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特別講演[A-5]

企業は働き方改革をどう実現すればいいのか
~日本マイクロソフトの事例から学ぶ~

曽山 哲人氏 photo
株式会社ワーク・ライフバランス 代表取締役社長
小室 淑恵氏(こむろ・よしえ)
プロフィール:2006年株式会社ワーク・ライフバランスを設立。900社以上へのコンサルティング実績を持ち、残業を減らして業績を上げる「働き方見直しコンサルティング」に特に定評がある。2児の母として子育てをしながら、効率よく短時間で成果を上げる働き方を自らが実践。『なぜ、あの部門は「残業なし」で「好成績」なのか?6時に帰るチーム術(日本能率協会マネジメントセンター )』など著書多数。消費増税集中点検会合他、複数公務にも出席。今春よりNHK 「news web」月曜ナビゲーター。

西澤亮一氏 photo
日本マイクロソフト株式会社 執行役 人事本部長
佐藤 千佳氏(さとう・ちか)
プロフィール:住友電気工業にてHRキャリアをスタートし、その後1996年にGEへ入社。コンシューマーファイナンス、コーポレート、ヘルスケア部門 において、採用、M&A後のインテグレーション、組織・リーダーシップ開発など多岐に渡るHR経験を積み、キャピタル部門においてHR本部長職。 2011年に日本マイクロソフトへ入社し、現職。

少子高齢化社会を迎え、企業では今、社員のワーク・ライフバランス実現と生産性向上を両立する改革が求められている。では、どうすれば組織としての生産性を上げつつ、個人の働き方改革を実現できるのだろうか――。本講演では、株式会社ワーク・ライフバランス代表取締役社長である小室淑恵氏が、経営戦略としてのワーク・ライフバランスについて解説。在宅勤務制度の導入をはじめ、細やかな工夫によってそれを実現している事例として、日本マイクロソフト株式会社 執行役人事本部長 佐藤千佳氏が、リアルな働き方改革について紹介した。

【本講演協賛企業】
日本マイクロソフトでは、社員一人ひとりが最新のテクノロジを活用したスマートな働き方を実践し、社員同士のコミュニケーション、コラボレーションの活性化、そして社員の創造性や業務効率性が向上を実現しています。
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日本で、少子高齢化社会と共に急速に進む「働き方の見直し」

日本社会全体の課題を解決する施策として、ワーク・ライフバランスへの注目が一層高まっている。その背景には日本社会の少子高齢化、また、そこから派生する労働力人口の減少がある。2007年から一斉に定年退職を迎えた団塊の世代は、2012年から一斉に65歳に達し、以降日本社会では年金受給者が激増してゆく。急速に年金財源の枯渇が進行する状況を解決する施策として今政府がしきりに取り組んでいるのが、「出生率の向上」「女性の継続就業」「男性を含めた働き方の見直し」の3つだ。

小室淑恵氏 講演photoまずは将来の年金の払い手を増やすためにはその母数となる「出生率向上」が必要だが、今の日本では出生率向上だけに取組むと短期的には逆効果となる。何故なら妊娠や出産を理由として、それまでは年金の担い手でもある女性社員のうち約6割もが離職するためだ。すなわち出生率向上と同時に「女性の継続就業と活躍」を両立させなければ効果がないのである。

では何故日本だけで、約6割もの女性が仕事を辞めているのか。小室氏はここで、【女性の労働力率】と【合計特殊出生率】(一人の女性が生涯に産む子供の数)の国際比較グラフを示した。

「日本は両方の数値が低く、つまり子どもを産めてもいないし、働けてもいない。一方でフランスやアメリカ、ノルウェーなどを見ると、女性が働いている国ほど、子どもを産んでいる。これは40年前にとった施策の違いだと分析されており、これらの国々では例えば(1)質の高い保育所の数を増やす(2)企業の両立支援に対して具体的な金銭的補助を行う(3)両立支援を守らない企業へのペナルティーを与える、といった施策がとられている。また特に効果的だったのは(4)男女共に労働時間に規制を入れたこと、つまり「男性も含めた働き方の見直し」を実施し、夫婦ともに仕事と家庭の両立ができる状態を作ったことだと言われている」

女性が働くと忙しくて子どもを産まなくなるという誤解があるが、まずは妻が働ける状態を作ることで共働きの家計が安定し、経済的な理由から、安心して子どもを産めるようになるという動きが見られる。日本社会の課題を解決するためには「男女ともに仕事も家庭もコミットできる」ことが求められ、その仕組み作りが今、急速に進められているのだ。

経営戦略としてのワーク・ライフバランス

多くの企業でも、ワーク・ライフバランスの実現がより一層重要な経営課題として捉えられている。以前はワーク・ライフバランスというと「福利厚生」というイメージを持たれがちだったが、前述の団塊世代の一斉退職から始まる人材不足を契機として「優秀な人材の採用」「育成した社員の定着」「社員のモチベーションアップ」いずれのためにも人事戦略としてワーク・ライフバランスの実現が欠かせないことが理解され、ここ数年で「トップがコミットする経営戦略」と位置づけが変化した。

また最近では、介護で休職・退職する男性管理職が増加していることも背景の一つだ。ある消費財メーカーでは、これから数年のうちに社員のうち約1/4が親の介護と仕事を両立すると試算している。これからの大介護社会では、育児で休む女性よりも、介護で休む男性のほうが多数になる企業が激増してゆく。介護という制約を抱えた社員が多数になった職場であっても、長時間勤務を前提としていて、今と同じ競争力を保ち続けられるのかと考えると、働き方の見直しは待ったなしだ。これからは24時間365日働ける人材はごく限られた人になってくる。性別や、子供の有無や、介護の有無、そして国籍などもに関わらず、誰もが限られた時間で高い成果を出せる組織に変革を遂げることが、10年後も継続して利益を上げられる組織でいるために必要なのだ。

ワーク・ライフバランスが組織で実現されない場合、次のようなリスクが考えられると小室氏は言う。
「まず、個人的事情も時間制約もないごく一部の社員しかモチベーションのあがらない組織となり、人材力で勝っていけない。二つ目に、限られた時間で成果を出そうとしないため、非効率な仕事プロセスを改善する意欲が生まれず、生産性で競争に勝っていけない。そして一番重要なことは、組織の中に多様な人材・多様な価値観が育たず、商品づくりサービス作りにおいて内部からアイディアを出すことができず、グローバルマーケットで勝っていけない状態になることが考えられる」

「全社一斉テレワークの日」を実践した日本マイクロソフト

では働き方を見直したことで、多様な人材が活躍できている企業とは、具体的にどのような取り組みを行っているのだろうか。
続いて佐藤氏が登壇し、日本マイクロソフトの「在宅勤務制度」について解説した。同社では、2007年に制度を導入。当時は育児、介護などで会社に来られない人が対象だったが、2008年にはバックオフィス部門を中心に範囲を拡大。2011年には自席でなくても仕事ができる環境を整え、在宅ガイドラインを変更した。また、2011年の東日本震災時には2週間の在宅勤務を実施。その後対象を全部門、全社員に拡大し、2012年には週3日までの適応を可能にした。臨時の場合は、週5日も可能だと言う。もちろん、この制度には企業としてデジタルライフを提言し、ITを駆使した働き方を自ら実践するといった意味合いもある。これまでの経緯を、佐藤氏はこう語る。

「導入前には、多くの心配の声が上がりました。『会社に行かないと自分の業績が認められない』『サボっていると思われる』『長時間勤務になり、仕事を終える区切りがなくなる』『自宅で深夜まで仕事するようになる』という声です。しかし、制度が浸透するにつれて意識は変わり、導入後の社員アンケートでは、未経験の社員に在宅勤務を勧める人が92%。管理職へのアンケートでは、在宅勤務は柔軟な働き方が可能な職場環境づくりと業務の効率化・生産性向上の両面で効果があるという人が84%にも上るようになったのです」

また、制度推進のため、2012年3月と2013年5月に全社でテレワークの日を定め、全社員が1日テレワークを実体験した。その目的は、テレワークの経験がない社員に広めること、そして一斉に行うことでどんなインパクトが出せるかを試すこと。これを契機に、社内でも認知度が上がったそうだ。

「この制度は福利厚生ではなく、社員が自分の生産性を高めるために、会社が一つの働き方として認める制度です。在宅勤務を希望する社員への適用が適切かどうかは、申請を受けたマネジャーが判断します。1回の申請で6ヵ月まで適用し、認められた社員は自律性をもって業務を遂行します。制度の適用そのものはコミットメント(個人の年度目標)達成の期待値を変動させるものではありません。業務の難易度もまったく変わりません」

ここで佐藤氏は、2013年8月に社内で実施した在宅勤務に関するアンケートを示した。「月1回以上自席以外で仕事をしたことがあるか」の質問では、半数の社員がオフィスの自席以外で日常的に仕事したと回答。9割の社員がフレキシブルな働き方は不可欠、またはあるほうが良いと回答している。

「女性の制度活用が多いと思われていましたが、実際には男性37%、女性47%で男女ともに利用していました。利用の理由は、家庭の事情29%、仕事上の理由31%、その両方35%。家庭の事情よりも、『週1日在宅勤務を行うことで、より仕事に集中したい』『生産性を高めたい』という人が多く、活用も多様化してきました」

では事業、組織への影響はどうか。社員一人当たりの売上高を2010年と2012年とで比較すると、17.4%アップしたという。しかし、残業時間は月20時間で変化はない。また、気になる職場の協調性に関しては、2010年と2012年のチーム単位の意識調査でチーム効率性が+7ポイント、協調性が+5ポイントと上昇。また、退職率を見ても、2010年には女性のほうが男性よりも1.8倍高かったが、2012年は格差なしへと推移し、女性社員の退職率も減少した。制度の効果は、これらの数字からも明らかといえるだろう。

理想のICT環境は「いつでも、どこでも、その場で仕事完了」

日本マイクロソフトは、多様な働き方を企業として提供するうえで三つの柱を持っている。それは「制度」「価値観・企業文化」「ICTの活用」だ。このうち、ビジネスとしても提供するICTの活用にはキーワードがある。

「私たちが提供するICT環境では、いつでも、どこにいても、その場で仕事が“完了できる”ことを目指しています。作業だけでなくコミュニケーションも含め、会社に持ち帰ることなく、その場で完了できる環境です。私たちは Office 365 によりこのようなワークスタイルを実現しています。」(Office ビジネス本部 輪島氏)

講演資料例を示すと、オンライン上の連絡先一覧では入力したスケジュールに連動し、自動でその人の状況が表示される。赤は会議中、黄は席外し、緑は連絡可など、状況に合わせて、チャット、ビデオ会議、電話と最適なツールを選択できる。また、基本設定で1000人、拡張すれば数万人まで同時にオンライン会議が可能で、PowerPointなどの資料も画面上でそのまま共有できる。議事録作成ではOneNoteで、デジタルな資料をすべてまとめられる。会議メモでは記入した文字とその時点での録音音声をリンクさせ、文字をクリックするだけで録音を聞き直すことも可能だ。ホワイトボードの文字も写真でストックでき、ノートは書き込んだ時点でオンライン共有。チーム閲覧が可能だ。これらの環境は全て Office 365 で実現されているという。

講演の最後には、会場から「在宅勤務を社内に浸透させるための工夫点とは」と質問があり、佐藤氏、小室氏それぞれが以下の通り回答した。

「在宅日は事前にメールで同僚に連絡し、当日の勤務開始と終了もメールで連絡しておくと他のメンバーが把握しやすいですね」(佐藤氏)

「メンバーの業務進捗が見えなくなるのではないかということが、よく社内から出てくる声。解決のためにおススメするのが、私がコンサルティングの際に企業に実践してもらっているのは“朝メール・夜メール”です。メンバーは朝一番に、15分~30分単位でその日のスケジュールを上司にメールで報告。夜はその日の報告として、朝送ったスケジュールの遂行状況を簡潔に記入し報告。これで“業務の見える化”が進み、ダンドリもうまくなります。スケジュールが共有できるので、上司と部下の信頼関係も向上します」(小室氏)

企業におけるWLBは、日々の仕事上でのわずかな工夫と、共に働く仲間たちへの配慮があれば、徐々に浸透させていくことができる――。改めて、WLBの重要性について理解することができた講演となった。

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