最近、政府を中心に女性活躍推進の環境づくりが進んでいる。政府は「202030」をうたい、2020年までに指導的地位の女性比率を30%まで増やす目標を掲げた。また、成長戦略で「女性役員を上場企業に一人」という目標も示している。そこで今、官民一丸となって取り組まれているのが「子育て支援の大改革」だ。ワーク・ライフバランス代表取締役社長の小室淑恵氏は、女性活躍推進を企業で行うにあたり、人事がサポートすべきポイントについて解説。内閣府参事官、子ども・子育て支援新制度担当の長田浩志氏が、2015年4月にスタートする「子ども・子育て支援新制度」について語った。
なぜ国をあげて、女性活躍推進に取り組むことになったのか。ワーク・ライフバランスの小室氏は、その経緯について語った。「ハーバード大学のデービット・ブルーム氏が10年前から提唱する考え方に、『人口ボーナス期』があります。これは人口構成比において子どもが減り、生産年齢の人口が多くなった状態を指し、高齢者が少なく社会保障費がかさむことがないので非常に経済発展する時期だと言われています。日本では60年ごろにはじまり、90年代半ばに終わっています。今ちょうど人口ボーナス期の国は中国・韓国・シンガポール・タイです。人件費は安くて労働力もたくさんいるので、世界中から仕事を集めることが可能。爆発的に経済発展して当たり前の状態です」
しかし、人口ボーナス期は一度終わると、同じ国に二度と来ることはない。その理由は、経済発展によって富裕層が生まれ、子どもに教育投資をするため高学歴化して人件費があがる、また晩婚化になり、少子化になるためだ。そして、医療の発展で寿命が延びることにより高齢者が増え、社会保障費も増大。こうして人口ボーナス期が終わり、GDPはほぼ横ばいになっていく。その次に来るのが「人口オーナス期」だ。オーナスとは負荷、重荷という意味。働く人よりも支えられる人が多くなる状態で、労働人口の減少で社会保障制度の維持が困難になると言われている。日本はすでに90年代半ばから人口オーナス期に入っており、主要国の中で最も早く少子高齢化が進んだと言われる。
「その原因は大きく二つあります。一つは、長時間労働環境を改善しなかったため、働く女性が二人目以上を産むという選択を考えなかったこと。これにより、未来の労働力を増やせませんでした。二つ目は、待機児童ゼロに本気で取り組まなかったため、女性が職場に復帰できなかったこと。長期でも短期でも、労働力を増やすことができなかったのです」。では、日本はどうすれば、人口オーナス期において経済発展を実現できるのだろうか。
人口ボーナス期と人口オーナス期とでは、働き方が違ってくる。人口ボーナス期に経済発展しやすい働き方とは、なるべく男性が働くこと。重工業の比率が高いためだ。次に、なるべく長時間働くこと。早く安く大量に作って勝つためには、「時間=成果」と言えるからだ。三つ目は、なるべく同じ条件の人を揃えること。均一なもので市場ニーズを満たすことができるほか、労働力が余っている時には、わかりやすい一定条件での足切りが可能だからだ。
では、人口オーナス期に経済発展しやすい働き方はどうかというと、人口ボーナス期の逆になると言う。「なるべく男女ともに働く。頭脳労働の比率が高く、かつ労働力は足りないので労働力はフルに活用する。そして、なるべく短時間で働く――。短時間で高い生産性へとルールを切り替える必要があります」
もう一点は、なるべく違う条件の人を揃えること。均一なモノに飽きている市場であり、常に違う価値を短期的なサイクルで提供する必要がある。また、労働力が足りないので、転勤や残業の可否で足切りしていると、介護する男性は誰もがふるい落とされることになる。育児・介護・難病・障害などは、労働する上での障壁にならないよう、労働環境を整備することが重要になるのだ。
「今、企業に求められる役割は、沈みゆく人口ボーナスの山にしがみつかず、早く人口オーナスの山に飛び移ることです。ただし、その変化に女性がついて来られないようでは困りますから、上手に仕事と家庭を両立できるよう、タイムリーで正確な情報を提供していく必要があります」
そして、その両立支援に大きな役割を果たす「子ども・子育て支援新制度」説明のバトンを、担当である内閣府参事官の長田氏に渡した。
子ども・子育て支援新制度は平成27年4月スタート予定で、『すくすくジャパン!』という愛称がある。そのポイントは待機児童の解消と小1の壁の打破。そして子育て不安の解消だ。子どもや子育てをめぐる諸課題を解決し、少子化の進行を食い止め、子どもを産み育てやすい社会の実現を目指している。
新制度では、消費税率引き上げによる増収分0.7兆円を含め、1兆円超の恒久財源の確保を目指し、子育て支援の質、量の両面にわたり拡充が図られる。保育所待機児童数は2万1371人(H26年)で、4年連続の減少。これまでも毎年4~5万人程度の保育所定員の拡大を図ってきたが、保育の潜在需要の顕在化により、保育所利用率は特に3歳未満で上がっていて、待機児童がなかなか解消しない現状が見える。保育所定員数では平成25年度、26年度の2年間で約20万人の保育の受け皿が拡大する見込みだ。
それでは、具体的にどのように待機児童を解消するのか。その方策には三つの具体策がある。一つ目は待機児童解消加速化プランだ。潜在需要も含めた市町村事業計画の策定と、計画的に整備する待機児童解消加速化プランにより、国は市町村の取組みを支援する。当初の予定より2年前倒しし、保育ニーズのピークを迎える平成29年度末までに、40万人の受入れ増を確保し、解消を目指す。2015年4月の子ども・子育て支援新制度の施行を待たずに、地方自治体に対してできる限りの支援策を講じ、「緊急集中取組期間」と新制度で弾みをつける「取組加速期間」で待機児童の解消を図る考えだ。
二つ目の策は、保育の認可制度の改善。客観的な基準を満たせば、供給過剰である場合を除き、原則として認可しなければならない仕組みとなっており、株式会社であることを理由に認可しないことは認められない。三つ目の策は少人数保育への公的助成の創設。19人以下の子どもを対象にした保育事業(小規模保育、保育ママ、事業所内保育)も認可事業とし、公費による安定的な運営を支援するものだ。
事業所内保育では、従業員の子どものほか、地域の子どもも受け入れる場合、地域型保育給付の対象となり、継続的な財政支援が受けられる。ただし、一定の認可基準を満たし、市町村の認可を受けることが必要となる。
これらの施策に対し、小室氏は「国が2年も前倒しで待機児童解消にあたっていることについて、ご存知でない方も多いのではないでしょうか。株式会社での保育園はこれまで排除されてきましたが、国はこれを変更しました。また、一番大きな変更は小規模保育が認められたことではないかと思います。19人以下でも助成が出るという点は、大変大きな変化です」とコメントした。
次に小室氏が再び登場し、人材奪い合い時代における人材確保の方策について解説した。出産・育児期を乗り越える継続就業のために、子ども子育て新制度をわかりやすく解説し、両立できる道筋を示す。特に入社3~5年目のワークライフ・プランニング研修は効果的だ。自社でできる事業所内保育所などの対策も積極的に行うべきだろう。「しかし、本当の課題である長時間残業と女性の管理職登用の問題に向き合わないと、女性活躍推進は成功しません。」
長時間残業の改革に関しては、小室氏が代表を務めるワーク・ライフバランスで多くのコンサルティング実績がある。その主な手法は、社内でもメジャーな職場を中心にいくつかのチームを作り、8ヵ月のトライアルで社内の効果的事例をつくり、それを広めるやり方だ。その工程では働き方見直しの4ステップをなぞっていく。「現在の働き方を確認する→業務の課題を抽出→会議で働き方の見直し(カエル会議)→見直し施策の実施」、このサイクルを回していくのだ。
また、個々の働き方を見直す手法として提案しているのが「朝メール・夜メール」だ。朝一番で、その日にやることを15分~30分単位で書き出し、上司や同僚すべてに送信。その結果どうだったかを、夜メールで報告。実際にかかった時間、計画通りにいかなかった理由を書き込む。「見直しでは『なぜ』を何度も繰り返し、深掘りしてもらいます。すると自身の知識やスキルの課題が見えてくるのです。人は誰でも他者のせいで残業していると思っていますが、実は違います。そこには内的要因もあるのです。それを見つけて個人やチーム単位で解消していきます」
働き方の見直しに関する取組みの事例は、実にさまざまだ。100社あれば、100通りの方法がある。「ある会社の開発部では、開発にかける時間が8%、会議が68%という例もありました。そこで、徹底して会議を短くしました。日中に集中できる時間がなく、夜に仕事を持ち越していた事例では、日中に集中タイムや集中ルームをつくって、互いに話しかけない時間を設けるという、工夫しました。働き方の見直しにおいては、すべての人材に時間制約がつくという認識を広めることが大切になります」
もう一つ、必要な改革は、管理職の意識改革とマネジメント手法の改革だ。「評価を『期間当たり生産性』から『時間当たり生産性』にすることが重要。そして、女性管理職研修では新しい管理職像を示すことも、前向きに仕事にあたる施策となります。ただし、女性支援を全面に出すことを女性は望んでいません。男女ともに時間と場所の制約を持つ時代であることを認め、多様な人材が全員活躍することで成果を出す。そんなチーム作りが求められています」