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『日本の人事部』HRクラブ 開催レポート

【第6回テーマ】

人事に求められる「メンタルヘルス対策」とは
事例をもとに対応方法を考える

2010年12月17日(金)に、『日本の人事部』HRクラブ第6回が開催されました。

今回のゲストは、山一電機株式会社 総務部シニアプロフェッショナル 新井 典生氏。第1部の講演では、新井氏がメンタルヘルス問題に取り組むようになったきっかけのほか、同社が実際に取り組んでいるメンタルヘルス対策、これまでに新井氏が経験してきた事例などを紹介。続く第2部は新井氏がファシリテーターとなり、参加者同士による企業事例の共有や、ディスカッションが行われました。人事部に求められるメンタルヘルス対策について、深く考えることができた今回のHRクラブ。当日の様子を、レポート形式でご紹介いたします。

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【第6回 開催概要】

■ テーマ
人事に求められる「メンタルヘルス対策」とは
事例をもとに対応方法を考える
■ 開催日時
2010年12月17日(金)18:30~20:30
■ ゲストスピーカー
山一電機株式会社 総務部シニアプロフェッショナル 新井 典生氏

プロフィール: 1971年株式会社東芝に入社、総務業務を担当。アドバンストマイクロエレクトロニクスセンター管理部長を経て、2000年4月から山一電機株式会社総務部長。2008年4月から総務部シニアプロフェッショナルとして、人材開発およびメンタルヘルスを担当。

産業カウンセラー
衛生管理者、大阪商工会議所メンタルヘルスマネジメント検定第Ⅰ種
思考場療法(TFT)上級セラピスト
日本自律訓練学会会員
日本プロフェッショナル講師フォーラム会員
株式会社メンタルサポート研究所メンタルヘルス関連研修講師

「メンタルヘルス」に取り組んでいくことになったきっかけ

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第1部の講演のテーマは、「人事に求められるメンタルヘルス対策」。まずは、新井氏がメンタルヘルス問題に関わっていくことになったきっかけから、講演はスタートしました。

今から約20年前、新井氏が以前の勤務先で総務や安全衛生を担当していた頃、ある事業所で社員が自殺するという事件が起きたそうです。原因調査の過程で、その上司は、社員がどれほどの仕事量を抱えていて、何時間くらい残業し、どんな悩みを持っていたのかを、把握できていなかったということが分かりました。社員が何に悩み、どれほど疲れていたのかを把握できていれば、事件は防ぐことができたのではないか――その時新井氏は、そう考えたそうです。

それから約10年後の、1999年。新井氏は研究所の管理部長というポジションにいました。当時の研究所では、ある製品の開発を行っていましたが、納品日は既に決まっていて、開発の設備も万全に用意されているなど、研究者にとっては逃げ道がない状況でした。傍で見ているだけでも、研究者が疲労していることがわかり、新井氏はその時から10年前の事件を思い出したそうです。そこで、部長会の席上などで、「部下に声をかけること」「長時間労働の社員は産業医の面談を受けること」の重要性について説明しました。その結果、厳しい開発環境の中でも、研究者のメンタル面は健全に保たれ、トラブルが起きることはなく、無事に製品の開発は完了。この一件をきっかけに、新井氏はメンタルヘルス問題に、深く関わっていくことになっていったそうです。

組織として取り組むべき「対策」とは?

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次に、ある有名な裁判の事例を紹介しながら、現在では、「企業の安全配置義務」「管理者の安全配慮義務」「具体的業務上の措置」が求められていることをご説明いただきました。あわせて、近年のメンタルヘルスに関する法令なども紹介。メンタルヘルス対策とは決して個人の問題でなく、企業として組織的に取り組んでいかなければならないことを、参加者全員で改めて共有しました。

それでは、企業は実際に、どのようにして社員のメンタルヘルスをケアしていけば良いのでしょうか。新井氏からは、「セルフケア」「ラインによるケア」「事業所内産業保健スタッフ等によるケア」「事業場外資源によるケア」の四つが挙げられました。社員がストレスを受けたままの状態で放置することなく、適切なケアを行い、なるべく早く職場復帰できるようにするべきだとのこと。新井氏は特に、「人事」「管理監督者」「産業医」が三位一体となって、メンタルヘルス問題に取り組んでいくことが重要だと考えているそうです。

次は、うつ病が発生する流れと、それに対して管理者がとるべき役割について。うつ病は未然に防止することが重要ですが、万が一発生してしまった場合、早期発見・早期対応が必要不可欠です。そのため、管理者には「職場ストレスの軽減」「ストレスの気づき」「声かけ・相談対応」「職場復帰支援」が求められるとのお話しでした。

山一電機が実践するメンタルヘルス対策の実例

続いて、山一電機で実際に行っている対策について、ご説明いただきました。まずは、「長時間労働対策」。産業医による面接指導が有効だと考え、毎月1回、「一般社員」で時間外・休日労働時間が70時間を超過している人に対して行っているとのこと。一方、「管理者」は就業時間の状況を把握しにくいため、年に1回調査票による「ストレスチェック」を実施。結果によっては、産業医の判断または本人の申し出により、面接を実施しているそうです。同社は、産業医との関係が非常に良好で、効果的な対策を実現できているとの事。そのためには、人事課と産業医が、しっかりと情報交換ができていることが重要だそうです。

同社では、教育・研修も積極的に実施。「一般社員」に対しては、階層別研修のなかに「セルフケア研修」を組み込んでいます。入社時、3年目、中堅、新任主任の各段階で実施していますが、特に「漸進的筋弛緩法」の練習は、簡単で実際に効果もあるため、大変好評だそうです。また、自分からモノが言えずに悩んでいる社員が多いため、2010年4月には、全社員を対象に「自己主張訓練」を実施したとのこと。そのほかにも、管理者に対しては、年に1回1~2時間、産業医による「ラインケア研修」を実施。2009年4月には全管理者を対象に、「傾聴訓練」も実施するなど、教育・研修にはかなり注力していることがわかりました。

社員が相談しやすい環境作りも重要です。同社では、さまざまな相談体制を確立。総務部の担当者が相談員になる「社内相談体制」のほか、外部のサポートシステムや、産業医の面談が受けられる「社外相談体制」を設置。これ以外にも「セクシャル・ハラスメント通報窓口」「山一電機グループ行動基準通報窓口(コンプラアンス・ヘルプライン)などの相談体制を用意しています。社員の声を聞く機会を多数設けることで、社員のメンタルヘルス不調を防ぐ体制を確立しているのです。なお、社員から受ける相談のうち、約7割は家庭や私生活の悩みだとのこと。たとえプライベートな悩みでも、仕事への影響は大きいようです。

職場復帰支援の重要性

続いてのテーマは、「メンタルヘルス問題によって社員が休業した場合、どう対応すればいいのか」。これは、人事担当者の方々にとって、大変関心の高い事項でしょう。今回は特に、社員の職場復帰支援における注意点について、重点的にお話しいただきました。同社では現在、就業規則を整備中で、休職関連の項目を見直しているそうです。なかでも、「傷病休職の命令」については、「欠勤2ヵ月を経過したときをまたずに休職を命ずることができる」としています。また、「休職期間中の報告」「休職期間満了時の手続き」「復職後の再発」と、それぞれの過程において、規則を明確化しています。

最後に、ストレスモデルのメカニズムや、そのコントロール方法についてお話しいただき、1部の講演は終了となりました。1時間という限られた時間でしたが、新井氏がこれまでメンタル不調者にどのように対応してきたのか、その具体的な事例を数多くうかがうことができました。特に、メンタルヘルス不調となった社員の事例とその対処方法は、参加者にメンタルヘルス対策の重要性と、それゆえの難しさを再認識させるものとなったようです。

参加者が抱える「メンタルヘルス」の課題とは?

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第2部では、第1部で共有した考えをもとに、四つのチームに分かれ、ディスカッションを実施。テーマは「貴社が抱えているメンタルヘルスの課題の中で、最も重要だと考えているものは何ですか」。約20分間のディスカッションを行い、各チームの代表者が、その内容を発表していきました。(以下、発表の内容から一部抜粋)

【Aチーム】
「社員にはクリエイターが多いので、『良いものを作りたい』という自主的な気持ちから、長時間労働になりがち。改善していきたい」

「かつてはメンタルヘルスという問題自体がなかった。しかし、最近はメンタルヘルス不全になる社員が増えてきた。社内には対応するノウハウがないので、個別の対応に追われている状況。今後は、方針を含めて、仕組みを作り上げていきたい」

【Bチーム】
「うつ病が発生した場合、その原因は会社ではなく、プライベートにかかわることかもしれないので、どのように復職支援などを行うべきなのか、判断が難しい」

「社内にきちんと、メンタルヘルスに関しての知識がある人がいるべきだと思う」

【Cチーム】
「企業によって、その対策に差がある。規模の大きい企業では『予防』と『復職』が課題だが、小規模の企業では『発見』が課題だ」

「最近は、『現代型うつ』の症状も多く、どのように対応すればよいのかわからない」

【Dチーム】
「社員の悩みを聞く相談窓口を設けたが、相談を受ける側のスタッフが逆に参ってしまっている」

「社内にきちんと、メンタルヘルスに関しての知識がある人がいるべきだと思う」

企業規模や業務内容によって、メンタルヘルスに関する課題はさまざまだということが、改めてわかりました。一方、メンタルヘルス問題は非常にデリケートな面があるため、慎重且つ適切に対応すべきだという考え方は、参加者全員に共通しているようでした。

社員の本当の状態を聞きだすための方法

最後に、参加者から新井氏への質問を受付けました。「どうすれば、きちんと社員の不調を発見できますか」という質問に対する、新井氏からの回答は「声のかけ方がポイント」というものでした。例えば、上司が部下に声をかける時、「気持ち」ではなく、「身体の調子」について質問すれば、部下の本当の状況がわかるというのです。上司が部下に「大丈夫か?」とたずねると、部下は大抵、「大丈夫です」と答えます。しかし、これでは部下の本当の状態を知ることはできず、仮にメンタルヘルスに問題があっても、見逃してしまう可能性があります。しかし、「最近寝ていないんじゃないか?」というふうにきけば、部下も素直に「はい。あまり寝ていません」と回答します。上司がその発言を聞き、部下の状態について何かを感じたなら産業医に相談すればよい、とのことでした。新井氏がこれまでさまざまなケースに対応していく中で得られた、経験に基づくアドバイスだけに、参加者の方にとって大変参考になった様子でした。

以上で、今回のHRクラブは終了となりました。社員のメンタルヘルスは現在、企業にとって大きな課題であるだけに、参加された皆さん全員が真剣に考え、情報を共有する姿が大変印象的でした。終了後は今回も、居酒屋にて懇親会を開催。メンタルヘルスに関する情報共有が、引き続き行われました。

【参加者の声】

≪講演の感想≫

  • 総合的なお話をうかがうことで、メンタルヘルスに関する課題の全体像をつかむことが出来た。
    (ソフトウェア/役員)
  • 現在、メンタルヘルスの対策プランを構築中のため、大変参考になりました。
    (広告制作/人事局長)
  • 具体的で分かりやすく、根拠があるお話だったので、大変満足しています。
    (医薬/人材育成)
  • 新井さんのようにやわらかな人事担当の方がいらっしゃる山一電機株式会社様は、幸せだと思います。
    (KCCSマネジメントコンサルティング株式会社/ビジネスコンサルタント/人事・教育グループ長)
  • 社内の実例など、話しづらいことも含めてオープンにお話しいただき、本当にありがとうございました。参考になるお話を沢山うかがえて、感謝しています。
    (アパレル/人事)

≪ディスカッションの感想≫

  • もう少しディスカッションできる時間が欲しかった。
    (株式会社シータス&ゼネラルプレス/情報サービス/人事総務)
  • 実務のお話しが聞けて大変満足しています。
    (医薬/人材育成)
  • ディスカッションのグループでは、良いメンバーにめぐまれました。
    (KCCSマネジメントコンサルティング株式会社/ビジネスコンサルタント/人事・教育グループ長)
  • 各社の課題をうかがうことができ、メンタルヘルスとは奥が深く難しい問題であると、改めて感じました。
    (マスコミ/経営管理課長)

【HRクラブ第7回開催のご案内】

第7回は、2011年1月21日(金)18:30から、ゲストに中外製薬株式会社 顧問 熊谷 文男氏をお迎えし開催する予定です。テーマは「グローバルに活躍できるコア人財の育成」。参加ご希望の方は、下記からお申込ください。