「見える化」という言葉が流行して久しい。人事は千差万別な個性を持つ社員に向き合うため、情緒的な要素を多く含む仕事と言える。従って「見える化」は、特に人事に必要と加藤氏は語る。「『見える化』は、様々な立場の人が集まって議論をする時、同じ土台で話をし、具体的な数字をベースに議論することを可能にします。一般的に、経営層には人事のスペシャリストが極めて少ない。そのため、人事施策に対する理解が得られないといった不満をよく耳にします。『見える化』は経営層の説得や納得にも有効です」
人事課題の「見える化」ではインタビュー分析、アンケート分析という方法があるが、これらは定性的・感覚的になったり、目立つ事象に誘導されたりしやすい性質を併せ持つ。「例えば、アンケートは同じ言葉に対しても、社員により違う事やレベルを想像するズレが生じるほか、インタビューはその社員に近い職場の現象だけに注目しがちです。課題を正しく把握し、施策の根拠や明確さを打ち出すには定量分析が有効と考えます」。インタビューやアンケートは問診、定量分析は心電図や血液検査と考えればいいと加藤氏は言う。
トランストラクチャでは「人件費」「人員数・構成」「賃金水準」「人事制度」「将来人件費・人員構成」の五つの観点で定量分析を行う。「五つを更に細かく、『対業績の人件費』『過去や業界と比較した人件費』『能力や年齢別の人員構成』『労働市場における賃金状況』『時間外手当による管理職と一般職の賃金逆転状況』『人件費の将来推移』などのテーマで分析しています。ただし、最も重要なことは、その企業のあるべき姿や目指す状態を、あらかじめ想定した上で横断的に分析することです」。何となく分析結果を分かっていたつもりでいたが、グラフや表など数字で見ると理解しやすい、という人事担当者の反応が多いそうだ。
「定量分析の結果、さらに『人件費連動性』『労働分配率』『適正人件費』『年齢構成』『人材流動性』『ハイパフォーマー流出リスク』『将来予測診断』『適正人員数』『ローパフォーマー分析』『賃金範囲妥当性』などの切り口によって『見える化』を進めます。そして、これらをマトリックスの表に落とし込んで捉え、施策を打ち出すのです」と加藤氏。定量分析は株主など対外的な説明責任が求められる場面でも理論武装になる。数字データであるだけに活用範囲にも広がりを持つのである。