事業のグローバル化においては、あらゆる場面で「人」に関する課題に突き当たる。特に多くの日系企業にとって、海外の現地法人社員を対象とした人事機能の強化は、重要かつ困難な課題の一つではないだろうか。NECはこの課題に2010年から本格的に取り組んでいる。今回はその中核となるグローバル共通プラットフォームの構築と、それをベースとしたグローバル・タレントマネジメントに関する取り組みについて、日本電気株式会社 人事部国際人事企画担当の佐藤秀明氏が講演を行った。
NECの昨年の連結売上は約3兆円で、そのうちの16%を海外事業が占めています。従業員は10万人で、そのうち海外の従業員は2万人。最近の海外事業は、IT技術を生かしたソリューション事業が主力であり、さまざまなハードウェアやソフトウェアを組みあわせて、ITソリューションとして提供しています。ここで、海外でのITソリューション提供の例をご紹介します。
NECではアジアの主要空港向けに、NECの生体認証技術を活用して安全かつ確実な出入国審査を実現する『E-Passportシステム』を提供しています。シンガポールとマレーシアの国境にあるジョホールバールでは、このシステムの導入により、保持者の出入国手続きが大幅に簡略化され、出入国に要する時間は一人最大12秒となりました。さらに、グローバル・セキュリティー確保にも貢献しています。
また、流通業向けには、各小売店舗に設置されたPOS端末をネットワークで接続することにより商品の受発注情報や顧客情報の管理を行う『トータルPOSシステム』 を提供しています。台湾セブンイレブン様では、3,600以上の店舗でこのトータルPOSシステムを導入し、効率的な在庫確認や販売情報の追跡・分析を実現されています。
これらのITソリューションをグローバルで提供するには、単にパソコンやケータイといったハードウェアを販売するよりも、高度な知識やスキルを備えた人材を確保することが重要になります。
ここで、NECの海外事業における歴史を振り返っていきます。
このように、時代背景や事業戦略に応じて、人事戦略も大きく変化してきたことが分かります。2010年のタレントマネジメント導入は、2000年以降の事業戦略の転換(ソリューションビジネスへのシフト)が背景となっています。
2010年ごろのグローバル事業方針は、『海外売上比率25%』と『現地主導型ビジネスの推進』でした。このような事業方針を実現するため、グローバル人事施策として、次の五つの柱を掲げました。
上記の取り組みの中でも非常に重要なのが、(1)グローバルに事業を牽引するリーダーの発掘・配置・評価・育成です。この実現のために、NECはタレントマネジメントを導入しました。
タレントマネジメント導入にあたっては、NEC独自の体制・制度を構築するとともに、グローバルで実績をもつクラウドサービスを活用しました。ここでは、短期間かつ効果的な導入を実現したポイントをご紹介します。
グローバル5極体制とは、グローバルを北米・南米・中華圏・APAC・EMEAの五つの地域に分け、各々に地域統括本部を設置した体制です。この体制の確立により、NEC本社の人事部門と地域統括本部の人事部門が連携して、適切な海外人材の管理を行うことができるようになりました。また、問題が発生した場合には、この体制を活用してエスカレーションが行われ、迅速に問題解決される仕組みが整備されました。
GKPごとに、直近、2年~4年後、5年後以降と時限を区切って3名の後継候補者を選出。グローバルで共通の評価基準を活用し、毎年6月から1年をかけて人選・評価・教育を行います。このプロセスを2010年のスタートから開始し、今年で3度目の運用を終えたところです。
まず、6月からの上期は、GKPの後継候補の見直しを行い、社長/ビジネスユニットのトップ/人事部門トップで人選のディスカッションを行います。特に、若手の優秀層と、次の役員候補、および重点事業部門長の人事などが中心となります。続く下期には、登用にいたる個別の育成活動が行われます。たとえば役員や事業部長の候補には特定の研修やリーダーシップスキルのアセスメント、コーチングなどを行ないます。
事業部長経験があり、人材面で見識のあるシニア3名に、人材育成ファシリテーターを依頼しています。この人材育成ファシリテーターは、GKPの後継候補者に対し面談を実施します。このような上司が関わらない形で個別にじっくり話を聞き、幹部候補人材へのキャリアアドバイスを行います。このような取り組みにより、適材適所の人材配置を推進しています。
「Cultiiva Global/HM」は、NECが提供する人材マネジメントサービスです。社員プロファイルを中心として、目標管理、人材のパフォーマンス管理、後継者計画などの機能を備えています。今回はこのサービスを活用することにより、短期間での導入を実現しました。また、海外現地法人の人事部門員の多くが、グローバルで実績を持つこのサービスを知っていたことも、スムーズな導入を進めることができたポイントの一つでした。
これらの取り組みにより、通年にわたって、グローバル人材マネジメントサービスに情報が入力され、人材育成ファシリテーターが情報収集にあたります。このサービスには、社内だけでなく外部のアセスメント情報も入っており、教育などを受講した際には、ファシリテーターのフィードバックも入力されます。候補者について多様な情報を一箇所に集めることで、職場上司の評価とはまた違った人物像が見えてくることもあります。特に海外拠点で勤務する社員については、人材情報が少なくなりがちになるため、広範囲に収集・蓄積されたデータは適材適所や育成の計画を進めるうえで非常に役立っています。このようなプロセスを経て、翌年4月に、新たな候補者から新体制がつくられます。
さらに今回、NECはサービス導入と同時に、行動評価基準をグローバルに統一しました。「NECバリュー」と「リーダーシップ」を機軸にした行動評価をグループ統一で定め、NECバリューの浸透、リーダーシップの強化を図っています。NECにおけるグローバル・タレントマネジメントの成果の一つは、国内外問わず、主要ポジションの現任者とその後継候補人材の多面的情報を一元化でき、本社での随時把握が可能になったことです。もう一つは、これを元に海外拠点人事(特に現地採用社員)に関する課題把握と、継続的検討・議論・施策実行が、実際に行えるようになったことです。NECはこうした取り組みにより、徐々にではありますが国内外の幹部候補人材の見える化と適材適所を進めております。