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特別講演[B-5]

企業内キャリアカウンセリングと組織開発
~研究会から見えてきた、企業内キャリアカウンセリングの
効果的な展開~

水野みち氏 photo
株式会社日本マンパワー 人材開発企画部 研究開発グループ 専門部長
水野みち氏(みずの・みち)
プロフィール:国際基督教大学卒業。1998年より、日本マンパワーのキャリアカウンセリング事業に携わる。2005年、米ペンシルバニア州立大学にて教育学修士を取得。帰国後、キャリアの最新理論を組み込んだプログラム開発、キャリア相談機能設置コンサルテーションを担当。現在は、組織開発・企業内のキャリア支援に関する研究開発活動を行う。

近年、多様なキャリア形成のあり方が模索される中、キャリアカウンセリングが注目を集めている。また、多くの企業で組織開発への期待が高まっている。『企業内キャリアカウンセリングと組織開発を考える研究会』は2014年、一見異なるアプローチに思えるキャリアカウンセリングと組織開発を結び付け、活用方法を模索していくことを目的に発足。座長である神戸大学教授・金井壽宏氏や総合心理療法研究所所長・平木典子氏を中心に、キャリア開発と組織開発の専門家・実務家が集まり、議論を重ねてきた。その成果について、研究会の企画・運営を担当する日本マンパワーの水野みち氏が報告を行った。

【本講演企業】
「人とキャリア」をキーワードに、キャリア開発のパイオニアとして40年以上事業を展開して参りました。これからも人材開発を通して、人と組織の活力を開発・育成し、企業価値の創造と個人のキャリアプランの実現を全力で支援して参ります。

研究会発足の経緯
~企業内キャリアカウンセリングと組織開発を融合する

日本マンパワーでは、1999年から「キャリアカウンセラー」を養成する事業をスタート。転職支援、弱者支援など個人の職業マッチングや短期的な問題解決にとどまらず、将来ビジョンも含めて「その人らしい生き方・働き方」を積極的に支援している。さらに最近では、企業内キャリアカウンセリングのあり方が進化し、さまざまな機能が期待される中で、組織開発と結び付いた動きが出てきた。一方で厚生労働省も、個人の主体的なキャリア形成と求人・求職の効果的なマッチングなどを支援する専門的人材を「キャリア・コンサルタント」と称し、企業内への設置を計画している。

水野みち氏 Photo現在、キャリアカウンセリングは個人への支援に留まらず、企業内全体を俯瞰的に見て、経営やマネジメントに関与するという組織開発的な働きかけが生まれている。一方、組織開発はより個々人を尊重し、多様性を活かす方向へシフトしている。そこで日本マンパワーでは、この分野の第一人者である金井教授を座長にお招きし、2014年に『企業内キャリアカウンセリングと組織開発を考える研究会』を発足。キャリア開発と組織開発の専門家・実務家にお集まりいただき、これまで5回の研究会を実施した。

座長である金井教授は研究会の発足の経緯について、「この二つのアプローチが、お互いによい形で補完的に融合される姿について議論することが、この集まりの目的です。もともと、カウンセリング心理学は個人の抱える問題解決を支援する仕組みとして発達しましたが、実際の応用範囲は職場や家族など集団、さらには組織やコミュニティーにまで及びます。それらの観点から、企業内キャリアカウンセリングを組織開発と結び付けて、活用する方法を模索するために研究会が企画されました」と述べている。

キャリア・コンサルティングと組織開発の定義について

まず、前提となる定義について触れておきたい。「キャリア・コンサルティング」と「キャリアカウンセリング」という言葉は、ほぼ同義と考えていいが、厳密には定義が異なる。キャリア・コンサルティングは厚生労働省が提唱していて、「個人が、その適性や職業経験等に応じて自ら職業生活設計を行い、これに即した職業選択や職業訓練等の職業能力開発を効果的に行うことができるよう個別の希望に応じて実施される相談その他の支援」というものである。日本キャリア開発協会が提唱するキャリアカウンセリングの定義は、「発展的視点に立ち、成長と適応という個人の積極的側面に強調点を置き、個人が環境の中で効果的かつ自律的に機能できるように支援すること。自己概念の開発を通してキャリア形成を図ること」である。

組織開発についてもいろいろと定義されているが、水野氏は、南山大学の中村和彦教授の定義を用いて説明を行った。それは次の通りである「組織内のさまざまなレベルを対象とし、組織の効果性を高め、組織内のプロセス(人と人の間で起こっていること)に着目し、当事者が自らの力で変革をしていけるようになるための、行動科学の理論と手法の集合体」。

「日本における組織開発は1970年代に第一次ブームがありTグループや各種診断などの取り組みが行われました。現在は第二次組織開発ブームと言われているそうですが、トレンドのポイントはホールシステムという組織や社会全体を対象とした取り組みが盛んなことと、組織の有機的な効果性を高めていることです。社会構成主義やポジティブ心理学などの影響も受けています」

企業内キャリアカウンセリングの最前線

個人レベルで行うキャリアカウンセリング(キャリア開発支援)が、組織開発と結びつくようになったのも、近年、キャリアカウンセリングを活用して組織の活性化と個人のキャリア自律の統合を図る動きが出てきたからだ。組織において、キャリアカウンセラーが介入していくプロセスは、個人レベル(1対1のキャリアカウンセリング)からグループレベル(マネジャーによる部下のキャリア開発支援や、集団で相互の関係性の質を高める取組み)、部門間レベル(部門間の関係に関わり、関係調整・情報共有を行う)、そして組織レベル(社内全体に風土やキャリア意識の醸成に働きかけるアセスメント、組織ミッションと個人のキャリア開発を結び付ける場の提供)にまで広がっている。

事例紹介このような組織開発と結び付いている事例として、水野氏は研究会のメンバーであるヤフー、キヤノンマーケティングジャパン、富士通ソーシアルサイエンスラボラトリ、サントリーホールディングス、伊藤忠商事のケースを取り上げ、各社のキーワード(経営課題、人事戦略・施策)と、それにひもづいた取り組み例を紹介した。「注意してほしいのは、キャリアカウンセリングと組織開発を結びつけるために、各社の取り組みをまねるだけではうまくいかないということ。キーワードとして掲げた各社の経営戦略や人事戦略・施策、社内に流れる文脈と、いかに結び付けた内容にするかが重要です。そうした擦り合わせができていないと、うまくいきません」

キャリアカウンセラーだからこそ見えることがある

研究会では5回に渡る議論を重ねてきたが、そこでわかってきたのが「キャリアカウンセラーだからこそ見えるものがある」ということ。水野氏は、“炭鉱のカナリア”を例に説明する。

「“炭鉱のカナリア”という例え話があります。坑内を掘っていくうちに有毒なガスが出てきたり、空気が薄くなってきたりした時に、まずカナリアが反応するという話です。何か問題が起きた時、会社組織でも同じようなことが起こります。組織には、個人に関わらないと表れてこない情報があります。ところが、声の大きい人の情報やマスを捉えるサーベイという粗い網の目だけで物事を考えてしまうと、抜け落ちてしまう情報があります。しかし、キャリアカウンセラーは個人に深くかかわることで、それらを捉えることが出来ます。相談に来る個人を通して、もちろん、それは複数名になりますが、グループや組織の課題が見えてくるのです。もちろん守秘義務は守られる形で情報は扱われますが、個人を通して、組織を元気にする取り組み、あるいは早期のリスク管理ができることもあります」

また、キャリアカウンセリングを通じて個人の深い変容を起こしたり、仕事への意義や意味を強化するということは、組織を活性化する上で強い波紋を広げていくことが出来る。一人の発言によって会議が活性化していくことはよくある。

「企業には各人が負う職務がありますが、その職務の範囲内で上げられる生産性には限界があります。その人が“職務上の自分”ではなく、“本来の自分”とつながらない限り内的な動機づけは図れず、職務範囲以上の成果を上げることは難しいと言えます。生産性向上というフレームワークでの役割行動では、創造性や言われていること以上の力はなかなか発揮できません。自分は何を求めていて、どこにエネルギーをかけたいと思っているのか……そうした内なるミッションや意義を掘り起こして明確にすることが重要になります。それを推進していくのがキャリアカウンセリングなのです」

さらに、キャリアカウンセリングは、リーダーシップ開発を後押しします。

「アメリカのリーダーシップ研究の調査機関であるロミンガー社の調査によると、経営幹部としてリーダーシップをうまく発揮できるようになった人たちに『どのような出来事が役に立ったか』と聞くと、70%が経験、20%が薫陶、10%が研修という結果でした。最も大きな割合を占める経験をきちんと振り返り、学びにつなげていくことは大変重要になります。経験と経験を結びつけて、意味づけしていく。そういうことを行う場がとても大切になります。キャリアカウンセリングは、一人ひとりの振り返りと学びを行う機能です。これは、リーダーシップ開発を後押しする重要な機能と言えます」

今後の効果的な展開に向けて

では、企業内キャリアカウンセリングは、組織内でどう展開すると効果的なのだろうか。水野氏はまず、企業文化・バリューというものをきちんと踏まえた上で、業種業態、職務の特性によって生まれるニーズを見直して、施策につなげていくことが大切であると言う。

講演の様子 Photo「例えば、富士通ソーシアルサイエンスラボラトリでは、『信頼と技術』が企業文化、バリューです。同社では8割がSEで、求められる能力項目が明確ですが、職務柄、すり合わせの場が持ちにくい。そこで、具体的な施策としては、CAN/WILL/MUSTをもとに、上司と部下の関係強化を主軸に置いたキャリア開発・キャリアカウンセリングを行っていくという流れになります」

さらに言えば、企業内キャリアカウンセリングを行う場合、担当者のコンピテンシーも重要である。というのも、これまでは「キャリア支援」「カウンセリング」「ファシリテーション」などが主だったものと考えられてきたが、研究会での事例や討議を参考に整理した、効果を出すために必要なスキルとしては、この他に「ビジョン・ミッションを把握し伝えるスキル」「ネットワーキングスキル」「システムアプローチスキル」「アセスメントスキル」「フィードバクのスキル」「関係調整のスキル」「企画提案スキル」「経営的視点」などが上げられてきたからだ。

「キャリアカウンセラーが、より広い視点で俯瞰的に個人の成長を捉え、組織についての知見や影響力を高めることによって、会社を健康に機能させる『変革のエージェント』になり得ると思います。キャリアカウンセリングというと、癒しや治療というイメージがあるかもしれません。しかし、それだけでは変化の激しい時代に求められる機能としては不完全とも言えます。変化の激しい時代、キャリアカウンセラーも組織を活性化する、健全な姿にしていくというミッションを持った存在になっていくように思います」

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