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特別講演[F-4]

セーフティーネットを考慮した雇用構造改革
~構造改革を断行し、同時に雇用を守る~

樋口 淳一氏 photo
UTキャリア株式会社 代表取締役社長
UTホールディングス株式会社 執行役員
樋口 淳一氏(ひぐち・じゅんいち)
プロフィール:日本エイム(株)取締役、パナソニックエクセルプロダクツ(株)取締役、UTホールディングス(株)執行役員を歴任。一貫して大手メーカーの雇用施策の企画・コンサルティングに携わり、企業の雇用構造改革の推進を支援。目指している方向性は、「技能伝承」「世代間格差の解消」「雇用 の流動化支援」と「失業なき構造改革」など。

グローバル化による競争の激化や大規模な市場の変化により、近年の日本の製造業では、雇用調整が必要となる事例が増えている。企業では雇用を守る努力を重ねているが、そこに外部の力を借りることも少なくないようだ。今回の講演では、製造業などの再就職支援や人材派遣を行う、UTキャリア株式会社 代表取締役社長の樋口淳一氏が登壇。事業スキームの概要や、いくつかの手法を複合させて用いる対応ケースなどについて紹介した。

【本講演企業】
UTキャリア株式会社は、これまでの"ものづくり業界"で培った経験を活かした雇用構造改革コンサルティングを行っており、「"業界初100%のセーフティーネット"を実現する再就職支援サービス」「"企業間・業界間の垣根を越えた"外部出向支援サービス」「生産部門一括の転籍受入サービス(インハウスソリューション)」を通じて企業の雇用に関する問題解決手法を安心と保障を追求した形でご提案しております。わたしたちは、単に「再就職の場の提供」に留まらず、企業の従業員に対する想いを大切に受け止めて、「生涯サポートの場を提供」することにより企業の社会的責任の遂行をお手伝いしております。
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雇用構造改革から「雇用流動化支援」の時代へ

2000年以降、大企業が希望退職を募るなど、雇用の構造改革が行われている。しかし、ここへきてその内容に変化が起きていると樋口氏は語る。「最近、人事の方から『希望退職はやりたくない』と言われます。辞めてほしくない人材が辞めてしまうためです。希望退職では1~2年人件費を抑えられますが、中長期的にみるとコア人材の流出が響いてくる。また、良い人材がライバル会社に入社し、他社を強める結果になることも多い。これは、メーカー各社の人事がこの10年でもっとも痛感していることだと思います」

現在は、雇用構造改革から「雇用流動化支援」へという流れが起きている。樋口氏はそこに三つの背景があると語る。「一つ目は技能継承難問題です。これは企業側からの視点であり、人材が流動化して若手に技能を継承できないと中長期的に企業は発展できません。二つ目は世代間格差問題。これは社会視点であり、若者の就職難問題を解決するためにも必要なことです。三つ目は法規制問題。これは法視点であり、派遣法の変更など人材の方向性を左右するような法規制では、今後流動化を配慮すべきと考えます」

実際、現場で若年労働力を派遣や請負でカバーしてきたことで、年収など世代間格差が生まれた。また、一度正社員として雇用すると契約を解消しにくい法規制もあり、新たな社員化が進まないというジレンマも起きている。「一言でいえば、バランスのよい労務構成を描くには、雇用の流動化をうながしていくしかない。社会全体をもっと生産性が高い状態にするには、大企業が中心になって流動化に進まなければなりません」

メーカーと合弁会社をつくり、そこで若手や新卒人材を活用

次に樋口氏は、製造現場が抱える人材政策課題ごとに、それに対応する支援を紹介した。一つ目は技能継承問題だ。UTグループではメーカーで業務を請け負う合弁会社をつくり、その会社で若手や新卒人材を採用している。「UTグループでも若手・新卒採用を行い、合弁会社に社員を転籍させます。ある意味これは人材資産の流出ですが、働き手には『メーカー系の会社で働きたい』という意向があり、メーカー側もそのような人がほしいという意向がある。思惑が一致した場合は、私たちも支援しています。メーカーからは合弁会社に教育者が出向し、そこで技能伝承も行われます」

なぜ、このような手段が必要なのか。理由は派遣社員が占める割合の増加だ。工場で働く人材の半数は派遣社員と言われ、その派遣社員のモチベーションをいかに高くできるかが、工場全体の生産性を左右する。「メーカーとこのような制度をつくれば、UTの派遣社員の意欲も高まります。それが必ず工場の生産性アップに寄与できると考え、このようなスキームを作りました」

派遣チームと社員チームが競争し、生産性が2割もアップ

二つ目は世代間格差問題に対応する支援だ。ここで一つの事例が紹介された。あるメーカーで工場の新棟建設が予定されており、そこに社員が輩出されてしまうため、既存棟3フロアのうち2フロアを完全外部化した例だ。この3フロアでは同じ製品を製造している。「これまではA、B、C各フロアでは、各々5分の1がベテランの多いメーカー社員、残りはほぼ若手である派遣スタッフでした。派遣法改正により請負化する必要があり、A、Bフロアは完全外部での請負化し、Cフロアは全員メーカー社員と振り分けを行ったのです」

樋口淳一氏 講演photo 結果はどうなったか。7月~翌年2月の生産性推移をみると、派遣混在期の7月~9月は生産指数が1.00程度。それが10月にフロア単位で人材を分け、A、Bフロアを派遣自主運営にしたところ、10月1.15、11月1.20と生産性が大幅にアップ。12月に請負へ変わっても1.20近い生産性を維持している。「生産性アップの理由はモチベーションが上がったからです。派遣は時間契約で、工場にいればお金がもらえる。頑張っても頑張らなくても同じです。しかし、請負になると管理業務などの仕事が増え、自ら管理し生産性を上げなくてはいけない。別フロアには社員チームがいますから、負けたくない。彼らの自覚、責任感がモチベーションアップにつながったのです。これはメーカー側も意図していたことで、互いに切磋琢磨する風土ができました」

生産性2割アップはどれくらいすごいことなのか。実はこの工場は20数年操業してきたが、過去一度も達成出来たことが無い生産指標をたった3ヵ月で更新してしまったのだ。「人のモチベーションの変化だけで、生産効率が2割も変わる。だから派遣単価、人単価をいかに下げるかと考えるばかりでなく、逆に単価当たりの生産性をいかに上げるかを考えるべきです。これがこれからのコストダウンのやり方ではないかと思っています。加えて、派遣のみのA、Bフロアの人件費は、コストで考えると社員の半分程度しかありません。その人件費で同等以上の生産性を達成したことになります。これができた背景にはスタッフの若さもありました」

しかし、この請負チームは企業の生産の落ち込みで解消へ。樋口氏は「非常にもったいないことで、これからは若手をきちんと登用していくべき」と主張する。「今後はもっと、組織の新陳代謝による若年労働層の登用や活性化が望まれるようになる。それが企業の生産性に直結していきます。これを実現しやすくするためにも、労働者がハッピーな形で動ける人材の流動化が求められるのです」

三つ目は、法規制問題に対応する支援。製造現場の人材に関わる法関連の歴史を見ると、騒動は2005年ごろの偽造請負の表面化に始まる。それを派遣に切り替えるという動きになったが、その後リーマンショックによる景気後退で派遣切りが問題化し、メーカーがバッシングを受ける。次に派遣法の3年抵触日問題による2009年問題から、企業は直接雇用すべきとなった。製造派遣が原則禁止となる法改正案が取りざたされ、「今後は直接雇用、それも社員雇用を増やすべきだという世論・動きが強まる可能性も予測できる。しかし、従業員全員を社員化すると企業がもたなくなり、海外に工場を出すところも現れるはずです。企業は適正な人材バランスをどう図るかを追求しないと、国内が空洞化してしまいます」

「グループ外出向」と「インハウスソリューション」で雇用を守る

次に樋口氏は、UTグループについて紹介。UTグループは製造業にフォーカスした派遣・請負事業を行い、その特徴は製造業派遣を正社員雇用率80%で行っている点にある。「社員は派遣と違い、急な解約がないので長期的視点で安定的に働くことができます。業界平均の離職率は8%と言われますが、当社は社員化で離職率が低下し、現在1.8%。人の入れ替わりがないことで、仕事の習熟の度合いが上がり、それが生産性向上に直結しています。ここは顧客企業に評価されているポイントです。また従業員の習熟度アップで請負依頼が増えており、現在は請負比率が70%弱もあります」

UTグループは、人材ビジネスは人ありきと考え、常に社員が成長できるベースを提供している。このような活動が認められ、日本生産性本部サービス産業生産性協議会が選ぶ「ハイサービス300選」に人材業界から唯一選ばれた。

次に樋口氏は、UTキャリアの構造改革の3本柱を紹介。その一つ目の柱はアウトプレースメント(再就職支援)だ。「私たちの特徴は地方・製造業への再就職支援に強いこと。そして再就職100%を可能にするセーフティネットを持っています。万が一再就職がかなわなくても自社求人でカバーでき、希望があればUTグループで働きながら引き続き再就職先を探せます」

樋口淳一氏 講演photo 二つ目の柱はグループ外出向。ここ数年は企業側の雇用を守りたいという意向から、グループ外出向の要望が増えている。「出向支援サービスとしては、定常業務でまとまった人数が出向する工数マッチング型と、個人のスキルに合わせて出向する技能マッチング型があります。工数マッチング型は50名100名単位と大人数で対応できますが、派遣単価分程度の分担金しかもらえないというデメリットがあるため、この方法は最低限雇用を守るという前提がないと難しい。技能マッチング型は、出向分担金を多めにもらえますが、マッチング率が5%程度と低い。しかしマッチすれば転籍で受け入れてもいいという案件も多くなります」

三つ目の柱はインハウスソリューションだ。企業から「まとまった人数をUTで受け入れてほしい」と依頼があれば、一旦企業を退職した後にUTに入社していただき、その人員をUTの社員として、同じ生産ラインに再配置する。「事業所の存続もしくは数年後の閉鎖・事業売却に向けて、早期退職制度の実施と同時に、製造部門を完全請負化します。この方法は現状社員の雇用および品質・供給体制を維持しつつ、人件費の低減と変動費化を実現できます。この形で多いのは、工場を海外に移す決定と天秤にかけるケース。苦渋の選択ですが、国内に工場を残したい思いから社員や労働組合も了承してくれます。ただし賃金水準が下がるため、その分を企業が一時金で補てんすることも多い。インハウスソリューションの手法を使うと、生産変動時でもフレキシブルに対応でき、雇用の安定化に役立ちます」

雇用流動化支援には、再就職支援サービスに加え、グループ外出向やインハウスソリューションなどの手法を駆使しながら、その企業に合う形を探す努力が必要だ。そのような活動がセーフティーネットとなり、働く人の失職を防ぎ、望む働き方を続けられる社会へと近づけていく。今回の講演を通じて、参加者の方々は、さまざまな手法がある再就職支援について、理解が深めることができたようだ。

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