多様性の時代こそ「軸」を持つ企業が生き残る
ダイバーシティ推進の今とこれから
坂爪 洋美さん(法政大学 キャリアデザイン学部 教授)
どうして企業には多様性が必要なのでしょうか。生産性を追求するなら、同じ言語を話し、価値観が似ている同年代の同性ばかりで仕事をしたほうが効率はいいでしょう。しかし世の中は、ダイバーシティ&インクルージョンに向かっています。副業やボランティア、越境学習などを後押しする企業も増え、働き方はますます多様になるばかり。「多様性が増す時代だからこそ、企業は軸を決めなければならない」と話すのは、産業・組織心理学を専門とする法政大学キャリアデザイン学部教授の坂爪洋美先生です。「個」の存在感が増している今、企業はどうあるべきなのか、お話をうかがいました。
さかづめ・ひろみ/人材ビジネス業に従事後、和光大学現代人間学部を経て、2015年4月より現職。2001年慶應義塾大学大学院経営管理研究科単位取得退学、博士(経営学)。専門は産業・組織心理学、人材マネジメント論。ダイバーシティの中でも、特に女性のキャリア形成ならびにワーク・ライフ・バランス推進における管理職の役割について研究を進める。
男性の育休取得が持つ、本当の「意味」について考える
日本におけるダイバーシティ&インクルージョンの現状をどのようにご覧になっていますか。
ダイバーシティが対象とする範囲が、だんだん広がってきている印象があります。ビジネスの世界では女性活用から始まって、高齢者活用、病気や介護と仕事との両立支援、LGBT人材が働きやすい環境づくりなどが行われてきました。属性だけでなく、価値観やライフスタイルによる違いも考慮されるようになり、「人はみんな違う」という考え方がじわじわと広がりつつあります。
最近関心が高まっているのは、男性の育児休業。特に国や企業が考えるべき課題は「カップルで子育てをする環境にどう近づけるか」ということです。企業が「育児休業を取ること」を強引に推し進めていくようでは、「育児休業は取るけれど、育児休業が終了したら仕事に専念し、育児のために時間を使わない」という人を増やしかねません。男性の働き方・生き方の多様化につながる施策にすべきですが、国の方針や法律があると、企業はどうしても「取得率」「取得人数」という数字を目標にしてしまうものです。
企業の男性育休施策が目標数字の達成ではなく、その先に進むためには、何が必要なのでしょうか。
前提として、「個人が生き方を考える機会を提供するのは企業」という考えには引っ掛かります。キャリア形成の主体は、個人ですから。しかし個人は万能ではないので、現状では企業が個人の選択に介入していくことに妥当性はあります。例えば、男性育児休業の施策にからめて、育休取得だけでなく保育園・幼稚園、小学校、中学校と、子どもの成長の節目で働き方や夫婦の役割などについて考える機会を提供していくことが有効だと思います。
今の日本企業は、多様性推進のために行うべきことができていると思われますか。
企業によって状況に差があり、一概には言えませんが、働き方の多様化はかなりの速さで進んでいると思います。特に働く場所の多様化は、ここ数年で一気に進みました。当初は難色を示していた企業も多かったのですが、オフィスの賃料を抑えられたり、社員が満員電車のストレスから解放されたりしたことで、それなりにメリットを感じているのでしょう。試してみたら意外とすんなりできた、メリットがあった、という企業が多く出てくれば、これからの5年・10年でさらに変化すると思います。
多様性のある組織で管理職に求められる「アップデート力」
さまざまな事情を抱えた社員一人ひとりが十分に力を発揮し活躍するため、管理職にはどのような視点や行動が求められるのでしょうか。
大きく分けると、二つあります。まず、部下一人ひとりをよく知ること。次に、部下が自分に忖度(そんたく)せず意見を言える関係性をつくること。ハラスメントを気にして、部下にものを言いづらくなってしまっている管理職もいるかもしれませんが、部下への要望をきちんと伝えられる関係性が大切です。
また日本企業では以前から、管理職の「プレイングマネジャー化」が問題となっています。アウトプット責任、部下の育成責任、監督責任を果たした上で、自部署にも貢献できるスーパーマンはなかなかいません。日本は今、管理職の業務のスリム化と再定義が必要な段階に入っていると思います。では、管理職から削ぎ落とせる業務とは何でしょうか。
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