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HRテクノロジーで想定していた効果がでない! その原因と活かす方策とは

  • 坂上 紘子氏(株式会社エスユーエス HAIQ事業部 マネージャー)
TECH DAY特別講演 [TE-3]2019.06.25 掲載
株式会社エスユーエス講演写真

企業がAIなどのHRテクノロジーに期待する成果は「具体的で有効な変化」だ。しかし、企業は人事系データの扱いに慣れておらず、分析や課題への活用となると、まだ難易度が高い印象がある。17年前から大学と連携し、アセスメントツールを研究開発してきたエスユーエスは、その蓄積したノウハウを企業に提供している。どうすればテクノロジーで効果を出せるのだろうか。

プロフィール
坂上 紘子氏( 株式会社エスユーエス HAIQ事業部 マネージャー)
坂上 紘子 プロフィール写真

(サカガミ ヒロコ)組織コンサルティング・事業開発を経て、2010年にエスユーエスに参画。産学連携の元、組織のアセスメントの開発とデータ解析を中心に組織コンサルティングに携わる。2018年7月「AIマッチングソリューションSUZAKU」をリリース。HRTech事業の責任者を務める。


よくある課題は「PDCAにのらない」「人材情報とデータの質が悪い」

エスユーエスの基幹事業は技術者の派遣だ。現在、1400人の技術者が在籍する同社にとって、技術者の育成は長年の課題である。17年前から大学と連携し、組織心理学に基づいた組織や人を可視化するアセスメントツールを開発。可視化され、蓄積されたデータに基づいた人事課題の改善に取り組んできた。そして2018年、これまでのデータ解析やアセスメント開発のノウハウを結集し、AIマッチングソリューション「SUZAKU」をリリースした。

冒頭、坂上氏は参加者に「皆さんはHRテクノロジーにどんなことを期待していますか」と問いかけた。

「HRテクノロジーが実現するのは、人材情報を一元管理し、素早く検索、可視化すること。そして、データのレポーティング・施策運用までをサポートすることです。企業は『人事関連の情報の一元管理・可視化』『データ集計分析、レポート』『AIによる効率化』『システム・データを活用した人事施策・運用(能力開発・エンゲージメント・配置・選抜)』を期待しています。皆さんもシステムを使うことで、具体的な変化を感じたいと思われているのではないでしょうか」

坂上氏は普段、顧客からよく相談を受けるが、そこで聞かれる課題は大きく二つに集約されると語る。一つ目は「PDCAにのらないこと」。一般的に人事課題のPDCAサイクルは「人事関連情報の一元化」→「人材情報の可視化」→「データ集計・レポート」→「HRテクノロジー・データ・AIを活用した運用と施策」→「施策・変化データの蓄積(定性・定量)」といった流れになる。このPDCAサイクルが活用できていないときは、サイクルのどこかに問題があると言える。

二つ目は「人材情報とデータの質の問題」だ。どれだけデータを集めても、データの質が悪いと成果は期待できない。

「一般に人事で必要となる情報は五つのレベルに分けることができます。『レベル1:スキル・知識』『レベル2:経験』『レベル3:施行プロセス・態度・価値観』『レベル4:性格・特性』『レベル5:動機付け要因』です。この中でレベル3から5は可視化しにくく、情報として蓄積されにくい。そのため、アセスメントの質に左右されやすいという特性を持っています」

「経年データの魅力」に気づけないという失敗も

ここから坂上氏は実際の企業の課題事例を紹介しながら、原因追究と解決に向けた方策を紹介した。一つ目の課題事例は「情報の管理から活用へ」だ。

ある企業は人材情報の一元化システムを構築。自社内にサーバーを立ててセキュリティーを重視したオンプレミス型(自社運用型)を選択、タレントマネジメントを目的に導入し、人事情報(基本情報、履歴・職務経歴、資格、評価など)が集約できた。

しかし、導入してみると「データを集計する機能がついているがあまりピンとこない」「人事部門の数人が管理者になって利用しているが、検索と集計ぐらいしか活用されていない。社内で認知されていない」「追加開発・追加モジュール(オンプレミス)はさらに数千万の費用がかかるので、追加なしで何とかしたいが、マンパワーで運用を頑張るのは非効率」という評価となった。

これは活用のPDCAサイクルが回っていない事例だ。人事情報なので機密性を高め、システムはオンプレミスで開発。そのため初期投資額が多く、運用ツールなど新しくやりたいことがあっても、追加開発になるので気軽に手を出せない。また、タレントマネジメントが目的だが、現場とのやり取りはなく、完全に人事部門だけのものとなっている。人材の特性を測定するアセスメントツールも満足な内容ではなく、社内の評判もあまり良くない状況にある。

「解決策としては、運用にあたり、従業員や現場の管理職が期待していることと整合性をとることが重要です。HRテクノロジーは対象部門の従業員の参加が、リアルタイムで質の良い情報の収集と運用につながりますが、メリットを感じられないと誰も使わなくなり、自然消滅してしまいます。当社からの提案としては、運用の追加開発はオンプレミスをやめる方向性としました。今、HRテクノロジーのクラウドサービスの精度と利便性は、速いスピードで進化しています。オンプレミスで自前のシステムを固定で持ってしまうと、変化に取り残されてしまう可能性がある。そこでデータの集約と運用を分けて、目的にあったHRテクノロジーサービスをシステム連携させ、必要なものを素早く導入・活用するようにアドバイスしました」

二つ目の課題事例は「データの質が与える影響と経年データの魅力」だ。坂上氏が人事データの質について、よく相談される内容が六つあるという。

講演写真

<「人事データの質についてよく相談される内容」講演スライドより>

「データの価値は精度と継続性に表れます。スライドに掲載されている中で、データの精度が課題となっているケースは『1、4、6』。経年データの魅力に気づいていないケースは『2、3、5』といえます」

一つ目の「データの精度が課題となるケース」では、集まっているのが同じような情報ばかりで重複があったり、重要なのに取得できていない「抜けや漏れ」があったりして正しい分析ができない。例えば、新卒採用で明示しやすい「保有スキル・資格」「コミュニケーションスキル」「協調性」「ストレス耐性」のデータはあっても、データで明示しにくい「分析的思考」「創造的思考」「自己効力感」の情報が不十分で、これらの点が見えなかったことから、採用や配置で間違った判断をしてしまう例がある。

「日本のHRアセスメントは採用の適性検査として浸透・発展してきました。しかし、イノベーション人材の特徴を見ても、『コミュニケーション』『協働』『執着』『安定』『ストレス耐性』部分では一般と差がありません。国内イノベーション拠点の研究開発・技術領域のイノベーター人材と、一般企業の人材を比較したデータでは、『指導・決定力』『分析・解析力』『創造・概念化力』『適応・対応力』『成果・達成力』に有意な差が見られています。こういった部分を見逃さないようにしなければなりません」

二つ目の「経年データの魅力に気づいていないケース」では、線ではなく点だけでデータを取ってしまうことで事象に気づけないケースが出ている。

「個人は若いほど、環境の変化に影響を受けながら成長・変化していきます。組織も経済情勢、社会的な価値観の影響を受けて変化していきます。点でしかデータを取らないと、点で物事を判断するため、変化や傾向に気づかないことが多いのです。データは線になるように取るべきです」

組織も社会情勢に影響を受けて変化する。変化を可視化することで、データの示す意味がわかるようになる。ベースになるデータは同一基準のものを継続的に取得することで、変化の把握・効果測定・予測が可能になる。

「例えば、リーマンショック前後の管理職の意識変化を見ると、新たな事業に取り組むときに求められる『新奇性』『創造的思考』の数値が下がっていました。逆に『リスク配慮』『慎重さ』の値は上がっていた。これは失敗を怖れたり、新たな挑戦を避けたりする意識が見られたということです。こういった心の動きは連続してデータを取らないとわかりません。『SUZAKU』では一人ひとりの成長と変化、また、組織やチームの変化を可視化することができるようになっています」

AIは独自に育てることで「真の企業の相棒」になる

三つ目の課題事例は「採用AIの違和感と不信感の原因」だ。ある企業が導入したHRテクノロジーは、ハイパフォーマーの人事データとアセスメントデータを活用し、人材を抽出できるシステムだった。

しかし、導入してみると「評価とアセスメントデータに相関がみられない」「AIが提案したものに違和感がある。会ってみるとイメージしていた人材ではなかった」「AIの学習に6年かかる。まだ導入2年目なのであと4年もある」「ハイパフォーマーモデルも変化していく。過去データを学習したAIは使えなくなるのか」といった声が聞かれた。

「評価とアセスメントデータに相関がみられないというケースですが、ここには認識の違いも影響します。一般に人は相関の図式と聞くと、直線的なグラフのようなものをイメージしますが、実際は曲線で『ほどよいところがいい』と一部分だけを示す評価になることも多いのです。AIはこのような点も見抜いて、もっと複雑な解析を代行してくれるので活用する価値があるのです」

また、坂上氏は「AIが何をしているのかわからないので怖い」という相談を受けることもあるという。

「データの違和感を解消してくれるのがAIです。機械学習の種類には『教師あり機械学習』『教師なし機械学習』『強化学習』があります。最初は一般的な機械学習に基づき提案を始めますが、教師データを学習させると、その企業の特徴を学んで独自に判断するようになります。AIは精度が担保されたデータ、判断基準が統一された教師データを与え、育てていくことで真の企業の相棒に育っていきます」

帝国データバンクの調査によれば、現在、従業員が不足している企業は5割を超える。どんなにAIが進化しても、これから先も戦略を遂行するのは人であり、人がより重要な時代になっていく。

「これからも、人が企業にとって限りある貴重な資源であることに変わりありません。『人に選ばれる企業、活かすことができる企業』が競争力を手にできる。HRテクノロジーは、そのための有効なツールになります。ぜひうまく活用していただきたいと思います」

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