従来の知識・技能・価値観がすぐに通用しにくくなり、国境や国籍の物理的・意識的な壁が低くなっている。さらに、人間そのものに対する関心がますます高まっている。三城氏は「日本式だとか米国式だとか議論をするのではなく、自社はどのマーケットで勝負するか、事業ニーズと勝負する労働市場の特性から考えた独自のやり方を考えれば良い」と言う。「答えのない時代に対応できる人材、リーダーをつくる事が求められています。そのために、『人を育てる』ではなく『人が育つ』。『人を動かす』ではなく『人が動く』という思考転換、つまり内発的な動機づけを重視した人材マネジメントが重要です」
では、具体的に何を意識すべきなのか。「人が動く」「人が育つ」ために人事が意識すべき7つの要諦を三城氏は紹介した。「まずは“Why→How→What”です。何をする、どうするだけではなく、なぜ取り組んでいるのかから伝えることが重要です。『マネジメント<リーダーシップ』も心得ておいてほしいことです。立場や権限による「ポジションパワー」に頼らずに、個人の持つ人間的魅力による「パーソナルパワー」を使うリーダーを育成したい。さらに、この力は管理職になる前に開発することが必須です」
日本語では同じ「共感」という意味を持つ「シンパシー」と「エンパシー」という言葉がある。シンパシーは相手に対し「自分だったら……」という主観が入り込む。しかし、「エンパシー」には客観性が入る。多様な価値観を持つ人たちと仕事をするには「エンパシー」が重要。「国境や国籍を超えて仕事ができるこの時代には、特に重要なスキルとして開発が求められています」。他に三城氏は、自ら学ぶ場を作るための「修羅場づくり」として「ミッションコンプリート」と呼ばれる海外研修の事例を紹介した。
さまざまな企業の人事改革に携わってきた三城氏は、日本企業の行ってきた人材マネジメントに肯定的だ。「世界の人材マネジメントの会議に出席し、世界中の人事プロフェッショナルと会話をしてきたが、日本の人事が素晴らしい経験と能力を持っていることを確信した。これまでやってきたことにもっと自信を持って欲しい。高度成長するアジア、南米、アフリカで、日本の人事プロフェッショナルはまだまだプレゼンスを発揮できる位置にある」。7つの要諦を意識すれば、世界で存在感を示す日本企業の復活に、人事部門が一役買える時代がくるだろう。