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“組織変革を阻む3つの溝"を解消し、事業成長を加速させる心理的安全性の高め方

<協賛:Unipos株式会社>
  • 石井 遼介氏(株式会社ZENTech 取締役 / 一般社団法人 日本認知科学研究所 理事)
  • 武田 雅子氏(カルビー株式会社 常務執行役員 CHRO(Chief Human Resource Officer))
  • 斉藤 知明氏(Unipos株式会社 代表取締役社長 / Fringe81株式会社 執行役員)
TECH DAYパネルセッション [TD]2020.07.03 掲載
Unipos株式会社講演写真

米Googleの取り組みによって、あらためて知られることになった「心理的安全性」。組織内で拒絶されず、おびえることなく、安心して誰に対しても発言することができる状態を指す。職場で気兼ねなく自由に思いを述べられる場をつくることは、組織変革において有利といえる。本セッションでは、心理的安全性の専門家・実践者が集まり、どうすれば心理的安全性が高められるのかについて議論した。

プロフィール
石井 遼介氏( 株式会社ZENTech 取締役 / 一般社団法人 日本認知科学研究所 理事)
石井 遼介 プロフィール写真

(いしい りょうすけ)東京大学工学部卒。シンガポール国立大 経営学修士(MBA)。神戸市出身。行動分析の研究者として、チーム・組織のパフォーマンスを科学し、ビジネス領域、スポーツ領域で成果の出るチーム構築を推進する。日本の組織・チームに於ける心理的安全性の計測尺度を開発。2017年より、オリンピック医・科学スタッフも務める。


武田 雅子氏( カルビー株式会社 常務執行役員 CHRO(Chief Human Resource Officer))
武田 雅子 プロフィール写真

(たけだ まさこ)1968年東京生まれ。89年に株式会社クレディセゾン入社。全国のセゾンカウンターで店舗責任者を経験。2014年人事担当取締役に就任。2016年には営業推進事業部トップとして大幅な組織改革を推進。2018年5月カルビー株式会社に転職、翌年4月より常務執行役員。全員活躍の組織実現に向け、人事制度改定など推進中。


斉藤 知明氏( Unipos株式会社 代表取締役社長 / Fringe81株式会社 執行役員)
斉藤 知明 プロフィール写真

(さいとう ともあき)東京大学機械情報工学専攻。学業の傍ら、株式会社mikanにてCTOとしてスマホアプリ開発に従事。その後、Fringe81株式会社に入社。エンジニアを務めた後、Unipos事業責任者となる。2017年12月、Unipos株式会社の代表取締役社長に就任。2019年4月、Fringe81株式会社の執行役員に就任。


なぜ心理的安全性が必要なのか

セッション冒頭、斉藤氏はUniposが実施した「新しい挑戦への心理的ハードル」に関するアンケート結果を紹介した。同アンケートは、上場企業で働く20~30代ビジネスパーソン1030名を対象に実施したもので、「仕事の中で新しい挑戦をすることに心理的なハードルを感じますか」との質問に対して、84.0%が「はい」と回答したという。

「調査を行った目的は、経営環境の変化が激しいVUCAの時代への人の対応をみることです。人が持続的成長をしていくには、変化に対応しなければなりません。しかし、多くの人が変化や挑戦にハードルを感じている。では、どうすれば人は変化に耐えられるのかを知ろうと考えました」

講演写真

心理的ハードルを感じる理由としては、「失敗して信頼を失い、評価が落ちるのが怖いから」が35.6%、「今やっている仕事で認められている実感がないから」が24.9%で、心理的安全性に関する項目が上位を占めた。一方、「新しい挑戦に心理的ハードルを感じない」人に理由を聞いたところ、「自分のキャリア・スキルアップにつながると感じるから」が31.5%、「日々の仕事を認められている実感があるから」が24.8%だった。

「この結果から読み取れるのは、人の行動には心理的安全性が大きく関与していることです。現状の心理的ハードルが高い状態のまま、テレワークの導入が進むと、人との接触が減って心理的な溝がより深まる可能性があります。今後、心理的安全性をいかに確保していくかは企業にとって大きな問題です」

「心理的安全性」とはなにか

次にZENTechの石井氏が登壇し、心理的安全性が高いチームと低いチームの違いを解説した。

「心理的安全性が低いチームは、一言でいえば『メンバーの行動に罰を与えるチーム』です。例えば、誰かが意見を言っても否定から入ってしまう。チャレンジをしても、失敗すると評価が下がってしまう。トラブルが起きたときは犯人探しになる。せっかく課題を見つけても『自分でやっておいて』と言われ、仕事だけが増えてしまう。意見が対立すると人間関係にひびが入ってしまう。皆さんは、こうした類いの罰を受けた経験がないでしょうか」

石井氏の発言をまとめると「心理的安全性が低い」とは、チームの成果のためやチームへの貢献を意図して行動しても罰を受けるかもしれない、というリスクがある職場といえる。一方、「心理的安全性が高い」とは、そのようなリスクがなく、健全に意見を戦わせ、生産的でよい仕事をすることに力を注げるチームや職場のことだ。

「心理的安全性が高いチームは、チームとしての学習速度が速く、結果として高いパフォーマンスを示すことがわかっています」

Googleの調査でも、「効果的なチームにとって心理的安全性は核心的に重要であり、心理的安全性の高いチームは離職率が低く、収益性が高い」という結果が出ている。では、どのような点を意識すれば心理的安全性を構築できるのか。

「合計約3000人、200チームを計測、分析した結果、四つの因子があることがわかりました。」

講演写真

「一つ目は、話しやすさです。ネガティブな報告であっても、何を言っても大丈夫だと思える。二つ目は、助け合い。トラブルのときでも犯人探しではなく前向きに対応を考えられるかどうか。三つめは、挑戦。前例主義ではなく、模索し試す姿勢があるか。そして四つ目は、新奇歓迎。異能や個性を歓迎できるかどうかです」

「心理的安全性」を高めるには?

チームの心理的安全性とは、チームの歴史を背負った「結果・状態」といえる。

「過去のメンバーの行動や起きた事件、それに対する反応。こうしたものの積み重ねがチームの心理状態になっているのです。従って、チームの状態はそれぞれの会社、組織、チームで異なるため、どのチームにも使える正解は少ないのです」

では、四つの因子を上げるにはどのようにすればいいのか。石井氏は、一つひとつの組織・チームに応じて柔軟に対応できる、心のしなやかさが重要になると語る。そのために大切になってくるのがリーダーシップとしての心理的柔軟性であり、次の三つの要素が紹介された。

講演写真

「一つひとつのチームにあるのが、4つの因子もご紹介した、心理的安全性です。それを向上させ、成果を上げるためにチームに応じて行動を変えられるのが、個々人の持つ、心理的柔軟なリーダーシップです。
最終的に重要なのは行動です。心理的柔軟性は、望ましくない行動を減らし、望ましい行動を増やすために必要な要素といえます」
心理的柔軟なリーダーシップを発揮し、心理的安全なチームづくりを行い、成果を出した事例として石井氏が立ち上げに尽力した「都市鉱山からつくる! みんなのメダルプロジェクト」の事例が語られ、望ましい行動を増やす上で、プロジェクトに「大義・意味」をつけることが重要だとした。

その上で石井氏は、心理的安全性の4つの因子も行動の集積であると語る。「話」「助」「挑」「新」の行動が増えているときは、チームは心理的安全であり、かつ、よい風土にあるといえる。
組織文化・組織風土は組織開発の観点で重要だが、実際に文化・風土を変革しようとすると、課題が大きすぎてどこから手をつけてよいか分からないことも多い。
文化や風土も、一つひとつは所属するメンバーの行動の集積だと捉え、シンプルに望ましい行動を増やし、望ましくない行動を減らすようにする。これがリーダーやファシリテーターがやるべき仕事だと石井氏は述べた。

「例えば、わかりにくい報告をする部下がいた場合、上司は指摘し叱責し、改善を求めることが多いでしょう。しかし、報告という行動それ自体と、その品質・スキル・成果は分けて捉えた方がよい。報告という行動に対しては、まずは『報告してくれてありがとう』と行動への感謝を伝え、品質やスキルについては別途、上手に報告できるよう、育成・トレーニングします。
叱責しても、スキルが上がるわけではなく、単なる叱責は報告の頻度自体を減らしかねません。冷静に考えれば分かる通り、叱責したらすぐに明確な報告ができるスキルがああれば、既に報告しているはずだからです。単なる叱責には、教育的効果はありません。
この例からわかるように、実は上司が部下に困ったと思っているときは、その上司自身が『問題の部分的原因』になっている可能性があります。だから、上司側が柔軟に行動を変えることで、部下が変わるかもしれないのです。このように心理的安全性の高い組織では、内部に何らかの溝があっても、そこに橋をかけやすく、修正ができやすくなっています」

講演写真

ディスカッション:心理的安全性を活かした組織づくりをどう行うのか

ここからはカルビーの武田氏も参加し、心理的安全性に関するディスカッションが行われた。

斉藤:心理的安全性のある組織とない組織では、どんな違いがありますか。

石井:高度成長期のように正解がある時代には、速く、安く、ミスがないチームが優秀とされていました。しかし正解のないVUCA時代は、チームとして模索・挑戦し、失敗から素早く学べるチームが優秀といえます。必要な人材も、何が正しいかを行動しながら模索できる人。また、教育・学習のスタイルとして、まず行動・挑戦し、結果のフィードバックから学習することが重要です。

斉藤:後から学んでいくことに慣れるのは、難しいように感じます。

武田:これまでの学習した上で行動するというスタイルを変えるのは、勇気がいることですね。ただし実際の学習はどちらかではなく、両方が求められるのだと思います。その点ではハードルが高いですね。

斉藤:ここで武田さんに、心理的安全性に関するマネジメントのご経験をお聞きしたいと思います。

武田:前職のクレディセゾンに在籍していた最後の2年間は初めて営業部門に入り、営業チームのトップを務めました。その際、経営層から「個人営業から法人営業に切り替え、イノベーションも起こして欲しい」と要望があり、これまでの業務を8割の時間・コスト・人材で行い、残りの2割の資源で新たなイノベーションを起こす施策を考えました。20%で新しい20%を生む意味から、このプロジェクトを「20・20(トゥエンティトゥエンティ)」と呼んでいました。

講演写真

営業メンバーに伝える際、特に注力したのは、8割の部分では生産性や効率を必死に考えて実行しますが、残り2割のこれからの仕事では生産性や効率を考えず、お金も時間も許される範囲の中でどんどん使って、失敗も大歓迎でやってください、という考え方でした。挑戦の仕方は現場に任せて、もっと自由に大胆になって欲しいと伝えたことが心理的安全性を生んだように思います。

その結果、新たな法人営業先が次々と見つかり、目標も達成できました。私自身は新規開拓における営業ノウハウを持っていなかったのですが、こうした大方針を掲げることで、部内に化学反応を起こすことができると実感しました。私にとっても大きな自信になった出来事でした。

斉藤:当初は現場に戸惑いもあったと思うのですが、その点はいかがですか。

武田:ありがたいことに、クレディセゾンには「オープン、フランク、イノベーティブ」という風土がありました。新たなものへの挑戦はよいことと捉える雰囲気があったため、場さえ与えれば、そうした行動を起こしたいという気持ちはメンバー一人ひとりにもあったと思います。営業は新しいタネを見つけたら社内チャットで報告。するとそれについて周囲から意見やアドバイスが寄せられ、オープンに議論しました。そのやり取りを別の拠点でも見てくれて、どんどん良い雰囲気が広がっていった。当初は二つの拠点で積極的な傾向が見られました、最終的には拠点を問わず、みんなで全力で取り組めたと思います。

斉藤:そうした前向きさを、集団に浸透させる肝は何だったのでしょうか。

武田:私から情報を発信するよりも、組織でヨコに伝播していく力のほうが強いということです。私はルールを決めただけで、現場で起きてくるファクトや、そこから起きる共感は実にパワフルなものでした。私はその雰囲気が広がっていくのを、生き物が育つのを見るかのように観察していました。中には「既存と新規、どちらかに力を入れたほうがいいのでは」と言ってくるメンバーもいましたが、そのときはいつも「どちらも大事だよ」と笑って答えていました。

斉藤:トップが「新しいことをやろう」と声掛けしているだけでは限界があります。従業員全員で考えられるマインドにシフトしていくために、個々が自由になれる環境をつくって、個人がやったことを盛大に取り上げ広げていく。そういった進め方で、新規を歓迎するムードが構築されていったということですね。

貢献の見える化でコロナ禍においても心理的安全性が上昇

斉藤:次に「心理的安全性の一つの要素である『新奇歓迎』に『貢献の見える化』は有効なのか」という問いに移りたいと思います。当社は従業員同士で貢献をたたえ、ピアボーナス(少額のポイント)を送り合う「Unipos(ユニポス)」というサービスを提供しています。今回、滋賀県にあるカルビー湖南工場で働く500名を対象に3ヵ月間、Uniposを実際に使っていただきました。その結果を、ZENTechさんが提供する心理的安全性の組織診断サーベイ SAFETY ZONE®で調査してもらっています。

石井:2020年1月末と4月頭に調査を行いました。この間に新型コロナウイルス感染症の流行拡大があったのはご存じのとおりですが、それにもかかわらず全項目において心理的安全性のポイントは上がっていました。特に「(1)話しやすさ」「(4)新奇歓迎」の因子で向上が見られています。

武田:工場内は衛生第一ですから、勤務時の服装では相手の目しか見えません。休憩室にも長くはいませんから、コミュニケーションの機会は非常に少ない。工場は持ち場もあり、交代制なので、相手が近くにいないと何をしているかはなかなかわからないのです。しかし、工場内では改善活動などが日々行われていますから、近くにいた人が良い行いを見つけ、Uniposで職場全体に知らせたことで心理的安全性が上がっていったと思います。

斉藤:変化の激しい時代は、心理的安全性が非常に有効な時代になると思います。皆さまもぜひ、心理的安全性の高い組織づくりに取り組んでください。本日はありがとうございました。

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