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特別講演[F-5]

ホワイトカラーの生産性向上に成功/失敗する企業
~両者を分けるポイントとは?~

末吉輝彦氏 photo
株式会社プロスタンダード 代表取締役社長
若林 雅樹氏(わかばやし・まさき)
プロフィール:早稲田大学理工学部卒業。卒業後、株式会社インテリジェンスに入社し、生産性向上が難しいと言われた組織で生産性向上に取組む。1,000名超が受講した 生産性向上研修の企画、全社での労働時間削減プロジェクトを担当。企業の人事担当時代に、研修の成果にコミットする会社をつくりたいと強く思い、株式会社プロスタンダードを設立。

日本の生産年齢人口は、将来大幅に減少すると予測されている。今後、企業が限られた人員で最大の利益を生み出すには、全社単位の生産性を上げることが必要だ。しかし、生産性向上の取り組みは行っているが、うまくいっていないという企業は多い。果たして成功と失敗の差は何なのか。「ホワイトカラーの生産性向上に成功/失敗する企業 ~両者を分けるポイントとは?~」と題し、株式会社プロスタンダード 代表取締役社長の若林雅樹氏が講演を行った。

【本講演企業】
ホワイトカラーの生産性向上を個人のスキル開発を通して支援することに特化。今日からすぐ使える実戦的な内容にこだわるだけでなく、研修は忘れ去られる宿命であることを前提に、研修内容が個人に定着することに力を入れている。
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生産性向上は、会社の利益率数%分に相当

多くの企業がホワイトカラーの生産性向上に取り組んでいる。今後の企業存続には、収益性の向上が欠かせないからだ。若林氏は、企業が生産性向上活動を開始する要因は大きく分けて三つあると言う。「一つ目は労働基準監督署からの是正勧告。法令遵守のためには、個人の生産性を上げる必要があります。二つ目は株主からの要請。利益を上げて、企業価値を向上させることが目的です。三つ目は経営の主体的な意思決定です。まさに、企業の存続のための方策なのです」

日本の15歳~64歳の生産年齢人口は、日々減少している。1営業日あたり4000人が減少しているが、これは山手線12車両が満員になった際の人数に相当するという。2010 年の8173万人から、2060年には4418万人と45.9%も減少する見込みだ。また、一人当たりGDPを見ると、2030年まででGDP20%減・一人当たりGDP10%減、2060年まででGDP45%減・一人当たりGDP20%減となる(書籍『2050老人大国の現実』小笠原泰、渡辺智之著より)

若林雅樹氏 講演photo「近い将来、人の減少が収益面にも大きく影響します。私がお付き合いしている企業トップの方々は、この事実を見据えて行動されています」

それでは、人事総務部門は企業の収益性向上にどのように貢献すればいいのだろうか。若林氏は、データを示しながら解説していった。「全従業員が1日に30分残業を減らした場合、1年間でどのくらいコストを削減できると思いますか。『企業が仕事と生活の調和に取り組むメリット』(内閣府男女共同参画局)によると、50人で1180万円、500人で1億3500万円、1000人だと3億70万円もの削減が可能だそうです。これだけの金額が浮けば、会社の利益率が数%は優に改善されるはずです。この数値感覚を、皆さまにはぜひ持っていただきたいと思います」

また、労働時間について、全国展開している企業は注意すべきデータがある。2011年度に残業代を支払っていないとして労働基準監督署の是正指導を受け、1000万円以上を支払った企業が117社あったというのだ。「支払総額の平均は、7094万円もありました。残業代に関しても、これだけのコストインパクトがあることを、企業は理解しておくべきではないでしょうか」

成功のコツは「小さなパイロットプロジェクトでのスタート」

若林氏は、「生産性向上の活動を始めても、なかなかすぐには成果が出ない」と語る。社員に納得してもらって施策を進めていく必要があるが、そこで粘り強さが求められるというのだ。「残業を削減したら売上も下がるのではないか、新人が育成されないのではないかといった不安の声も出てくることでしょう。それに対して、人事はきちんとした答えを用意しなければなりません」

生産性向上の指標をつくる際も、「新入社員が全員理解できるレベル」までシンプルにすることが求められるという。「生産性を考えるときは、もちろん法令遵守が基本になります。しかし、その指標から、36協定の遵守とはどういう状態かを理解できる内容でなければ意味がありません。また、全社での取り組みですから、組織構成と報告体制、そして全責任・全権限はどこに帰属するかを明確にしなければならない。その中でスムーズに推進するには、人事部事務局がすべての権限を持つべきです。事務局トップが各事業部トップに話をつけて、PDCAサイクルを回していくのです」

企業が生産性向上に取り組むと、成功企業と失敗企業に分かれてしまう。その違いについて、若林氏は解説した。「施策展開のコツは、最初に確実に成功する小さなパイロットプロジェクトを実施することです。その成果を宣伝することで、社内に展開しやすくなります。また、労働時間削減の目的をストレートに社員へ伝えても、共感されないこともあります。その点では、管理・監督者向けおよび社員向けに共感できる大義名分も必要。また、管理職以上の社員に了解を得ておくことも非常に重要です」。施策展開の流れは「パイロットプロジェクト→一事業部で展開→全社展開→徹底・継続」となる。この各工程でPDCAを回しながら、施策をブラッシュアップすることで成功率も上がっていく。

生産性向上を推進するうえで、非常に重要なポジションとなるのは各部署の管理職だ。現場で社員を管理監督する立場であるだけに、人事はマスで発信するだけでなく、しっかり個別にアプローチしておくべきである。また、生産性向上を確実に進めるには、会社だけでなく個人側の施策を実施することも必要になる。

「ノー残業デイ、有給休暇取得奨励、人事制度改定、人材採用といった全社的な施策を実施しても、仕事をこなしきれずに家に持ち帰る社員が出てくるなど、仕事が社外に染み出してしまうケースはよくあります。その点では会社の施策と同時に、個人に対して能力開発や業務量の調整といった生産性を高める支援を実施すべきです。この個人への支援まで、手が行き届いていない企業が多いです。実際に業績が良い企業は、現在~将来に渡って個別の人材強化を重視しています」。生産性向上のためには、会社と個人、まさに両輪での施策運営が求められるのだ。

徹底して、非稼働時間をなくし稼働時間の時間数・密度を上げる

若林氏は、ホワイトカラーの生産性向上の方法を、具体的に解説していく。ここでヒントとして取り上げたのは、製造業のメソッドだ。その工程はまず生産性阻害要因を特定することに始まる。付加価値の視点に立てば、労働時間は以下の三つに分けられるという。

「一つ目は、付加価値を生み出す作業時間である、稼働時間。営業でいえば、訪問、提案といった重要な時間です。もちろん、ここは密度を高めて、時間数を増やすべきです。二つ目は、付加価値を生み出すために必要な作業時間である、準稼働時間。ミーティング、提案資料作成、メール処理などの時間です。ここは密度を高めるか、または捨てるかして短縮化を目指すべきです。三つ目は、何も価値を生み出さない、非稼働時間。例えば、探し物、メール・書類の2 度見、手戻りの時間など。ここは徹底的になくすべきです」

それでは、どんな作業が生産性向上を阻害しているのか。プロスタンダードでは、個人向けに以下のチェックリストを提供している。

○生産性向上チェックリスト

若林雅樹氏 講演資料 「チェックリストは大体、研修実施前で8 点、研修実施後で12点になります。生産性向上の目安としては、10~15点で30分/日、10時間/月。5~9点で1時間/日、20時間/月。20項目のうち8割以上の点数を取れるようになれば、これだけ時間を有効に使えるようになるのです」

また、ビジネスパーソンが時間を浪費する項目として「探し物」と「メール処理」が挙げられる。「1日あたり探し物に1時間、メール処理に2時間15分、計3時間15分を費やしているというデータがあります。年240営業日(20営業日×12ヵ月)で計算すると、30営業日(12.5 %)を探し物、67.5 営業日(28.1 %)をメール処理、合計97.5営業日(40.6 %)を費やしていることになるのです」

スケジューリングのポイントとしては「日々のデッドラインを設け、守ることが労働時間の削減につながる」と若林氏は語る。「仕事に関する法則に、パーキンソンの法則(Parkinson‘s law)があります。第1法則は『仕事の量は、完成のために与えられた時間をすべて満たすまで膨張する』。第2法則は『支出の額は、収入の額に達するまで膨張する』。仕事というものは、使える時間または割り当てた時間ぎりぎりか、ちょうどに終わることが多いのです。人は自分の使える資源(人・モノ・金・時間など)をあるだけ使ってしまおうとします。だからこそ、デットラインが必要なのです」

若林雅樹氏 講演photo 若林氏は、パーキンソンの法則に流されないためにも、生産性向上を体に染み込ませる研修が必要だと語る。そこで、プロスタンダートでは「ホワイトカラー生産性向上研修」を提供している。研修の流れは「ヒアリング→研修ゴールの確定→効果測定方法の確定→研修実施→現場フォロー1回目→現場フォロー2回目」。研修終了後には、企業の現場まで出向いていき、その場でフォローを行っている。

「研修では、まず効率的なメール処理方法などをその場でご覧いただき、効率アップの『オイシサ』を体感していただきます。そして、研修は終わるとそのまま忘れがちですから、受講後2週間~1ヵ月をめどに現場でのフォローを行っています。私や講師が企業までうかがい、オフィスで実際にフォローアップします。これによって、研修内容の定着率は格段にアップします」。まさに生産性向上の必要性を実感することができた、若林氏の講演だった。


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