参加者の声
人事は社外に出て、最新の人事トレンドを学び、
他社と交流せよ
くらしげ・もとかず●大学卒業後、アパレルメーカーに入社。1991年 アイリスオーヤマに入社。 マーケティング部、販売促進部、社長室、システム部、広報室などを歴任。2008年より人事部統括マネージャー。日本キャリア開発協会認定キャリアカウンセラー(CDA)の資格を持つ。
人の採用・育成・マネジメントに携わる皆さまが集うイベント、日本の人事部「HRカンファレンス」。2009年にスタートして以来、回数を重ねるにつれ、来場される方々が増え続け、今では日本最大のHRイベントに成長しました。そのHRカンファレンスに2011年から毎回参加されている、アイリスオーヤマ株式会社 人事部 統括マネージャーの倉茂基一さんにインタビュー。「快適生活」をキーワードに、生活者の潜在的な不満を解消するソリューション型商品を提供し続ける同社で、倉茂さんは2008年に人事部に異動され、現在人事部を統括する立場で活躍されています。「人の育成が自社の最大の課題」「人事は変わらなければならない」とおっしゃる倉茂さんに、「なぜHRカンファレンスに参加しようと思ったのか」「HRカンファレンスをどのように活用しているのか」「HRカンファレンスの魅力・良かった講演」などについてお話をうかがいました。
経営層から現場まで、人の育成が最大の課題
――まず、現在の倉茂さんの業務内容や日々の業務において感じている課題についてお聞かせください。
私は現在、「人事部 統括マネージャー」という立場にあり、採用、育成、評価、ジョブローテーション、給与、労務関連など、人事業務全般を統括しています。人事部のスタッフは総勢30人です。
当社が抱えている最大の課題は「人の育成」です。当社では、そう遠くない将来、創業社長の交代があります。社長の大山健太郎は、創業当時は製造から営業、マーケティング、経理など、会社経営にかかわる主要業務を実質的に一人で担っていました。だから、各分野の業務について精通している。しかし、自分が退任した後、誰か一人に経営の全てを託すわけにはいかない。そこで大山は、今自分が担っていることと企業理念(DNA)を継承しつつ、当社を「チームで経営していくスタイル」へ変えていくことを考えています。そのために、新しい社長を支える取締役(経営層)をいかに育成していくかが、直近の課題です。
それに伴い、あらゆる部門(現場)で人材を育てなければなりません。これまでの当社では、強力なトップのリーダーシップの下、皆がそれに従って仕事をしていました。結果も出してきました。しかし、これから目指す組織のあり方は、そうではありません。サッカーのチームのように、ボールを持った瞬間に各プレーヤーがどうするべきかを自分で判断し、自律的に動く組織です。トップダウンで言われたことをそのまま行動に移す組織から、全員が自律的に動ける組織へ変えていくには、単に経営層を育てるだけではなく、現場で自ら考え、動くことのできる人材を育成する必要があります。
当社は「仕組み」がしっかりと構築されている会社で、その仕組みを継続するのは難しいことではありません。問題は、これまで創業者が行ってきた新しい事業展開の決断と実行を、誰が継承していくかです。もともとプラスチック成型メーカーからスタートした当社ですが、次々に事業を拡大し、現在では家電、LED照明、食品など、事業分野は多岐にわたっています。これは創業社長の発想と強いリーダーシップがあったからこそ、実現できたわけです。今後も新規事業を開拓し、積極的な投資を継続していくことが成長するための必須条件であり、当社が引き継いでいくべきDNAです。これを実現できる組織を、これから作っていかなくてはならないのです。「破壊と創造」を繰り返していく必要があるのです。
人事部を変えるためのヒントを得ようと、HRカンファレンスへ参加
――倉茂さんが最初にHRカンファレンスに参加されたきっかけをお教えください。
実は私はもともと、人事畑の人間ではありません。人事部には2008年に異動したのですが、正直、それまで人事部に対して、あまり良いイメージを持っていませんでした。自分自身が人事の仕事をよく理解していませんでしたし、今後人事はどうすべきかも、よくわかっていませんでした。
社長の大山としては、門外漢で言いたいことを言う私をあえて人事に異動させ、人事部を変えてほしいという考えがあったのだと思います。従来のやり方とは違う、次の時代を担う人と組織を作るために、採用や育成、評価のあり方を変えてほしいと思っていたのではないでしょうか。私も日々「破壊と創造」を考えており、そのための何かしらの「ヒント」が欲しいと考えていました。そのような状況の中、たまたまHRカンファレンスの存在を知りました。日本最大のHRイベントであり、あの著名な人事向けメディア『日本の人事部』が主催しているため、安心できる。しかも多くの講演を無料で受けられる。すぐに申し込みました。初めて参加したのは、2011年秋に開催されたHRカンファレンスです。
その当時、新しい人事の方向性について考えていたこともあり、神戸大学大学院の金井壽宏先生などの講演に強い刺激を受けました。このような先生方の話を間近で聞けたことは、非常に貴重な経験でした。特に「人事は今のままでいいのか」という問題提起が多かったように思います。「経営に資するためにどうすればいいのか(戦略人事の実現)」といった話は、私の心に強く響きました。
というのも、私が異動する前の人事部は非常に保守的な組織だったからです。管理する側からすると、それなりの事情があるわけですが、私はこうした志向の人事部をあまり好きになれませんでした。先生方の話を聞いて、「今こそ人事は変わらなくてはいけない」と強く思うようになりました。「人事は保守ではなく、経営に対して影響を与えるような存在でなくてはならない」ということに、改めて気づかされました。今思えば、大山が私に期待したのはこのことだったのでしょう。
日本を代表する大学教授などの話が聞ける特大会場のセッション
事前にプログラムを十分に検討。この期間は、「HRカンファレンスが最優先」
――HRカンファレンスでは、「パネルセッション」「ワークショップ」「ランチ・ミーティング」など、さまざまなプログラムが用意されています。倉茂さんは、どのようなスタンスで参加されているのでしょうか。
HRカンファレンスは東京で開催されているため(大阪でも同時開催)、HRカンファレンスに参加する際には、出張ということになります(※アイリスオーヤマの本社は宮城県にあり、倉茂さんも普段はそこで勤務している)。参加するときは、基本的に「全ての時間帯を埋める」が私のスタンスです。事前にプログラムを十分検討して、申し込みます。当初は私一人で参加していましたが、最近はスタッフを一人か二人連れて参加しています。申込受付が始まると、全ての開催日時に参加したいプログラムを埋め込んでいきます。その予定表をスタッフに回覧し、私と重複しないように申し込むよう指示しています。できるだけ多くのプログラムで知見を得たいと考えているからです。
また、HRカンファレンスの日程が発表されると、「この期間は、HRカンファレンスが最優先」とスタッフに伝えています。帰社後は参加したプログラムについて私なりの「レジュメ」を作成し、部内で回覧しています。研修・教育を担当しているマネジャーも、「HRカンファレンスに行けばこういうことが学べるのか。これは実務で使える」とわかり、参加するようになりました。単に「参加して、面白かった」で終わらずに、具体的な「成果」にすることが、人事部内にも良い刺激を与えていると思います。
研修・教育を担当しているマネジャーが参加するようになったことで、社員研修に対する方向性、プログラムの考え方など、私と「目線」が合うようになってきました。やはり、外部に出て、そこで新しい知見や経験を学び、自ら考えることがとても大事だと実感しています。
問題意識の高い人が多いので、最前列で講演を聞く
――倉茂さんのHRカンファレンスでのおすすめの利用法・見どころなどについて教えください。
私の場合、最前列の席で話を聞くようにしています。理由は二つあります。一つ目は、HRベンダーが自社の商品・サービスをどのようにプレゼンテーションするのか、そのスキルを直に見るためです。もちろん、その商品・サービスの良さもありますが、彼らの魅力あるプレゼンテーションスキルが当社の研修などでも非常に役立つため、ぜひ取り入れたいと思っているのです。
二つ目は、最前列に座っている参加者には意識が高い人が多いからです。プログラムの中で、隣の参加者と話したり、グループワークを行ったりするケースがあるのですが、最前列に座っている方々との話し合いの場合、問題意識が高いので非常に有益です。同じ時間・コストを使って参加するのなら、なるべく多くのリターンが多く得られるようにしたいのです。
――「HRカンファレンス2016-春-」(2016年5月開催)の倉茂さんのタイムスケジュールを教えください。
5月16日から19日までの4日間、ほぼ全ての時間帯で講演を受講しました。最新の人事トレンドが聞ける講演だけではなく、その時々で「これは大事だな」と思うプログラムを私なりにピックアップしています。そして、全てのプログラムに真剣に参加しています。
――その中で、特に良かった講演について教えてください。
16日に特大会場で行われた、慶應義塾大学大学院の高橋俊介先生の講演「経営視点の人事」。高橋先生の講演は何回聴いても面白いし、勉強になります。そのパワフルな語り口、刺激的な内容、どれをとっても素晴らしいです。今回のテーマも、今まさに私が考えていることと合致し、これからの当社を考える上でも非常に参考になる講演でした。
17日の夜の時間帯に行われた、グーグル株式会社による講演「Googleと考える新卒採用戦略~検索データを活用したデジタルソリューション~」もとても刺激的な内容で、採用のスタッフ全員にその要旨を共有しました。データから導き出された、「今の学生には、これまでの採用手法は通用せず、異なるアプローチをしなければならない」ということを教えていただき、従来のような採用ホームページを作っていてはダメなんだ、と痛感しました。
お互いに学び合えるので、ワークショップも好きです。17日に行われた、株式会社オフィス・サンタによる「これはドラマか現実か!?『ドラマメトリクス』体験で自覚する次世代リーダーの役割」は、三つの軸で受講者自らが課題解決に取り組んでいく直感的・体験的なプログラムですが、とても素晴らしい内容で、開催期間中は会場で知り合った人に必ず勧めていました。
18日に行われた、株式会社ファイブスターズ アカデミーによる「実践!“ミドル層”のローパフォーマー戦力化のコツ」も良かったですね。現在、ローパフォーマーの底上げは、多くの会社が抱えている共通の課題です。当社でも「キャリアアップ研修」と称して、同じ等級に停滞している人を集めた研修を実施しているのですが、このワークショップでのアプローチは非常に参考になりました。特に戦力化するための“やる気のスイッチ”の入れ方については、さっそくこの後、活用しました。
また、ワークショップ形式だと、他社の参加者と名刺交換をすることが多々あります。プログラムに関しての感想を共有したり、情報交換をしたり、帰社後にメールをやりとりをするケースもあります。半年後には再会することもあるわけです。そのため、自分から積極的にアプローチすれば、HRカンファレンスを通じて、人事の良質なネットワークが形成できると思います。
そして、この延長線上にあるのが、HRカンファレンスの中でも開催されている「日本の人事リーダー会」(大手企業の人事担当役員や人事部長の会)ではないでしょうか。日本を代表するトップレベルの人事部長が多く参加され、実に素晴らしい会だと思います。一般的なカンファレンスやセミナーでお会いする企業関係者とは一度きりのコミュニケーションがほとんどです。それに対して「日本の人事リーダー会」は、毎回参加されるメンバーが多く、連帯感が生まれ、席に着いたら挨拶もそこそこに、情報交換が始まります。例えば、マイナンバーを導入する際に、当社で、全国にいる従業員からどうマイナンバーを収集したらいいのか困った時がありました。そんな時に「日本の人事リーダー会」で知り合った方に電話をして、実務的な対応方法を教えていただくことができました。これもリーダー会で構築できた人脈のおかげです。ほかにも、相談に乗ってもらえる方々とのネットワークができました。
「日本の人事リーダー会」に参加して他社の人事部長と交流する倉茂さん
HRカンファレンスで得たことを自社に取り入れる
――これまで、HRカンファレンスをきっかけに、導入された施策などはありますか。
以前のHRカンファレンスの講演で、伊藤ハムの「メンター制度」についてお話をうかがい、当社でもメンター制度を導入しました。伊藤ハムのメンター制度は、メンターが「育成のプロデューサー」として上司の協力を得て、新入社員を職場全体で育成するための旗振り役を担っています。職場全体で継続的な人材育成力を高める仕組みで、これはぜひ取り入れようと思いました。そのほかにも、さまざまなHRベンダーが提案している「人材パイプライン」や「タレントマネジメント」などについては、意識して対応しています。常にHRベンダーが紹介する商品・サービスの良いところや近年の動向などを参考にして、社内の研修や人事施策などに積極的に取り入れています。
また当社では、「研修の内製化」を進めていることもあり、その点でもHRカンファレンスで得た知見は非常に役立っています。内製化を進める場合、社内で考えるだけでは限界があり、マンネリ化します。そのためにも積極的に外に出て、いろいろな商品・サービスを知り、それらの良い部分を組み合わせて、オリジナルの研修を作ることが大切だと思います。
私の場合、漠とした「概念」はあまり必要ではありません。もちろん、それも大事ですが、具体的に何を行って、どのような成果が得られたのかという「実話」を聞きたいのです。伊藤ハムの「メンター制度」については、講演の内容は実際に現場で行われたことに基づいていて、リアリティーがあり、非常に参考になりました。私の場合、具体的な施策に取り入れるためのネタを探しに来ているので、「実話」は重要なポイントです。
大学教授の方々による「講演」は、内容がアカデミックで、これもまた有益です。実例ベースの積み上げから、理論を構築、あるいは分析しているからです。そのため、理論に対する納得度や理解度が全然違います。一橋大学大学院の守島基博先生、明治大学専門職大学院の野田稔先生、東京大学の中原淳先生など、HRカンファレンスによく登壇されている方々は、話術が巧みで面白いし、最先端の事例なども交えているので、とてもためになります。
―― 今後、HRカンファレンスで、講演を聞いてみたいと思う人はいますか。
「経営者の考える人事戦略」など、経営者の講演をもっと聞きたいです。最近、HRカンファレンスでもそのようなプログラムが増えてきているので楽しみです。
また、ワークショップやディスカッションのプログラムをさらに増やしたらいかがでしょうか。問題意識の高い、他社の人事担当者との出会いがあります。そして、概念論で終わることがなく、手や体を動かしたり、話し合ったりするわけで、それが良い学びになります。ワークをすることによって、腹落ちする瞬間があるのです。
他社の参加者とディスカッションをする倉茂さん
例えば5月のHRカンファレンスでは、積み木を組み立てるワークショップがありました。積み木を使って、ほかのチームと競い合う中で、短時間でもチームのメンバーとの仲が本当に良くなっていきました。メンバーと一緒になっていろいろとワークすることによって、「なるほど、チーム作りとはこういうことなのだ」を初めて実感できるのです。
人事は社外に出るべきだ
――HRカンファレンスにまだ参加されたことがない方に、メッセージをお願いします。
とにかく、人事は社内に閉じこもっていてはダメです。まず、1回は足を運んでみることをおすすめします。
今、人事の最先端では何が課題となっていて、そこでどういうことが議論されているのか、を知ることです。そして、さまざまなセッションを通して他社の状況や事例なども知ることができます。結局、学びが身に付くかどうかは、本人の意識次第だと思います。ただ参加して、話を聞いただけで、自社の人事は変わりません。HRカンファレンスは、言わば「出発点」なのです。社内で「行動」が起こせるかどうかがポイントです。
私自身のことを振り返っても、HRカンファレンスに初めて参加した頃は、駆け出しのアマチュアでした。ただその分、問題意識は非常に強く持っていました。何かしらのヒントが欲しいということで参加したからです。その結果、非常に多くの人たちとのネットワークを築くことができました。
その意味でも、人事経験の浅い人、若い人が参加することが大切ではないでしょうか。HRカンファレンスに参加して、一流の大学教授、人事のプロと言われる人の知見に触れることです。年間8日間開催され、プログラム内容も多岐にわたっています。これを無料で受講できるのですから、行かない手はありません。ぜひ一緒に学び、交流していきましょう。
(東京・文京区のアイリスオーヤマ飯田橋オフィスにて)