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企業成長を促すウェルビーイング。一人ひとり異なる幸せにどう向き合い、成果につなげるか

森永 雄太氏(上智大学 経済学部 経営学科 教授)
成瀬 岳人氏(パーソルワークスイッチコンサルティング株式会社 人的資本R&D部 部長)

掲載日:2024/03/25

社員のやる気を引き出し、中長期的なパフォーマンスを高めることを目的に、「ウェルビーイング(Well-being)」を高める取り組みに注力する企業が増えている。これまでも企業は社員の働き方やキャリア支援をはじめ、個人の幸せに関する施策に取り組んできたが、ウェルビーイングはそれらを包括的に捉える概念ともいえる。一方で、人によって幸せの在り方が異なることや、ウェルビーイングが差し示す範囲が広いことから、注力する領域や進め方が見えにくい課題もある。

2月2日に開催された「HRカンファレンス2024-冬-」~リーダーズミーティング~(以下、リーダーズミーティング)では、「何のため、誰のためのウェルビーイングか」と題したセッションを開催。「ウェルビーイング」のリーディングカンパニーであるパーソルワークスイッチコンサルティングの成瀬岳人氏、上智大学 経済学部 経営学科 教授の森永雄太氏を招き、活発な議論が交わされた。

Profile
森永 雄太氏
森永 雄太氏
上智大学 経済学部 経営学科 教授
成瀬 岳人氏
成瀬 岳人氏
パーソルワークスイッチコンサルティング株式会社 人的資本R&D部 部長

森永氏による問題提起1:ウェルビーイングの土台とは

セッションの最初に、森永氏からウェルビーイングに関する解説があった。

ウェルビーイングとは、個人が肉体的、精神的、社会的に満たされた状態のことを指す。マネジメントなどを通じて「社員の仕事や職場への満足度」を向上しようとする取り組みは「ウェルビーイング経営」とも呼ばれる。この考え方自体は新しいものではなく、社員の健康チェックや職場満足度調査などの形で、古くから行われていると森永氏は話す。

森永 雄太氏(上智大学 経済学部 経営学科 教授)

現在は、この社員の健康などの身体的次元、職場満足度などの心理的次元、「上司としての信頼感を醸成できているか」といった他者との関係性における社会的な満足度などの社会的次元が加わり、三つを合わせた重層的な捉え方がなされるようになった。

また、心理的次元に関しては、さらに議論が広がっている。仕事や職場に満足していても、それが必ずしも仕事の成果や社員のモチベーションに直結しないことがわかってきた。社員がポジティブ・ネガティブどちらの状態なのかだけではなく、活性化している状態の心理的次元のウェルビーイングに注目して、組織の成果につなげることが求められる。

森永氏は、ウェルビーイングを「2階建ての家」に例えた。土台となる1階部分には心身の健康などが当てはまり、2階部分にはモチベーションや満足度が含まれる。

「これまで企業は、社員のやる気や満足度のアップに力を入れてきました。しかし、1階部分が不安定な社員に、いくら2階部分を乗せようとしてもうまくはいきません。遠回りでも1階部分の土台をしっかり固めることが大事なアプローチです。

ただし健康管理はとてもパーソナルな部分で、食事や運動といった業務時間外の行動も絡みます。会社が制度を作ってトップダウンで進めていこうとしても、社員個人がその要望に応じなければ実現できません。自己管理の部分である、セルフマネジメントやセルフレギュレーションが重要です。そのため組織からの視点だけではなく、個人からの視点でボトムアップを図る必要もあるでしょう」

問題提起2:縦の糸、横の糸とは

次に森永氏が取り上げた課題は、ウェルビーイングがいわゆる「流行」に便乗した形だけの取り組みに陥ってしまう点だ。

「よくあるのは、制度を作って終わり、公式サイトでウェルビーイングをうたって終わり、というケースです。そうではなく、社員が『会社が変わってきた』と実感できる取り組みにしなければなりません。

そのヒントとなるのが、歌手である中島みゆきさんの『糸』という歌です。有名な歌詞に、『縦の糸はあなた 横の糸は私』というフレーズがあります。この糸を、ウェルビーイングの施策(意図)と考えてください。

ウェルビーイングは広い概念なので、これまでも人事をはじめとした各部門が多様な取り組みを行ってきました。健康なら健康推進部門、キャリアなら人材開発担当、その他にもハラスメント問題やダイバーシティ、職場環境の改善などがあります。

それぞれ独立して行われてきた各施策を「縦の糸」としたとき、それらをウェルビーイングという概念で一つにまとめるには「横の糸」が必要です。なぜなら、経営陣や人事は意欲的でも、実際に取り組む現場の社員は『また何かやることが増えた』と、他人事に感じている可能性があるからです。トップや人事の「意図」がちゃんと社員に届いているのか、すみずみまで浸透しているのか。縦の糸(意図)が紡がれているかどうかを、再確認する必要があるでしょう。

縦の糸を紡いでいくには、現場の管理職・マネジャーの理解が欠かせません。各職場に置き換えたとき、それぞれの現場で取り組みやすくなるように補足説明を加えたり、運用方法を変えたり。そういった工夫を引き出すことで、各施策の意図が多くの社員に届きます。そうして縦の糸(意図)と横の糸(意図)を織りなしていくことが、“強い実践”につながります。

ウェルビーイングの可視化に挑戦したパーソルグループの取り組み

世界150ヵ国でのウェルビーイング調査

続いて、パーソルホールディングスの中山友希氏が、パーソルグループが取り組む「はたらいて、笑おう。」グローバル調査に関してプレゼンテーションを行った。

パーソルホールディングス 中山友希氏

同調査は、パーソルグループがGallup World Pollを通じて世界約150ヵ国・地域で「はたらいて、笑おう。」の実現度を計測・可視化するために2020年より実施している。調査では三つの質問で人々の働くことに関するウェルビーイングの状態を測っている。

「私たちが特に注目しているのは、『Q3:仕事の自己決定』に関する質問です。『Q1:仕事の体験』、『Q2:仕事の評価』に強く影響を与えるものと考えています。Q3で『仕事や働き方の選択肢が多い』と回答した人は仕事だけではなく、5年後の自身の生活の豊かさを予想してもらう問いにもポジティブな回答をする傾向があるということが分かっています。はたらくことはそれそのものだけではなく、私たちの生活全般とも密接なつながりがあると言えると思います」

「はたらいて、笑おう。」グローバル調査

GDP(国内総生産)を客観的なウェルビーイング指標の一つとするならば、この調査では主観的ウェルビーイングに焦点を当てて、設問設計をしました。日本の結果を見ると、Q1の「はたらく喜び・楽しみ」は142ヵ国中97位という結果で、GDP(世界3位)とのギャップが特に目立つ。

日本の結果を見ると、Q1の「はたらく喜び・楽しみ」は142ヵ国中97位という結果で、GDP(世界3位)

中山氏は最後に、三つの質問と関連が深い設問の中から「日本でのスコアが低い設問」を紹介し、話題を提供した。

「これらの設問は、日本のスコアが特に低かったものです。逆に言えば、これらのスコアが高まれば、先ほどの三つの質問に好影響があると考えられます。興味深いのは、その内容が『仕事』に限らないという点です。仕事の満足度を高める上で『仕事をどうしていくか』はもちろん重要ですが、実は仕事以外の部分にもヒントがあるのかもしれません」

日本の伸びしろ

人によって異なる“はたらくWell-being”をひも解く試み

続いて登壇した成瀬氏は、パーソルグループが実施した調査を紹介した。「ウェルビーイングは人によって異なるが、何らかの傾向があるのではないか」と、慶應義塾大学の前野隆司教授、九州大学の池田浩教授と連携して調査を実施。「働く動機づけ」に着目し、ウェルビーイングに影響する要因をクラスター分析した。

成瀬 岳人氏(パーソルワークスイッチコンサルティング株式会社 人的資本R&D部 部長)

「パーソルグループで働く契約社員約400人から回答を得た結果、働く動機を大きく三つのクラスターに分けることができました」と成瀬氏は解説する。

「働く動機づけ」によるクラスター分類

最も多いC1群「副次的収入かつ居場所・交流型」は、情動的コミットメント(職場への愛着)が強いことに加え、ジョブ・クラフティング(仕事への意義・意味づけ)の要素に強く反応が出たという。

「C1群の方は居場所や交流を重視しながらも、自分の仕事に対して意味づけを行っています。現場のマネジメントの働きかけ次第で、C1群のウェルビーイングが向上する可能性があります。

もう一つ興味深いのが、C2群『主たる収入・生計重視型』の方々です。生計を重視して職種や企業(パーソルグループ)を選んでいることから、仕事や職場への愛着は低い可能性がありましたが、実際には『パーソルが成功すると自分のことのようにうれしい』という質問に対して『そう思う』と回答した人が多くいました。つまりこの層では、パーソルという所属会社に関する情報を発信・共有することで所属意識が向上し、ウェルビーイングも高まるといった仮説が考えられます」

「働く動機づけ」クラスターごと見たWellbingの影響

しかし、現場の管理職に結果を伝えたところ、期待ほどの反応は返ってこなかったという。なぜこのような調査が必要かという背景が共有しきれていないほか、管理職から見ると結果に違和感があることが原因と見られる。それらを踏まえて、成瀬氏はこうまとめた。

「経営の目的や現場マネジメントの葛藤、現場で働く社員の多様なニーズや思いを踏まえると、『ウェルビーイング』という言葉一つで同じ方向を向かせるのは簡単ではありません。

なぜなら、経営層から見れば企業のKGIやKPI、投資対効果がない施策に限られた投資を割くことは難しく、推進する側はその点にも配慮しなければならないからです。経営層から数字を求められる現場のマネジャーも同様で、『ウェルビーイングな状態』が業績アップ(自身が持つ成果目標の達成)や顧客への提供価値に直結する実感がなければ、忙しい中で労力を割くことは難しいでしょう。

ウェルビーイングの主語はあくまでも個人です。会社と個人のバランスを取ることは難しく、その意義を双方に理解してもらうには大きな労力が伴います。現在、私自身が推進する立場になって感じているのは、施策の実行によって『一人でも多くの社員の人生が良い方向へ向かうはずだ』と信じて進めていくしかない、ということです」

これらの発表に対し、森永氏からはウェルビーイングの対象者や時間軸についてコメントがあった。

「私たちがウェルビーイングを考えるとき、C1群のように『選択肢が多い人』を念頭に議論をしがちです。しかし、本当に考えなければならないのはC2群(主たる生計を担い、収入を重視する)の方々のウェルビーイングかもしれません。選択肢が少ない中で、人生をどう充実させていくのか。今後、非常に大きなポイントになっていくと思います。

そして、そのキーワードとなるのが時間軸です。ウェルビーイング推進においては『未来志向』で現在の充実度を高めていくアプローチがありますが、未来の時間軸では現状の不満感を解消できない人がいます。そういう人には、現在を充実させていくことが必要です」

グループディスカッション:ウェルビーイングの何に課題を感じているのか

四つのグループに分かれたディスカッションでは、それぞれ活発な議論が交わされた。最初のディスカッションでは、森永氏からのインプットを受けて参加者同士が語り合った。

Aグループ

  • サイボウズ株式会社 恩田 志保氏
  • シミックホールディングス株式会社 口村 圭氏
  • 株式会社荏原製作所 入江 哲子氏

Bグループ

  • 株式会社オークネット 竹之内 理希氏
  • SCSK株式会社 河辺 恵理氏
  • アサヒビール株式会社 三浦 一郎氏

Cグループ

  • NOK株式会社 江上 茂樹氏
  • 株式会社NTTデータグループ 矢口武史氏
  • マルハニチロ株式会社 若松 功氏

Dグループ

  • 株式会社キタムラ・ホールディングス 渡部 達二氏
  • 株式会社ゲオホールディングス 太田 克己氏
  • 株式会社ハピネット 秋元 真弓氏
  • パーソルホールディングス株式会社 中山 友希氏

Aグループ

Aグループでは、ウェルビーイングを推進する上で課題となる、それぞれの施策の意義の浸透と各部署の連携を例えた「縦の糸、横の糸」について共感の声が多かった。また、糸の例えをベースに、推進していく上で発生する「糸のヨレ」についても言及があり、推進することの難しさが浮かび上がった。

荏原製作所 入江氏:施策を推進するにあたって、縦の糸(意図)を紡ぐという話にグループ全員が感銘を受けました。私自身、ダイバーシティ・エクイティ&インクルージョン推進部で活動しており、ウェルネス、ウェルビーイングなどさまざまな取り組みについて管理者と議論をしています。その中でよく相談されるのが、積極的に施策や制度を活用する社員がチーム内に成果を返せないと、チームの雰囲気に影響を与える「糸のヨレ」が発生してしまうことです。また、施策やマトリクスの交点となる結び目が大切だという話にもなりました。

森永氏:交点となる部分には、管理者や推進部門を作り、そこをうまく活用していくことが大事だと思います。

グループディスカッションの様子

Bグループ

Bグループでは、健康経営や働き方改革などで先進的な取り組みを進めているSCSKの事例を中心に議論がスタート。「残業時間20時間以下、20日間の有給休暇取得率90%」という同社の現状に対して、感嘆の声が挙がっていた。

SCSK 河辺氏:当社では働き方改革、健康経営を超えるウェルビーイング経営を目指して取り組みを進めています。これまでにもさまざまな施策を行っており、実際に数字となって表れてきています。現在はウェルビーイングの定義について、自社なりの価値観を表す指標を作成し、ベンチマークの調査を行いました。調査を進めていくと、各組織によって、やりがい軸や未来創造軸で差が発生していることもわかりました。現在考えているのは、「やりがいや未来創造の活性化について、具体的に現場組織で何を実施していけば良いか」。このことについてアドバイスをいただけますか。

森永氏:SCSKさんでは、すでに土台ができていることから2階部分に着手されていますが、現代はそこが昔より難しくなっています。社員それぞれにやりがいが異なるからこそ、違いを生かして対応していく時代になっています。

参考までに、あるシステムエンジニアの調査を紹介します。その調査では、自律的に仕事ができる環境を用意しても、その環境・状況を持て余してしまう人が多いことがわかりました。環境をうまく使うには個別対応的なマネジメントが必要です。社員それぞれに合わせた支援があると、環境を上手に活用できる社員が増えていくのではないかと思います。

グループディスカッションの様子

Cグループ

Cグループでは、ウェルビーイングを2階建ての家に例えた視点に注目。あらためて1階部分が社員の健康である点を確認し、1階と2階をつないでいくことの必要性を実感し合った。

NOK 江上氏:ウェルビーイングを2階建てに例えた場合、1階部分は健康以外に企業文化なども入ってくるのかがグループ内で議論となりました。

また、縦の糸と横の糸の話も挙がりました。例えば、縦横の糸以外に、企業が描く全体のストーリー、ビックピクチャーが必要なのではないか、あるいは、社員に施策の意図が伝わるようにするにはどうしたらいいか、も議論になりました。この点についてはいかがでしょうか。

森永氏:2階建ての例えは、個人レベルのウェルビーイングを指しています。職場ごと、組織全体での2階建ての構築は、さらにその上の次元になるでしょう。それだけに難しい部分も多く、今の施策が1階部分なのか、2階部分なのか。1階部分であれば、それはウェルビーイングに関連しているものだとそれぞれの職場や組織に発信し、自社が目指すウェルビーイングに集約していかなければなりません。

糸に関しては、ビックピクチャーを描き、企業として各部署が行っている施策がウェルビーイングに関連していることを伝えていくことがすなわち「横の糸」になります。「隣の部署がやっていることは、自分たちとは関係ない」ということではないのです。一つひとつの施策がウェルビーイングに関連していることが社員に伝わっているかについては、「縦の糸」になります。経営陣が社内向けに発信しているだけと捉えられてしまうのは本末転倒です。だからこそ、縦の糸も横の糸も大切なのです。

グループディスカッションの様子

Dグループ

Dグループでは、それぞれ自社で行っている取り組みを紹介しながら、各施策の課題について言及した。サーベイを実施している企業からは、数値化されることで数値の低い部署が責められたり、数値だけが独り歩きして悪用されたりしてしまうリスクが語られた。

ハピネット 秋元氏:私たちも他のグループと同様に、縦の糸と横の糸の例えは実感を伴う話だと感銘を受けました。そこで質問ですが、この縦の糸だけではなく、横の糸が大事であると気付かれたきっかけは何かあるのでしょうか。

森永氏:ウェルビーイングに先進的に取り組まれている企業に話をうかがうと、その多くは良い制度を作り、体制を整えていました。しかし、その意図が実際に現場の人にまで届いているのかを推進担当者に尋ねると、「そこは別物である」といった言葉が返ってくることが多いのです。研究者としてはその原因を知りたく、突き詰めていったら、連携や制度構築の意図を伝えることの重要性が表面化してきました。

グループディスカッションの様子

グループディスカッション:ウェルビーイングをどう推進していくのか

2回目のディスカッションでは、ウェルビーイングに関係する九つのキーワードから各グループが選んだ話題について話し合い、その内容が共有された。

ウェルビーイングに関係する九つのキーワード

Aグループ

Aグループは、「はたらく」「マネジメント」「キャリア」をピックアップ。自社の状況や課題などを語り合った。

シミックホールディングス 口村氏:キーワードからさまざまな話が派生しましたが、そもそもボトムアップで社員一人ひとりに合わせていかなければウェルビーイングにはならないという点を確認し合いました。

そこで再び、糸の話になりました。縦の糸と横の糸を誰が編むのか。うまく編む条件を考えたとき、現場のマネジャーが重要な役割を果たすというのが一つの答えでした。ただ、うまく編むには現場のマネジャーがどういう状態になれば良いのか。また、ウェルビーイングに取り組んでもミッションやビジョンとかけ離れていては意味がなく、そこを現場のマネジャーにうまく結節してもらうには、人事が動いていかなければならないといった話が出ました。

森永氏:「誰が編むのか」は非常に重要な課題です。特に縦の糸については、現場のマネジャーなどの管理者に、ウェルビーイングを高めることが自分の役割だと思ってもらう必要があります。一方で、どの施策においても現場のマネジャーはキーパーソンであり、とても忙しいのも事実です。この問題を解決することが、実は一番重要かもしれません。

Bグループ

Bグループでは全員が「エンゲージメント」を選択したが、「ウェルビーイング」や「パーパス経営」などの取り組みとの違いが難しいといった声が挙がった。

オークネット 竹之内氏:ある企業の事例では、エンゲージメントスコアが高い組織はコンプライアンスを順守する傾向が高く、この2点は相関性があるのかもしれません。組織に心理的安全性があれば不正のグレーゾーンであっても指摘でき、浄化作用が働くのではないかといった話をしました。

エンゲージメントをはじめとしたサーベイの限界についても指摘がありました。硬直化した組織では上司への忖度(そんたく)が働き、正しい数値が出ない可能性が高い。加えて、ウェルビーイングは個人にひもづくものであり、サーベイだけでは測れないのではないでしょうか。とはいえ、組織の健全化と個人のウェルビーイングに相関性があるならば、ウェルビーイングは本当に広い意味での「健康」だという気付きを得ました。

森永氏:ご指摘の通り、サーベイには限界があります。数字が独り歩きしがちなことから、うまく使っていくことが肝要です。

「規律が伴うこと」が、社員の安心感やウェルビーイングにつながるというのは興味深いですね。自律的に取り組むことはウェルビーイングにつながるといった話はよくあります。しかし、「何でもやっていいよ」と任せられ過ぎると、何が正しいのか、何が自分でやることなのかがわからなくなる恐れもあります。そういう意味では、コンプライアンスを守るといった規律的な環境は大事かもしれません。

Cグループ

Cグループでは「エンゲージメント」と「マネジメント」について議論が交わされ、自社の事例から浮かぶ課題について語り合った。

NTTデータグループ 矢口氏:私たちのグループもエンゲージメントのスコアの限界について指摘が挙がり、「スコアをどこまで追いかけるべきか」「そこに意味があるのか」について議論しました。

もう一つのキーワードは、マネジメントです。個人の意思を尊重しながらもバランスを取ることが大事である点は、全員共通の認識でした。経営層や人事、社員は、ウェルビーイングに対して前向きだけれど、現場を預かるマネジャーや事業責任者からは懸念の声がある点も同様でした。「社員の自由」に任せたとき、現場の数字を預かるマネジャーたちが管理できなくなってしまうのではないか、そこに対して人事は何をしてくれるのか、という声です。この「社内で発生するコンフリクトをどう解決していくか」は共通の悩みでした。

森永氏:そうしたジレンマを解消するには、間接的なマネジメントが必要です。昔のような一律的で統制的なマネジメントではなく、方向性をそろえていくといった、これまでとは質が異なるマネジメントが求められているのでしょう。今後、考えていかなければなりません。

Dグループ

Dグループでは「マネジメント」「キャリア」「学び」「エンゲージメント」が選ばれ、幅広い議論となった。

キタムラ・ホールディングス 渡部氏:それぞれが異なるキーワードを選びましたが、共通した悩みは「社員個人にどう向き合うか」でした。

例えばマネジメントでいうと、マネジャーの変更によるエンゲージメントスコアの増減にどう対処したらいいか。キャリアは、ローパフォーマーの社員にどうアプローチすればいいのか。学びでは、一人の社員が自分の得意分野を認識し直す機会があったことで、仕事のパフォーマンスが劇的に向上した例などがあり、さまざまな切り口から見ても、最終的には個人の可能性の拓き方につながっていくといった話になりました。

森永氏:現場で、個人がウェルビーイングであるかどうかを知ることは難しいですよね。ただ、組織の中でそれぞれが重要な役割を果たしていることや、役立っていることを実感してもらうことは、ウェルビーイングを高めていく上で非常に大きなポイントとなります。少し話が飛躍しますが、個人にそれを伝えていく、または伝えられる機会を意図的に生み出していくことが大切ではないでしょうか。

成瀬氏:個人との向き合い方に関しては、限られた数の推進担当者だけでは対応できません。いかに社内に「仲間」を増やし、社員の向き合い手を増やしていけるかが鍵となるでしょう。例えば、向き合ってもらった社員が、次は自身が向き合う側になるような仕組みを作るなど、推進担当者だけが努力するのではなく、現場の人たちにも動いてもらえる状況を作っていく必要があると感じます。

グループディスカッションの様子

何のため、誰のためのウェルビーイングか

最後に、これまで出てきたキーワードを振り返り、「何のため、誰のためのウェルビーイングか」について各グループで議論。互いの感想を述べ合いながら、インプットした知識を整理した。

森永氏からは総括として、経営学が、人の重要性と組織戦略の重要性を相互に行き来してきた歴史が語られた。

「人事や経営学の領域には流行がありますが、大きく見ると“人が大事”という時代と、“組織が大事”という時代が繰り返されてきました。しかし、同じところを回っているのではなく発展しており、各社の取り組みは少しずつ良い方向に向かっています。目指すべきは、らせん階段のように少しずつ上に向かっていくこと。課題は会社によって異なりますが、同じようなことをしていても、階段の2階部分から3階部分にバージョンアップしているとうれしいですね」

本セッションのまとめ

パーソルワークスイッチコンサルティング(ウェルビーイング)

当日知見をご共有くださった皆さま

※所属や役職は「リーダーズミーティング」開催時のものです。

有識者・プロフェッショナル

  • 森永 雄太氏
    上智大学 経済学部 経営学科 教授
  • 成瀬 岳人氏
    パーソルワークスイッチコンサルティング株式会社 人的資本R&D部 部長

大手・優良企業の人事リーダー (社名50音順)

  • 三浦 一郎氏
    アサヒビール株式会社 企画・支援本部 人事総務部 副部長
  • 河辺 恵理氏
    SCSK株式会社 執行役員 人事・総務分掌役員補佐 (D&I・Well-Being推進担当)
  • 江上 茂樹氏
    NOK株式会社 上席理事 社長付 戦略人事担当
  • 矢口 武史氏
    株式会社NTTデータグループ コーポレート統括本部 人事本部 人事戦略統括部長
  • 入江 哲子氏
    株式会社荏原製作所 部長 人事統括部 ダイバーシティ・エクイティ&インクルージョン推進部 (DE&I) CIOOffice/情報通信統括部 チェンジマネジメント
  • 竹之内 理希氏
    株式会社オークネット 人事部 GM
  • 石田 雅彦氏
    オリックス生命保険株式会社 執行役員 人事・総務本部管掌 コンプライアンス部管掌
  • 渡部 達二氏
    株式会社キタムラ・ホールディングス 執行役員 人事企画室長
  • 太田 克己氏
    株式会社ゲオホールディングス 執行役員 労使福祉部 ゼネラルマネージャー
  • 恩田 志保氏
    サイボウズ株式会社 人事本部 副本部長
  • 口村 圭氏
    シミックホールディングス株式会社 CHRO
  • 中山 友希氏
    パーソルホールディングス株式会社 グループコミュニケーション部 はたらくWell-being推進室 室長
  • 秋元 真弓氏
    株式会社ハピネット コーポレート管理室 組織開発部 リーダー
  • 若松 功氏
    マルハニチロ株式会社 執行役員 Executive Officer
「ウェルビーイング」のリーディングカンパニー

当社は、主に企業のBPRを支援する「業務コンサルティング」、AIやAutomation技術を活用した「テクノロジーコンサルティング」の2つの領域で事業を展開しています。あらゆる人々と組織に向けて、パーソルグループが保有する人と組織に対するソリューションを活かし、「はたらき方の転換」をするための支援をします。

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