第で伸ばせる』というマインドセットを与える機会が必要ではないでしょうか。」

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