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「人・組織・経営」研究の第一人者に聞く

幸せな経営は対話からエンゲージメントを高める“やりがい”と“つながり”

慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科教授前野隆司さん

ここ数年HR界で注目が集まる、ワークエンゲージメント。「幸福学」を研究する、慶應義塾大学大学院 システムデザイン・マネジメント研究科 教授の前野隆司先生は、仕事に対し前向きで、創造力高くコミットするワークエンゲージメントの高い状態は、幸福度の高い状態と多くの点で共通すると言います。幸福学の考えを取り入れた経営は、従業員のワークエンゲージメント向上に効果があると言えそうです。幸せな企業経営を実践するには、何から始めればよいのでしょうか。前野先生にお話をうかがいました。

慶應義塾大学大学院 システムデザイン・マネジメント研究科教授 前野隆司さん

Profile

まえの・たかし/1984年東京工業大学工学部機械工学科卒業、1986年東京工業大学理工学研究科機械工学専攻修士課程修了、同年キヤノン株式会社入社、1993年博士(工学)学位取得(東京工業大学)、1995年慶應義塾大学理工学部専任講師、同助教授、同教授を経て2008年よりSDM研究科教授。2011年4月よりSDM研究科委員長兼任。2017年8月より慶應義塾大学ウェルビーイングリサーチセンター長兼任。この間、1990年-1992年カリフォルニア大学バークレー校Visiting Industrial Fellow、2001年ハーバード大学Visiting Professor。専門は、幸福学、感動学、イノベーション教育、システムデザイン、ロボティクスなど。『幸福学×経営学』(中外出版社)、『実践 ポジティブ心理学』(PHP新書)、『幸せのメカニズム』(講談社現代新書)、『システム×デザイン思考で世界を変える』(日経BP)、『脳はなぜ「心」を作ったのか』(筑摩文庫)など著書多数。

目先の利益の追求が幸せを遠ざける

――前野先生が研究されている「幸福学」とは、どのような学問なのでしょうか。

幸せについては、これまでもさまざまな形で研究されてきました。しかし、その多くは心理学や哲学の範囲にとどまり、実用的とは言い難いものでした。私の研究も心理学がベースですが、工学者らしく“直接的に人の役に立つ”ことを中心に据え、幸せのメカニズムの解明をテーマにしています。つまり、幸せの形は多様だが幸せになる共通の仕組みはある、という考え方です。

幸福学で扱う“幸せ”とは、瞬間の快楽ではありません。個別に見るといいときもあれば不満に感じるときもあるけれど、人生全体におしなべて満足している、といった状態を指します。英語では“Well-being”と表現される状態です。ちなみに幸福度の高い人は、そうでない人よりも創造性が3倍、生産性が1.3倍高くなるということがわかっています。

――幸せは、何によって決まるのでしょうか。

幸せには長続きするものとそうでないものがあり、それぞれ「地位財」と「非地位財」によってもたらされます。地位財はカネ・モノ・地位のこと。他人と比較できるのが特徴で、得られた瞬間は幸せでも、すぐに「もっと、もっと」と求めてしまう。地位財による幸せは、結局長続きしないのです。対する非地位財は、自由、愛情、社会への帰属意識や安全な環境など、抽象的な心的要因が多くを占めます。他人との比較は関係なく、得られる幸せも確かで、長続きする傾向にあります。

経営では利益の確保を最優先に考えがちです。しかし、利益による幸せの持続性は低いことを、経営者は認識しておく必要があるでしょう。

――近年の企業経営は、目先の利益にとらわれがちなところがあるように思います。

株主中心で合理的な欧米型の経営スタイルでは、短期視点になりがちです。急激な変革や無理なリストラで一時的に利益を上げることができたとしても、副作用は強烈です。そうした状況が日本企業を疲弊させ、苦しめている印象を受けます。

地位財は非地位財に比べてわかりやすく、すぐに結果が見えるだけに追い求めてしまいがちです。例えば、非地位財の一つである健康を手に入れるには、過食を避けて運動を心がけたほうがいいはずです。ところが、私たちはおいしいものを見つけると、たらふく食べてしまう。人間は愚かなので、刺激的なものに本能的に反応してしまうのです。企業は目の前にぶら下げられたニンジンに惑わされず、持続的な繁栄を考えるべきです。

――情報社会における変化の速さも、短期視点に陥る要因なのでしょうか。

あおられているところはあるかもしれません。変化が激しいと、やはり目の前のことに集中しがちですから。それにのんびりしていたら、たちまち企業は廃れるのではないかと焦りますよね。情報が飛び交う時代です。大切なのはバランス。スピードは意識しつつも快楽の追求に偏らず、長期視点を意識的に持つようにすべきです。

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