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「日本の人事部 LEADERS(リーダーズ)」TOP  >  2019 Vol.7  >  楠木建さんインタビュー
「人・組織・経営」研究の第一人者に聞く

正解のない不確実な時代に必要なリーダー像とは?
儲けに対する健全な欲を持ったリーダーが新たなビジネスを動かす

楠木 建さん(一橋大学大学院 経営管理研究科 教授)

一橋大学大学院 経営管理研究科 教授 楠木建さん

国際間・企業間の競争が激化の一途をたどる中、日本企業をとりまく環境も目まぐるしいスピードで変化しています。働き方改革やダイバーシティをはじめとする労働環境の整備や組織改革が着実に浸透。経営者や人事が関心を寄せる、「エンゲージメント」に代表されるような新しい概念がスピード感を持って企業に取り入れられるケースも増えてきました。「こうすればうまくいく」というビジネスのセオリーや正解がない、不確実性の高い時代だからこそ、ビジネスや組織をけん引するリーダーの存在が重要であることは言うまでもありません。「企業を存続・発展させていくために、必要なリーダーとは?」「企業経営者や人事部門が力のある人材を見極め、育てていくためにできることとは?」―― 競争戦略の研究を通じて一流のビジネスリーダーを数多く知る、一橋大学大学院教授の楠木先生にお話をうかがいました。

Profile

くすのき・けん/1964年東京生まれ。専攻は競争戦略とイノベーション。一橋大学大学院商学研究科修士課程修了。一橋大学商学部専任講師、同大学同学部助教授、同大学大学院国際企業戦略研究科准教授を経て、2010年から現職。1997年から2000年まで一橋大学イノベーション研究センター助教授を兼任。1994-1995年と2002年、ボッコーニ大学経営大学院(イタリア・ミラノ)客員教授を兼任。著書として『ストーリーとしての競争戦略:優れた戦略の条件』(2010、東洋経済新報社)、『経営センスの論理』(2013、新潮社)、『戦略読書日記』(2013、プレジデント社)、『「好き嫌い」と経営』(2014、東洋経済新報社)、『好きなようにしてください――たった一つの「仕事」の原則』(2015、ダイヤモンド社)などがある。

時代により変わるリーダーのあり方

現代の厳しい経済環境下において、必要とされるリーダーはどのような人材だと思われますか。

リーダーは時代や状況の産物という面があります。例えば高度成長の時代には、リーダーは「大きな帆船の船長」のような存在でした。人口増や所得増といった追い風がどんどん吹いている状態で、船長は風向きを見ながら帆をあげるだけで船を前進させることができた。操縦せずとも追い風に身を任せていれば、みんなと同じ方角に進むことができたのです。それが高度成長期によく見られたリーダーのあり方でした。

翻って、現代の日本はどうでしょうか。大きな帆船で海に出ても、追い風はもう吹いていません。どの方角に進めば企業として成長できるのか、正解が書かれた地図もありません。成長期から成熟期に入り、状況は刻一刻と変わり続けています。厳しい競争にさらされている現代社会で求められるリーダーとは、「クルーザーのキャプテン」のような存在です。「我々が目指すのはここだ」と行き先を示し、荒波を突き進んでいく必要があります。当然、船が向かう先はリーダーの操縦次第ということになります。

時代の変化とともに、リーダーのあり方や、求められる役割も変化しているわけですね。日本企業は変化にうまく対応できているのでしょうか。

リーダーのあり方が変化しているというよりは、本来のリーダーのあり方に近づいているといったほうが近いかもしれません。帆をあげるだけ(役職に就いているだけ)の船長は、本来の意味でのリーダーとは呼べませんから。追い風のおかげで、成長できていたに過ぎない。「 高度成長期はとっくに終わっている。リーダー自らが優れた戦略を描き、独自の価値をつくりこんで勝負しなければ、生き残れない」。この事実は、誰もが知るところでしょう。高度成長期の帆船の船長ではダメだと頭では分かっているが、体がついていかないという企業が多いように感じています。

日本の企業では、組織の中で出世してトップに立つ人をリーダーだと捉えがちです。私はよく「位置エネルギー(役職やステータスを得ることに対する熱量)」と「運動エネルギー(やりたいことや仕事そのものに取り組む熱量)」の話を引き合いに出すのですが、「位置エネルギー」が高まれば高まるほど、「運動エネルギー」は喪失されます。逆もまた然りです。「位置エネルギー」ばかり高く、肝心の「運動エネルギー」が低い人はリーダーには向いていませんが、日本にはまだそういうリーダーがたくさんいます。ただ、昔ながらの“役職だけのお偉いさん” は自然に淘汰されていくでしょう。役職に就くことが仕事の目的になってしまっているリーダーでは当然、厳しい競争社会で儲けることはできません。実際、日本企業においても本質的な力が備わっているリーダーが徐々に増えていると感じます。

「本質的な力が備わっているリーダー」とは、具体的にどのような人材のことを指すのでしょうか。

「ゼロから商売のもとやストーリーを創る人」、「実際に商売を動かしていく人」こそが、真のビジネスリーダーだというのが私の考えです。ビジネスとは、平たくいうと「商売」のこと。商売である以上、ゴールは長期利益の獲得にあります。リーダーが成し遂げなければならないことは、「稼ぐ」ことであり、「儲け」をつくることです。どうやって儲けるのかを構想し、戦略のストーリーに沿って組織を束ねて動かすのが、リーダーの何よりの役割と言えるでしょう。

この続きは「日本の人事部 LEADERS(リーダーズ) Vol.7」でご覧になれます。

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