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基調講演

「企業をのばす『見える化』 - 人事部が変われば現場も変わる」

遠藤 功氏
早稲田大学ビジネススクール教授
株式会社ローランド・ベルガー 日本法人会長
遠藤 功氏(えんどう いさお)
プロフィール:早稲田大学商学部卒業。米国ボストンカレッジ経営学修士(MBA)。三菱電機株式会社、米系戦略コンサルティング会社を経て、現職。早稲田大学ビジネススクールでは経営戦略論、オペレーション戦略論を担当。ローランド・ベルガー日本法人会長として、経営コンサルティングに従事。「結果の出る」コンサルティングとして高い評価を得る。ローランド・ベルガードイツ本社・経営監査委員。中国・長江商学院客員教授。

「ホラ」と「ノリ」の不足で、日本企業には元気がない

遠藤 功氏/講演 photo多くの日本企業は今、元気がなく、不健全な状態に陥っています。なぜこうなったのかというと、二つのことが欠けているからです。

一つ目は「ホラ」です。経営者がホラを吹かない――つまり、夢を語っていないのです。今こそ大ボラを吹いて、社員たちを元気にしなければならないのに、全くできていません。二つ目は「ノリ」です。とにかく今、職場のノリが悪い。これは「コンプライアンス」「残業規制」「IT化」などにより、縛りが強くなっているためです。人事部の皆さんには、ぜひ社長に「ホラ」を吹かせ、職場の「ノリ」が良くなるような施策を考えて欲しいと思います。

今を「次の50年の成長曲線の入り口」と考えると前向きになれる

それでは、日本の今の状況をどう捉えるべきかについて、お話したいと思います。リーマンショック以降、日本は元気がなくなったと思っている方は多いと思いますが、決してそんなことはありません。元気がないのは、実は構造的な問題なのです。

過去50年の日本の成長曲線をイメージしてみてください。高度成長で右肩上がりが続き、バブルをピークとして、それ以降はなだらかに下降しています。現在は、それをみんなで下に落ちないように支えている状態です。しかし、一つの事業や企業における盛りの寿命は30年とも言われます。下り坂に入ってしまったものをいくら支えても、なかなか元気にはなれません。

では、現在の状況をどう捉えるべきなのでしょうか。元気で前向きな気持ちになるためには、次の50年の成長曲線の入り口にいると考えることが大切です。そうするとモノの見方が変わってきます。「次の成長曲線を描こう。そのために人事が何をしたらいいかを考えよう」と。

次の50年の成長曲線を描く人たちは、間違いなく、現在の役員や部長たちではありません。20代、30代、そして40代前半くらいまでの、いわゆるミドルよりも下の若い人たちです。人事として、これから育成を考えるべき対象は、この人たちです。どう育てるか、どう動機づけるかによって、次の成長曲線が変わってきます。

では、次の成長曲線を描くために、今一度、経営を構成する要素について確認してみましょう。経営には3つの要素があります。一番上にあるのは「ビジョン」です。これは「ホラ」であり、「旗」です。ビジョンの下は「競争戦略」。わかりやすく言うと、「自分たちがチャンピオンになれる土俵」はどこなのかを考えるということです。そして、その競争戦略を支えるのが「オペレーション(現場)」です。日本はこれまで、ここが強かった。今や、戦略はどの企業も似たり寄ったりで、差がつくのはその実行力です。そして、実行力を左右するのが現場です。強い企業になるためには、強い現場を作っていかなければならないのです。

これまでの日本の競争力を支えてきたのは「現場力」

遠藤 功氏 photo現場の強さを生かした成功例を紹介しましょう。皆さんは、北海道旭川市の旭山動物園をご存じでしょうか。動物の特性を見せる“行動展示”で他と差別化し、年間304万人(2006年)もの人が来園するほどの人気です。これは、現場スタッフの思いを生かして、改良を重ねてきた結果なのです。

旭山動物園は、今から15年前の1995年には、少子化や施設の老朽化、エキノコックス病の風評被害などの影響もあって、年間入園者数が28万人まで落ち込み、閉園の危機にありました。この頃、状況をなんとか変えたいと思った現場の飼育員たちが、自分たちの理想の動物園を14枚のスケッチに描いていました。

アザラシの飼育員は、「自由に泳ぎ回るアザラシこそが魅力」と考え、大水槽の中で泳ぐアザラシの姿を描きました。そして、今から6年前、そのアイデアを生かし、客の目の前を上下に泳げるマリンウェイを備えたアザラシ館がオープン。今では動物園一番の人気です。どうしたら魅力的な動物園になるかという答えのヒントを、現場の飼育員が持っていたわけです。

最近はドラッカーが人気ですが、私がドラッカーの著書で一番印象に残っている言葉は「ナレッジワーカー」です。「知識労働者」という意味ですが、このアザラシの飼育員は、まさにナレッジワーカー。このような人材が現場にいることが、日本企業にとっての競争力です。そして、この現場のナレッジワーカーを活かすことこそが経営です。

このような「現場力」の事例にはいくつかの共通点があります。まず一つ目は、自ら問題を発見し、自ら現場で解決している点です。問題を放置せずに自分たちで取り組み、解決しています。二つ目は、組織能力としての現場力です。個人としての「点の力」ではなく、組織による「面の力」にしています。三つ目は、固有名詞としての現場力にまで高めている点です。どうせ取り組むなら、一般的な現場力ではなく、何でもいいからダントツになる現場力を目指すということです。

創造や変革を生み出す「変人」の重用が、突破力を生む

遠藤 功氏/講演 photo現場力を創造していく上で、重要になるのは課長などのミドル層です。経営者の熱さやホラを下に伝えていく役目があり、組織の体温を作りだすのは彼らです。ときには自らも熱くなれる、「突破力」のある課長が必要です。

「突破力」のある課長には、共通の行動様式があります。まず、「社内の常識に挑戦する姿勢」です。たとえ自分のアイデアを理解してくれる人が少なくても、少なければ少ないほど、そのアイデアには独自性があって、差別化されていると考えることができます。次に、「ルールを無視しても、やる時はやるという姿勢」です。これだと決めたら、手段を選ばずにやる。縮こまっていては、何も突破できません。最後に、「一貫して責任を持つ姿勢」です。「技術」や「営業」といったこれまでの役割分担にこだわらず、“見えている”人間が一貫して責任を持ってやればいいのです。

「ノリ」は人事部の考え方一つで、意識的に創り出せる

遠藤 功氏 photo最初にも言いましたが、今人事部が抱えている一番の問題は社内の「ノリ」の悪さです。では、どうしたら「ノリ」がよくなるのでしょうか。実は、「ノリ」は意識的に創り出すものです。ある地方の40名規模の工務店の話ですが、毎週1回、社員全員でバーベキューをしています。

バーベキューには、「ノリ」が良くなるための要素が詰まっています。それは、「集う」「動く」「話す」「笑う」「味わう」の五つです。「集う」ことで、チームを意識するようになります。バーベキューの間は盛んに「動く」ことになりますが、「ノリ」とは行動から生まれてきます。たまには失敗して、「笑う」こともあります。「味わう」ことは、そのものが幸せや楽しさにつながります。

では、バーベキューにある要素を仕事で感じさせるには、どうしたらよいのでしょうか。人事部として考えるべき、「ノリ」をよくするための4要素があると思います。まず、仕事において、適度にストレッチした責任・役割を付与すること。チャレンジすることで「ノリ」も生まれてきます。二つ目は認知。認める、ほめる、関心を示すことです。うれしさを感じれば「ノリ」も変わります。三つ目は関係性で、人間同士の絆、仲間意識をどう作るか。「ノリ」のいい会社には「兄貴」や「親分」などと呼ばれる人がいるものです。四つ目は、職場の雰囲気です。「ノリ」が伝染するような「見える化」を考えなくてはいけません。そもそも日本人はお祭り好きですから、そんな気質も利用しながら、社内に「一丁やってやるか!」といった空気を醸成する。それが今の人事部に求められる仕事ではないかと思います。

そしてもう一つ大事なことは、各部門、職場の「ノリ」の状況を「見える化」することです。飲み会の頻度や参加率など、どうしたら「ノリ」を測定できるのかを考え、「ノリ」のよいお手本となる職場を「見える化」するのです。すると、雰囲気が伝染していきます。また、「ノリ」のよい人材を「見える化」することも大事です。ムードメーカーは貴重な人材ですから、これらの人をぜひ「見える化」していきましょう。

最後に、最も重要な「見える化」は、夢・思い・志の「見える化」です。旭山動物園の奇跡は、飼育員たちが描いた14枚のスケッチから始まりました。理想のない現実主義だけでは、飛躍は生まれません。夢の「見える化」を忘れないでください。それこそが、現場力の推進エンジンとなるのです。これからはぜひ、「ホラ」や「ノリ」を大事にしながら、人事としての新しいビジョンを見つけていって欲しいと思います。

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