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基調講演

今、人事は組織を活性化させるために何をすべきか

野田 稔氏
明治大学大学院 グローバルビジネス研究科教授
株式会社ジェイフィール 代表取締役
野田 稔氏(のだ みのる)
プロフィール:野村総合研究所、リクルートフェロー、多摩大学教授を経て現職に至る。株式会社アミューズに所属し、テレビ・ラジオでも活躍中。2009年4月よりNHK 『経済ワイドビジョンe』にメインキャスターとしてレギュラー出演。専門は組織論、経営戦略論、ミーティングマネジメント。著書に『あたたかい組織感情』(ソフトバンククリエイティブ)『組織論再入門』(ダイヤモンド社)など。

活性化した組織とは何か

野田稔氏 photo本日のテーマは「今、人事は組織を活性化させるために何をすべきか」ということですが、まずは「活性化した組織」とはどういうものかについて、話していきたいと思います。

活性化といっても、ただ社員の元気が良いだけでは、企業組織として適切ではありません。私は活性化した組織を、「組織本来の目的を組織成員が共有し、主体的・自発的に協働しながら達成しようとしている状態」と定義しています。「目的の共有」「主体的・自発的」「協働」という三つが成し遂げられている組織を、いかにして作っていくかが重要なのです。

そのためには、「納得できる目標、誇れるビジョン」を作り上げることです。同じ仕事をするのでも、誇りを持てるかどうかで大きく異なります。人事に課せられているのは、そういったビジョンを出せるリーダーを、いかに育成していくかということです。

リーダーが現場のメンバーに、誇れるビジョンをしっかりと伝える。そのビジョンが共有されて「協働」に至ると、必ず成果へと結びつきます。最初は疑心暗鬼だった社員も、実際に成果を確認すると達成感や誇り、一体感などが強化され、「動機付け」へと繋がっていく。ここから「活性化サイクル」が生まれます。

社員一人ひとりに目を向けた時、「組織力」というのは「やる気、能力、方向性」の総和を最大化することです。つまり、一人ひとりのやる気・能力を最大化し、方向性を正しく保つのです。

マネジメントの観点からいうと、「組織力」とは「動機付け、人材育成、ビジョン」の三つの効果を、最大化していくことです。「動機付けをいかにしっかりと行うのか」「人材育成を再考するのか」「ビジョンを造れるリーダーをどう育てていくのか」の三つです。しかし、これがなかなか難しい。そこでこの三つについて、順番に見ていくことにします。

いかにして人を動機付けていくのか

野田稔氏/講演 photo「動機付け」の源泉には、大きく分けて「外発的」「内発的」の二つがあります。「外発的動機付け」とは、仕事自体はやりたくないが、それをやるとお金がもらえたり、昇進できたりするというようなこと。人は、ご褒美を欲しいがために動機付けられるのです。

一方で、「罰を与える」という、マイナスの外発的動機付けもあります。何かができなかったり、悪いことをしたりすると罰を与える。しかし、これはただ恐怖を与えることであり、絶対にやってはいけません。

バブル崩壊から20年、日本企業の多くは余裕がなくなり、外発的動機付けに依拠するケースが増えました。この外発的動機付けには、「即効性がある」「万人に効く」という二つの大きなメリットがあります。特に、お金の効き目は大きい。しかし、即効性があるということは、一方で効き目がすぐになくなるということでもあります。

企業が外発的動機のみに依拠していた場合、優秀で成果を上げている社員を動機付けたいのなら、もっと給料を上げていかなければならない。しかし、原資は限られているので、当然成績の悪い人から奪っていくことになり、格差がどんどん開いていってしまう。かといって、罰を与えるという動機付けは絶対に行うべきではありません。一所懸命やっているにもかかわらず、成果が出ないという人には、罰を与えても何の動機付けにもならないのです。

一方、お金や罰に頼らない動機付けが「内発的動機付け」です。いろいろな方法がありますが、私がよく紹介するのは、「期待の連鎖」です。現場のマネジャーの社員に対する期待、社長の幹部社員に対する期待…。この期待の連鎖を、会社の中に作っていくのです。

よくいわれる「ピグマリオン効果」とは、「期待された子供はその期待に応えようと勉強するので、成績が上がっていく」ということですが、これをマネジメントに応用します。上司が部下に期待し、その期待を感じ取った部下が自分の未来を期待し、それが動機の源泉になるという構造です。これは、そんなに難しいことではありませんが、教育が必要です。人事は、上司が部下に期待し、それを形に表すことを教えていかなくてはいけません。

もうひとつの内発的動機付けは、仕事の「意義」付けでしょう。なかでも、MVP(ミッション・バリュー・プライド)が大きいと思います。何のためにこの仕事があるのか。なぜこの仕事はあるのか。これを行うと社会にどういう価値が出るのか。少なくともマネジャーには、これらを現場に理解させていくことが求められます。

正しい人材育成の考え方

野田稔氏 photo「人材育成」については、お話したいことが二つあります。まず一つは、人材育成にもちゃんとした方法論、理論があるということを確認した上で、社員にこのことを伝えていく必要があるということです。

組織は、自立・自発的に学んでいくように作り上げなければなりません。それを作っていくのは、まさに現場のミドルマネジャー。ミドルの人材育成力を上げていくことこそ、一番大切です。

ミドルにわかって欲しいのは、「人材育成にはステップがある」ということ。しかし、意外と把握できていないようで、特に「最初は型にはめる」という、当たり前のことをわかっていない人が多い。日本の教育で「個性の発揮」「自由」などと言い過ぎたからです。

かつて私は、ノーベル賞級の学者の方々にインタビューしたことがありますが、「どうやって後進を育てているのですか」と訊ねると、全員が「まずは型にはめろ」と答えました。しかし、型にはめるといっても、その型を作るのは難しい。そこでまずやることは、「現場業務の標準化」です。少なくとも、新人の担当業務は完全に標準化しなくてはいけません。

標準化によって型にはめることは必要ですが、一人でできるようになったからといって、人材育成が終わってしまってはもったいない。次のステップとして、人に教えるチャンスを与えるといいでしょう。人は他人に教えることで、自らも学べるからです。自分の欠点がわかることもあれば、当たり前だと思っていたことに疑問を持つこともある。こういうステップをきちんと会社の中に作っていくことも、人事の重要な役目です。

次に言いたいのは、人材育成においては効果だけに頼らず、「残る」研修を目指さなければいけないということ。多くの人は、OJTについて誤解していて、「仕事をさせていたら、勝手に成長する」と考えます。しかし、OJTとはもともと「戦略的」であるべきなのです。

ある人物について、「5年後にはこういう人材にしたい」という考えがあるのなら、タイミングや様子を見ながら、その人にふさわしい仕事を任せていかなければいけません。しかもその仕事は、ちょっと背伸びをさせることです。危険も伴いますが、部下が失敗しても、上司が処理できるという範囲内で納めていく。このようにOJTを進めていく体系を、人事が作っていくべきなのです。

ステップ自体は、決して難しいものではありません。まずは、「部下に適した仕事を考える」こと。次に、「本人のやる気を喚起する」こと。そして、「日々フォローしてやり切らせる」こと。そして、「達成感を与える」こと。こういうやり方を確立することが、人材育成のコツを身につけるポイントだと思います。

現在、多くの企業では、さまざまな理由により、OJTが形骸化しているのが実情です。現代の若者たちは、「成長実感」があると非常に動機付けられますが、現状では与えられていないため、将来の姿が見えずに辞めていく人も多い。ぜひ、OJTを強化していってください。

リーダーに求められるビジョン

最後に、「ビジョン=正しい方向付け」ですが、まずは、将来の大きなビジョンを描けたり、変化の動向をかぎわけてそれを説明したりできる人物を、リーダーとして育成していかなければなりません。これこそが、人事に課せられている「次世代リーダー育成」です。

ごく一部の選抜された人間だけをリーダーにしていたのでは、激変する世の中を乗り越えられません。現場のミニリーダーたちが変化の動向をかぎわけ、方向付けを創造してトライし、成功したものが組織内で大きく育っていく…。そういう現場発のイノベーションでなければ、早い変化にはついていけません。たった一人の大リーダーではなく、数多くの創造的リーダーを育ていかなければならないのです。

世の中や歴史に名前を残すわけではありませんが、高いモチベーションで引っ張ってきた現場のリーダーたち。あの高い志はどのようにして生まれてきたのか。私たちはもう一度、戦後の混乱期から導いてくれた市井(しせい)のリーダーたちのような、土壇場でのリーダーシップを思い返すべきではないでしょうか。

組織を活性化させる「心のマネジメント」

野田稔氏 photo私たちは、再び「心の時代」を迎えていると思います。周りを見ると、MBA的な考え方だけを信仰する人たち、結果を見ればそれが全てだと思うように成果主義を誤解する人たち、個人の目標を達成することが全てだと教え込む上司たち…。まるで、人間らしくない働き方を強いられているかのようです。しかし、もっと私たちは人間らしい働き方を楽しめるはずです。実際、ポジティブな感情が組織の中に共有されていれば、その組織は必ず生産性が高くなります。

逆にネガティブな感情が組織に共有されているのであれば、相互不信、疑心暗鬼となり、目は外に向きません。会社からのメッセージにも、疑いを持ちます。結局生産性は低下し、品質は悪化、果ては不祥事の発生。こんなことは、これまでの日本企業や社会では起こらなかったはずです。しかし、現状は、まさにギスギスとした職場感情があふれている。

もっと私たちは、日本人らしく温かい感情を共有することができるはずです。また、それによって、生産性を高めていくこともできるはずです。これこそ、今、人事がやるべきことではないでしょうか。お互いに助け合うような社会と、会社作り。それこそが、私たちの真の国際競争力をアップさせることにも繋がるのです。

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