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「日本の人事部 LEADERS(リーダーズ)」TOP  >  2019 Vol.7  >  中村和彦さんインタビュー
「人・組織・経営」研究の第一人者に聞く

人や関係性などの「見えにくいもの」に働きかけて組織を活性化
現場と協働する人事が「組織開発」の担い手になる

中村 和彦さん(南山大学 人文学部心理人間学科 教授/人間関係研究センター センター長)

南山大学 人文学部心理人間学科 教授/人間関係研究センター センター長 中村和彦さん

終身雇用制度の見直しや働き方改革の推進などによって、人と組織の関係性が大きく変わろうとしている近年、「組織開発」が大きな注目を集めています。組織開発とは、戦略や制度といった組織において「見えるもの」だけではなく、人や関係性、コミュニケーションといった「見えにくいもの」に働きかけ、組織の変革を促すアプローチのこと。アメリカで1950年代終盤に生まれ、欧米を中心に発達してきました。1970年代には日本にも導入されましたが、その後の1980年代にはQCサークルや小集団活動などの業務改善に移行していきました。しかし近年、あらためて組織開発が注目されています。なぜ今、組織開発がブームなのでしょうか。組織開発研究の第一人者である、南山大学教授の中村和彦先生に、人事として組織開発にどう取り組むべきなのか、そのポイントをうかがいました。

Profile

なかむら・かずひこ/1964年岐阜県生まれ。名古屋大学大学院教育研究科教育心理学専攻後期博士課程満期退学。専攻は組織開発、人間関係トレーニング(ラボラトリー方式の体験学習)、グループ・ダイナミックス。アメリカのNTLインスティテュート組織開発サーティフィケート・プログラム修了。組織開発実践者のトレーニングやコンサルティングを通して、さまざまな現場の支援に携わるとともに、実践と研究のリンクを目指したアクションリサーチに取り組んでいる。主な著書に、『入門 組織開発』(光文社新書)『組織開発の探究』(共著:ダイヤモンド社)などがある。

なぜいま「組織開発」なのか?

組織開発とは何なのか、その定義についてお聞かせください。

組織開発を一言でいうと「職場や組織を効果的、そして健全に発達、成長させていくこと」。少し抽象的なので、私は「職場や組織の中の見えにくいものに気づき、良くしていく取り組み」という言い方をしています。では、「見えにくいもの」とは何なのかというと、人との関係性や気持ち、モチベーションなど、人間的な側面のことです。

組織の中では、成果や戦略、仕組み、ルールなどの「見えるもの」に関する話し合いやマネジメントがよく行われています。では、「見えにくいもの」はどうでしょうか。従業員のモチベーションや、人と人との関係性、コミュニケーションの取り方などに関しては、あまり行われていないのではないでしょうか。組織の中にはいろいろなマネジメント課題がありますが、「人間的な側面に関するマネジメント」を行うのが組織開発といえます。

近年、日本企業において組織開発が注目されていますが、その理由とは何でしょうか。

日本企業では1970年頃から1980年代前半くらいまで、組織開発に関するいろいろな取り組みを行っていました。しかし、1990年代に入ってバブル経済が崩壊すると、状況は一変。会社を立て直すために成果主義を導入したり、組織構造を変えたり、リストラを実行したりするなど、「見えるもの」に関する改革を行う企業が増えました。ところが、そういった改革を行って業績が一時的に回復することはあっても、持続的に高まることはなく、組織は良くなりませんでした。現在はその反動として「見えるもの」ではなく、人や関係性などの「見えにくいもの」の潜在性を発揮させることの重要が見直されるようになり、改めて組織開発が注目を集めるようになったのです。

組織開発が求められている理由の一つとして、職場や組織の中で「遠心力」が大きくなる一方、「求心力」が小さくなってきたことが挙げられます。例えば、ダイバーシティが分かりやすい例です。いま職場には、いろいろな立場やバックボーンを持つ人が増えています。リモートワークが進み、同じ職場ではなくバラバラに働くケースも出てきました。また年功序列の崩壊が進んだことで、職場に年下の上司・年上の部下が増えるなど、従来にはなかった関係性も発生しています。このような組織では否応なく遠心力が働くので、人をまとめることが難しい。そのため、「会社としてもチームとしてもまとまる」「組織として一つの方向に向かう」という組織開発のアプローチが必要となっているのです。最近は大企業を中心に、組織開発の機能を果たす部署も増えています。

現在の組織開発ブームの中で、問題点や懸念点などはありますか。

組織開発が「手法化」していることが問題の一つだと考えています。組織開発にはいろいろな手法がありますが、「イベント」として実施することが組織開発だと認識されている傾向が見受けられます。例えば、最近はアプリシエイティブ・インクワイアリーやワールド・カフェなど対話型のイベントがよく行われていますが、「それを行うことで組織は良くなる」といった即効薬的な発想での取り組みが先行している印象があります。そのほうがコンサルタントにとってサービスを売りやすいこと、また、社内の組織開発推進者が手法から入ってしまいがちであることなどが原因です。しかし、組織開発の手法は、一度やればすぐに組織が良くなるというものではありません。手法ではなく、「当事者がどのようにして現状に気づき、自分たちで良くしていくのか」という組織開発の本質を浸透させることが、とても重要だと思います。

しかし現状は、ある手法を導入することが組織開発を実践することだと捉えている人たちも多い。重要なのは現場にヒアリングに行き、一人ひとりの「困り事」をきちんと聞いて、現場の人たちと一緒になって解決のために取り組んでいくことです。組織開発とは「職場や組織の中の見えにくいものに気づいて、良くしていく取り組み」であることを忘れてはいけません。

この続きは「日本の人事部 LEADERS(リーダーズ) Vol.7」でご覧になれます。

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