本日は、組織を活性化させるリーダーの育成について、お話したいと思います。リーダー育成を考えていく上でまず大事なことは、組織の内側だけでなく、外側にも目を向けるということです。
日本のGDPの推移を見ると、バブル崩壊以前は人材面で特に問題を抱えることがなく、成長を実現できていました。その点では、外部環境と内部のシステムは整合していたといえるでしょう。
しかし、バブルの崩壊後、低成長が続いた「失われた20年」では、その状況が一転しました。企業は採用を抑制し、教育費を削減。また、その後、リーマンショックによってマイナス成長に転じてからは、「団塊世代の退職」「グローバル化」「職場のダイバーシティ化」「ゆとり世代の入社」といった変化が次々と起き、最近では外部環境の変化に内部体制が追い付けない状況が続いています。
このような状況の中で、経営者にはどのような意識変化が起きているのでしょうか。社団法人日本能率協会が2010年に、国内主要企業の経営者を対象に行なった「当面する企業経営課題に関する調査」を見ると、リーマンショック後のここ数年だけでも、細やかな意識の変遷が読み取れます。
特徴的なポイントを上げると、まず2008年~09年では財務体質強化、ローコスト経営への意識が増し、まだ守りの意識が強い状態です。しかし、09年~10年では技術力強化、現場力強化への意識が増し、視点が先々の展望へと向かいます。
10年~11年の将来予測に関する回答では、新事業開発・創造、事業再編・変革、グローバル化への意識が増し、現場力強化だけではなく、これまでとは違うチャレンジが求められていることがわかります。企業にとっては、次なる10年を見据えたリーダー育成、人材投資を行うことが重要であり、拠点や業界におけるグローバル化に、どのように対応するかが問われているのです。
では、求められるリーダー像とは、どういうものなのでしょうか。いま、企業に必要なのは、創造と変革を担えるリーダーといえますが、そのためには三つのスキルが求められます。
一つ目は「経営の定石(ビジネスフレームワーク)」の知識です。要素としては、マーケティング、ファイナンス、アカウンティング、人的資源管理、リーダーシップ、経営戦略、オペレーション、情報システムなどが上げられます。
二つ目は「本質を考え抜く思考力」。何をすべきかを認識し、実行する能力です。的確な状況判断力や分析力、問題発見力、解決能力、戦略的思考、バランス感覚、大枠を捉える能力、優先順位を理解できる能力などが含まれます。グロービスでは、本質を考える思考力を磨く「クリティカルシンキング」クラスを設けていますが、今では年間3,000人が受講する人気講座となっています。
三つ目は「人を巻き込み引っ張る力」。人的資質・姿勢(ヒューマンスキル)です。人に伝える力、説得力、交渉力、人をやる気にさせる力、人間的魅力、信用、人望、人間力などが含まれます。
最後に、これらをまとめる核として、「信念・志」というマインドも必要になります。昨年、企業で活躍するハイパフォーマーにインタビューを行ったのですが、その中で「信念」に関しては、「他者を利する」というキーワードが浮かび上がりました。ハイパフォーマーには、「他者や社会に貢献する」という気持ちが原動力となる人が多いようです。
次に、活性化した組織の状態について考えてみましょう。高い「能力」と「信念・志」を持った個人が集っていたとしても、組織として大切にすること、目指すべきことがバラバラでは強い組織力は生まれません。
組織が活性化した状態では、理念・ウェイを軸として、全社員が大切にすべきことの一致が図られています。それによって、社員一人ひとりは自律自走できるようになりますし、組織力にもつながります。企業では今後、このような「ウェイマネジメント」が重要になっていくでしょう。
最後に、リーダー育成の事例を一つご紹介します。大手メーカーの選抜部長20名に対して行われた、全20日間(1泊2日×10ヵ月)の研修プログラムです。急速にグローバル競争が進展する中、グローバルマネジメントを実現する上での経営人材の育成が急務となったことが、その背景にはありました。
最初の7ヵ月で、自社がこれからの経営環境の中で大切にすべき「ウェイ」を言語化し、経営陣に提言。その後の3ヵ月で、経営陣から了承をもらい、「ウェイ」とその「ストーリー」を明文化。職場に帰ってからは、自らがリーダーとして展開活動を推進します。メンバーに「ウェイ」「ストーリー」を配布して座談会などを開き、ウェイの浸透を図っています。
現在は混迷の時代といえますが、だからこそ、人材投資が重要になってきているのです。視界不良の中、また、競争環境がますます厳しくなる中で、組織活性化を考える際の重要なファクターはやはり、リーダーです。リーダーが持つべきスキルとマインドを育て、そこに理念・ウェイを浸透させていくことこそ、いま人事に求められていることではないでしょうか。