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人生100年時代のキャリアデザインを考える
~組織内キャリアから生涯キャリアへの転換~

  • 宮城 まり子氏(キャリア心理学研究所 代表/臨床心理士)
大阪基調講演 [OA]2019.07.22 掲載
講演写真

人生100年時代と言われる今、「定年まで社内でどのようなキャリアを形成するか」だけではなく、「生涯にわたって自分をいかに活かし、社会や組織に貢献するか」が問われている。将来のキャリアを自律的に考えてデザインすることは、現在のあり方にも大きな影響や刺激を与え、自らをさらに活性化させる。個人の成長は組織の成長を促すため、企業は社員が自律的にキャリアを開発できるように支援していかなければならないが、具体的にどうすればいいのか。キャリア開発の第一人者である宮城まり子氏がそのポイントを語った。

プロフィール
宮城 まり子氏( キャリア心理学研究所 代表/臨床心理士)
宮城 まり子 プロフィール写真

(みやぎ まりこ)慶応義塾大学文学部心理学科卒業、早稲田大学大学院文学研究科心理学専攻修士課程修了。臨床心理士として病院臨床(精神科、小児科)などを経て、産能大学経営情報学部助教授となる。1997年よりカリフォルニア州立大学大学院キャリアカウンセリングコースに研究留学。立正大学心理学部教授、法政大学キャリアデザイン学部教授を経て、2018年4月から現職。専門は臨床心理学(産業臨床、メンタルヘルス)、生涯発達心理学、キャリア開発・キャリアカウンセリング。他方、講演活動や企業のキャリア研修などの講師、キャリアカウンセリングのスーパーバイザーとしても精力的に活躍している。著書に、『キャリアカウンセリング』(駿河台出版社)、『産業心理学』(培風館)、『7つの心理学』(生産性出版)、『「聴く技術」が人間関係を決める』(永岡書店)などがある。


自ら気づきを得ることの重要性とその方法

キャリア研究には、「個人の側面」「組織の側面」「社会的側面」という三つのアプローチがある。宮城氏はその中でも、自律的キャリア形成に特に大切な「個人の側面」から捉えたキャリアデザインについて語った。

「心理学では『気づき』を非常に大事にします。人は気づくことから変わるからです。上司が指示や命令をすれば部下は変化し行動しますが、その後も行動が変わるかというと、決してそうではありません。『いかに自分で気づくか』に重心を置いて、気づきを与えられる質問をしながら指示や命令を与えると、部下の行動を上手に変えていくことができます。例えば、『何が問題ですか』『どのように考えていますか』『どう解決したらいいと思いますか』といった相手に考えさせる質問が望ましいでしょう」

では、自ら気づきを得るためにはどうすればいいのか。宮城氏は、四つの方法を挙げた。一つ目は、自分について書き出してみること。二つ目は、自分について話してみること。自分についてまとめたり、整理したりしすることで、気づきが得られる。三つ目は、他者の話を聴くこと。人は無意識に自分と他人を比較する傾向があるため、人の話を聴きながら自分と照らし合わせる過程が気づきへとつながる。四つ目は、具体的に行動すること。「実際にやってみたら意外に簡単だった」「自分に合っているとわかった」などと、気づきを促すという。これらの四つによって、自分の心の中を言語化すると気づきが得られて、行動変容、キャリアデザインへとつながっていく。

「これからは環境変化に伴って生き方も働き方も多様化し、いろいろな選択肢が出てきます。キャリアは選択の連続から形成されていくので、気づきをベースにしながら何を基準にして何を選んでいくのかは、人生100年時代のキャリア形成に重要な意味を持ちます」

キャリアに対する視点と六つの問い

キャリアデザインはキャリアの選択の連続からなると宮城氏は言う。キャリアをデザインするためには、企業が経営戦略を持つように、個人も自分のキャリア戦略を持つと良い。企業が環境変化とともに経営戦略を変えていくように、個人も環境変化にあわせて自分のキャリア戦略を変える必要がある。

「そのためには、学び直しが欠かせません。なぜなら、過去に培った知識やスキルは次第に陳腐化し、新しい環境に適応できなくなるからです」

さらに今後は、会社内でのキャリア形成に限らず、「自分が生涯で何をやりたいのか」という長期的なキャリアの視点が不可欠になるという。

「キャリアとは、『自分をどう活かすか』ということです。『会社の中で自分をどう活かすか』だけでなく、『地域の中でも自分をどう活かすか』『社外活動の中でも自分をどう活かすか』を幅広く考えることが大切です。変化や不確実性に満ちた時代に『自分をどう活かすか』。そのためには、社会変化を見極める感性や眼力を常に養っていかなければなりません」

講演写真

宮城氏は心がけたい行動として、まずは「現実をありのまま受け止めること」を挙げる。その次は「環境ニーズに合わせて、何歳になっても柔軟に自分を変えていく」行動だ。このときに持ち合わせたいのは「知的な謙虚さ」だという。どんなに自分の経験や知識が豊富でも、時代に合わせて耐えず学び直しをするような姿勢が求められる。また、生涯にわたる学習、自分への先行投資、深い人間力も欠かせない。

「自分のキャリアを考える際は、六つの問いが役立ちます。一つ目は『自分はどうありたいのか、何をしたいのか、自分をどのように活かしたいのか』。さらに『それはなぜか』という理由も大事です。この問いを考えると、自分が見えてきます。答えが自分ではわからないという人は『何をしたくないのか』『どうありたくないのか』と逆の問いを考えると、『それ以外ならやってみよう』と整理できます。二つ目は『自分は何に興味・関心があるのか、好きなのか』。好きであれば苦労も厭わないし、前向きに捉えて苦労も気にせずに行動できます。この問いに関しても『それはなぜか』という理由が大事です。三つ目は『何ができるのか、強み、売り、専門性、付加価値は何か』。キャリアは強みの上に形成されるもので、絶えず意識し創る必要があります。

四つ目は『自分が大切にしたい価値・価値観は何か』。これは、一番大事な問いです。価値観は、キャリアをつくるベースになるからです。自分にとって幸せとは何か、何が人生の成功なのか、を自らに問い優先順位を考えます。人と比較することなく、また、他人のキャリアに左右されることもなく、自分の価値観を見据えてしっかりと考えます。五つ目は『自分の役割、責任、使命は何か』。六つ目は『これらをふまえて、具体的にやるべきこと、行動、今後に備えて準備することは何か』。考えるだけでは何も始まりません。まずはやってみて、行動しながら修正していくことからキャリアは形成されます」

キャリア形成とキャリア転機を考える

では、実際にはどのようにしてキャリアをつくっていけばいいのか。そこには三つのアプローチがある。

「一つ目は『今やっていることをしっかりとやる』。自分が任せられている仕事を通じて何が経験でき、どんな知識やスキルを身に付けることができるのか。それを意識しながら仕事をすることは、キャリア形成の土台になります。二つ目は『3年後、5年後、10年後の目標を掲げる』。こんなことができるようになりたい、このぐらいのレベルに達したいと目標を掲げると、今後の過ごし方は大きく変わります。たとえ目標達成できなくても、その努力は無駄にはならないことは確かです。三つ目は『仕事以外の活動、趣味、勉強も積極的にやる』。本業から離れた活動を通じて得た新たな経験や幅広い人脈は、大変貴重です。ある会社の常識は外では非常識ということもよくありますから、自分を客観視するためにも、社外との接点を幅広く持つといいでしょう」

ボランティア活動や地域活動など、社外で得られる経験は、本業にも好影響を与えると同時に、自分自身のキャリアの幅を広げることにもつながる。家庭でも会社でもない、第三の居場所をつくりアウトプットを作る活動は、パラレルキャリアを形成することになるからだ。そこから新たな発想や仕事がもたらされ、次のキャリアにつながる可能性もあるだろう。また、自分の価値を実感したり再認識したりするきっかけにもなる。このように、現役時代からライフワーク、人生の生きがいを会社以外の場所にも同時につくっておくことの意義は大きい。組織内キャリアから生涯キャリアへの大きな転換を、スムーズに実行させる要素といえる。

「長い人生の中で、キャリアは安定と不安定の繰り返しです。経済環境の変化、上司や部下の変化、海外への転勤、育児や介護の問題などがキャリアに影響を与え、安定と不安が交互に訪れるからです。ただ、不安定なときは、もう一度自分を見つめ直し整理するチャンスと捉えることもできます。不安定要因を整理し、次の課題や目標を定めれば、再び安定へと向かいます。こうした不安定な時期を経ることにより、課題を整理し明確化することができるので、その後のクオリティはより高まるでしょう」

キャリアは、常に右肩上がりとは限らない。昇進や昇格、与えられた業務内容などが想定外だったために、キャリアの転換を余儀なくされることもあるだろう。そのため、転機と転機の変化の間の中間地点は、次の変化に適応するための準備期間と捉えて、以下のように行動をすべきだと宮城氏はいう。

  1. 自ら責任と自覚をもち、転機を自己管理する
  2. 転機により何が変化するのか、その影響は何かを整理する
  3. 思い切って捨てるものは何かを明確化する
  4. 転機により終わるもの・失うものは何かを明確化する
  5. 不安・寂しさ・葛藤・迷い・期待などと向き合い、転機を迎える自己の気持ちをありのままに受容する
  6. 維持・継続するもの・安定しているものを明確化する
  7. 人生の重要な決断をするときはじっくりと考え、時間をかけて準備をする

「とりあえずでも構わないので、まずは行動してみることも大切です。そこからキャリアがスタートすることもあります。行動することから、次第に次の目標が見えてくるものです。セレンディピティという言葉があるように、動き出してみることで、意外な発見や出会いに恵まれることが出てきます」

出来事に対する考え方・捉え方でキャリアは変わる

行動に影響を与える要因として、心のありようがある。心のありようは、出来事や事実そのものには直接影響されず、出来事や事実をどう捉えているかに影響される。つまり、その出来事や事実を「どう捉え、考えるか」「どう意味づけるか」が行動を左右するのだ。例えば、落ち込むような出来事があったから落ち込むのではなく、落ち込むような出来事だと自分が捉えたから落ち込んだ、といえる。自分自身の捉えかた・考え方を柔軟に変えながら行動することが欠かせない。

「すなわち、捉え方によって心のありようは変ります。人生に起こる出来事を変えることはできませんが、出来事に対する捉えかた・考え方は自分次第で変えることは可能です。悩んだり苦しんだりしているときは、『自分が悩むような捉え方をしているからだ』と理解してください。私たちの未来は誰にもわかりません。だれにとっても将来は不明確ですが、できる限り肯定的に、前向きに捉えてください。こうありたいという強い思いが、自分を未来へ引っ張ってくれる力になるのです」

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