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日本のDE&Iは黎明期。
業績を向上させる真のDE&Iのために取り組むべきことは

山本 勲氏(慶應義塾大学 商学部 教授)
伊藤 直子氏(株式会社日立ソリューションズ 経営戦略統括本部 チーフエバンジェリスト 兼 人事総務本部 本部員)

掲載日:2024/03/25
日本のDE&Iは黎明期。 業績を向上させる真のDE&Iのために取り組むべきことは

「DE&I(Diversity=多様性、Equity=公平性、Inclusion=包摂性)」とは、人々の多様性を認め、多様な人材に対して育成や登用の機会を公正に与えていく、そして多様な人材を組織で巻き込んでいく考え方のことだ。

2月2日に開催された「HRカンファレンス2024-冬-」~リーダーズミーティング~(以下、リーダーズミーティング)では、慶應義塾大学商学部教授の山本 勲氏と「DE&I」のリーディングカンパニーである株式会社日立ソリューションズの伊藤 直子氏が「DE&I」に関する問題提起や自社の取り組み事例について発表。日本企業を代表する人事リーダーたちが「DE&I」について語りあった。

イベント内で、DE&Iのあるべき姿とその手段について示した山本 勲氏。「イノベーションの創出を期待できる」としてDE&Iを戦略的に用いる企業も増えているが、果たして本当にDE&Iは企業の業績向上につながるのか。最新の論文をひも解きながら、問題提起を行った。

Profile
山本 勲氏
山本 勲氏
慶應義塾大学 商学部 教授
伊藤 直子氏
伊藤 直子氏
株式会社日立ソリューションズ 経営戦略統括本部 チーフエバンジェリスト 兼 人事総務本部 本部員

問題提起1:DE&Iは企業業績の向上につながるのか

「この論点には賛否両論がある」と前置きした上で、山本氏は話し始めた。

「そもそもDiversity(ダイバーシティ)には、男女や人種の割合に注目する『Demographic Diversity(デモグラフィック・ダイバーシティ)』と、人々の考えや価値観の違いに注目する『Cognitive Diversity(コグニティブ・ダイバーシティ)』の2種類があります。海外の研究では、デモグラフィック・ダイバーシティは企業業績にプラスにならないが、コグニティブ・ダイバーシティはプラスに働くといった報告があります。つまり、この二つのダイバーシティの違いを理解し、コグニティブ・ダイバーシティを重視している企業ほど業績が向上している、ということです」

山本勲氏(慶應義塾大学 商学部 教授)

では、日本ではどうだろうか。

「日本は、まだまだデモグラフィック・ダイバーシティにとどまっているように思います。内閣府の『第5次男女共同参画基本計画』には、2025年までに東証プライム市場上場企業での女性役員割合を19%、女性役員ゼロの企業割合を0%、そして民間企業の管理職女性割合を係長級で30%、課長級で18%、部長級で12%を目標にするなどと書かれています。女性活躍がかなり強調されていることからも分かるように、『男女のダイバーシティ』に議論が特化していますね。しかし大事なのは、女性だけでなく多様な人材を育成し、登用し、活躍してもらうためのコグニティブ・ダイバーシティです。コグニティブ・ダイバーシティを重視すれば、自然とデモグラフィック・ダイバーシティも進んでいくと考えられます」

問題提起2:コグニティブ ダイバーシティを実現するには

「すべての従業員のウェルビーイング向上を目指せば、自然とコグニティブ・ダイバーシティが実現する」と山本氏は断言する。

ウェルビーイングは、「健康に長生きしたい」「働きがいを感じたい」といった身体的・精神的・社会的に良好な状態にあることを意味する。ウェルビーイングを測定する調査「OECD better life index(ベター ライフ インデックス)~OECD(2020)」を見ると、ウェルビーイングを構成する項目は全部で11分野。大きく「金銭的指標」と「非金銭的指標」に分かれて、「健康状態」や「安全」といった非金銭的指標が重視されている。

図:認知的DEI実現の⼿段

「『給料をたくさんもらいたい』『昇進したい』など、金銭的指標に重きが置かれていた時代は、それに特化した人材マネジメントでも問題はありませんでした。しかし、今は価値観が多様化し、健康や働きがい、ワークライフバランスなどの非金銭的指標に注目が集まっています。従業員それぞれの価値観は違っても、非金銭的指標の向上が実現すればウェルビーイングが向上し、エンゲージメントも高い状態になります。つまり、多元的な価値が『ウェルビーイング』という一元的な評価指標になるので、従業員のウェルビーイングの向上を目指せば自然とコグニティブ・ダイバーシティが実現するのです」

今、日本企業が行っている人的資本経営や働き方改革などは、ウェルビーイング向上に有効なのではないかと山本氏は付け加える。

さらに、ウェルビーイングの向上が業績アップにつながることを表す研究結果も示された。取り上げられたのは、ある大手小売企業1社のデータ。従業員のエンゲージメントと組織のパフォーマンス指標との関係を調べたものだ。

「調査の結果、従業員のエンゲージメントは売り場ごとにばらつきがあり、平均値が高い売り場は売上高も高くなる傾向があります。ただし平均値が高くても、売り場内のエンゲージメントのばらつきが大きいと、生産性は低下する傾向にあることも分かりました。コグニティブ・ダイバーシティを実現するために最も大切な事象はなにか。『職場のメンバー間の温度差がなく、全員がいきいきと働いていること』だと言えるでしょう」

問題提起3 :DE&Iを具体的に進めていくには

では、具体的にDE&Iを進めるにはどうすればいいのだろうか。そこには、次の「三つの論点」があると山本氏は言う。

「一つ目は、『浸透・組織風土醸成』、二つ目は、『多様な人材の活躍・活用』、そして最後は『女性活躍推進』です」

山本氏は、浸透・組織風土醸成の重要性について、日経スマートワーク経営研究会の研究を引き合いに解説した。

「健康経営を例にして、従業員に『制度がない』『制度はあるが、あまり活用されていない』『制度が十分に活用されている』という3段階の選択肢でアンケートを取ったところ、『制度が十分に活用されている』との回答が多い企業は、健康経営を導入することで利益が増えるとされています。一方、企業は『健康経営を実施している』と回答したものの、従業員が『制度がない』『あまり活用されていない』と答えるなど、ギャップがある場合もあります。このギャップを大小に分けてROE(自己資本利益率)との関係を見てみると、ギャップの小さい企業はROEが高いことが分かります」

山本氏は単に制度を導入するだけでなく、従業員に活用してもらい、浸透していくことが大事だとした上で、浸透させるための施策について語った。

「健康経営施策を、(1)経営理念(2)データ把握(3)ワークライフバランスの三つに分けて業績に与える影響をスコア化したところ、経営理念だけがプラスの影響があると分かりました。データ把握やワークライフバランスは、必ずしも影響しないのです」

以上の研究から、ROEの向上には、経営理念の浸透が何よりも重要であることが読み取れる。

「具体的にはトップの方針を明文化し、定期的に伝達したり、アンケートを実施して理解度を確認したりといったアクションが必要です」

先述したように多様な人材が活用されれば、ウェルビーイングが高まる。その判断を表すのが「仕事の要求度・資源モデル」だ。

図:多様な⼈材の活躍・活⽤

「このモデルは、エンゲージメントを高めるには、上司・同僚のサポートやキャリア開発の機会、正当な評価などの『仕事の資源』と、自己効力感やレジリエンスなどの『個人の資源』が重要であることを示しています。また、仕事のプレッシャーや精神的負担、肉体的負担など『仕事の要求度』が高くなると、エンゲージメントは下がってしまうことを表しています。

このモデルに基づくと、エンゲージメントを高くするには『仕事の要求度』を下げる必要があります。しかし企業としては、要求度はある程度高くしたままで生産性を高めたい。エンゲージメントを下げずに行うには、『仕事の資源』と『個人の資源』の両方を高めていくことが重要です」

とはいえ、何が従業員のエンゲージメント向上に役立つかは、職場や業態、あるいは個人によっても変わってくる。

「人事責任者は、そこを見極め、戦略的に認識して高めていくとよいでしょう。先述した小売業の例であれば、上司のマネジメントや目標の共有、フィードバック、役割の明確化、成長機会の確保がエンゲージメントを高めることになります。また『ウェルビーイングを高める』という意味では、制度も仕事の資源の一つになります」

例えば、日経スマートワーク研究所では、勤務間インターバル制度(勤務終了後、翌日の出社までの間に一定時間以上のインターバルを設け、生活時間や睡眠時間を確保するもの)とウェルビーイングの関係について調査。「制度がない」「制度があるが、あまり活用されていない」「制度が十分に活用されている」の3通りに分けて個人のエンゲージメントを調べると、制度が活用されていればいるほどエンゲージメントが高くなるという結果になった。

「興味深いのは、残業時間について『制度がない』よりも『制度があるが、あまり活用されていない』と回答した人のほうが、残業時間が長くなっている点でした。勤務間インターバル制度の他に、『心理的安全性の確保』『パーパス(社会的な存在意義)の理解促進』なども、エンゲージメントにプラスになることが分かっています」

DE&Iの推進において、もはや不可欠と言えるのが「女性の活躍」だ。2022年、日本の女性役員比率は全上場企業で14.9%、プライム市場上場企業で11.4%となっている。過去10年間で徐々に上昇してはいるが、日本を除くG7諸国やOECD諸国の平均と比較すると、ギャップは依然として大きい。女性管理職比率も同じだ。2022年は係長級が24.1%、課長級が13.9%、部長級が8.2%と、上位の役職ほど女性管理職の割合が低くなっている。

図:⼥性活躍推進の現状と課題
図:⼥性管理職⽐率

「出産を機に辞める人、いわゆる『M字カーブ』の問題は減ってきていますが、正規雇用として続ける人がまだ少ないという『L字カーブ』は残っています。『L字カーブ』はじわじわと上がっているので改善はされているものの、20代後半あたりで下がっているので、いかにして下げないかが課題と言えます」

女性活躍推進の大きな障壁になっているのが、男性あるいは正規雇用で働いている人の労働時間の長さだと山本氏は言う。

「男女の有償労働時間と無償労働時間(家事育児)を国際比較したグラフを見ると、日本は際立って男女差があります。言い換えれば、正社員として活躍するにはかなり長時間労働をしなければいけない。まずはそこを変えるべきでしょうね」

図:労働時間(有償・無償)の男⼥間格差

女性活躍を考えるにあたって、興味深いアンケート結果がある。第一子の出産から復帰したときに「マミートラック」にいると感じたものの、現在は「キャリア展望がある」とする女性の回答を見てみると、マミートラックを抜け出せた理由として最も多かったのは「定時退社だけでなく、必要なときは残業をするようにした」。山本氏は、この状況を本末転倒だという。

「本来であれば、残業が必要ない働き方をする必要があします。残業がなければマミートラックにもならないし、性別によって働き方や活躍の仕方も変わりません。まさに日本の現状を反映しているものでしょう」

日本のDE&I推進にとって重要な取り組みは、長時間労働を減らすこと。つまり「男性を含めた働き方の変容」であると、山本氏は結論付けた。

日立ソリューションズの取り組み事例:DE&Iにどう取り組んできたか

DE&Iを進めるために不可欠な三つの論点は、「浸透・組織風土醸成」「多様な人材の活躍・活用」「女性活躍推進」だ――。山本氏の提言を受け、日立ソリューションズの伊藤氏が自社の取り組み事例を語った。

DE&Iの浸透・組織風土の醸成

日立ソリューションズがダイバーシティ推進センターという専任組織を立ち上げたのは2009年。意識改革を地道に行い、2020年には社外からセンター長を招き、ダイバーシティ推進センターを刷新した。

伊藤直子氏(株式会社日立ソリューションズ 経営戦略統括本部 チーフエバンジェリスト 兼 人事総務本部 本部員)

「我々はよくやってきたと思っていましたが、センター長いわく、みんな言うことがバラバラだと。そこで、当社が目指すDE&Iを『人権尊重』『多様な事情配慮』『処遇の公平性』『多様な人財』『経験・能力の活用』『事業成長への寄与』という6象限に定義。それぞれに対してコンプライアンスや労務、人事、経営戦略など部署もプロットしています」

その中で、ダイバーシティ推進センターは、『ダイバーシティウィークを設けてイベントを開催する』『部門ごとに推進チームを作り、交流会や勉強会を通じてダイバーシティを組織文化として定着させる』といった試みを行ってきたと言う。

多様な人材の活躍・活用

2016年からは、テレワークやフレックスなどを促進し、2021年には働き方を選択できる風土がおおよそできあがった。そして、「次に重要なのは働きがいや成長実感ではないか」という観点から、EX(Employee Experience=従業員体験)向上を推進。

「社内での体験を通して働きがいや自己効力感を上げることで、エンゲージメントを高め、成果につなげるという考え方です。そのために行っている当社の特徴的な施策が、『若年層ジョブマッチング制度の導入』『全員参加型のアイデアソン』です。

若年層ジョブマッチング制度は、入社3年目の全社員がマッチング権を持ち、部署移動するか、そのまま継続するかを自分で決定できる制度です。若いうちからキャリアは自分で考えようという『キャリア自律』の機会を与えるのが狙いです。一方のアイデアソンは、社員からいろいろなアイデアを出してもらい、全社員投票と最終プレゼンの選考で最優秀アイデアを決めて、具現化するというもの。こちらも自発的なチャレンジを応援するための取り組みです」

女性活躍推進

積極的にダイバーシティ推進に取り組む日立ソリューションズだが、2022年の女性従業員比率は17.6%、女性管理職比率は6.7%という結果。どちらも徐々に上がってはいるが、従業員の女性比率と女性管理職比率の差は縮まっていない。

図:女性活躍推進(女性管理職比率の現状)

「この差を縮めることを目標に、2022年夏、女性の役員と本部長7名が集まって『女性本部長会』を発足しました。昇格にまつわる我々の体験談が若い女性たちに役立つかもしれないと、応援コミュニティを作ったり、女性リーダー研修会を開いたり、他部門上層部との交流機会を設けたりといった取り組みも計画。『先輩女性たちの余計なおせっかいかもしれない』『でも、助かる人もいるかもしれないな』と思いながら、取り組んでいます。また当社では、女性特有の健康課題を解決するため、オンラインで専門家に相談できるサービス『リテシア/女性活躍支援サービス』も提供しています」

グループディスカッション1:浸透・組織風土醸成

「問題提起3 :DE&Iを具体的に進めていくには」で取り上げた三つの論点をもとに、グループごとに各社の取り組みを共有しながらディスカッションが行われた。

Aグループ

  • SCSK株式会社 河辺 恵理氏
  • 株式会社キタムラ・ホールディングス 渡部 達二氏
  • 株式会社荏原製作所 入江 哲子氏

Bグループ

  • シミックホールディングス株式会社 口村 圭氏
  • JFEエンジニアリング株式会社 土屋 浩志氏
  • マルハニチロ株式会社 若松 功氏

Cグループ

  • 株式会社ワールド 吉田 玲子氏
  • 株式会社カインズ 清水 宏紀氏
  • バークレイズ証券株式会社 岡本 弘基氏
  • 三井住友DSアセットメントマネジメント株式会社 山本 直史氏

Aグループ

Aグループでは、まず各社が自社のDE&Iの取り組みを紹介。その上で、「組織に浸透させるためにフレームワークを活用する」「部門や各社の人事担当者とコミュニケーションを取る」「社内に匿名の意見箱を設ける」「自分のバックアップを作る」といった具体的な工夫も紹介された。その他、男性の育休取得の現状と対策、替えのきかない技術者の働き方についても話し合われた。

荏原製作所 入江氏:「チェンジマネジメント」という、組織に浸透させるためのフレームワークが活用できるのでは、という話から始まりました。
重要なのは、浸透させるために各部門にチームを作ること。理由は、本社やトップがいろいろ言ってくれても受け手の粒度にまで配慮しなければ、なかなか耳に入らないからです。「現場で通じる言語」で話すことも、とても大事だと思っています。

Bグループ

Bグループでは、DE&Iの考えを現場に広めるために「女性の管理職と話す」「評価の項目に入れる」といった、各社それぞれの取り組みを紹介。「配偶者にパートナーも入れる」など、女性以外にLGBTQに配慮した制度を整備したという話も出てきた。

シミックホールディングス 口村氏:各社、ダイバーシティ推進室など専任組織を作ったり、ラウンドテーブルを行ったりするなど、時間をかけて施策を積み重ねていました。それに伴いDE&Iを理解したメンバーが現場に増え、浸透・組織風土醸成につながっているようです。また、当社から「若手社員からの突き上げでLGBTQの体制をようやく作った」という話も紹介。これに対しては「まだそこまでは進んでいない」といった声もあり、各社課題のおさえどころはそれぞれでした。

Cグループ

Cグループでは、各社実情を話すところからスタートし、ジェンダーだけでなく、国籍におけるDE&Iについても紹介。女性を活かすという点では、ラウンドテーブルやランチ会、ネットワーキングなどの具体的な施策各社取り組んでいた。課題としては、「女性の管理職比率が上がらない」「そもそも女性が管理職になりたがらない」「一体感がでてこない」などがあがった。

グループディスカッションの様子

バークレイズ証券 岡本氏:金融系2名とリテール系2名で、非常に有意義なディスカッションができました。金融系は女性活躍推進関係の説明会やイベントなど、デモグラフィック・ダイバーシティに注目した形である一方、リテール系では、普段から話しやすい風土醸成に取り組んでいるといった話もあがりました。DE&Iにおいては、「初期ステップを練っている」「さらなる推進を進めている」など、各社業界によっても違いが出ている印象でした。

グループディスカッション2:「多様な人材の活躍・活用」

Aグループ

Aグループでは、ワ―ケーションやリモートワーク、スーパーフレックスなど、従業員の働きがいを高めるための施策を各社で話し合った。また「残業を減らすと有休が取れない」といった課題について、解決策を共有する場面も。社内FA社内公募については、各社の制度のあり方や運営方法、課題などの議論が進み、「組織の活性化には、FAや公募などで流動性を保てる仕組みが大事」という意見で一致した。

キタムラ・ホールディングス 渡部氏:多様な人材を活かすにあたり、制度の話中心に話し合いました。日本全国どこでも仕事ができるワ―ケーションや、時間を自由に使えるスーパーフレックスなど、制度によって個々のパフォーマンスを上げていくという話が印象的でした。また、有休20日を100%実現しているという取り組みもあり、個人的に大変感心しています。

グループディスカッションの様子

Bグループ

Bグループでは、社内公募制度と社内FAについて、それぞれ自社の仕組みと課題が共有された。働きがいを高める施策として、360度評価やエンゲージメントサーベイなどにトライしているが、多くの課題が残っているというのが各社共通の見解。うまく活用するにはどうすればいいのかが議論された。

JEFエンジニアリング 土屋氏:公募制度については、異動した後の後任人事の問題がつきまとうのは各社共通。ローテーションは、社員に「自分が選んだ」という意識を持たせるのが大事という結論になりました。働きがいについては、どの会社でもエンゲージメントは調査していますが、活用の仕方が難しいようです。また、目標管理の運用も難しいという意見がありました。最終的には「事実に基づいてフィードバックすることが肝である」という話でまとまりました。

Cグループ

Cグループでは、そもそも「優秀な人材がなぜ辞めるのか」に始まり、自社に必要な人材の定義や離職理由を共有。また、エンゲージメントサーベイの活用度合いや社内公募制度、社内FA制度の実情について、従業員からの声も含め各社の取り組みが紹介された。

カインズ 清水氏:働きがいの前提として、「人事制度で公平に評価できているのか」「奇をてらったことよりも、今あるものをちゃんと運用することが大事なのではないか」という意見が出ました。エンゲージメントサーベイの活用という点では、社員の声がちゃんと届いていることはもちろん、「どこまで開示されるか」という透明性についても議論されました。

グループディスカッション3:「女性活躍推進」

Aグループ

Aグループでは、女性の役職の育成状況や具体的な施策について話し合われた。女性育成の施策を行うと、「男性から『逆差別ではないか』という不平感が出るのでどうしたらよいか」という悩みも投げかけられた。その解消法の一つとして「バイアスを排除する仕組みを作った方がいい」などの意見も出てきた。

SCSK 河辺氏:当社の事例と課題を中心にお話ししました。当社では10年前から女性が自然に登用されるフェアな組織風土の醸成をしながら課長の育成をすすめ、100名以上が登用されましたが、昨年より、部長級、今年度より、役員級の女性の育成を開始しました。プログラムに推薦された女性達や、そのサポーターとなる上位役職者やマネジメント層には理解を得られていますが、当事者以外からのバイアスはまだあります。「なぜ女性だけ?」といった意見もあり、周囲の抵抗感を減らしていくことが課題です。

Bグループ

Bグループでは、女性活躍推進のための研修や評価など、各社の取り組みを紹介。女性管理職比率がだんだん高くなり、「少しずつ変わっていっている」「男性育休は増えている」と前進が見られる話も出てきた。この流れをさらに加速させるには、「ワークシェアや賞与などに関して、根本的な改革が必要なのではないか」という結論になった。

マルハニチロ 若松氏:技術職については、「そもそも“リケジョ”を増やさないとダメだよね」という話に始まり、当社の事例もお話ししました。当社は採用の男女比率が男性7:女性3でしたが、今は半々になっています。「男性じゃないと無理ではないか」といった取引先からの空気もある中で、人事から部長への懸命な働きかけが、ここにきてようやく実を結びつつあるところです。

グループディスカッションの様子

Cグループ

Cグループでは、「女性の活躍推進は職種によって特徴が出てくる」という話から議論がスタートした。女性はいるけれどバックオフィス系の職種が多い、上位役職になればなるほど女性の役職者比率が低いという傾向も。その理由として、「そもそも長時間労働が問題」「横のつながりはあっても、目指したくなるロールモデルがいない」などがあがった。さらに、「女性へ過度に気遣いをしてしまうアンコンシャス・バイアスが女性活躍を阻む原因なのでは」といった点でも議論が交わされた。

ディスカッションを受けて、伊藤氏が御礼の言葉とともに締めくくった。

「山本先生のデータから、各社のリアルな話まで、当社としても非常に勉強になりました。『多様な人材の活躍』のディスカッションでは『処遇の公平性』の話題がでました。本当に公平であることよりも、『自分が公平に処遇されていると感じる』ことが重要であるかもしれない。制度や施策を進めながらも、従業員の感じ方は引き続き注目していきたいと感じました。

また、『DE&I』がテーマでしたが、当社含め『女性活躍』の部分で課題がある企業も多かったですね。男女雇用機会均等法が施行されて、30年以上たっています。少しでも早く『女性活躍』と言わなくていい社会を作っていけたらと思います」

本セッションのまとめ

図表 「DE&I」セッションのまとめ

当日知見をご共有くださった皆さま

※所属や役職は「リーダーズミーティング」開催時のものです。

有識者・プロフェッショナル

  • 山本 勲氏
    慶應義塾大学 商学部 教授
  • 伊藤 直子氏
    株式会社日立ソリューションズ 経営戦略統括本部 チーフエバンジェリスト 兼 人事総務本部 本部員

大手・優良企業の人事リーダー (社名50音順)

  • 河辺 恵理氏
    SCSK株式会社 執行役員 人事・総務分掌役員補佐 (D&I・Well-Being推進担当)
  • 入江 哲子氏
    株式会社荏原製作所人事統括部 ダイバーシティ・エクイティ&インクルージョン推進部 (DE&I) CIOOffice/情報通信統括部 チェンジマネジメント 部長
  • 清水 宏紀氏
    株式会社カインズ 人事本部 人事戦略室 室長
  • 渡部 達二氏
    株式会社キタムラ・ホールディングス 執行役員 人事企画室長
  • 土屋 浩志氏
    JFEエンジニアリング株式会社 人事部 経営スタッフ 部長
  • 口村 圭氏
    シミックホールディングス株式会社 CHRO
  • 岡本 弘基氏
    バークレイズ証券株式会社 人事部長
  • 若松 功氏
    マルハニチロ株式会社 Executive Officer 執行役員
  • 山本 直史氏
    三井住友DSアセットマネジメント株式会社 人事部 人財開発部担当 執行役員
  • 吉田 玲子氏
    株式会社ワールド グループ執行役員 グループ人事統括室 室長 デジタルリテール推進本部 副本部長 株式会社ファッション・コ・ラボ WOS事業本部 本部長
「DE&I」のリーディングカンパニー

日立ソリューションズは、社会生活や企業活動を支えるソリューションを提供し、持続可能な社会の実現に取り組んでいます。豊富な知識、最新の技術で、さまざまな製品やサービスを柔軟に組み合わせ、お客さまや社会の課題に対して最適なソリューションを提供しています。

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