デジタル・ディスラプションの時代
他社と差別化し独自の人事戦略を実践する人事部がすべての人のリーダーシップを開花させる
一條 和生さん(一橋大学大学院 国際企業戦略研究科 研究科長・教授)
デジタル変革やAIの進展などの影響で、企業を取り巻く環境が大きく変化しています。このような状況の中、日本企業にはどのようなリーダーが求められているのでしょうか。リーダーシップ論の第一人者である、一橋大学大学院国際企業戦略研究科研究科長・教授の一條和生先生は、ビジネスリーダーにとって大事なことは「共通善」の実現に向けて「より良きこと」を追求することであり、そのようなリーダーシップの要素は誰にも求められている、とおっしゃいます。海外の動向にも詳しい一條先生に、いま組織に求められているリーダーシップのあり方について、詳しいお話をうかがいました。
いちじょう・かずお/1958年生まれ。1982年一橋大学社会学部卒業、1987年一橋大学大学院社会学研究科博士課程修了、1995年ミシガン大学経営栄大学院にてPh.D.(経営学)取得。一橋大学大学院社会学研究科教授などを経て、2007年より現職。スイスのビジネススクールIMD特任教授を兼務。専門は経営組織論、イノベーション、知識創造理論。著書は、『リーダーシップの哲学―12人の経営者に学ぶリーダーの育ち方』(東洋経済新報社)『MBB:「思い」のマネジメント』(東洋経済新報社)『シャドーワーク―知識創造を促す組織戦略』(東洋経済新報社)『ナレッジ・イネーブルリングー知識創造企業への五つの実践』(東洋経済新報社)『井深 大―人間の幸福を求めた創造と挑戦』(PHP研究所)など、多数。
デジタル、AIの時代に求められるのは「共感・共鳴」を大事にするリーダー
現在の日本企業には、どのようなリーダーシップが求められているのでしょうか。
まず、事業を取り巻く環境変化を整理してみましょう。私が強く感じるのは、人、そして人に対する教育への関心が、今まで以上に高まっていること。その背景にあるのは、デジタル変革とAIの進展です。現在、世界の経営者が最も注力している経営課題の一つが、デジタル・ディスラプション(digital disruption、テクノロジーなどの進展による破壊的なイノベーション)。今やデジタル・テクノロジーは社会インフラであり、それに伴い、事業活動におけるさまざまな要素、すなわちビジネスモデルやビジネスプロセス、組織構造、カルチャー、働く人が持っているスキルなどを、根本的に変えていくことが必要になっています。それができなければ企業は競争力を失い、破壊(ディスラプション)されてしまうことになります。
「デジタルの問題は、ITの問題」と日本企業では捉えることが多いかもしれませんが、今回のデジタル・ディスラプションの特徴は、経営者マターになっていること。組織に及ぼす影響力が桁違いで、取り組みを間違うと会社をつぶしかねません。また、AIに関しては、初期の頃は事業効率性を高め、コストダウンを図るために活用されていましたが、現在は、顧客接点など事業成長に関わる分野で活用されるようになっています。そのため、「AIに何を任せるのか」「人にしかできないことは何か」が再検討されています。
そのような状況の中で、どのようなリーダーシップが求められるのか。私は、AIが持つことのできない信念や思い、情熱や夢、そして相手への共感・共鳴がとても重要だと思います。デジタル時代には、部門間に壁があると、組織としての力が機能しません。例えばユニクロでは、顧客視点でのビジネスプロセスから始まり、そこから個々のお客さまに最適な商品を製造し、デリバリーしていくことにチャレンジしていますが、このようなアプローチは、お客さまを起点として、あらゆる部門がつながっていなければ実現できません。組織の壁を取り払うには、他部門に対する関心や配慮が不可欠。これが共感・共鳴です。デジタル、AI時代であるからこそ、このような共感・共鳴を大事にするリーダーが求められるのです。
この続きは「日本の人事部 LEADERS(リーダーズ) Vol.6」でご覧になれます。
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