今日は、従業員の意識調査データを用いて、社員のモチベーションを高めるために何ができるか、これから組織づくりをしていくために何をすべきかについて、お話しいたします。
私たちは、1995年に従業員意識調査(NEOS)をスタートさせ、これまでに約200社、約50万人のアンケートデータを集めました。
社員が上げる成果を決定する要因は「能力×モチベーション×環境」の式で表せます。能力や環境は短期的には変化させにくい要素ですが、モチベーションは1日で上げることが可能です。それだけ、モチベーションは注目すべき要素なのです。
では、そもそもモチベーションとは何なのでしょうか。広く研究されている理論には、人を動機づけるものは何かを考える「内容理論」と、どのように変化するのかを考える「過程理論」があります。
「内容理論」における動機づけには、充足時により満足感を与える「動機づけ要因」と、充足していないときにより不満足感を与える「衛生要因」があります。私たちが行っている従業員意識調査からも、仕事に影響を与える要因ごとに満足度・不満足度が異なっていることがわかりました。
なお、「賃金」については、満足、不満足その両方に影響があり、社員が報酬に納得するためには、成果がどのように反映されているかといった関係性を明確に示すことが大切です。
では、モチベーションを高めるような変化をもたらすには、どうしたらいいのでしょうか。過程理論から導かれるのは次の3点です。一つ目は「具体的で高い目標の効果」。ここでは、できるだけ具体的な目標を設定することが重要です。二つ目は「目標の納得性を高める」。目標は受け入れられることでその効果が高まります。本人が重要と感じ、到達可能と確信できればモチベーションもより高くなります。三つ目は「フィードバックの効果」。目標はフィードバックによって、本人にとってより身近なものにできます。
これまでの従業員意識調査から、仕事のやりがいと会社満足度には相関性があることがわかっています。そこで私たちはデータの分析から、社員のモチベーションを高めるための7つの要素を導きました。
会社要因としては、「明確なビジョン」「業務に対するフィードバック」「コンプライアンス」。職場要因では「働きやすい職場環境」「コミュニケーション」。個人要因では「有能さと自己決定(自律型人材)」がモチベーションを高める要因といえます。
職場要因については、2000年以降、アンケートを見ると「職場の親密度」「上司へのサポート」といった得点が低くなっており、職場におけるコミュニケーションがうまくいっていないことがうかがえます。特に「下からの苦情の吸い上げ」といったボトムアップのコミュニケーションが不足しています。
また、個人要因にある「有能さと自己決定(自律型人材)」を解説すると、ここでの「有能さ」とは、自分の能力が仕事を通じて伸びている、またそうした機会があるとする実感のことで、「自己決定」とは、権限移譲に関連する自主的な判断の余地、裁量の大きさの実感を指します。このような実感を得られれば、自律型人材に変わることができ、高いモチベーションを持つことができます。
企業にとって、社員のモチベーションマネジメントを行うことは重要ですが、そのためには社員の本音を捉えておく必要があります。ここで有効な手段となるのが、従業員意識調査の活用です。
例えば、「社員のモチベーションが低い」という課題があったとき、「職場のコミュニケーションが円滑でない」や「仕事に魅力が感じられない」といった、感覚的仮説を立てることはできますが、それだけでは問題は解決しません。なぜなら企業や職場ではさまざまな課題が複雑に絡み合っていることが多く、想定していない要因が隠されている場合もあるのです。
そのため、従業員意識調査を行い、そこに科学的分析を加えることが必要になります。感覚的仮説と科学的分析、この2つを組み合わせることで、有効な方策がつかめてくるのです。どこまで社員の本音を捉えられるかによって、実施する施策の効果も変わってきます。