(清田 寛道氏)
「組織のパフォーマンスの維持と向上のための、人と組織のERM」というテーマについてお話しいたします。ERM(エンタープライズ・リスク・マネジメント)とは、総合的なリスクマネジメントの管理手法です。最近、国内でも導入が進んでいるEAPもその一つと言えるでしょう。これを「人と組織のパフォーマンスの維持・向上」に当てはめた時、どのような結果がもたらされるのかについて考えていきます。
皆さんは、担当している業務のゴールは何なのか、考えたことはありますか。組織は日々変化しますが、その「状態をイメージ」できていると、少々のリスクにさらされても対応が可能です。何のために人事部があるのか、ぜひ考えてください。人事戦略という名の「方法論」に走ってはいませんか。テクニックだけでは、経営が求める本質的な人材マネジメントは機能しないのです。
企業の成長には、「パーソナリティ・マネジメント」が不可欠です。単純に売上・利益を上げることだけではありません。企業の「価値」をどうやって上げるのかが重要です。状況は変化するので、ゴールは数値的なミッションだけではなく、「状態として」幅を持たせたほうが良いでしょう。数値だけを追っていくと、仕事が定量化してしまい、凝り固まった運営になってしまいます。
機能を動かす因子は、社員一人ひとりです。組織のパフォーマンスを上げていくには、まず人事部のみなさんが一人ひとりに向き合って、オープンになる。そういう姿勢を作った後に、焦点を絞ります。そうすると、「本当に人と組織が機能しているのか」「混乱と不調が生まれてはいないか」も見えてきます。
混乱が招くものとは「ロス・コスト・リスク」です。例えば、重要なプロジェクトを担当するミドルマネジャーが休職した場合に、必要なコストはどうなるのか。いろいろなリスクにさらされた時に組織が受ける大きさを調べて数値化しておくことで、対応のスピードは変わり、ロスやコストは変わってきます。
人材についても、投資期・キャリア形成期のそれぞれで、何が求められるのかを定義できているでしょうか。何ができて、どんな資質を持っているべきなのか。その人たちがストックしておかなければならない要素を、整備できているかどうか。これが一番重要です。
人と組織のERMについては、まずは社内で基本計画を策定してください。EAPの導入と活用が良い例です。これができていないと、将来の人事戦略を作る間もなく、通常の業務に追われてしまいます。
リスクの対応には、「回避」「低減」「移転」「受容」という4つのパターンがあります。「移転」は、数値化と平準化ができていれば可能です。一番大事なのは「受容」ですが、リスクが発生する予見に基づく、組織の状態になっているでしょうか。リスクが起こった場合のルールと、ジャッジする人および、現場の知見を日々ウォッチした対応策を決めておくことです。これは、複数あることが望ましい。属人的・トップダウンで行っていると、リスクを増大させてしまい、人と組織のパフォーマンス向上は困難だからです。
私は、人事部とは会社のコアであり、経営戦略を担う立場にあると思います。ぜひ今の人事部から脱却し、「人材マネジメントセクション」に変化することで、組織のパフォーマンスの向上に繋げていただきたいと思います。
(杉村 知哉氏)
成長し続ける強い企業を作るためには、効率化を図り、機能を強化していくというステップが必要です。その際、全てのステップに共通しているのは「人材」です。人材をしっかりとマネジメントしていくことが、企業には求められているのです。
今後、いかに日本企業が成長し、世界の競争に打ち勝っていくのか。しかし、グローバル人材の活用や社員の育成など、人事部が抱える課題は多く、複雑化しています。これまで、企業のコンサルティングを行ってきた中で、新しい人事制度や評価制度を作りたいという話が多くありましたが、想定していた人材は生まれず、企業のパフォーマンスが上がるわけでもない。それでは、どうすればいいのかというと、現状の組織や人材が、理想の姿にどう近づくのかについて、科学的に研究を続けることです。
企業の成長を、人材の側面から理想の姿に導くというマネジメントが、非常に重要です。そこで基本に戻って、組織と人材のポートフォリオについて考えてみます。今の部門は、適材適所に当てはまっているのかどうか。すると、育成対策などが見えるようになってきます。これまで、マネジメントしにくかったのは、定量的に示されたデータファクトが少なかったからです。データ化することで、人に応じた研修・育成が可能になります。
アセスメントを行うことは重要ですが、現状は変わっていきます。定期的に見直して、分析・ポートフォリオを描き、再配置、育成の方針をきちんと洗い出して実行のシナリオを作っていく。こういった機能が、人事部の一部としてあると非常に良いでしょう。
私たちは、一人ひとりに合ったやり方を考えていかなければ、強い組織は作れません。一人ひとりの特性に応じたマネジメントを行うためには、基本となるファクトが必要不可欠です。そういった機能を、企業の人事部が実装すると、より豊富なマネジメントが可能になると思います。