三菱商事系列のコンサルティングファーム、シグマクシス。HCM部門の責任者を務める林展宏氏は、多くの企業が抱える人事制度の問題点をこう指摘する。「グローバル化や新規事業への取り組みが重要課題となっている今、社員の能力をさらに強化するとともに、多様な能力を持つ人財を柔軟にチーミングし課題解決していくことが求められています。そのためには、社員の能力の可視化が不可欠ですが、ほとんどの企業はこの点で多くの課題を残しています」
具体的にはどういうことか。「多くの企業の社員情報は、異動履歴、業務経験、評価履歴、スキル・資格などに留まっています。これらの情報だけでは、実際のビジネスにおいて、どういったことが、どのレベルで実行できるのかが明確になっていません。能力を開発したり、人財を抜擢、配置したりするうえでもっとも必要な情報が欠けているわけです」。そこで林氏が提案するのが「能力の可視化」だ。ビジネスを推進するうえで必要な能力を定義したうえで、それらの能力をどのレベルで身につけているかを明確にしてはじめて、社員の自律的能力開発への取り組みや配置、処遇といった人財マネジメントが有効に機能するというのだ。
「『ビジネスを推進する能力』とは何かと言うと、大きく二つに分かれます。一つは“マーケット能力”。具体的にはお客様との関係を構築する力や、製品や技術を開発する力、戦略を立案して実行する力などで、専門能力と言い換えてもいいでしょう。もう一つは自社の理念や行動規範に基づき定める行動、姿勢、意欲などの“コア能力”です。これらの能力を可視化することで、戦略的な人財マネジメントが可能となります」
続いて林氏は、能力レベルの判定方法や能力定義書作成の仕方、可視化までのプロセスなどについて解説する。例えば能力を定義するには、社内のキーパーソンに対して事業推進に必要な能力、意欲に関するヒアリングを行ったうえで、それぞれの能力ごとに求められるレベル感を表すキーワードを抽出しながら、まとめていくのが有効だと言う。
「特にグローバル化を進める企業にとって、どこにどんな能力を持った人財がいるかを共通の尺度で可視化することは、機動的な最適配置や戦略的育成ローテーションをグローバルで実現するためにも必要不可欠と言えるでしょう」