経済産業省の「グローバル人材に関するアンケート調査」によると、「海外拠点の設置・運営に際しての課題や問題は何か」という質問に対して、74.1%もの企業が「グローバル化を推進する国内人材の確保・育成」と回答。グローバル人材の語学力、コミュニケーション能力の不足が一層深刻な問題となっていることがわかる。それでは、いま企業はどのようにしてグローバル人材を育成していけばいいのか――。オンライン言語学習ソリューションで定評のある、ロゼッタストーン・ジャパン株式会社 法人事業部事業部長の関根悟氏が「グローバル人材に求められる、外国語コミュニケーション能力」というテーマで講演を行った。
そもそも「グローバル人材」とは、どんな人材を指すのか。経済産業省「グローバル人材育成推進会議中間まとめ」によると、「何事にも積極的にチャレンジ、そして目標を達成するという使命感があり、文化、人種の違いをきちんと理解した上で日本人としてのアイデンティティーをもち、地域、言語の壁を超えて、同僚、お客様とコミュニケーションをとる能力を持ち合わせた人材」といった定義が見られる。
では、企業はグローバル人材の重要な要素である社員の語学力をどのように育成しているのか。ロゼッタストーン・ジャパン(以下、ロゼッタストーン)では2012年12月、独自に企業の総務部門、人事部門、教育研修部門に所属する人、また教育研修業務に携わる人を対象にアンケート調査を行っている。回答者は全業種、規模をカバー、回答数は1000名超だ。
「結果を見ると、実際の実施状況では集合形式、通学といった講義型、教材を使った独学がまだまだ主流。しかし、今後の実施予定をみると、ネットワーク上で利用するオンライン研修や独学用語学教材の検討が目立っています。今後も独学型、オンライン型研修の比率は上がると予想されます」と、関根氏は言う。
次に「誰を対象に行っているか」という質問では、「全社員」が最も多く、次いで「中堅社員・中間管理職」「海外赴任者」「内定者・新人」と続く。国際関連部門者向け の数値が低いことから、企業は社員全体の語学力の底上げを目指していると推測される。では、語学研修を受ける人の語学レベルはどうか。アンケートでは「簡単な日常会話・読み書きはできる」「日常会話・読み書きは支障なくできるが、ビジネス会話は困難」「会話・読み書きがほとんどできない」が上位を占める。多くの企業が、初級~中級の層の語学力の底上げと、ビジネス会話スキルの向上を目指していると言える。
続いて、語学研修の目的・理由を聞くと、回答の上位は「対面での外国語対話力の向上」「外国語でのプレゼンテーション能力の向上」「外国語での会話スキルの向上」「外国語での接客スキルの向上」「外国語での取引・交渉スキルの向上」「電話における外国語での対応力の向上」。関根氏は「すべてが、会話・プレゼン・交渉など、話すこと、コミュニケーション向上させるための研修でした。まさにロゼッタストーンが手掛ける領域です」と説明する。
ロゼッタストーンはアメリカに本社を置く、言語学習ソリューションを開発、提供する企業。言語学習のみ20年間提供し、取扱言語は30言語、ユーザーは全世界で500万人を超える。日本法人は2006年にサービスを開始、トヨタ自動車、ソニー、野村證券、資生堂など約600の企業・官公庁および約200の教育機関で導入されている。最近は、企業向けに体制を強化し、福利厚生における語学支援サービスのコンサルテーションを無償で行う事業をスタートさせたところだ。
今回の企業アンケートに見られる、日本企業の語学研修の特徴は以下のようなものだ。
それでは、企業における語学研修の導入形態はどうなっているのだろうか。関根氏によると、主に2種類に分けられるそうだ。一つ目は企業研修タイプ。海外赴任者、幹部候補生などの選抜された社員向けに多く、費用は全額会社負担が多い。二つ目は自己啓発タイプ。全社員が対象で受講開始もしくは修了時に補助金を支給するケースが多い。
ここで電子製品メーカーであるTDKの例が紹介された。同社では、サプライチェーンのグローバル化、生産拠点の海外シフト、海外売上比率の上昇で、英語の必要性が高まっていたが、他プログラムでの学習がなかなか継続されていなかった。「当社のサービスは『会話にフォーカスし、時間や場所の制約がなく、いつでもどこでもできる。写真を多用、簡潔明解でわかりやすい。英語が苦手でも続けられると感じた』と評価いただき、自己啓発プログラムに採用。その効果を紹介するセミナーが適時開催され、学習者の数も増えています」
もう一件の例は学校法人である麗澤大学だ。従来の講義型学習では、学習時に一人ひとりが話す時間が十分でないという課題を抱えていたが、ロゼッタストーンは楽しみながら基本的な語彙(ごい)が身に付くことに加え、話さないと前に進めない仕組みがあり、外国語を学ぶのに効果的と判断された。「当社の、見る・聞く・話すをバランス良くというコンセプトを理解いただき採用されました」と、関根氏は言う。
ロゼッタストーンのプログラムの特徴をまとめると、以下のようになる。
では、具体的にどのような語学サービスがあるのか。ロゼッタストーンでは法人向けサービスとして、学習者のレベルに応じて2種類を用意している。
多言語を基礎から学習したい方向け。基礎から学べる総合トレーニング。目安としてTOIECスコア200点くらいの人から利用できる。24言語に対応。
日本人向けに開発され、英語(アメリカ)のみ。より実践的なビジネス英会話が必要な人向け。主にTOEIC500点以上の人向け。
双方のサービスともに、三つのコンポーネントで構成される。
Rosetta Stone TOTALe PRO、Rosetta Stone ReFLEX PROの法人向けソリューションには、学習状況を可視化するためのツールがついている。人事や研修管理者が利用状況を把握したり、個人・グループごとに利用状況のレポートを作成したり、ユーザーや言語の切り替えが可能だ。また、管理者が、学習者のモチベーションを維持し、効果的なプログラムを運営するためのサポートも充実している。
具体的にサービスをどのように利用するのかについては、Rosetta Stone TOTALe PROのデモビデオが上映された。今回のデモは中国語。「まず、利用者の声を判別するために、声を録音します。最初はレベル1、あいさつからスタート。発音がネイティブスピーカーに通じるレベルであればチャイムが鳴ります。間違えたらやり直します。発音がわからないときは、スピーチ解析機能を立ち上げるとネイティブスピーカーの波形と比較ができます。単語レベルだけでなく、文章レベルで確認できるのがロゼッタストーン独自のテクノロジーです。工程を細かくカスタマイズもできるので、短時間で勉強することもできるし、必要ない工程はとばすことも可能です。ビジネスシーンもふんだんに盛り込まれており、何度も工程を繰り返すことで、直感的に会話ができるようになります」
企業アンケートの結果に「語学学習を実施する企業の9割はTOEICを採用」とあるように、現状でのTOEIC需要は高い。企業からロゼッタストーンに対しても「これらのソリューションでTOEIC の点数が上がるのか」といった質問が多いという。
「答えはイエスです。お伝えしたい二つの重要なポイントがあります。一つは脳科学分野でもいわれる、『言葉』と認識することの重要性です。人は言葉と認識できると覚えやすさが違ってきます。大事なことは、目で状況を見て、言葉を聞き、自分で話してみる。これを繰り返すことで言葉と認識されます。特にロゼッタストーンは『話すこと』を重視しているので、この反復が可能になります。もう一つは、ロゼッタストーンにより必要な勉強時間が確保できるということです。16言語をマスターした学者の方がおっしゃっていますが、1週間=168時間のうち10時間は語学漬けにならないと、言葉はマスターできません。それだけの時間をどう捻出するか。なかなかまとめて確保するのは難しいので、隙間時間を活用するしかありません。その点、ロゼッタストーンは工程を細かく分けることができ、また自宅でなくてもスマートフォンやタブレットなどモバイル端末を使って勉強時間をつくることが可能です」
企業において、新興国ビジネスの台頭、従業員、顧客の多様化が進み、ビジネスで勝ち残るための課題として、グローバル人材の育成が急務となっている。これから必要とされるグローバル人材とは、日本人としてのアイデンティティーを持ちながら、異なる文化、価値を乗り越えて関係を構築、維持していく能力を備えた人材だ。「このような人材を育成するために、最初に、言語の壁をこえられるコミュニケーション能力を育成する必要があるのです」と、関根氏は語る。今回の講演に参加された方々は改めて、グローバルコミュニケーションにおける語学、言葉の重要性を認識することができたようだ。