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基調講演[F]

自律型人材をベースにしたHRM・HRDで何を変えられるか
(協賛:ロゼッタストーン・ジャパン株式会社)

花田光世氏
慶應義塾大学総合政策学部教授、同大学キャリア・リソース・ラボラトリ代表
花田 光世氏(はなだ・みつよ)
プロフィール:南カリフォルニア大学Ph.D.-Distinction(組織社会学)。企業組織、とりわけ人事・教育・キャリア問題研究の第一人者。産業組織心理学会理事、人材育成学会常任理事、アウトソーシング協議会会長をはじめとする公的な活動に加えて、民間企業の社外取締役、報酬委員会などの活動にも従事。「人事制度における競争原理の実態」で、組織学会賞を受賞。主な論文に「グローバル戦略を支える人事システムの展開法(上・下)」「コア人材の機能と条件」(以上「ダイヤモンド ハーバード・ビジネス」)などAmerican Sociological Review,Administrative Science Quarterlyといった海外の学術誌を始めとして300本を越す論文がある。最近は、キャリア自律、キャリアアドバイザーの育成などの活動に精力的に取り組んでいる。

人事は進化する。残すべき制度はない

今日私がお話したいのは、これから先は多くの社員にとってチャンスがある時代だということです。社員が自ら可能性を広げることができる時代になるということを、お伝えできればと思っています。

「人事は進化する」。これは私の持論の一つです。私は人事制度において、残すべきものはないと思っています。仮に残ったものがあったとしても、それは同じものとしては残りません。常に新しい仕組みづくりに気持ちを向けていく。これが人事として大事なことではないでしょうか。

日本は高度成長期の頃から、長く会社に人が残るような人事制度を運用していました。しかし、オイルショックでGDPの成長が5%以下になると、企業がフォーカスした特定分野に向けて人材を活用する時代に入っていきます。人材を組織の視点で磨き上げて、人的資源として活用していったのです。私は1973年~91年は「人的資源管理開発」の時代と呼んでいます。この時期は大学生の数も安定し、企業側も安定的に採用できていました。しかし、91年のバブル崩壊で日本のGDPが1%を切り、企業にも余力がなくなっていきました。そこからは個人が中心となって、即戦力重視の「人的資産管理開発」の時代に入っていきます。この時代、多くの社員にとり、キャリア形成は自己責任となっていきました。

花田光世氏/講演 photo 「人的資源」の時代は、しっかりした社員が残ることをベースとした囲い込みの時代でした。モラールを重視し、モチベーションを管理しながら「社員がいまここで満足している」状況をつくっていった。しかし私は、人的資産の時代には、今の満足よりも「これから先、自分がどのように伸びていくか」「自分にはどんな可能性があるか」ということに関して、個人を支援してくれる会社が重要だと考えています。個人が企業にぶら下がるのではなく、チャレンジし続けられる環境をいかに企業が用意するか。そのことに本気になることが企業の人事部には求められているのです。

「静的なキャリア論」には限界がある

皆さんは職務満足を望みますか。実は働きやすさという満足は、一過性のものです。この職務満足は、皆さんのこれからのキャリアチャンスの拡大を担保するものではありません。「いい会社に入れた」「いい上司に巡りあえた」「いい仕事の担当になれた」「いい給与」「いい同僚」など。それらは確かに、皆さんの満足度に影響します。しかし、皆さんのキャリア形成に影響するものではありません。あなたのキャリアは、それで大丈夫でしょうか。「大変な会社に入った」「とんでもない上司のもとにいる」「自分の希望した仕事ではない」「給与が安い」「同僚間では足の引っ張り合いや無関心が蔓延」。考えてみてください。皆さんが自律的なキャリアづくりに真剣になるのは、このような環境ではないでしょうか。

例えば、「明日企業が変わってしまうかもしれない」といった緊張感を社員に与え、常に自ら満足を勝ち取るような動きを求める。そのことが不透明な時代においては、有益な結果を生むことになります。働く条件をあまりに整えすぎることは、社員を弱体化させてしまう。企業の雇用責任は変わってきた。もちろんこれは極論です。しかし、安定がぶらさがり社員を生みかねないという問題の本質を示唆しているといえます。

私は、タレントマネジメントやジョブマッチングは組織を長期的には弱体化させると考えています。今がベストな状況を会社がつくってしまうと、現状依存、安定型になり、個人が変化対応しなくなるからです。ある意味、これは「静的なキャリア論」の限界ではないかと考えます。与えられた状況の中で何かを担保してもしようがない。それに対して、私が考えるのは「動的なキャリア論」です。変化というものを自身が主体的、能動的につくっていく。その中心的な考え方は「Planned Happenstance=計画された偶発性」です。

「偶発性」とは何が起こるかわからない、先が読めない、世の中矛盾にあふれているという考え方がベースにあります。「Planned」とはあらゆる可能性をすべて検討する計画ではなく、あらゆる可能性のベースにある最大公約数的な基本対応を計画する(人間力など)力をベースにするということ。自分が「こうしたい」というキャリアビジョンとゴールを持ち、それに向けて計画を立てるということです。

私は今後、組織と個人の関係は対等なバランスに近づくと考えます。個人は自律を目指し、組織はそれができるような環境をつくる。キャリア自律が進めば、積極的・能動的に組織内での役割や居場所・立ち位置を再構築するアプローチが重要になっていきます。そして、組織の上を目指すような登山型ではない、フラットなハイキング型の組織づくりがより進んでいくはずです。

キャリア評価は「縦型から横型へ」と広がる

さらに、組織の視点から見た、年齢によるライフステージによる生き方と、職級や職位によって決まるキャリアステージの連動も変わります。例えば、多くの企業で、バブル期入社の40代半ばの社員が管理職になれないといった状況が拡がっていますが、これが登山の論理型人事の崩壊を促します。これまでのような組織の視点からのライフステージとキャリアステージの同期や統合ができなくなりますから、新たに個人の視点、そして個人のペースに見合った同期の構築が必要になります。この部分を会社がどう支援するかということです。

花田光世氏/講演 photo キャリア自律を考えていくと、これまで当たり前と考えられていた人事の施策や制度がどんどん変わっていきます。私たちは、常に新しいものをつくり続けていかなければならない。その中で、組織と個人の新たな関係の構築が求められます。

では、キャリア自律やダイバーシティの風土を構築するとはどういうことか。自分で自分のチャンスを広げようとする人たちを、会社が支援していくという形をしっかりとつくることです。職場のポストがただ上がるというのではない、個々人が能動的に成長に取り組むことへの支援の仕組みをつくることです。個人のペースや個人のオンリーワンとしての価値観をベースしたキャリアづくりを支援することになります。それらを実現するような人事制度が求められているのです。

これまでの、組織ポジションで応える縦型の処遇や評価から、フラットな横型の処遇や評価に変えるという人事の仕組みが必要です。それを実行できないと人事はもたなくなります。職務満足を高めることよりも、個人にとって重要なことは、成長実感やキャリアチャンスの拡大といったものになる。それを担保できるような教育の仕組みをどれほど提供できるかは、とても重要なことです。

単にキャリアデザイン研修をスケジュールどおりに行えば、満足できるというものではありません。もっとキャリアに関しての、横型のストレッチといったものをしっかりと支援する、多様な教育のメカニズムが必要です。それをどのようにつくっていくか。また、キャリア自律を支援する運用インフラとしての、キャリアアドバイザーやメンターやコーチの方々の位置づけといったものをしっかりつくるべきです。

従来私たちは、ライフキャリアと見ると、年齢別のステージ別研修を用意していました。これももちろん大事です。社員にとって標準的な見通し、ガイドラインを示すという価値があります。しかし、そのガイドラインどおりにいくかどうか。一人ひとりの社員が自分のペースに合わせた対応が必要となってきています。標準では、あくまでもその参考事例として、年齢別のステージを見る時代になってきたと感じます。

「人が一歩を踏み出すとき」の条件は何か

「50歳までに生き生きした老いを準備する」という、ハーバードメディカルスクールの60年にわたる長期研究調査について紹介します。「ボストン地区のスラムの若者」「カリフォルニアの高IQの若者」「ハーバード大学の学生」の3グループに対し、生き生きと今後も生き続けることができるか、気持ちに何が影響するのかを調べました。すると、経済的格差や能力格差(IQや遺伝的優位性)などは、老後を生き生きと生きることとは関係していなかったのです。

影響したのは健康、安定した生活、そして状況対応力です。言いかえると、能動的にストレスに対処できる力(人間力、キャリアコンピタンシー、大人になる力、不条理を生き抜く図太さ、健康的な防衛機制、ストレスに対応するコーピング)を若いときにしっかりとつくりこむことができた人は、シニアやベテランになった後も、一歩を踏み出し続けることができます。これはキャリアづくりに重要な示唆を与える研究結果です。

花田光世氏/講演 photo 2008年に私どもキャリアラボとインテリジェンス社とが共同研究を実施し、転職者の満足度調査を実施しました。私たちは当初、疑いもなく「給与が上がったか」「希望通りの仕事に就けたか」の2項目が大きく影響すると考えていました。確かに、それらも影響はありましたが、もっと強い影響のあった項目があったのです。それは「成長実感」「キャリアチャンスの広がり感」「多様な考えを受け入れて互いに支援する風土が職場にあるか」の3点です。

キャリアを変えるということは、本人からすれば自分のキャリアチャンスを広げるという意味合いが強い。外的なキャリアが変わるだけでなく、自分の生き方、仕事観までも変わっていきます。一歩踏み出していく人の満足とは何かと考えたときに、それを行うことで成長できた、可能性が広がり、そして転職した外者を仲間として受け入れてくれる職場風土があるということが大切です。一歩踏み出すにあたって何が重要だったかという質問では、「仕事への取り組み姿勢(前向きに仕事に取り組む)」「セルフエフィカシー(自己効力感)」「セルフエスティーム(自己肯定感)」の3点が重要と考えられます。

以上をまとめると、これからのキャリア自律の時代で大事なことは、仕事に対する積極的、能動的なマインド、そして自分自身に対しての根本的な肯定感です。そして自分はやればできるということに対する「セルフエフィカシー(自己効力感)」。そういう気持ちで一歩を踏み出した結果として大事なことは、「成長実感」「キャリアチャンスの広がり感」「ダイバーシティの許容度を組織がもっているかどうか」という点。このような一連の流れを人事制度にどう盛り込めるかが大事になります。本日は、ありがとうございました。

【協賛】 ロゼッタストーン・ジャパン株式会社

ロゼッタストーン・ジャパン株式会社ロゴ

ロゼッタストーンは、英語や中国語など30種類の言語に対応する実用的な外国語トレーニングソフトとして、世界150か国以上で8,000以上の企業、9,000以上の公共機関で使用されています。日本でも組織のグローバル人材育成の需要に伴い、企業および官公庁等を含む約600の法人にて、幅広く採用されています。


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