企業を取り巻くメンタルヘルスの環境は非常に厳しい。「新型のうつ病、海外駐在員のストレス、メンタル休職の増加、そしてサポート体制の不足など、さまざまな現象が見られ、企業の責任も大きくなっています。まもなくメンタルヘルスチェックの義務付けも法制化される見込みです」と企業、官庁、地方公共団体等で連日ヒアリングを続ける渡辺氏は現状を語る。中でも、メンタルヘルス不調の増加が顕著なのは、20代30代の若手、業界ではIT関連だと言う。
メンタルヘルスというと専門家頼みのイメージがあるが、経営革新に繋がるものとして経営層の関与が欠かせないと渡辺氏は語る。「まずは経営の心理的ベースを変えなければなりません。中でも重要なのはコミュニケーション力です。これらの取り組みによって、復職率が3割から7割に上がった企業もあります」。コーチアプローチファシリテーションは、自分の価値観を脇に置き、他人の考えを素直に聴くという人間力をベースに、互いに理解し合える新しい発想を生み、信頼を深めて、幸福感を体得し実践するコミュニケーション力を向上させるマネジメントスキルのことだ。
コーチアプローチファシリテーションには五つのステップがある。一つ目は人間力を鍛える。自分自身や会社の業績を考えながらコーチングすると、余計にストレスを与えることになる。そこで人間力が大事になる。二つ目は、コミュニケーションの基本である「聴く」「承認」の実践。「聴く」ポイントは、興味や関心を示す、聴く姿勢を作り出すことだ。「承認」では「あなたがそこにいていいよ」というメッセージを伝えることが大切になる。三つ目は、相手の感情に寄り添い、個人の成長を支えるコーチング。四つ目は「場」を創り、チームメンバーに相乗効果を発揮させるファシリテーション。五つ目は、これらを効果的なスキルとして発展させ、実践する能力「コーチアプローチファシリテーション」を鍛えることだ。
「今は『ついてこい型』リーダーシップではなく、社員の意見を聞きながらその人の存在を認めその上で、導いていく時代です。社員は自分の存在をいかに認めてもらえているかに重きを置いています。そんな心理を理解した上でマネジメントをしていただきたい。情報の伝達よりも気持ちの伝達です」。メンタルヘルスを対策ではなく経営戦略へと位置づけていきたいという思いを、大山氏は強く語った。