「人材の適材適所を実現するには、どうすればよいか」と、人事部の方からよく相談を受けます。そこで「御社が考える適材適所とは、どのような状態ですか」とお聞きすると、経営者、人事部長、事業部長それぞれで、意見が異なっていることがよくあります。
「今は〇○ができていない」といった、ネガティブな意見が多いことも特徴です。しかし、その原因についてたずねると「なんとなくうまくいっていない」など、あいまいな答えが多いのです。
そこで、「御社が望まれるのは適材適所ですか、それとも適所適材ですか」と質問するようにしました。「適材適所」とは、人の能力や特性を評価して、ふさわしい地位や仕事につけること。一方の「適所適材」は、仕事や地位に必要な特性を把握して、ふさわしい人を割り出していくことです。前者は経営者からの回答に多く、後者は人事部からの回答に多いという傾向がありますが、経営者と人事のコンセンサスが取れている会社は、適材適所はうまくいっています。
ここで、適材適所の成功事例をご紹介していきましょう。一つ目は専門商社です。営業の適材配置を行うことで、当初の30名から現在の700名まで、企業規模を順調に拡大されています。
この会社の社長は、人材配置に長けた方でした。どうしたかというと、顧客である個人事業主を「どのように意思決定をする人なのか」でタイプ分けし、自社の営業は性格検査や経験などを基に人材データベースをつくり、エクセルの相関係数から、どの組み合わせで営業成績が高くなるかを見たのです。この会社は、トップレベルの営業ばかり作るのではなく、顧客と相性のいい営業を多く育てようという考え方がベースにありました。
次は流通小売業の会社です。赤字店、大型店、新店、競合激戦店など、それぞれの店舗タイプにマッチした人材を、店長に配置したいというご希望がありました。最初は外部の業者を使って、実績のある社員に聞き取り調査を行い、タイプを分けようとしましたが、結果は1パターンしか見えませんでした。これは、「話し手」が「聞き手」に合わせて答えてしまっていたことが原因でした。
そこで次は、インタビューデータを排除し、店舗データと、性格検査や異動歴などの人材データだけで対比させて相関項目調査を行ったのです。すると、納得感のある答えが得られました。
最後は、信販会社の例です。交代したばかりの社長が人事異動のやり方に疑問を持ったことがきっかけでした。その企業では、「前任者に近い人材を当てはめる」といった意志のない人事を行っていたため、その見直しを求められたのです。
最初の1年は、業務内容を分析した仕事情報と、社内にどのような経験・スキルの人材がいるかという人材情報をつくり、この二つの情報をマッチングさせていきました。その結果、2年がかりで人材を再配置することができたのです。
通常、人材配置を行う時は、現場ニーズを主体に考えてしまいがちです。現場の希望を優先すると、「結局、前任者のイメージしかない」「特定の人材を指名したいのが本音」「高注目部署に人材が集中」といった弊害も生まれます。適材適所を目指すのなら、紹介事例のように、仕事情報と人材情報の両方からアプローチすることがポイントです。
適材適所の究極形は、業務の総和と必要な人材量がイコールになった状態です。しかし、実際は仕事と人材には必ずギャップがありますから、その差を埋めるため、異動決裁権限を明確化し、配置の優先順位を決めなければなりません。そして人材が足りなくなる場合に備え、計画的に確保する仕組みも必要です。
結果、仕事や人材に関する多くの情報を効率的に運用するには、これまでの人事給与システムにはない、独立した人材情報システムが必要になるのです。
また、キャリアパスやCDPがうまくいかないという声も多くありますが、これは1割程度しかない優秀人材の適所配置と、9割を占める一般のルーティン化された異動を区別できていない点が問題です。人事部が全ての異動できちんと仕事情報を持った形でマッチングを行えば、もっと意志を持つべき異動にパワーを割くことができます。
ここからは、人材情報システムの概要をご説明します。人材情報システムのデータでは、「将来の希望」「スキル」「長所・短所」など、給与システムにはないアナログなデータが重要です。
よいシステムにするには、現場の生の情報を集め、継続的なメンテナンスを行っていかなければなりません。そのためには現場からの入力が不可欠ですが、現場の協力を得るには、「現場がシステムを使ってメリットがあること」「使いやすいこと」の2点が必要です。
現状では、ウェブ上で使える、グループウェアのような仕組みが最適ではないかと思います。権限を設ければ、必要な情報に自由にアクセスすることもできます。
例えば、スキル情報は本人がメンテナンスすることで、上司は確認・評価がしやすくなり、マネジャーはスキルマップから部門の戦力を把握することも可能になります。適材適所の人材配置を実現するために、ぜひ有益なシステム化を考えていただきたいと思います。