私は、最近、「現場で強い組織作りをするために何をしているのか」というテーマで、各界のリーダーと対談をしています。その中から今回は、ある有名な大学スポーツチームの2人の監督のリーダーシップの違いを例にお話しします。B監督はA監督の前任者ですが、この2人は実に対象的です。例えるなら、B監督は1人で戦術・戦略を考え、選手を引っ張っていく「天才型リーダー」。一方のA監督は、選手の自律性を引き出し、支援しながら集団の力で勝負する「支援型のリーダー」です。
環境や状況が変われば、効果的な方法は変わります。B監督は全てを見通すことができ、常に的確な戦略戦術を選手に指示できる稀有な「天才型リーダー」です。一方のA監督は優秀なリーダーですが、全てを見通せるほどの大天才ではないので、集団の力を使うことを考えます。当然、メンバーに期待することや育成方法も違ってきます。天才型リーダーの下では「優秀な指示待ち人材」が求められます。一方、優秀ではあるが大天才とまではいえないリーダーの下では、自分で考えられる「自律的」で、「相互協力」ができる人材が求められます。たとえ一人ひとりは天才ではなくても、互いに協力して、各々の能力を活かすことができれば、「集合天才型チーム」を創り出せるのです。
B監督は世の中が右肩上がりである時のリーダー像に、A監督は現在の厳しいビジネス環境に必要なリーダー像に似ています。右肩上がりの時は、B監督のようにリーダーには答えが見えていたので、それをメンバーに徹底させることができる統率力・カリスマ性が求められ、メンバーは指示待ち人材で良かったのです。しかし、現在は成熟した環境にあり、答えが見えない時代です。答えを発見することが最重要であり、そのヒントは顧客にあるので、今まで以上に顧客接点が重要です。A監督のようにメンバー一人ひとりが力を発揮し、協力し、チームとして大きな成果を生む「集合天才型チーム」を作っていくべきなのです。
「集合天才型チーム」を作るには、まず「ただの人の集まり」から「チーム」と呼べる段階にレベルUPする必要があります。
「チーム」になるには、求心力である「ミッション・ビジョン・バリュー」の共有が大事です。そのことに一人ひとりがコミットして、協力し合える状況にするのです。しかし、「共有」は決して簡単ではありません。「共有」にもレベルがあります。まず、最初は「事実情報の共有」です。しかし、数字や目標などの「事実情報」だけを共有しても、それだけでは人は動きません。「意味(目的)の共有化」がないと、人は価値を感じないため、行動には至りません。また、なぜその目的が生まれたのか。目的の設定にはどんな思いがあるのか。そういう背景がわかって、はじめて「考え方の波長の共有化」ができ、チームといえる状態になるのです。
「チーム」が「集合天才型チーム」に飛躍するためには、「ダイバーシティ&インクルージョン」が必要です。です。異質なものを受け入れ、「違い」を活かしていかなければ、画期的なアイデアやクリエイティブは生まれてこないからです。そのためには、自由に発想し、自由に発言できる状況が必要です。しかし、それには職場の風土、また、その風土を作るマネジメントが影響しています。
「ボスマネジメント」と「リードマネジメント」という二つのマネジメント手法があります。ボスマネジメントは、「人をコントロールできる」という発想のマネジメントで、統制が必要な場面では効果を発揮しますが、統制は創造性を抑制するので、クリエイティビティを必要とする場面には、向いていません。
ビジネスは物事を合理的にやらないと成果が出ないので、その延長でつい部下に対しても合理的にアプローチすると、部下は期待と違う反応を示すことがあります。人間は合理的な理屈で動いておらず、「基本的欲求」を満たすために動いているからです。例えば、いくら正しいことでも、他人から強制されると、欲求が満たせなくなって反抗したくなるのです。しかし、「人をコントロールできる」という発想のボスマネジメントでは、部下の欲求への配慮をせず、部下を強制的にコントロールしようとします。結果、部下の自由な発想や発言を抑制してしまいます。
一方「人は欲求によって内側から動機付けられる」という発想のリードマネジメントでは、部下の欲求に配慮します。自分の意見を一方的に押し付けるのではなく、相手の話しをしっかり聴いたり、相手に権限を委譲することで、欲求を満たすように関わります。このことで部下は自由に発想し発言するようになり、創造性を生む土壌ができます。また、欲求が満たせるイメージができれば、人は誰でも自発的に行動します。仕事で欲求を満たせるイメージが「自律型人材」を育てるのです。
ただのチームをレベルアップさせ、「集合天才型チーム」を作っていくためには、ボスマネジメントからリードマネジメントに移行していくことが必要なのです。