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企業と個人の関係が移り変わる現代に重要な採用戦略とは。
10年後、日本全体における採用の在り方はどうなるべきか

伊達 洋駆氏(株式会社ビジネスリサーチラボ 代表取締役)
林 宏昌氏(リデザインワーク株式会社 代表取締役社長)

掲載日:2024/03/25
企業と個人の関係が移り変わる現代に重要な採用戦略とは。10年後、日本全体における採用の在り方はどうなるべきか

労働力人口の減少や雇用の流動化などを背景に、企業と個人は「選び選ばれる関係」へと変化している。これまで「選ぶ」立場だった企業は、採用に対する姿勢(採用戦略)を変えなければ優秀な人材を確保できなくなっている。採用のトレンドが「メンバーシップ型採用」から「ジョブ型採用」、さらには「スキルベース型採用」へと移り変わる中、人事はどのような採用戦略を立てるべきなのか。

2月2日に開催された「HRカンファレンス2024-冬-」~リーダーズミーティング~(以下、リーダーズミーティング)では、株式会社ビジネスリサーチラボの代表取締役を務める伊達洋駆氏と、「採用戦略」のリーディングカンパニーであるリデザインワーク株式会社 代表取締役社長の林 宏昌氏が今後の採用戦略について問題を提起。日本企業を代表する人事リーダーたちが「日本企業の採用の在り方」について語りあった。

Profile
伊達 洋駆氏
伊達 洋駆氏
株式会社ビジネスリサーチラボ 代表取締役
林 宏昌氏
林 宏昌氏
リデザインワーク株式会社 代表取締役社長

伊達氏による問題提起1:求職者が不安に感じる「不確実性」とは

まず伊達氏は、10年後の採用を考える前提として「求職者の心理には原理原則があること」に焦点を当てた。「求職者の心理は昔から変わらないため、まずは求職者心理の理解が不可欠」ということだ。

「VUCA(ブーカ)(※)という言葉にも含まれる『不確実性』は、無視できません。不確実性とは、必要な情報に対して手元の情報が足りていない状態のことです。例えば、新しい部署に異動になったら、はじめは分からないことばかりで不安になりますよね。このような状況が不確実性です」
(※)Volatility(変動性)、Uncertainty(不確実性)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性)という四つの単語の頭文字を取った言葉。絶えず変化し続け、予測が難しい時代の特徴を表す

人は誰しも不確実性の高い環境にストレスを感じるため、それを解消すべく情報を集めようとする傾向がある。さらに、国際的に見ても日本は不確実性を回避する傾向が強いという。

「採用プロセスにおいても、求職者は『不確実性を避けたい』と考えます。つまり、求職者は企業の情報をできるだけ詳しく知りたいのです。これは100年後も変わらない人間心理でしょう。ところが現状は、求職者が本当に欲しい企業の情報を十分に得られる状態ではありません」

伊達氏は「求職者が知りたいのに十分に得られていないと感じやすい情報」として、以下のような例を挙げた。

  • 実際の組織文化や職場環境
  • キャリアパスや昇進・昇格の機会
  • 能力開発の実態
  • ワークライフバランスの実現状況
  • ダイバーシティ推進の状況

求職者は、採用プロセスにおける説明会や面接時に社員のささいな振る舞いなどを観察し、企業の内実を推測するのだという。

企業と個人の関係が移り変わる現代に重要な採用戦略とは。10年後、日本全体における採用の在り方はどうなるべきか

問題提起2:企業が求職者へ開示すべき情報とは

求職者が情報を求める姿勢から、伊達氏は「企業情報をいかに社外へ開示していくかが重要」と考える。

人的資本経営に注目が集まる中、例えば、以下のような人的資本情報を開示する企業が増えている。

  • 女性の管理職比率
  • 男性育休取得率
  • 研修費用の金額
  • 社員のエンゲージメント

人的資本情報の開示は国際的に進んでおり、今後もこの流れが進むと伊達氏は言う。

「人的資本の情報開示を進めると、企業価値が高まるとの実証結果が出ています。同時に、人的資本の情報開示は採用においても有効だと考えられます。というのも、企業が開示した情報は、労働市場において求職者の目に入るからです」

企業による情報開示には、以下のようなメリットがある。

  • 求職者自身と企業の親和性の高さをすり合わせやすい
  • 求職者がキャリアを自律的に考える一助となる
  • 社外からの信頼性が高まる

「企業情報を事前に確認できる環境があれば、就活前からで企業の良し悪しを判断しやすくなります。自分が求めるスキルや関心のある内容、企業文化などから、『自分と価値観の近い企業に入りたい』と考えるようになるのです」

人的資本の情報開示は企業にとってもメリットがある。

「あまり名の知られていない企業や創業したての企業であっても、『自社に入社することでこれだけ成長できる』と伝えられます。これは、自社が求める人材像に近い求職者を引きつけることにもつながるでしょう」

しかし人的資本の情報開示は、あいまいな基準で開示されているケースが多いのが現状だ。実際、アメリカでは定型文のような開示にとどまっているという。

今後はソーシャルメディアを使った情報の開示も増加すると、伊達氏は推測する。ソーシャルメディアによる情報開示が進めば、より求職者の目に触れやすくなると考えられる。

問題提起3:情報の比較可能性とは

最後に、伊達氏は社外に開示する人的資本情報には「独自性」と「比較可能性」の二つが必要だと語った。

独自性の高い情報とは、自社ならではの指標や取り組みなどを指す。比較可能性が高い情報とは、自社と他社を比較して自社の良さを分かりやすくする指標のことだ。この先10年の採用を考えると、伊達氏は二つ目の「比較可能性」が特に重要になると考えている。

「例えば、企業文化を社外に発信することは容易ではありません。求職者は他社との違いを肌感覚で理解するしかないのが現状です。

すべての企業が共通の基準で企業文化に関する情報を開示できれば、各企業の違いがより明確になるでしょう」

一方で、伊達氏は、必ずしもすべての指標を比較できるようにしなくても良いと考えている。求職者が企業文化などをイメージしやすいように、複数の指標をピックアップする程度で十分だと語った。

ただし、情報開示については、企業がネガティブな情報を出しにくいという問題もある。

「求職者が開示されたポジティブな情報だけを見て入社すると、ミスマッチやリアリティショックを感じ早期離職につながりかねません」

また、情報開示は求職者だけでなく社内の人材にも影響を与えると伊達氏は語る。

「内容を実際よりも良く見えるように開示してしまうと、それに気付いた社員は不信感を募らせてしまいます。その結果、社員のエンゲージメントが下がり、離職の増加などにつながりかねません」

これまでの伊達氏の問題提起をまとめると、以下の通りだ。

求職者は情報の不確実性を解消したいと考えており、そのためには企業の人的資本に関する情報開示が欠かせない。また、開示する情報は他社と比較可能であると望ましいが、実態に即した情報開示を心がけなければならない。

企業と個人の関係が移り変わる現代に重要な採用戦略とは。10年後、日本全体における採用の在り方はどうなるべきか

林氏による問題提起1:企業は求職者から選ばれる時代へ

続いて、リデザインワーク株式会社 代表取締役社長 林宏昌氏が、労働力不足や求職者の志向の現状や変化を踏まえ、今後の採用トレンドについて提言した。

「今後は人手不足が加速していくとみられ、2040年には約1,100万人もの人手不足が見込まれています。採用は転換期を迎えており、求職者から選ばれる企業にならなければなりません」

かつて日本は終身雇用が当たり前であり、定年まで雇用する代わりに異動や転勤などの指示に従う「御恩と奉公」のような関係だった。しかし、近年は転職のハードルが下がっていることも影響し、企業と社員は対等な関係へと変わりつつある。

求職者のキャリアに関する志向の変化については、Adecco Groupの「人生100年時代」のキャリアビジョンに関する調査結果を基に解説した。キャリア構築について不安があると答えた人は76.9%に上る。キャリア構築に関する不安のうち、最も一番多いのは給与などのお金に関することで52.9%。二番目は自分の能力や気力を維持できるかといった不安で、28.6%だった。

「自分のキャリアに不安を抱えている人は少なくありません。キャリア構築に関する不安のうち、給与などのお金に関する不安の次に多いのが、自分のスキルに関する不安です」

近年はSNSなどからも情報を得やすいため、若手もベテランも『自分はこのままでいいのだろうか』と悩む傾向にあるという。

「若手、ベテランを問わず、転職を検討しながらキャリアを考えていくようになると思われます。そのような状況で、求職者がキャリアパスをより描きやすくするために、企業はどのような情報を開示するのか。採用の在り方やコミュニケーションの取り方をどう変えていくのかを考えていくべきではないでしょうか」

林氏は雇用の流動性の変化についても解説した。日経新聞によると、大手企業からスタートアップへの転職数が増加し、2018年度の8.6%から2021年度には21.4%まで増加した。

「大手とスタートアップにおける働き手の行き来は少なかったのですが、この5年で広がってきました。スタートアップの給与が上昇しており、スキルが高い人を採用できるようになっています。今後は、スタートアップに行った人が、大手企業に戻れるように、雇用の流動性をより高めることが必要でしょう」

参考:大企業から新興へ転職者7倍 縮む年収差が追い風│日本経済新聞

企業と個人の関係が移り変わる現代に重要な採用戦略とは。10年後、日本全体における採用の在り方はどうなるべきか

問題提起2:採用トレンドはスキルベース型へ

日本では現在、メンバーシップ型採用が主流だが、世界的にはジョブ型採用からスキルベース型採用にトレンドが移っているという。スキルベース型採用の詳細については、以下の記事で解説している。

「日本ではジョブ型はなじみませんでしたが、スキルベース型はなじむのではないかと感じています。スキルベース型を主流にするためには、各社員がどのようなスキルを持つのかを明確にする必要があります」

スキルベース型が進むにつれて、採用の要件定義も変化した。リクルートホールディングス2023年3月期通期決算発表資料によると、2022年1月から2023年1月にかけて、大卒資格を応募要件に含めている求人の割合は約37%も減少。大卒の資格があるからスキルが高いとは限らない。スキルを重視して採用する「スキルベース型」に移行している企業が増えていると考えられる。

「例えば、高校卒業後に働き、その後大学に入学して働く。そのように個人の生き方や人生デザインの多様化が進む中で、現在の『大卒を採用する』という構造は10年後も続くのでしょうか」

林氏は、これまでに共有した大きなトレンドの変化について以下のようにまとめた。

  • 2040年には約1千万人も労働供給が不足し、今後加速度的に人材不足になる
  • 世の中のトレンドが、メンバーシップ型からジョブ型、スキルベース型に変化していく
  • 若手の7割がキャリアに不安を抱えている。キャリアの見通し、スキル獲得、成長が重要な論点になっていく
  • 求人における資格や従来の前提も大きく変わっていく

「今後、求職者はキャリアや能力、スキルの拡張を軸に動いていくことが予想されます。企業側は、要員計画や採用活動においてスキルを把握し、必要なスキルを詳細に定義することが重要になると考えています。また、求職者のキャリア志向と自社で得られる経験をすり合わせることもより重要になるでしょう。人的資本の根幹である、一人ひとりの持ち味とスキルセットを軸に、採用戦略を再設計することが必要ではないでしょうか」

林氏は、採用のトレンドが大きく変化している中において、採用戦略を再設計しない企業は人手不足の影響を受ける恐れがあると提言した。

参考:2023年3月期通期決算説明│リクルートホールディングス

参加者との質疑応答

企業と個人の関係が移り変わる現代に重要な採用戦略とは。10年後、日本全体における採用の在り方はどうなるべきか

採用戦略への提言を受け、参加者と質疑応答が行われた。

アマゾンジャパン 篠塚氏:自社や他社の調査によって、求職者が一番重視している情報は、外部の口コミサイトなどで読める既存社員や元社員の書き込みだと分かりました。そうなると、「自発的に情報を発信すること」を、今後はどのように捉えれば良いのでしょうか。

伊達氏:既存社員や元社員など採用の関係者が絡まない情報のほうが、求職者の信用性が高いことは、学術研究において明らかになっています。いかに多角的に情報をキャッチできる環境をつくるかが重要です。企業から実態に即した情報を出した上で、外部の口コミサイトの情報や、人から聞いた情報など、さまざまな角度の情報を得られる状況にすると良いのではないでしょうか。

リデザインワーク 林氏:企業としては、社内にも同様に人的資本に関する情報を開示していく必要があります。特に「将来的にどのような会社にしたいのか」「会社が『人材』をどのように捉えているか」などの指標を設定し、外部の口コミサイトなどで書き込みされている情報との差分を開示することが重要です。社内と社外での実態にズレが生じているのであれば、社内向けに適切な施策を講じる必要があるでしょう。

LEOC 宮沢氏:人的資本の開示は、職場の価値を定量的な側面で伝えるには、とても良い手段だと感じています。企業文化や、既存社員の特徴などの定性的な価値は、どのように伝えれば良いのでしょうか。

伊達氏:人間の歴史をひも解くと、神話や寓話といった物語の形式で文化が伝えられているケースが多く見られます。採用活動でも同様に、「企業文化が伝わる自社ならではの魅力的なエピソード」をいくつか用意しておけると良さそうですね。エピソードに加えて、自社の魅力が明確に分かるような比較可能性の高い情報も一緒に伝えられると良いでしょう。

林氏:企業文化や風土は「あるビヘイビア(behavior)、行動の集積」だと考えています。どのような状況で、どういった行動、発言をする社員が多いのか。そこまで分解すると、「明るい」「やりぬく」といった言葉にとどまらずに、自社の企業文化や風土を比較可能なレベルで表現できるようになります。

グループディスカッション1:日本全体における採用の在り方はどう変わるべきか

続いて、グループディスカッションが行われた。

Aグループ

  • 株式会社シーユーシー 松浦 俊雄氏
  • オルビス株式会社 岡田 悠希氏
  • アサガミ株式会社 渡邉 幹文氏

Bグループ

  • 伊藤忠テクノソリューションズ株式会社 次藤 智志氏
  • テルモ株式会社 朝日 章吾氏
  • 株式会社メンバーズ 石田 勇矢氏

Cグループ

  • 株式会社構造計画研究所 畑山 暢氏
  • アマゾンジャパン合同会社 篠塚 寛訓氏
  • DAIWA CYCLE株式会社 佐々木 尚子氏

Dグループ

  • 水ing株式会社 堀井 緑氏
  • 株式会社LEOC 宮沢 泰成氏
  • 株式会社エビデント 尾佐 達朗氏
  • 多度津造船株式会社 篠原 敬周氏

最初のディスカッションでは、比較可能な情報の重要性や、スキルベース型への移り変わりといった採用トレンドを踏まえて、今後の日本全体における採用の在り方が議論された。ディスカッション後の全体発表では、各グループの代表者が議論の内容を共有した。

Aグループ

Aグループでは、新卒採用の難易度と雇用形態、外国籍社員の活用について話し合われた。業務委託の働き方が増加したことに関連して、社内での不足スキルをいかに補充するかについても議論した。

シーユーシー 松浦氏:新卒社員は先輩社員といかにつながりを持てるかが、定着や文化形成に影響します。今後、新卒採用の難易度が上がると想定すると、企業におけるコミュニティづくりを促進して、関係性の構築を進める必要があると考えています。正社員にこだわる必要があるのかを議論した際は、コアな業務を見分けた上で、業務委託の活用も見極めていくべきだと話しました。また、外国籍人材や業務委託者と協業していける環境を整える必要性を感じました。

林氏:企業におけるコミュニティの在り方は面白いですね。20年前は一度退職してしまうと戻ることが許されない雰囲気がありましたが、今はOB・OGのコミュニティが存在する企業も多く、コミュニティの在り方自体を考える重要性が高まっています。

伊達氏:今後は、企業が働き方の選択肢をどれだけ示せるのかが一層重要となります。採用においては「自社ではこのようなスキルを開発できて、このようなキャリア形成が見込めます」と内定者などにあらかじめ約束することが有用でしょう。

Bグループ

Bグループでは、学内ベンチャーを含め、雇用の多様化や流動性の高まりは避けられないとの見解が出たほか、採用は直接雇用から業務委託などに置き換わることについて議論された。

テルモ 朝日氏:大学発ベンチャーの数は、この5年間で倍の約4000社と大きく増加。学生の上位10%は大学発ベンチャーやスタートアップ企業へ就職するなど、大企業は押され気味です。学生の意識はESG(※)やサステナビリティに向いているので、企業ではこれらの取り組みや考え方などをアピールすることも重要だと考えています。
(※)Environment(環境)、Social(社会)、Governance(企業統治)を考慮した投資活動や経営・事業活動のこと

伊達氏:大学発ベンチャーなどに挑戦した後の人材を雇いやすい環境をつくれるかどうかが、企業側の課題になるでしょう。多様な働き方や経歴・実績についてウエルカムな姿勢を持つ企業が増えて、いずれは当たり前になる社会になると良いと思いました。

林氏:優秀な人ほどスタートアップ企業に就職する傾向にありますが、意外と成長していない人も多い。上司や先輩からフィードバックを受けられる機会が少ないからです。そう考えると、日本の大企業だと経験がある先輩からフィードバックを受けられることは、求職者にとって価値になると思います。良いフィードバックをして、恩義を感じてもらい、一度退職した優秀な人材がまた戻ってくるエコシステムをいかにつくれるかが、今後重要になるのではないでしょうか。

企業と個人の関係が移り変わる現代に重要な採用戦略とは。10年後、日本全体における採用の在り方はどうなるべきか

Cグループ

Cグループでは若い世代の意識が変わっているという話題から議論した。若い世代は、「社会への貢献度の高さ」「ワークライフバランスの取りやすさ」という考え方が重視されている。また、世界的に見ても人材の獲得競争は激しく、外国人材に負けないスキルが必要だ。

アマゾンジャパン 篠塚氏:AIなどの進化により労働需要も減っていくと考えられるため、組織の仕組みを整える人の重要性が高まります。また、近年の新卒社員は、「自分が何をしたいのか」「自分の成長にどうつながるか」といった軸を持つ人が増えている印象です。企業は何を提供できるかを考える必要があります。このほか、グローバル人材の育成という観点で考えると、優秀な外国人材に日本人は負けているケースが多いと感じます。企業の使命として、積極的に高校生から世界で通用する人材を育成し、底上げを図らないといけないと感じています。

伊達氏:この先10年間は、どういう場合に人を雇うべきなのか、何度も問い直していかないと取り残されてしまいます。人は、職場にロボットがいるだけで、仕事を奪われていなくても不安になることが分かっています。AI活用への移行期において、採用担当者も社員のストレスマネジメントについて考える必要がありそうです。

企業と個人の関係が移り変わる現代に重要な採用戦略とは。10年後、日本全体における採用の在り方はどうなるべきか

Dグループ

Dグループは、各社が抱える課題を共有した。自律型人材の増加により、企業は優秀な人材を自社にとどめることに苦労しているとのトピックも出た。

LEOC 宮沢氏:コロナ禍を経て働き方が大きく変わり、優秀な人材はワークライフバランスを重視するようになりました。自分の価値を理解して「テレワークができないなら入社しない」「職種を選択できなければ他社へ行く」といった行動です。優秀な人材が戻ってこられるようなカルチャーをつくったり、キャリアアップにつながる環境を提供したりといった工夫が必要だと感じています。時代に合わせて、企業も進化しなければなりません。

伊達氏:社会全体で人材を育てる方向に進むと良いですね。複数の会社で転職を繰り返しながらも成長していくイメージです。それには会社間の移動を成立させなくてはいけないので、採用の重要性が高まっていくと思いました。

林氏:スタートアップでバリバリ働きたい人だけではなく、終身雇用が良いと考える人ももちろんいます。自社はどのような人材マネジメントポリシーで組織運営をしていくのかをはっきりさせることで、どのような人材に魅力的な会社だと思ってもらうのかを決めることが重要になりそうですね。

グループディスカッション2:自社の採用で考えるべき課題とは

次に、自社の採用における課題について議論が行われた。

Aグループ

Aグループでは、採用手段と人材育成に焦点が当たった。採用手段は、リファラル採用を活用するほか、若い世代がよく利用するツールでの発信を試みている。人材育成に関しては、マネジメント層がキャリア教育も担う必要があると提言された。

オルビス 岡田氏:事業をスムーズに進める上では、どうしてもスキルセットの採用になりがち。すると、キャリアをある程度積んできたシニア層が多く残る構造となるため、いかにキャリアの浅いジュニア層を採用して育てられるかがマネジメントのがんばりどころではないでしょうか。

企業と個人の関係が移り変わる現代に重要な採用戦略とは。10年後、日本全体における採用の在り方はどうなるべきか

Bグループ

Bグループでは、企業は社内外から魅力的に感じられる必要があり、一般消費者や投資家、社内などに対しては「社会的な意義」、求職者に対しては「キャリアとスキル」に関する魅力を発信するのが効果的だという意見が出た。

メンバーズ 石田氏:自社とマッチした求職者を獲得するためには、「スキルやキャリア開発、働き方のイメージ」と「事業の意義」を伝えることが効果的です。それには定量と定性、つまり他社と比較できる数値と自社ならではのエピソードを含めて表現することが大事だと考えます。

Cグループ

Cグループでは、労働力人口の減少を受けてどのような採用戦略を選択すべきかについて議論した。「中途採用者をどのように自社の文化へフィットさせていくのか」「技術系職種が多い中で文系の人材をどう採用していくのか」など、各企業が抱える課題を共有した。

構造計画研究所 畑山氏:ビジネスのフェーズによって、必要な人材は変わります。必要なときに必要な人材を獲得するためには、人事と現場や業績、経営方針とのすり合わせが大切です。また、外国人材に活躍してもらうには、コミュニケーション方法なども最適化しなくてはなりません。

Dグループ

Dグループでも、労働力人口の減少によってどのような採用戦略を取るべきなのかや、テクノロジーの進化によって今後求められる人材などについて議論した。また、母集団を形成できない企業は、採用要件を緩めて社内で育成する方針をとっているとの意見もあった。

エビデント 尾佐氏:今後労働人口は減っていくので、社内でコア人材の要件を詳細に決めて採用数を減らし、会社のバリューを受け継いでいく人材の育成に焦点を当てる必要があるのでは、と議論しました。このような採用戦略によって企業は少数精鋭の集団となり、その人材が魅力的であれば価値観の合った優秀な人材が集まってくると考えています。

企業と個人の関係が移り変わる現代に重要な採用戦略とは。10年後、日本全体における採用の在り方はどうなるべきか

4グループの発表を基に、伊達氏と林氏が全体を総括した。

伊達氏:皆さんのディスカッションを聞いて感じたことが、二点あります。一つ目は「リボルビングドア」という概念です。本来は官民の組織を行ったり来たりすることなのですが、それだけでなく大企業とスタートアップだったり、都市部と地方だったりと、色合いの異なる企業を渡り歩けるようになることが大事なのではないかと思いました。そのためには、不確実性をなくすことが必要不可欠だと感じています。

二つ目は、さまざまな働き方が確立されることで、多様性が生まれると感じました。そこで肝となるのが、例えば「ビジョン」や「ミッション」です。経営に必要な「分化と統合」の観点で見ると、多様化は「分化」であり、どこかで「統合」が必要になります。「統合」を現場に任せると、マネジャーの負担が増えてしまうことが課題。採用において、いかに「統合」を促せるのかを考えると良いでしょう。

林氏:私も、今回のディスカッションでは大きく二つの学びがありました。一つは「採用は経営戦略」であるということです。採用は、自社のコア業務とノンコア業務をしっかり分けた上で、コア人材とノンコア人材を分けて、採用・業務委託などの全体設計を進めなければなりません。それは容易にできるものではなく、慎重に進める必要があります。

もう一つは、「いかに個人に寄り添っていくのか」ということです。その人が大切にする軸に、企業から寄り添っていかなければなりません。個人に寄り添おうとすると、まずは社内に目を向けて、内部の働き方や多様性を変えないといけないですよね。原点に帰って、社員に何を約束するのかが大切になると感じています。

本セッションのまとめ

本セッションのまとめ

当日知見をご共有くださった皆さま

※所属や役職は「リーダーズミーティング」開催時のものです。

有識者・プロフェッショナル

  • 伊達 洋駆氏
    株式会社ビジネスリサーチラボ 代表取締役
  • 林 宏昌氏
    リデザインワーク株式会社 代表取締役社長

大手・優良企業の人事リーダー(社名50音順)

  • 渡邉 幹文氏
    アサガミ株式会社 執行役員 人事部長
  • 篠塚 寛訓氏
    アマゾンジャパン合同会社 人事統括本部 人事部 部長
  • 次藤 智志氏
    伊藤忠テクノソリューションズ株式会社 経営企画グループ 人事総務室 室長
  • 尾佐 達朗氏
    株式会社エビデント 人事・総務 ディレクター
  • 岡田 悠希氏
    オルビス株式会社 HR統括部 部長
  • 畑山 暢氏
    株式会社構造計画研究所 リクルート部 部長
  • 松浦 俊雄氏
    株式会社シーユーシー 執行役員 CHRO 人事部長
  • 堀井 緑氏
    水ing株式会社 ガバナンス推進本部 総務人事統括部 採用・研修部 部長
  • 佐々木 尚子氏
    DAIWA CYCLE株式会社 管理本部 総務部 部長
  • 篠原 敬周氏
    多度津造船株式会社 執行役員 業務管理部 人事総務グループ グループ長
  • 朝日 章吾氏
    テルモ株式会社 人財開発室 室長 兼 人事部HRBP(本社担当)
  • 石田 勇矢氏
    株式会社メンバーズ ピープル&カルチャー本部 人財開発室 室長
  • 宮沢 泰成氏
    株式会社LEOC 人財戦略本部 本部長 兼マーケティング本部 本部長 上席執行役員
「採用戦略」のリーディングカンパニー

縦割りになりがちな評価・採用・育成・働き方を、人材マネジメントポリシーを定め、一気通貫で統合・推進するサポートをしています。また、採用において、採用要件が曖昧、採用効率が悪い、良い人材が採用できない等の課題に対して、スキルベースの採用を実現するプロダクト「SkillCanvas」を提供しています。

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