企業成長のために、一人ひとりの従業員がいかに活き活きと働いているかを測る、従業員エンゲージメントを重視する企業が増えています。変化する経営環境のなかでイノベーションを生み出すには、まず個人がその特性を発揮し、自立したキャリアを描けることが不可欠と考えられるようになってきたためです。そこで注目されているサービスが、人事データを一元管理することで人事業務を効率化、社員の育成・配置やエンゲージメント向上など、人事領域でのデータドリブンな意思決定を実現する人財活用プラットフォーム「HRMOS(ハーモス)」シリーズです。同サービスについて株式会社ビズリーチ 代表取締役社長の多田洋祐さんと、執行役員 HRMOS事業部長の古野了大さんに、開発背景から特色ある機能、どのような企業がどのように活用して組織の改善・充実に役立てているのかなどについてお話をうかがいました。
- 多田洋祐さん
- 株式会社ビズリーチ 代表取締役社長
2006年、中央大学法学部卒業後、エグゼクティブ層に特化したヘッドハンティングファームを創業。2012年、株式会社ビズリーチに参画し、その後ビズリーチ事業部長を務める。2015年より取締役として、人事本部長、スタンバイ事業本部長、HR Techカンパニー長等を歴任。2020年2月、現職に就任。
- 古野了大さん
- 株式会社ビズリーチ 執行役員 HRMOS事業部 事業部長
神戸大学工学部卒業後、株式会社ベネッセコーポレーションで、新規事業開発やデジタル領域の教育サービス開発に携わる。2015年に株式会社ビズリーチに入社し、即戦力人材と企業をつなぐ転職サイト「ビズリーチ」のサービス開発責任者、「HRMOS(ハーモス)採用」の事業部長を歴任。2020年2月、現職に就任。
雇用流動化の時代に求められる従業員エンゲージメントの向上
新型コロナウイルス感染症の流行などもあり、企業の経営環境や人々の働き方が大きく変化しています。これからの人と組織のあり方を考える上で、経営者や人事責任者が認識しておくべきことは何でしょうか。
多田:日本の人事制度、雇用慣行が大きく変わりはじめたのは8年ほど前からだと感じています。この間、労働寿命が大きく伸び、逆に産業寿命は短くなりました。そうなると一人が一社、あるいは一業種で勤め上げることは難しくなります。当然、雇用する側も雇用される側も、それぞれが持つ価値観が急速に変容しています。
コロナ禍により働き方の見直しが進み、主体的なキャリア形成を志向する人が増えたのが直近の状況ではないでしょうか。実際、当社の転職サイト「ビズリーチ」会員を対象に、キャリア観に関するアンケートを実施したところ、9割以上が「主体的なキャリア形成が重要」と回答しています。
これからの人事は、採用による優秀な人財の確保とともに、すでに働いている人財の定着やエンゲージメント向上にも同じくらい注意を払う必要があります。これは、経営の立場においても同様だと思います。
労働力人口が減少し、雇用の流動化が避けられない時代ともいえますが、こうした流れに対して人事はどう対応していくべきでしょうか。
多田:労働力人口減少への対応としては、一人ひとりの生産性を高めていくことが不可欠です。そのためには、ITを活用し、人事業務の効率化をすることです。特に人事の皆様は、業務の性質上、定型業務が多い且つ人的ミスが許されない職種になります。だからこそ、自動化・アウトソース化できる業務については、できる限りテクノロジーの力を借りて効率化することが重要です。
そして、効率化と同じく重要なのが、従業員エンゲージメントの向上です。
採用した人財に定着してもらうには、個人の志向や特性を考慮しながら企業の方向性とすりあわせていくことがますます重要になってきます。これまで多くの日本企業は、終身雇用制を前提に企業側の論理で従業員の異動などを行ってきましたが、現在では個人の特性や事情を考慮しない人事配置を行うとモチベーションの低下や突然の人財流出につながりかねません。
それでは、いま人事は何をすべきなのか。私たちの結論は、人事データなどのエビデンスに基づいた人財活用です。従業員一人ひとりの特性や経験、さらには何を考え、どんなキャリアを描きたいと考えているのかといったデータを蓄積・整備し、それに基づいて仕事をアサインしていくことが重要です。個人が成長し、エンゲージメントを高めることができれば、優秀な人財に長く働いてもらうことができ、組織の生産性向上にもつながります。
従業員一人ひとりの特性を把握し、人財活用につながる人事データを整備するためには、どのような注意が必要でしょうか。
古野:まずは「時系列で整理された人事データの蓄積」です。一人ひとりの特性を正確に見るには、採用からオンボーディング、目標設定、評価、異動といった人事プロセスごとに、その人が何を考え、どういう行動をとってきたかが時系列でストーリーとして蓄積されていること。
次に「生きた人事データ」にすることです。社内で「あの人はどういう経歴なのか」「こういうスキルを持った人が社内にいないだろうか」などと問われた際に、データがなかったり、あちこちに分散していたりするようでは、活用することができません。人事データへすぐにアクセスし、必要な形で取り出せること。そのためには普段から一元的に集約され、常に最新の状態に更新されている「生きたデータ」であることが重要です。
そのように人事データの整備ができている企業は、まだ少ないのでしょうか。
古野:そう思います。たとえば紙からデジタル化したといっても、スプレッドシートを使った管理では、膨大なデータの中から必要な情報を探し出したり、抜き出したりする作業は非常に煩雑なものになります。
また、人事データは非常にセンシティブなので、他部署には見せられないケースも多く、データが組織ごとに分断されて管理や活用をより困難にしていることも珍しくありません。
大企業には、すでにERPパッケージを導入することで、そのような問題に対応しているところもあります。ただ最も課題が大きいのは、企業として成長し、組織構造が複雑になりはじめてくる150~300名規模の企業です。
このくらいの規模で、ERPパッケージを導入している企業は少ないでしょう。これからは、導入しやすいクラウド型サービスへのニーズが高まっていくと思います。
高い柔軟性と優れた更新性が特色のHRMOSの従業員データベース
貴社が提供されている人財活用プラットフォーム「HRMOS」シリーズは、多面的な人事データをもとにした最適な人財マネジメントが可能とうかがっています。開発の背景やサービスの強みなどを教えていただけますか。
古野:人事の各業務プロセスをデジタル化して改善するツールやサービスは以前からありましたが、それらの業務をつなげ、集まったデータをクラウドで一元的に管理できるサービスは多くありませんでした。
組織の中で個人を輝かせるために必要なのは、その人が何をやってきて、何ができて、そしてこれから何をやっていきたいか、という情報です。HRMOSは人事データを一元的に蓄積・管理することで、従業員一人ひとりに対してこの先どう活躍してもらえるのかというストーリーを描けることに重点を置いて開発しました。
HRMOSの第一の強みは、その「柔軟性」です。活躍人財や生産性の高い人財の定義は企業や職種によって様々で、蓄積していくべきデータも決して同じではありません。HRMOSは新たな項目を企業が独自に追加できるなど、柔軟なカスタマイズが可能です。閲覧権限管理などもきめ細かく設定できます。
第二の強みは「更新性」です。家族構成・住所・通勤経路などの基本情報から、目標設定・業務履歴・取得資格といったキャリア情報まで、従業員自身が自分の情報を自身で管理・更新できるのでデータを収集して人事が転記するよりも業務負荷やミスは低く、データを常に最新の状態に保つことができます。
評価や組織診断サーベイといった人事が管理するデータも、評価ツールやサーベイツールを運用する中で自動的に蓄積・更新されていく仕組みになっています。各部署から集めたデータを人事が入力する必要はありません。データは一元管理されているので、つなげたり組み合わせたりして、分析することが可能。こうした面でも人事の負担を大きく軽減できるツールとなっています。
従業員自身がデータを更新できるのはクラウドならではの強みだと思いますが、それを新たな負担と感じさせないことも重要ですね。
古野:入力してもらうデータがどういう目的に使われるのかを明確にすることが大切だと思います。たとえば、単に目標を入力してくださいと伝えるのではなく、「今週の1on1ミーティングで目標達成のプロセスについて話し合うので、ミーティングまでにそのためのデータ入力をお願いします」などと、業務につなげる形でプッシュしていくと効果的です。
入力画面は、ストレスなく直感的に操作してもらえるようなユーザーインターフェイスにこだわっています。また必要に応じて、導入企業に対する使い方に関するコンサルテーションも行っています。
HRMOS導入が人財マネジメントの改善、エンゲージメント向上などにつながった事例をお聞かせください。
古野:データが一元化されると、「経営者」「人事」「マネジャー」といった異なるポジションの人たちが同じ人事データを見ることができるようになります。それによって、人財活用に対する考え方をすりあわせることができた、自社における活躍人財の定義を言語化できた、といった声をよくうかがいます。
他には、組織課題が可視化され、次世代育成に必要な異動や経験、研修なども明確になったことにより、働きやすい職場づくりや個人の成長とエンゲージメント向上に効果的だったという声も聞きます。また、同じデータに基づいて意思決定を行うことで、人事が経営や事業のマネジャーと協力し、戦略人事としてより力を発揮できるようになったというケースも数多くあります。
タレントマネジメント、人的資本経営の基盤ツールとしても
貴社では「HRMOS」シリーズをどのような企業に活用してほしいとお考えでしょうか。
古野:従業員数が150名を超えてくると、経営や人事の経験・勘だけでは的確な人財マネジメントが難しくなるといわれます。そこで人事データの活用に着目するのは自然な流れでしょう。ただし、データの整備に膨大な時間や工数を割くことになっては本末転倒です。
「HRMOS」シリーズは、日常の人事管理業務を効率化することができるクラウドサービスです。さらに日々使っているだけで、自動的に必要なデータが蓄積されます。データ整備や分析の専任スタッフを置かなくてもいいので、規模の小さい企業でも使いやすいことが特長です。
これまでのデータ管理体制に課題を感じている企業にもおすすめです。たとえば、スプレッドシートで人事データを管理していると、異動や退職にともなって関連するすべてのデータを書き換えるのはかなり大変な作業になります。
またよくあるのが、その部署にもう所属していないにもかかわらず、スプレッドシートなどの閲覧権限が付与されたままになっているケースです。HRMOSは組織の変更を前提としたデータベースなので、異動があれば関係するすべてのデータの権限が自動的に書き換わります。仮に毎月組織が変わったとしても、それは同様です。
HRMOSの導入を提案される中で、よくある質問などがあれば教えてください。
古野:コンサルティング業界の企業様からは、タレントマネジメントツールとしても使いたい、という問い合わせをいただくことがあります。「こういう人財を探している」といわれて、人事が従業員の過去の経験を確認する際は、点在する膨大な数のファイルを見なくてはなりません。さらに特定のスキルや資格を複数かけあわせて探すとなると、大変な手間がかかります。HRMOSなら複雑な条件による検索も簡単に行うことができ、社内に人財が埋もれてしまうのを防ぐことができます。
エンゲージメントに関して要望が多いのは、サーベイ機能です。HRMOSでは、アンケートの作成・配布・回収を効率的かつ安全に行えるだけでなく、高度な分析機能も備えていることが特長です。
たとえば組織診断サーベイでは、業種や職種によって重視すべき項目が変わりますが、HRMOSは過去の事例を基に必要な項目を的確に判断し、課題解決にもっとも近い改善ポイントを明らかにできます。さらに、異なるデータを組み合わせて比較するような複雑な処理も、クリックするだけで可能です。当社としても自信を持っている機能の一つです。
自社の人財の状況を可視化し、情報開示していく動きも活発化していますが、そういう目的のためにも活用できますか。
古野:海外を含めた動きをみると、人的資本管理に関する情報開示の国際標準ガイドライン「ISO30414」の創設や、2020年8月に米国証券取引委員会(SEC)が上場企業に対してヒューマンキャピタルレポート策定の義務づけを行うなど、人的資本の情報開示の流れが鮮明になってきています。日本でも今後、より重視されるようになっていくのは間違いないでしょう。
HRMOSのようなプラットフォームを活用して人事データを適切に管理することは、社内の人財マネジメントに役立つことに加え、社外からの信頼や評価を高める大きな要因になっていくと思います。
従業員数150名を超えたら「HRMOS」シリーズ活用のタイミング
直近ではコロナ禍の影響でテレワークが増え、従業員の状況をつかみにくくなっていると言われます。そうした状況下での人財マネジメントでは何に注意すべきでしょうか。
古野:新たに人財を採用するときには、オンボーディングがより重要になるのではないでしょうか。その際に必要なのは、入社した社員に関する詳しい情報や面接・面談でのコミュニケーション履歴。テレワークという環境の中で関係性を構築していくために、受け入れる側にとって不可欠な情報といえます。
HRMOSであれば採用時からのデータを一元管理することができるので、面接で入社後は何がしたいといっていたのかといった情報もしっかりと引き継げます。現場に配属されて「こんなはずではなかった」というミスマッチを防げれば、早期離職やモチベーション低下のリスクを低減できます。
最後に、人事が確かなデータに基づく人財マネジメントを行っていく重要性とそれを支えていく貴社の思いをお聞かせください。
多田:当社では「すべての人が『自分の可能性』を信じられる社会をつくる」をミッションに掲げています。そのための手段は、転職だけではありません。企業内でも積極的にチャンスを見いだせるようになっていくべきです。
私たちは、この想いを実現するためのツールとして「HRMOS」シリーズを開発しました。日本でもキャリアを主体的に捉え、自分のなりたい姿、やりたい仕事を実現する時代が訪れようとしています。労働力人口が減少する中で、これまで以上に社会全体での適材適所が求められます。そのために重要なのが人事データの蓄積と活用です。
実は、私はビズリーチに人事部長として入社したのですが、その時は当社の規模は50名程度でした。最初は全員の顔と名前、どんな人物かがすべてわかっていましたが、150名を超え、離れた拠点や部署で独自に採用された人が多くなるにつれ、全員のことを把握するのが難しくなりました。
そんなとき、私も人事データの活用で助けられました。サーベイで全体の傾向を把握。さらには部署ごとの傾向を見て、的確な施策を実施することができました。半年後には再度サーベイを行い、施策が有効だったかどうかを分析・検証。このPDCAを繰り返すことで、曖昧な感覚ではなく、データに基づいた判断を正しく行えるようになり、そのエビデンスに基づいた人事施策が、弊社の急成長を支えることができたとも思っております。
これからは企業が人財に選ばれる時代です。今までとは逆ですね。従業員に選ばれ、長く活躍してもらうためにはエンゲージメントを高めることが重要です。そのためには、一人ひとりが活き活きと働くという目標に企業のミッション、ビジョンを一致させていくこと、人事データを活用しながら個人を活かしていくことが求められます。経営戦略の実現を担う戦略人事として、人事責任者や人事部門の役割も大きくなっていくことでしょう。
「HRMOS」は、「HRM(ヒューマン・リソース・マネジメント)」と「OS(オペレーティング・システム)」をつなげた造語です。人財活用のためのOS、インフラという思いを込めて名づけました。HRMOSによって、日本によい職場が増えていくことを期待しています。直接的には人事向けのサービスですが、究極の思いとしては日本社会、ひいては世界に貢献していきたいですね。
人財活用プラットフォーム「HRMOS」シリーズは、あらゆる従業員データを一元管理し、“採用→評価→育成→配置”に活用することでマネジメント・人事による事業戦略と組織戦略の遂行を支援します。
社名 | 株式会社ビズリーチ HRMOS事業部 |
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