海外でのビジネス経験が豊富な太田氏は、日本企業のグローバルリーダー育成に関する問題を指摘する。「グローバルリーダー研修はまず日本人だけで、現地の人材は別途やるという話をよく聞きますが、私が疑問に思うのはグローバルを『海の外』と捉えている点です。そもそも、なぜグローバルリーダーの育成が必要なのでしょうか。目的はグローバル競争に勝つことで、そのためには企業理念やビジョンが最も大切。これを忘れてはいけません」
太田氏は、超優秀な2万5000人のグローバルリーダーの強みを分析した結果を紹介した。「実は彼らは、まんべんなく優秀ではないと分かりました。リーダーとして足りない部分は、チームで補い合うことを考えた方がいい。一方、強みの各項目を見た時、動機や持って生まれた行動パターンに関する部分はいかんともしがたいため、スクリーニングが必要。しかし、スキルと行動に関する部分は伸びしろがありますから、そこにフォーカスして強みを磨くことが重要です」とリーダー育成のポイントを示した。
続いて国内外の研修例と共に、汎用性のある二つのツールが紹介される。一つ目は研修時に参加者が記入する「プロフィールシート」。趣味などの個人的な項目のほか、会社での経歴、何を考えて仕事をしてきたか、変革を乗り越えるために何が必要と思うかなどの項目が並ぶ。研修初日にシートが配布されるため、お互いのことがよく分かると言う。終了後はこれを書き換え、短期長期のキャリアビジョンなども書き加えられる。「研修内容や結果だけでなく、その人の素顔が分かり、どんなリーダーがいるのかも気付くことができます。『人となりがわかり、話が通じやすくなる』と人事部員や役員にも好評です」
二つ目は、横軸に成長期から成熟期へという事業のライフステージ、縦軸にその時自分はどんなリーダーシップを発揮したかを記入するシート。「事業のどのようなステージで、どのようなスタイルで仕事をしたか。その人は〈変革向きか〉〈立ち上げ向きか〉といった傾向も分かります。また、自身のリーダーシップにおける棚卸しにもなる」。人事・人材開発部門としても、どこにどんな人材がいるかを把握でき、計画的な育成に役立つと言う。
「人事・人材開発部門は幹部候補者と組織全体を結ぶパイプ役となり、常に理念に立ち返りながら、戦略的な役割を担うべき」という太田氏の言葉が強く印象に残る講演だった。