現場で一人ひとりのメンバーが主体的に考え、自ら動く。それだけでなく、チームとして新たなものを創造していく――。組織をつくる上で今注目されているのが、上司と部下が共に創造していく共創(コ・クリエイション)のリーダーシップだ。環境変化の激しい時代だからこそ求められる、新たなリーダーシップ開発のカギとは何か? 組織開発に詳しいオーセンティックワークス代表取締役の中土井僚氏が語った。
本講演を協賛するテンプスタッフラーニングは、社員研修を中心とする企業向け人材育成・組織活性化サービスを行っている。階層別人材育成、各種ビジネススキル研修、顧客満足度向上、組織開発、女性活躍推進など多岐に渡る。クライアント企業の人材育成担当者と長期的な人材育成・組織変革のビジョンを共有し、組織の課題と状況に最も適したソリューション提案を行う点に特徴がある。本講演には、多くの企業で組織変革の実績を持つオーセンティックワークスの中土井氏が登壇。私たちを取り巻く環境の変化による、組織と求められるリーダー像の変化について語った。
グローバル化、高齢化、人口減少、ITによる技術革新など、企業を取り巻く環境の変化は激しい。その中でイノベーションを起こし変化できたものが生き残る。そのカギになるのがリーダーシップだ。「あなたの心を動かしたリーダーはどんな人だったか。逆に主体性や創造性を破壊したリーダーはどんな人だったか、少し隣の方と話してみてください。」
「皆さん、すぐにリーダーについて話すことができましたね。私たちは、良いリーダーと悪いリーダーを知っています。リーダーシップを論じることもできる。しかし、わかっていてもなかなか実行できません。これが、リーダーシップ開発の難しさです。」
ここで、スタッフと参加者による寸劇が行われた。市場において、企業がいかに成果を上げることが難しいかを表現するものだ。舞台の左側には「市場」役の人物。その手には人形を持っている。この人形は企業にとっての「成果(=売上)」を表し、多く集めるほど、企業にとって「成果があった(=売上が上がった)」ことになる。右側には、その市場に営業をかける人物たちである、部下A、その上司B、会社経営者のCが立っている。
最初に上司Bが部下Aに「人形を10個取ってきて」と指示を出した。営業ノルマの提示だ。「これまでミドルマネジャーはメンバーに目標数値を示し、行動をとらせていれば結果が出ていました。しかし、現在は市場が縮小し、価値観は多様化し、顧客の要望レベルは高まっている。営業成果はなかなか上がらない時代になりました」
Aは市場役の人物に向かっていくが、逃げられるばかりで、人形には手が届かない。Aは打ちひしがれて戻ってきて、上司Bに「取れませんでした」と報告する。Bは「なぜ取れないの? もう一度行ってきて」と言い、Aは再度市場に向かう。しかし、またも人形は取れない。
すると、その様子にしびれを切らしたBが、一緒に市場に向かっていく。「上司Bは成果を上げやすかった時代に営業で活躍した人物です。自分なら人形を取れると自信を持っています。部下Aが成果を出せないので、自ら率先して現場に出ていき、自らも営業に参加する。この構図がミドルマネジャーのプレイング化です。しかし、Bが参戦しても必要な数の人形は取れません」
そこでBは「このところ成果が出せていない」と経営者Cに報告。するとCは「成果が出ていないなら組織を変えよう」と組織変更を指示する。しかし、変更したところで成果は出ない。「こうして組織体制がコロコロと変わっていきます。こうなると、どんどん現場は混乱していきます」
この場面で厄介なのは、上司Bが成果の上がらない部下Aを見ているうちに指導するのをやめ、自分で営業に出ようとする点だ。Aが市場や顧客をよく見えていなかったり、大切なポイントを見過ごしていたりすると、Bは「もう教えられる範疇ではない」と考え、自分がプレイヤーとなって、どんどん現場寄りになっていく。経営者CもBと同様、打ち手がどんどん近視眼的になっていき、中長期の打ち手を行えなくなっていく。このように、現場の混乱がいつまでも収まらない状況が、至るところで起きているのだ。
次に中土井氏は、これまでの代表的なリーダーシップタイプを示した。90年代以前は「1.0」。強制型/調整型リーダーだ。強制型は「結果こそすべて、つべこべいう奴は許さない」とプレッシャーマネジメントを行う。この型は行動の量が生産性につながるときは有効だ。調整型は「とりあえず、皆の意見を聞いて」と声を集めようとするが、良い意見は出ない。最後は情に訴えていくリーダーだ。
データが活用され始めた90年代以降は「2.0」。合理性重視型リーダーだ。「ゴールに向かって合理的に仕掛ければ結果は出る」とPDCAを回し、メンバーには「データは嘘をつかない」と考えさせ、アタマに訴えるマネジメントを行う。「先ほどの劇で、Aさんはポイントがわからないまま行動していましたが、Bさんにはよく見えていました。理解していないAさんにはどんなアドバイスをしても見えるようにはならず、データの管理もできません」
このような状態で求められるのが、「3.0」である内省支援型リーダー。これは上司が問いかけることで部下が答えに気付くという、コーチ型、ファシリテーター型リーダーだ。「その人の中に答えがある」、そして「内発的動機がモチベーションの源泉」となる。しかし、現在はこの3.0だけでも通用しない。「今は結果が出ないことが前提となっている。そのようななかでAさんに求められるのは、何度も挑戦する勇気と柔軟性です。そこで必要なのは“志”に訴え共に頑張るリーダー、『4.0』の共創型リーダーです」
共創型リーダーは、その人らしさと強みを引き出し、結集させる。状況に応じてクリエイティブに関わり、共に未来を創る。何度もトライし続け、自分たちにとって何が本当に大切かということを心に刻む、志に訴えるリーダーだ。
「例えば、2012年から接待を自主規制しているMR業界。以前接待で成果を出していた上司は何をすればいいかわからないので、一緒に現場に入って、一緒に考える。このような共創型リーダーを、私はプロデューサー型リーダーと呼んでいます。これからのミドルマネジャーには、このような動き方が求められます」。ここで大事なのは、1.0、2.0、3.0がまったく通用しないわけではないということ。しかし、それだけではやっていけない時代になっているのだ。
共創型リーダーはその目的のために、メンバーに主体性と創造性の解放をもたらさなければならない。ここでいう創造性とは何か。「学習する組織」の提唱者であるピーター・M・センゲ氏は、「問題を処理する場合、私たちは『望んでいないこと』を取り除こうとする。一方、創造する場合は、『本当に大切にしていること』を存在させようとする」と語っている。創造することと問題を処理することは、根本的に違う、ということが重要なポイントだ。
「皆さんは、上司との会話が『問題をどう取り除くか』ということに終始していませんか。センゲ氏は『それは創造していることにならない』と言っています。創造性のある会社には、何が自分たちにとって本当に大切なのかという会話が常にある。それが創造性の本質です」
また、中土井氏は、私たちの行動は常に二つのサイクルに影響を受けていると語る。一つは問題処理しようとする「やらねばサイクル」。もう一つは夢や価値観を実現し、創造しようとする「やりたいサイクル」だ。
「どちらでも結果は出ますが、ずっと『やらねば』をやっていると充実感を損ないます。これからのリーダーにはメンバーを『やらねばサイクル』から解放し、どれだけ『やりたいサイクル』を回すようにできるかが問われます。しかし、現実は『やりたい』アクセルを踏みたくても、同時に『やらねば』ブレーキが作動しうまく回せない。実はこの点がこれまでのトレーニングでは見過ごされていました」
では、リーダーがメンバーに主体性と創造性をもたらす条件とは何か。そこには三つ条件がある。一つ目はメンバーが「その人らしく」いられること。人にプレッシャーを与え続けると、その人はその人らしくいられなくなる。二つ目は「何でも言える」こと。成果を出すには変化する市場を理解し、チャレンジしていかなければならない。それを実現するには、上司とメンバーが何でも話せる関係がなくてはたどり着けない。
「そして三つ目は『情熱に火が灯る』ことです。先の二つだけでは、部下が甘えてしまうとの危惧もあります。そこで問われるのは上司のリーダーシップです。甘えや依存を見抜き、真剣に向き合って話ができるか。部下の情熱に火を灯すことができるかが問われます」
次に中土井氏は、共創型(コ・クリエイション)リーダーシップモデルについて解説する。そこにはリーダー本人に「固有の純粋な想いや意図」があり、部下には「自分らしさ」「率直さ」「本物の傾聴」がある。この状況をつくるには上司自らがその人らしくあり、また「やりたいサイクル」に移っている必要がある。
ただし、上司と部下が何でも言える関係だからと、何でも「ぶっちゃける」ことがよいかというと問題がある。「罵詈(ばり)雑言を浴びせれば、相手との人間関係が壊れます。フラストレーションを解消するように話せば、相手の警戒心をあおり決裂してしまう。私はこれを『悪魔のサイクル』と言っています。逆に、本当に何を言いたいのかを自ら掘り下げ、それを自己開示できれば、相手に親近感が生まれ、信頼関係が醸成されます。目指すべきはこの『天使のサイクル』です」
最後に、米国の哲学者エリック・ホファーの言葉が紹介された。“激動の時代に未来を引き継ぐのは、学び続ける人たちだ。学び続ける人のほとんどは、自分が過去に身につけたことが通用する「世界」がもはや存在しないことを感知し続けている”。自分の知識が明日には通用しなくなることを知っておいてほしいと、中土井氏は講演を締めくくった。
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