株式会社ビジネス・ブレークスルーは、世界で活躍するリーダー育成をミッションとし、大前研一氏が98年に設立した、インターネットを活用した遠隔型マネジメント教育を行う企業である。一流講師陣の映像講義の製作・配信と自社開発のオンライン学習のシステムを特徴としている。企業研修や文部科学省認可のオンライン大学・大学院の運営も含めて、双方向型の議論をインターネット上で行うという教育・学習方法に挑み続けてきた知見から、次世代リーダー育成のために必要な、「異質な発想を取り込む」研修について、同社の企業研修部門統括責任者・コンサルタントの山口裕二氏が語った。
2000年頃から現在に至るまで、大手企業を中心に選抜型の次世代リーダー研修が行われてきた。研修プログラムの内容は、経営知識の習得にはじまり、MBA流ケースメソッド、自社課題解決をテーマとした実践的な研修を組み合わせるといった形で進化をしてきた。しかし、実際のビジネスが大変な勢いで変化する中、「従来型のメソッド・方法論のまま研修を続けても経営トップが期待する本当の効果は期待できない」と山口氏は指摘する。
「実際の経営には正解がなく、ケースメソッドはあくまで過去の歴史からの学びです。今後、グローバル化、社会の成熟化、情報化、異業種競争の激化など、劇的に変わりゆく環境のもとでは、自分や自社が持つ経験の延長線上には存在しないような解決策を考えたり、戦略を立てたり、意思決定をしたりしなければなりません。過去の経験や業界の常識に捉われた発想では、インパクトのある解決策を生み出すことはできない。現在の自分には存在しないモノの見方や考え方、つまり『異質な発想』を取り込むことが研修プログラムをデザインする上で重要だと私たちは考えています」
『異質な発想』とは、例えば異業種で働く人の発想、営業であれば研究職や開発職の発想、課長であればもっと上の事業部長や経営者の発想。こういったものを取り込んで、学び、考えていくスタンスが欠かせないというわけである。そうして、思考の枠を思い切って広げながら、さまざまな考え方を受け入れ、自らの思考をどんどん広げ高め、未知の世界の経営に対する解決策を考えていく人材を育成していく。そんな視点に適う研修デザインを、ビジネス・ブレークスルーは長年提供してきたという。
「ITの技術革新は、『異質な発想を取り込む』ためのさまざまな環境を整備してくれています。インターネットにつながっていれば、いつでも、どこでも、『異質な発想』に触れることが可能です。スマートフォンの普及や通信費の定額化、SNSの普及によって格段に広がった可能性を視野に入れない手はありません。人材を育成し企業を発展させるためにも、このような環境を活用することを真剣に考えるべき時期にきていると考えています」
ビジネス・ブレークスルーが提供している「異質な発想を取り込む」方法論は、質、量、時間、空間という四つの切り口から見てもその有効性は明らかである。まず、質の切り口からみると、映像講義における出演者のラインナップは見逃せない。一流のビジネスパーソン・起業家、ビジネススクールの教授、経営コンサルタントなどだ。第一人者の本質的な問いかけ、高い視座、豊かな発想は、良質な学びの機会をもたらす。年間1000時間も追加されていくコンテンツは最新であるだけでなく、専門的かつ幅広い領域を網羅している。
「量という切り口では、AirCampus®が大きく機能しています。これは私たちが独自に開発したオンラインの学習プラットフォームです。この場で受講生たちは、自由に各テーマについて投稿する形で議論することができます。異なる業界や職種やポジションからの意見が飛び交う場を実現しているのです。日本国内だけでなく、海外からも数多くの受講生がさまざまな議論に参加していますし、さらに、異質の考えがより引き出されるようにとファシリテーターも重要なポイントです。」
時間の切り口でみると、時間の制約により発想が制限されてしまうデメリットを集合研修は持つ。一方、1科目で2ヵ月、1課題に1週間といった長いタームを設定しているビジネス・ブレークスルーのスタイルでは、幅広い意見や多くの情報に触れる充分な時間が確保できる。早朝や深夜など1日の中のタイムマネジメントも個人の自由。結論を急かされないため、予定調和ではない学びの可能性が広がっている。空間という切り口について、山口氏は次のように語る。
「海外受講生の割合は約10~15%を占める。『中国の市場は今こんな感じだよ』『東南アジアの事情は実はそうではなくて、こうなんだ』といった会話がAirCampus®では日々交わされています。空間を超えた世界との交流は、新たな発想の獲得に貢献するだけでなく、個々人の学びが次々とネットワーク化されていくという無限の可能性を生み出します。この『集合知』は、新しいものをクリエイトしていく場面などで、実際にビジネスに取り入れている企業も多く、研修での重要性は言うまでもありません」
「異質な発想を取り込む」研修として、山口氏は2社のオーダーメイドの事例を紹介した。1社目は、事業構造の変化やグローバル化により、部長職が行う組織・人材マネジメントの重要性が高まった背景を持つ。拠点が日本全国・海外に広がり、多忙な部長職を呼び寄せての集合研修は物理的に困難であるため、講義映像や双方向のオンライン議論を組み合わせた約3ヵ月間研修を実施。この研修による変容、学びを山口氏は振り返る。
「まずは、ある著名な教授の講演に触れていただき、その視点を取り込み比較しながら、我流の人材マネジメントの見直しを行うことからスタートしました。AirCampus®の活用によって、他部門のマネジメント課題が共有でき、同じ悩みや違いに気付き視野が広がったという反応も数多くあります。長期にわたる研修だったために、期間中に実際に挑戦と見直しの繰り返しができ、実践的な理解が深まったことも大きな成果です。部下インタビューの課題では、部下たちがそれぞれ持つ動機や価値観に触れ、多様性についての理解が深まり、個々に応じたコミュニケーショを取ることで実際の仕事の成果につながったという声もうかがっています。」
2社目は、事業構造改革が進む中、グループ全体のリソースを活用でき、一歩前へと踏み出すことのできる経営人材を数年間でプールしたいという目的を持っていた。ここでは、部長級、子会社の役員級を対象に、オンライン学習に集合研修等を組み込んで7ヵ月間にわたり実施。社外の受講者を交えての異業種間議論を取り入れた点が、大きな収穫として受け入れられ、成果も大きかったと山口氏は語る。
「MBAを目指すようなモチベーションの高い他社人材と交わす議論は、いい刺激となりました。自社にない視点や発想に皆さん触発されて、その後の議論は明らかに質・量ともに一気にレベルアップしたのです。また、若者はインターネットの情報に頼るために思考力に欠けるというステレオタイプの思い込みの払拭ができただけでなく、インターネットを建設的に活用して時間を有効に使い、新たな理論展開を生み出す手法に気づき、習得していただけたことも副次的効果となりました」
最後に、「異質な発想」をさらに鍛えるRTOCSを山口氏は紹介した。RTOCSは「リアル・タイム・オンライン・ケース・スタディ」の略で、ビジネス・ブレークスルー大学大学院における特徴の一つとして掲げられている。これは、過去の企業の事例を題材にしながら歴史をひも解くケースメソッドではなく、現在進行形の企業が抱えている課題をテーマに向き合うという学習である。「もし、自分がその企業の経営者だったらどうするか」といった視点から考えを組み立てていく。
「たとえば最近では『もし私がK社の社長だったら、ポストTPP時代にどのように対応した店舗戦略を展開するか』というテーマが出題されました。その会社の公開されている新聞記事やIR情報、業界記事や実体験を収集しながらクラスメイトで共有し分析、考えを深め議論していきます。教授や講師ファシリテーターは、その過程でさまざまな視点を投げかけながらアドバイス。『もう少し深掘りするとどうなりますか』『こちらの視点からは何が言えるでしょうか』など、発想を広げたり深めたりできるように関わりつつ、創造的な解決策へと導いていくのです」
もちろんこの課題に対し正解はないが、最終的には大前研一氏の分析・解決策が映像配信され、さらに仲間と気づきを共有する。このようにして、集合知を活かしながら学んでいくプログラムである。RTOCSは既に数社の研修に取り入れられており、活発な議論と斬新な発想に結びついているという。自分が身を置いていない異業界がテーマとして与えられると、初めて触れる情報も少なくない。そんな体験で、思わぬところから視野や関心が広がり、学びも広がっていく。次世代を担うリーダーの育成研修に活用する意味は大きいと、山口氏は力を込める。
「このように、ある課題をきっかけに、興味関心を抱くテーマに遭遇し、そこにフォーカスしながら知識や情報を掘り下げ、広げていくという学びは、思考のクセや習慣を変えるポイントになると考えています。同じ会社で同じ仕事をしていると発想はどうしても凝り固まってしまうものですから、それを意識的に打破するためにも『異質の発想を取り入れる』工夫は積極的に行うべきだと思います。『何を学ぶか』ではなく『どのように学ぶか』という視点での能力開発が次世代リーダー育成には重要で、今、そのための充分な環境がITの発達によって次々と整備されてきていることは見逃せません」