2010年と比較すると、2020年には若手の就労人口が354万人減少すると言われている。それほど貴重な戦力である若手社員だが、最近は「仕事で挑戦しない」など消極的思考を指摘する声も聞こえてくる。若手に挑戦意欲を持たせるにはどうしたらいいのか。「『挑戦する若手』が育つ8つのコンピテンシー開発 ~内発的動機づけと楽観志向で行動を起こさせる~」と題し、株式会社ネオキャリア コンサルティング&トレーニング部部長の堀江隆介氏、株式会社ビヘイビアチェンジパートナーズ 代表取締役の山本憲幸氏がワークショップを開催した。
ネオキャリアでは、「挑戦する若手」を育成するシリーズ研修を企業に提供している。その理由を堀江氏はこう語る。「理由は三つあります。一つ目は若手の就労人口が2020年に354万人減と大幅に減るため、育成に注力すべきだから。しかし、2020年に向けて、若手教育を変えようとしている企業は大変少ないのが現状です。二つ目は、若者が失敗をおそれるゆとり教育世代だから。答えを求めるマニュアル世代であり、素直で真面目だが指示待ちが多い。また、対面コミュニケーションが苦手なので、きちんと教育する必要があります。三つ目は、教育投資が手薄な世代だから。教育投資調査によれば、新人教育17万7000円に対して、2年目~10年未満の若手への教育投資は8万3000円と非常に少ない。この階層に挑戦させたい仕事が、会社としても見えていない点にも問題があります」
ネオキャリアは2000年設立と歴史は浅いが、従業員500名超と中堅企業へ急成長。売上も昨年は72億円で、業界15位クラスまで拡大した。その原動力は若手人材だ。「当社は新卒採用が中心。入社3年以内の社員が約30%で、平均年齢28歳という若い会社です。当社には若手を早期に成果を上げさせるノウハウがあると自負しています。本日は、私たちのパートナーであり、『挑戦する若手』を育てるEQコンピテンシーによる研修を実践する、ビヘイビアチェンジパートナーズ代表取締役の山本憲幸氏がワークショップを行います」
山本氏のワークショップは、若手が活躍する会社としていない会社の違いについての話から始まった。「私はこれまで、300社以上の調査分析を行いました。最初は、若手の活性化は企業の構造的な問題と考えていたのです。しかし、わかったのは活性化している会社は若手の感情エネルギーをうまく引き出し、それを会社の中に反映させていること。そうでない会社は、エネルギーが外に向かってしまっている。まさにエネルギーの生かし方だったのです」
では、若手が変わるきっかけは何なのか。どうすれば「挑戦する若手」になるのか。山本氏は、次のように解説する。「フレッド・ルーサンズが提唱した概念に、ポジティブ心理資本『HERO』があります。これはEQ=感情知能が高い状態を指します。EQを高める力は四つ。一つはHope、希望です。ビジョンが必要です。二つ目はEfficacy、自己効力感。やればできると思える力です。三つ目はResilience、再起力。壁にぶつかっても再度起き上がる力です。四つ目はOptimism、楽観性。これは性格ではなく、物事の見方を指します。これら四つの力を高めるときに、感情の力が活用できるのです」
ここで山本氏から、最初の問いかけがあった。2枚の写真がある。Aは優しげな感じの上司、Bはパワフルな感じの上司。「あなたが上司にしたいのはどちらですか。隣の方と話してみてください」
「では、手を上げてください。Aが8割くらいでしょうか。優しそうだと思った方は、感じる脳で選んでいます。Bを選んだ方は、やり手だと思ったからでしょうか。これは考える脳で選んでいますね。皆さんのなかには二つの脳があります。感じる脳は大脳辺縁系が働き、考える脳は大脳新皮質が働く。実はこの二つの脳はうまく使うべきなのです。理屈だけでもダメ、感情だけでもダメ。バランスよく使う力、それがEQです」
「あなたはCMプランナーです。シートベルトの着用を促進するためのCMの企画を考え、隣の方とアイデアを共有してみて下さい」
「それでは実際に流れたCMをお見せします。映像を見て、感じたことを隣の方と共有してみて下さい」
「免許講習で見せられる、悲惨な事故映像かもと思った人がいたかもしれませんが、全く違いましたね。文字も理屈も出てきません」
ここで山本氏は、EQ(感情知能)について解説する。EQとは何かを決定する時、それが最善の結果に結びつくように思考と感情を調和させる能力である。そして、効果的な意思決定や動機づけに感情は欠かせないものである。「必要なのは、うまく思考と感情をブレンドさせていく力です。ビジョンがなければ、人は今を優先します。将来をイメージしてそこに快感を得るようにならなければ、ビジョンも持てないし、挑戦もできないのです」
山本氏は、EQ を高める三つの領域と八つのコンピテンシーについて解説した。
探求領域 | コンピテンシー | 定義 |
---|---|---|
知る Know Yourself |
感情リテラシー | 単純な感情状態から複雑なものまで、正確に認識し、解釈すること |
自己パターンの認識 | 習慣的に繰り返す反応や行動を認識すること | |
選ぶ Choose Yourself |
結果を見すえた思考 | 自分が取ろうとする選択肢のメリットとデメリットに関して、行動を取る前に考えることができること |
感情のナビゲート | 感情を戦略的なリソース(情報資源)として捉え、その感情を評価し、活かしたり、変化させたりすること | |
内発的なモチベーション | 報酬や見返りなど外因性によるものではなく、個人の価値観や責任感など内から湧き上がるエネルギーを生み出すこと | |
楽観性の発揮 | 希望や可能性を信じ、自分から前向きな展望を持てること | |
活かす Give Yourself |
共感力の活用 | 周囲の人の感情を理解し、適切に対応すること |
ノーブルゴールの追求 | 日々の選択を、自己の強く大きな信条や目的と結びつけること |
「それでは、最近の出来事で「運が良かった」「成功した」「ありがたい」「恵まれていた」と思えることを三つ、箇条書きにして下さい。そして、以下の感情のうち、どれに当てはまるかを考えてみましょう」
「これは感情をエピソードとともに理解するというワークです。人は放っておくとネガティブな感情を記憶してしまいます。すると嫌な体験しか記憶に残らない。「最近よかったことは」と聞いてもすぐ出てこない人もいます。このワークは落ち込んだときに行うと効果があります。連続で行っても、週1回と定期的に行うのもいいですね」
「一つの映像をご覧下さい(女性が怒り、恐れ、緊張などの感情を持った場面の映像)。これを見て、感じたことを隣の方と共有して下さい」
「感情のエネルギーを貯めて、最後は放出するという構成になっていました。感情のナビゲートとは感情をうまく利用するということ。たとえば怒りは隠そうとしても、もれてしまいます。ネガティブな感情はなくなりません。反すうして持続する傾向を持ちます。でも、ネガティブな感情には「意味」があり、その感情も効果的に活用すべきです」
「それでは、最近体験した「怒り」の感情について、場面や状況、そのとき沸き上がった感情、とった行動、今考えると最適であった行動について、隣の方と共有してみて下さい」
「大きな目的を見失うと、怒りの感情が出がちです。怒りの感情は最初の6秒が強くなります。そして、怒りを感じたら、最短でも90秒その場を離れてみてください。次第に落ち着いてきます」
ネガティブな感情への対処法は三つ。
技術 | 方法例 |
---|---|
1.Active Techniques(活動的な技術) |
運動・エクササイズ、音楽、ダンス |
2.Calming Techniques(穏やかにする技術) | 深い深呼吸やゆっくりとした呼吸、静かな場所で美しい景色を鑑賞、気持ち・感情を記述 |
3.Thinking Techniques(思考技術) | 自分自身に一つ質問をする 例)この状況で良いことは何か? |
「このようなことをすると、ポジティブな感情がネガティブな感情を相殺します。一つのネガディブな感情に対処するには、3倍のポジティブな感情が必要です」
会議におけるポジティブ比率は下記のようになる。
項目 | 高業績チーム | 低業績チーム | |
---|---|---|---|
言葉 | 肯定的か否定的か | 6:1 | 1:3 |
発言 | 探求的か主張的か | 1:1 | 1:20 |
話題 | 外向きか内向きか | 1:1 | 1:33 |
「低業績になると、否定的な言葉が多くなり、主張的な姿勢となり、話題も内向きになるわけです」
「これからチームで作業をしていただきます。条件を守って他のチームよりも高いタワーを作ってください」
限られた道具で制限時間以内にタワーを完成させる。タワーの頂点にマシュマロを設置。タワーは自立式であること。天井から吊す、机などに固定してはならない。マシュマロ以外は自由に切っても折っても良い。計測している間に倒れてはならない。
「いかがだったでしょうか。平均すると50センチくらいです。世界最高は99センチ。このチャレンジでは作業を振り返りながら、内発的モチベーションについて考えていきます。この作業が自分にとって、どの程度価値や意味があるものだったかを確認するのです」
このワークショップのゴールは、社員を「挑戦する若手」に変えること。その点では、参加された方々にとって、感情を効果的に扱う手法を学ぶことができ、その効果も十分に実感できたワークショップとなった。