「近年、海外から可視化に関する問い合わせが増えています。行間を読む、空気を読む、気配を感じるという言葉があるように、見えない所を推し量ることを日本人は自然にやってきましたが、欧米の方はそこに注目している。これは日本人が大事にすべき点ではないでしょうか。ある調査では、見えない所に答えがあり、それが大事だと回答したビジネスパーソンが94%。また、可視化は5%しかなされてないという数字もあります」。「見えない」をしっかり洞察する力こそ重要で、そこから間接的に組織にイノベーションを起こせると中川氏は語る。
「可視化」のポイントは、全員に共通言語を与えること。すると共有化が進み、より多くの人へ影響が広がっていく。中川氏は「可視化」の他、人事における手法の三種の神器として「多面的マインド」と「気づき」を掲げる。「可視化では全体俯瞰が大切です。多面的視点を持つと、問題点や見落としがちな部分も見えるようになります。さらに思い込み、偏見なども妨げる。すると、何に集中すべきか、目的に対して何ができるのかを気づけるようになる。人間は、人から言われて気づくよりも、自分で気づいた方が長続きするものです」
この三種の神器による事例も紹介された。「従業員1900名の保険代理店のケースです。2年間で離職率が42%から24%に減り、第三者機関評価による調査では営業品質が43%も向上し、契約者満足度が61%から98%に上昇。マネジャー層の9割、部下の8割強に意識の向上が見られました。何を実施したかと言うと、まずは社員の思いを徹底的に可視化するためにさまざまな場を設定して本音を聞き出しました。その結果から、マネジャーは育成に比重を置くように役割を転換。部下の強みと弱みの棚卸しを行い、それを共有してもらいました」。この際に大事な考え方がSLOW DOWNだという。
SLOW DOWNとは、step back(一歩下がる)、look(客観的に見る)、organize(自身を整理する)、work(行動する)の頭文字を並べた言葉。これにより部下の性格を可視化し、多面的に捉え、個性に気づき、それを活かせる。「個人の強みを個性として活かす方向へ導くことが可能。SLOW DOWNの実践で、部下からの評価と部下の業績が急上昇したマネジャーは多いですね」。個々が活かされる環境が個と組織を強くし、可視化は大きなキーワードとなる。