本日は、創造性を発揮する組織づくりについてご説明したいと思います。 私は、継続して好業績を収めている企業のトップの方々と対談したり、お話を伺ったりする機会が多いのですが、それらの企業には多くの共通点があることに気づきました。いずれも創造性を発揮して成功している組織であり、そこには「4つのステップ」が存在しました。今回は、ひとつひとつのステップをさかのぼりながら企業事例も交えてお話します。
私が話を伺った企業には、いずれも「創造を生む仕掛け」がありました。
●A社(飲料メーカー)
創業以来、連続して増収を維持しています。その原動力は革新的、画期的なビジネスを生む力であり、その背景にはある提案制度がありました。ほとんどの新規ビジネスはこの精度から生まれています。
●B社(製薬メーカー)
15年前に組織の大改革を行い、それ以降増収が続いています。「明日のB社を考える会」(仮称)から様々なアイデアが生み出されています。15年前は年間の新製品は4点でしたが、今では年間200点の新製品が生まれています。
●C社(電気設備資材、管材等の製造・販売)
毎日のように新製品を送り出していて、抜群の収益を上げています。社内には「常に考える」という看板がそこかしこに貼り出されていて、年間1万件もの提案があるそうです。
こうした事例を見ていると、仕掛けさえ作ればうまくいくように見えるかもしれませんが、現実はそんなにうまくいきません。そこで、前述した企業に、「仕掛けが機能してない会社が多いのに、なぜ御社ではアイデアが出てくるのですか」と尋ねてみました。
●A社
「人に頼るのではなく、一人ひとりが考える文化があるから」との回答でした。では「なぜそのような文化になったのか?」と聞くと、チャレンジすることが奨励され、失敗も受け入れてきたからとのこと。会長は「社員の失敗くらいで会社はつぶれない。必要経費だ」「失敗しろ」「失敗したくないなら辞めてくれ」ということを言い続けたそうです。
●B社
様々な改革を行ってきましたが、今振り返って見ると、一番効果があったものは、日常のコミュニケーション改革だったそうです。例えば、肩書きで呼び合うのをやめて、「さん」付けかニックネームで呼び合うように変更。意外だったのはその効果で、「これでコミュニケーションが取りやすくなった。それがよかった」とおっしゃるのです。
以前はポジション意識が強いため、上司と部下が話し合っても、部下は自分の頭で考えず上司に頼り、上司も部下の育成という視点を持たず一方的に指示を出していました。一見コミュニケーションは潤滑ですが、表面的な会話で終始し議論が深まらないのです。しかし、「さん」付けで呼ぶことをきっかけに、ポジションによらない本音で語るコミュニケーションを推進したのです。その結果、お互いが自分の頭でしっかり考え、きちんと議論するようになり、創造的なアイデアが数多く生まれました。
これらの例からもわかるように、「創造を生む仕掛け」の前段には「問題解決の話し合い」があります。要するに、「固定概念・既成概念・ポジションパワー・失敗への恐れ」を打破できるだけの環境があったということです。それが「社員同志が素直に話せる雰囲気を作ること」であり、「ポジションではなく事の成否で判断することの実行」であり、「失敗への寛容さ」であったと言えます。
しかし、「率直に話しなさい」「思ったことを質問しなさい」「ポジションを意識しないように」「失敗を恐れないで」などと社員に言っても、なかなかできるものではありません。では、その前段として社内には何が必要なのか。それは「良好なコミュニケーション」です。日頃から気楽に話せる関係をつくるために、オフィスレイアウトを工夫したり、飲みニケーションを増やしたり、社内イベントを企画することも効果があります。
しかし、コミュニケーションの機会はあっても、うまくいかないことがあります。その理由を心理学的な観点で言うと、人は「愛・所属」「力・価値」「自由」「楽しみ」「生存」といった基本的欲求を満たせないと、効果的な行動を取れなくなくからです。悪化するとメンタル不全に陥ることさえあります。こうした状態で良好なコミュニケーションをとることは不可能です。大前提として「自分ひとりで欲求を満たす」ことが必要なのです。そのためには本人の努力と管理者の支援が必要になります。管理者は「健全に欲求充足できる職場」をつくることが必要なのです。
創造性は制度を設けたから発揮される訳ではなく、こういった地道なステップが必要です。事例としてご紹介した企業では、自然とこれらのステップを踏んでいるのです。