当社は、若手教育に特化して「人の成長を偶発から必然に変える」ことをミッションにしています。特に、内定時から3年目までの層を最重要視しています。本日の講演では、昨今の新入社員・若手社員の傾向を理解して研修を企画する際のポイントを明確にすること、新入社員研修を企画する際に陥りがちな「落とし穴」を認知し、それを上手に回避・対応しながら理想とする人材を育成していくためのカギをつかむこと、典型的な事例を題材に自社プログラムを改善していくイメージを作ることの三つを目的にお話いたします。
最初に、昨今の新入社員・若手社員の傾向ですが、「ビジネスマナーが定着しない」「主体性がなく受け身である」「自分で考えない」「目標意識や向上心がない」「叱られ慣れていない」「何を言っても反応が鈍い」「企業理念やDNAへの理解力が不足している」などを挙げることができるでしょう。彼らを指導する際には、目的やゴールを具体化してあげることが最重要課題になります。また、人材開発担当者自身が「新人社員だから仕方がない。そのうち慣れるだろう」などと、思考停止に陥らないことが重要です。
対処方法も、しっかり考えていかなければなりません。人材開発担当者は、「ビジネスマナー研修を3日間実施しよう」「質問をしてきたら、自分で考えなさいと突き返そう」「体を動かすチームビルディング研修を行おう」など、さまざまなことを考えるものですが、そこには大きな「落とし穴」があるからです。たとえば、「何でも聞いてくるけれど、もっと自分でも考えてほしい」と考えて、「自分で考えなさい」と突き返すと、「何を考えるのか」「どう考えたら良いのか」と、若手社員に答え探しをさせてしまうことになり、場合によっては、自分勝手さを助長させること になるのです。
では、どうしてこのような落とし穴が生まれてしまうのかというと、三つの原因が考えられます。一つ目は、対応が表面的になっていて、根本的な原因にアプローチできていないこと。二つ目は、相手が新入社員であるため、「何も考えていないだろう」と子ども扱いしてしまっていること。そして、三つ目は、そういった行動をとってしまう理由や目的を明示して、新入社員と一緒に考えたりしていないことです。
これらの問題を解決するためには、「システムでシンプルに考えること」をお薦めします。バランス・フィードバックループ(=一定基準に集約していく)というものがありますが、たとえば、新入社員の「マナーが悪い」という状況があったとして、マナーを向上させるために研修を強化したけれど、習った通りに実行すると現場の人たちからの反応が悪く、結果的に現場の人と同じような行動を再び取るようになる、つまりマナーが悪くなるというように、一つの現象の因果関係をシンプルに考えることができます。
次に、これをさらに深堀していきます。研修を強化すれば何がおこるでしょうか。研修内での基準(外部基準)が強まり、現場の基準と乖離すれば乖離するほど、現場の人たちの反応は悪くなるでしょう。そのため、現場に早くなじみたい新入社員たちは、現場の人と同じ行動をとるようになることがわかります。「現場で基準にしていることへの合致度」がボトルネックであることがわかるのではないでしょうか。
ならば、あとはボトルネックに対応すればよいのです。ただし、「現場で基準にしていること」に研修をあわせていくと、外部基準をやっている意味がありません。そのため、研修には外部基準と現場基準の両方を導入し、自分で行動を考えられるようにセットアップすることが重要です。ただし、実際に現場が大切にしている基準が違うだけで、インストールする内容が不足することもあるので、その点には注意が必要です。
2012年新入社員に限って言うと、以下の三つの傾向を挙げることができます。
こうした特徴を踏まえた上で対策を考えるなら、「何のためにやっているのか、一緒にゴールを考えてあげる」ことがよいでしょう。というのも、新入社員にとっては、怒られず、変な烙印を押されず、無事に配属されることが最優先の目的(Why)になっていて、彼らは彼らなりに、それを実現するためのWhat(なにをするべきか)、How(どのようにするか)を必死に練り出しているからです。ですから、新入社員の間違いを本人たちに明示し、「何のためにやっているのか」を一緒に考えるべきなのです。
最後に、実際の課題を例に挙げながら、人材開発担当者の方が陥りがちな対応と、正しい解決策をいくつかご提示します。
厳しい講師をよんで、ビジネスマナー研修を実施しがちですが、姿勢や声など、研修で学んだマナーは研修中には有効でも、職場で誰もやっていなければ継続できず、応用も利きません。現場の実体と教えていることの矛盾が「なぜ」起きているのか考えさせ、場面に対応できる「考え方」も含めてインプットさせましょう。
「主体的に行動しなさい」と言い続けても、単に行動させるだけでは「自分勝手」になるだけです。新入社員は基準やWhyを考えられないままで終わってしまいがちですから、考えるための「問い」――事例を出して共通する基準やWhyを与え、自分たちで想起させましょう。
2縲怩R年目の若手をOJT担当にしてしまいがちですが、この年代はようやく仕事を覚えておもしろくなっている時期。負担がかかるだけでなく、実際は知らないことがまだ多く、効果は限定的になりがちです。一通りできるようになり、一つ上から見ることができる立場の社員(5縲鰀10年目)を担当させ、「経験学習サイクル」を回させる関わりがよいでしょう。
「自分で考えなさい」と常に突き返してしまうと、何をどう考えたら良いのか、適切な「問い」が伴わず、答え探しをさせてしまった結果、自分勝手さを助長させることになります。考えを発想する力を強化するため、そのプロセス自体を経験させ、承認するのがお薦めです。
体を動かすチームビルディング研修を行いがちですが、この研修はその場では盛り上がっても、教室での研修や仕事の場面にまで応用できません。フレームワークを与え、無理矢理にでも発想させること。その場で真に求められていることを考えさせましょう。
外部講師に厳しく叱ってもらおうと考える人材開発担当者もいますが、それでは新入社員は理不尽に思い、関係性が悪化します。あるいは、表面的に繕おうとしたり、極端な自責に陥ったりする可能性も。目指している姿・ゴールをセルフイメージに入れ込むとよいでしょう。
講話中はうなずき、質問時間は手を上げることを必須にすると、それ自体が仕事になって、質問のための質問が多くなります。講義の目的や内容・きっかけになることを伝えておき、目的や疑問を考えさせておく事前学習が望ましいと思われます。
演習をたくさんやらせ、繰り返しの訓練をさせても、場面を無視してやるようになるだけです。異なる場面になっても応用が利かず「教わっていない」のと同様の結果になることも。振り返りを行い、共通する「示唆や教訓」を考えさせ、別の場面を想定させましょう。
役職が大きく離れた人に講話を依頼しても、概念的かつ昔の話になり、結果として重要性が伝わらないこともあります。理念やDNAが実現されるシーンを自分たちで見つけ出すワークに取り組ませ、実際の社員と課題への行動をともにし、たくさん対話をすることが重要でしょう。
最後になりますが、新入社員は、私たちが思っている以上に、考える力があるものです。その力を引き出し、活かしていくことが私たち人材開発担当には求められているのではないでしょうか。ご清聴ありがとうございました。